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六傾姫の雫~ルークィンジェ・ドロップス~  作者: にゃあ
Ⅰ ルークィンジェ・ドロップス
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002 念話 ~サンライスフィルドの冒険者たち~

「リーダー、サクラリアには連絡取れたん?」


 彼女の名はシモクレン。ビッグビューティフルウーマンというのが彼女の容姿を表すのにちょうどいい表現かもしれない。

長い髪をとめるグラスの冠や、白い肌を包む純白のドレス風の鎧がとても良く似合う。ハーフらしい目鼻立ちがぽっちゃりとした中にあっては童顔に見せている。



 現実世界でもあまりその姿に差異はない。その西洋人形のような姿を見ると、「矢車喜久恵」という純和風な本名にギャップを覚える人が多い。が、たいていの人は彼女の行動の方にギャップを感じる。


 よくいえば、行動に躊躇がない。もっと端的に言えばガサツなのだ。「おとなしくしていればカワイイのに」と言われる方のガサツさというよりは、「え?」と言われる方のガサツさだ。



 今も、捨て猫でも拾ってきたかのような顔をして、革手袋一枚で幼いサラマンダーをなでている。それも地べたにぺたんと尻をつけて、あぐらを組んで座っている。


 <召喚術師>でもない<施療神官>の彼女が、なぜサラマンダーをなでることができるのかというと、彼女の手袋に対炎性の呪印が施されているから、というだけではない。彼女がこのヤマトサーバーでも珍しい<刀匠>であり、類まれなる熱への耐性を身につけている点も大きいであろう。それでも熱いものは熱い。それを平然となでているのだから驚かされる。


 シモクレンの掌にいるのは、群れからか術師からかはぐれたサラマンダーらしい。赤いウーパールーパーに似た子猫サイズの幼い精霊である。しっぽからはそれでも立派に炎を噴き上げている。

「お前みたいにリアははぐれたんよねえ。にゃあちゃんは、ちゃんと念話してくれたんやろか?」

挿絵(By みてみん)


「言葉を変えたふりをして二度同じことを言わなくてもいいって。そもそもおめぇがギルドメンバーをフレンドリストに入れていない方が悪い」


シモクレンは唇を尖らせる。

「ここ来たらいつでも会えたわけじゃん。そもそもウチら、別のゲームからの乗り換え組やもん。<エルダーテイル>でフレンド設定しなくても話できたし。それに連絡係はリーダーの役目やん。な、な、ウチ悪くないやろー。なー、サラ坊」


 サラマンダーの坊やは、返事をするようにしっぽの炎をぽふんと噴き上げた。ぽんぽんと背を叩くと、サラ坊はポテポテと音を立てて自分でかまどまで這っていく。そこで昼寝を始めるようだ。


 リーダーと呼ばれたのは、サラ坊ほどにファンシーな姿をした人物だった。いや、人物というよりその姿はぬいぐるみそのものだ。


 桜童子にゃあ。彼の<エルダーテイル>歴は長く、<ナインテイル自治領>を地盤にして生産を中心に活動していた。しかし、レベル九十にもなると生産を中心にしているといえども<召喚術師>としての能力は高い。おそらく<従者>を呼び出せばこの工房から半日足らずでサクラリアを救出に迎えに行けるのではないだろうか。


 しかし、問題は彼の容姿である。ほぼぬいぐるみなのだ。

<エルダーテイル>初期、提供に入った企業のイメージキャラクターになる<外観再決定化ポーション>が<ナインテイル自治領>で配布された。それを使用した桜童子は、ウサギ耳のふわふわな姿になった。


<ナインテイル自治領>のみで配られたアイテムだったため、ゲームの中では希少価値が高く、既に高レベルであった桜童子にとっては不便など何もないため愛用していたのだが、この世界では大変な問題でしかない。


 背は一メートルにも届かず手足も短い。

なによりエンカウント率が異常に高くなるらしい。森をさまよえば、すぐにエネミーの標的になってしまう。攻撃されるばかりか、メスの<ゴブリン>に求愛までされてしまう。


誰かを救出に行くには厄介な体である。エンカウント異常というのは案外難題で、撒き餌をするかのように敵をつけてしまう。それでは救うべき仲間を傷つけるおそれすらある。

手足が短いというならミイラ取りがミイラになるだけで済むが、桜童子が動くことで、そこらじゅうをミイラだらけにしかねないのである。



 ここは<サンライスフィルド>。現実世界でいえば北部九州の中央辺りになる、大分県西部の町である。この<セルデシア>においては、近隣の商家町<アキヅキ>に比べれば小さな<大地人>の集落にすぎない。


 桜童子にゃあ率いるギルド【工房ハナノナ】は、最近ではもっぱらこの辺りにテントを張って活動拠点としていた。冒険者たちが<大災害>と呼ぶ事件が起きた瞬間も、工房には桜童子にゃあ、シモクレン、イタドリ、ディルウィードの四人がいた。

気心の知れた四人がすぐ近くにいたため、情報交換があっという間になされ、二日目にして近隣ゾーンの偵察まで行えていた。


 ハギは<ナカス>にいることが確認できている。他のメンバーはオンラインではなかったのか連絡がつかない。問題はオンラインであることが分かるのに連絡のつかない二人。女剣士のたんぽぽあざみと、<ツクミ>にいるサクラリアである。


