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ドワーフの真実

作者: ゆかりゆか。

白雪姫って




本当に





綺麗だったの?


俺たちゃ陽気な森の民。


なんて呑気な歌を唄いながら生活している奴なんか、

今時いるわけがない。


しかも、それがドワーフときたら

陽気なんて言葉は、

酒が入った時くらいにしか

想像出来ない言葉だ。



俺は森に住むドワーフ。


七人グループでドワーフ村から離れた所にある鉱山で働き始めてかれこれ20年になる。


今では腕利きの工夫だが

新米だった頃もある。


その時、俺は仲間達と、

とても恐ろしい体験をしたのだ。


そのことを、

今年ここにやってきた新人には、

話さなければならないだろう。



今から10年前の話になる...。


俺がここに配属された時は、

今年、成人と認められた者達ばかりを集めた

新米グループの集まりだった。


本来ならば指導役の熟練ドワーフが

ボスとして入るのだが、

人出不足のため俺達の

グループにはついて来なかったのだ。


みんながみんな新米の

何も分からないルーキーである。


村を出る時

【鉱山に入る時の手引き】

なる物をもらったが、

そんな本が先生だなんて不安このうえない。


しかし、やるしかないのだ。


ここでの仕事がこなせなくては、

村に帰ることも許されないし

結婚も出来ない。


ドワーフは、一人前の工夫にならなくては

結婚出来ないのだ。


俺は手引き書を見詰めながら神に祈った。


しかし、神は悪魔の味方だったのだ...。


その日、鉱山から帰って来た俺達は愕然とした。


俺達のベッドの上で、巨人が寝ていたのだ。


七つ並んでいる俺達のベッドを

全部使わなければ寝られないなんて、

巨人としか考えられない。


しかも、見たこともない顔をしているのだ。



死人のように青白い顔。


墨のように黒い髪に、真っ赤な唇。


なんて不気味な生き物なんだろう。


後で分かった事だが、彼女は人間だったのだ。


人間なんて一度も見たことのない俺達にとって、


彼女の顔は悪魔以外のなにものでもなかった。


彼女は森に捨てられたのだと言った。


こんなに醜い姿なのだ。


無理ないことだろう。


彼女は行くところがないので、

しばらくここにいさせてくれと言った。


皆反対であろう事は分かっている。


こんな気味の悪い生き物と

寝起きをともにするなんて、

考えただけでも恐ろしい。


しかし嫌だと言える勇気ある者は、

当時、俺達の中にはいなかったのだ。



何日かたった後、鉱山から帰ってきた俺達は、

庭先で倒れている彼女を見付けた。


脈を取ってみたが動いていない。


死んでいるみたいだ。


やっと悪魔から開放される!


皆で喜びあい、

俺達は彼女を森の奥に埋めようと抱き上げた。


その時、真っ黒な髪に、


キレイな櫛がささっているのに気が付いた。


キレイに細工されたその櫛は、

ドワーフが造ったものに違いない、

紋章が入っていたのだ。


なんで、こんなものが?


不思議に思った仲間の一人が櫛を外した途端、

彼女がパッチリと瞳を開いたのだ!


青い瞳は月光に輝く湖の様に輝いて、

赤く濡れた様な唇が奇妙な形に歪んだ。


確かに死んでいたはずなのに生き返るなんて!



俺達は彼女にたいしての恐怖心を、

今まで以上に増した。


いくら人間だって生き返る事など

出来るはずがない。




彼女は悪魔だ。




その時、俺達はそう確信した。



彼女の話では、昼間一人でいるときに、

ひどく腰の曲がった老婆が、

櫛を売りに来たという。


その櫛で髪をすいた途端、

意識が遠退いていったのだと言うのだが、

そんな事ぐらいで死ぬ訳がない。


彼女が持っていた櫛を見て俺はハッとした。


魔物は貴金属が苦手だ。と言う事に

今更ながら気付いたのだ。


そのため彼女は倒れたのかもしれない。


どうして気付かなかったんだ。


あのまま埋めてしまえば、

この恐ろしい顔を

いつまでも見続ける必要もなかったろうに!


しかし後の祭りである。


彼女は警戒して二度と貴金属には

手を触れないだろう。



では櫛を売りに来たのは誰だったのだろう?


ひどく腰の曲がったと言っていたが、

ひょっとしたら、

ただたんに背が低いだけだったのかもしれない...

まさか村の仲間がこの異変に気付いて

助けようとしてくれているのかもしれないぞ!


小さな希望の光を見付けたが、

その希望は一気にしぼんでしまった。


そうだとしても、もう助けは来ないだろう。


この一件で悪魔は死んだと思っているだろうから。


何度か村に逃げ帰ろうかとも思ったが、

必ずと言っていいほど、

彼女に見つかってしまう。


村の事がバレたら、

何をされるか分かったものじゃない。


しばらくは知らないふりをして働いていよう。


鉱山で取れた鉱石の重さを報告に行かなければ、

何かあったのだろうと、

また助けをよこしてくれるかも知れない。



そして、その助けは、ほどなくしてやってきた。



鉱山から帰ってきたとき、

また彼女が倒れていたのだ。


きっと村の仲間がやっつけてくれたに違いない。


今度こそ、早めに埋めてしまおう!


俺達は、いそいで彼女の体を森の奥へ運ぶと、

皆で穴を掘り始めた。


彼女が目を覚まさないうちに掘ってしまわなくては!


しかし大きな彼女の体が入る程の穴を掘るのは

大変だ。


何せ俺達の倍以上の身長があるのだ。


時間はかかったが、

彼女が目覚める事はなかった。


さっさと埋めてしまおう!


俺達は彼女の体を持ち上げ、

穴に落とそうとした。


その時、何処からか馬の蹄の音が

聞こえてきたのだ。


死神のお迎えだろうか?


そう考えた時、木の影から、なに者かが現われた。



俺達は息を呑んだ。


もう一人悪魔が現われたのだ。


彼女とほとんど違わない特徴を備えているが、

服装や口調からして男らしいと分かる。


不気味さは彼女に劣らぬ程だが、

一つだけ美しいところがあった。


髪が金色なのだ。


きっと、あの美しい髪で生き物の心を惑わすのだな、と俺は考えた。


そいつは彼女の所に来ると、

なんと信じられないことに口に吸い付いたのだ!


彼女の仲間だと思っていたが、

実は人食い鬼だったのだ!


俺達は彼女の死体を置いて一目散に逃げ出した。

彼女を食べ終えたら、

今度は俺達の番だと思ったからだ。


逃げ出した俺達を人食い鬼が呼び止めたが、

そんな言葉で止まる訳にはいかない。


彼女の死体より我が身の方がよっぽど大事だ。


それに彼女がいなくなれば、

平和な日常が戻ってくるのである。




俺達は振り返らずに走った。


家に着いても、しばらくは落ち着かなかった。


いつまた、あの悪魔がやってくるか知れない。


もう二度と見たくない顔だが、

あまりに恐ろしい顔だったので、

忘れようとしても忘れられない。


何日か眠れぬ夜を過ごしたが、

時がすべてを解決してくれた。


そして今の俺達がいるんだ。


仲間が助けてくれて良かったなって?


それが違ったんだよ。


櫛を売りにきたのも、仲間じゃなかったんだ。



じゃあ、誰が助けてくれたんだって?


そりゃあ神様だよ。


神様は俺の声をちゃんと聞いていたんだ。


そして天界の食物である知恵の実を

悪魔に食べさせて、やっつけてくれたのさ。


ほら、今でも庭にあるよ。


俺は庭の隅で大きく枝を広げている、

林檎の木を指差し、新米どもに微笑んだ。


                         

                  おしまい




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