 ゲーム時代は、ステータス画面を展開しフレンド登録画面を呼び出すと、知り合いの<冒険者>の名前が表示されていた。この世界でも同じような画面が脳裏に表示される。

ゲーム時代と同じ仕組みならば、そこに浮かぶ名が明るく表示されていればログインしているとわかる。暗ければログインしていないことになる。


あざみはログインはしているようだが、どうしたわけか念話が通じない。

サクラリアはどうにか意識を取り戻したらしい。(安全は確保できているから用意を整えて迎えに行くことにしよう)と桜童子は考えていた。


「ただいまー。やっぱりそうだよー、にゃあっちの言うとおり<料理人>になってよかったよー。ホラホラ、お土産の生焼け肉ー」

「ドリィさんの腕前じゃよくわかんないんすけどね。まあ消し炭になるよりは食える分ましっす」

「くかかかか。ディルっちも言うようになったね、なったねー。ホレホレ、シモっちの分もあるよー」


 大きなリュックを背負ったドワーフの女性と、一見して<妖術師>とわかるローブと杖の少年が入ってきた。

「ドリィ」の名で親しまれるのは、ドワーフの<守護戦士>イタドリである。ハーフアルブの<妖術師>がディルウィードである。



 ここは、ゲーム世界で<神代>と呼ばれる時代に文化施設であったと思われる建物である。その廃墟を住めるように瓦礫を片付けただけなので、まだ工房として再生できたわけではない。しかし、四人の拠り所としては十分な広さと安心感を備えていた。


もう一つ安心感があるとしたら、廃墟ではあるが桜童子たちがよく知る建物であるという点だろう。

<エルダーテイル>というゲームは、実際の地形データを使ったことで有名であったが、<サンライスフィルド>にあるこの建物も、地球世界に実在する建物なのである。

廃墟になる前の間取りが分かるというだけではなく、建物を基準に考えればどの方角に何があるか大体見当がつく、ということである。

さきほど帰って二人も、土地鑑を生かして周辺の探索と食料確保に出かけていた。


 イタドリとディルウィードの質問も、<念話>についてだった。

自分ですればいいと言いたいところであるが、万が一、回数制限があった場合を考えて、「代表してギルマスが念話を行う」と自ら提案してしまったのだから仕方がない。


 仕方なく、つぶらな目を閉じて、再度頭の中にフレンドリストを展開する。

 この中から目的の人物の名前が表示されるまでスクロールして選択する、というのが結構面倒な操作になる。桜童子の手足は短く、丸っこいので空中で手を動かしてもうまく操作できない。

 集中を高めるために、伸ばした手は額にやりたくなる。それでも手が届かないから、頬に手を当てて小首をかしげるポーズになる。


「にゃあっちかわいいいいいい! ホラホラ、きゅーん! ねー、シモっち。きゅーん!」

「これは、萌え殺しや! リーダーはウチらを萌え殺そうとしとるで!」

「ああ、もう。うるさい」


 桜童子が目を開けて振り返ると、折り悪く呼び出し音が頭に響く。受信する方は「つなぐ」をイメージするだけでいいから簡単だ。


「こちらハギ、こちらハギ。隊長、応答できますか、どうぞ」

「あいよ、なんだい。なんかあったかい」

「何もなければ連絡しちゃあいけないなんて、つれないじゃあないですか、隊長。会いたくて震えちゃったらどうするんですか」

「用がないなら切るぞー」


 桜童子は冷たくあしらった。ハギは気にする様子もなく答える。


「情勢について報告。ひとつ、大手ギルドによる買い占めで<ナカス>の街の物資が枯渇し始めました。私もね、<EXPポーション>三つだけ手に入れて銀行に預けたんですけどねえ。危うい危うい。タチの悪いのに絡まれて取り上げられちゃうところでしたよう」


「街中での戦闘行為は?」

「ああ、禁止ですねえ。戦闘のために式神を飛ばそうとしたら、MP使った時点で<衛兵>が現れましてねえ。おかしなことに、手で貼り付ける分には<衛兵>は反応しないんですよ。まあ、柄の悪い三人組はしばらく呼吸に苦しんでましたね。鼻と口を塞がれて」


 物騒なやつだと思いながら、ハギの姿を思い浮かべる。ディスプレイの中の細身の和服の男は物腰の柔らかさから、「お父さん」と揶揄されていたが、実態はなかなか好戦的な男だったらしい。童形の<式神童>と鳥型の<式神鶏>は今なお健在だろうか。


「ひとつ、ナカス周辺ゾーンで交易品の略奪を目的としたPKが流行っています。物資が不足し出してますからねえ。しかし、プレイヤーだけならまだしも、<大地人>の村を襲っている者もいるらしく。いやあ、物騒な世の中になりましたねえ。以上、報告終了です」


 そこで話は終わった。


 ふぅっとため息をついた桜童子にゃあは、長い耳をぴくりと動かした。

「蹄の音? いや、これは」


 不意に現れた生物の気配に四人は反射的に構えた。

 低い唸り声。駆けてきた音から一転、忍び足に変わる足の運び。

 虎だ。


「おいおい、ウソでしょ。いるんすか、ヤマトサーバーでそんなのに乗ってる奴が」

 ディルウィードがつぶやく。


 虎にまたがっているのは猫顔の少女だった。

「見つけたにゃ、<冒険者>さん」

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