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六傾姫の雫~ルークィンジェ・ドロップス~  作者: にゃあ
Ⅹ エリクシール・ルネサンス
153/164

153 阻まれたアキヅキ食い放題

「<ホワイトナイト>?」


カーネリアンが口を押さえて「あ、ごめんなさい」と囁く。あくまで姫のオブザーバーであり、発言する立場ではないからだ。


「どっちかって言ったら龍眼さんは<ブラックゲイザー>だけどなー。おっと、揶揄したからっておいらは退場させねえでくれよー。和魂(にぎみたま)のカリステア姫」


桜童子に言われ、カリステアは上品な微笑みで返した。

ただ、桜童子が言った<ホワイトナイト>が何を示しているかはわかってはいないようだ。この場でその意味が分かるのは、龍眼とシモクレンと小手鞠しかいない。




<アキヅキ>の迎賓閣にある会議室には、意外な顔ぶれが揃っている。


<クォーツ家>姫巫女エレオノーラ、侍従カーネリアン。

<リーフトゥルク家>姫巫女ネコアオイ、軍師龍眼。

<カルファーニャ家>姫巫女カリステア、図書頭(ずしょのかみ)小手鞠。

<リューゾ家>姫巫女ヴェシュマ、側近右近、左近。


そして【工房ハナノナ】の桜童子とシモクレンが末席に座っている。


桜童子がここにいる以上、<ナカス>で捕えられたというのは誤情報であると結論づけられた。


<ナカス>では、翌朝からの祭りの準備のために、魔法灯を明るく焚きながら、人々が忙しなく駆け回っている頃だろう。

<アキヅキ>では、<ナインテイル>の未来について静かに話し合われている。


発起人は龍眼。

席を用意したのは、この城の主エレオノーラ。


なぜ、領主会議レベルの会合に一介の弱小ギルドでしかない【工房ハナノナ】の二人がいるのかというと、「唯一ここにいる全員とつながっているから」らしい。



「なあ、<ホワイトナイト>ってどういう意味なんだ?」

右近にも左近にも耳打ちしたが首を振られてしまったヴェシュマは、手を挙げて発言した。


このような場合の解説者として最も適した小手鞠は、カリステアに発言をたしなめられてからずっと目を閉じて黙っている。

反カリステア派の勢力に属する小手鞠は、ここで余計な軋轢を生じさせたくないのだ。


しかも、その内容が内容だけに発言には慎重を期したいところであろう。


数日前、龍眼に接触した二人の人物がいた。

一人はウモト=アルテ=マルヴェス。正月頃に<パンナイル>侵攻を目論み、その指揮をとった男だ。


もう一人はウテナ=斎宮=トウリ。

この名が出たときばかりは、小手鞠も目を開け、「<ウェストランデ>最後の皇族―――」と呟いた。


この二人が誰にも知られず<ナインテイル>にいるというのも問題だが、一番の問題は「龍眼に<ナインテイル公爵>にならないか」と持ちかけたことだ。


この意図を読んで、桜童子は「龍眼を<ホワイトナイト>にする気だ」と発言した。結局自分で解説する羽目になった。


「<冒険者>の言葉でね、仲裁役の第三者のことを<ホワイトナイト>って呼ぶんだ」


企業同士が合併や買収する際に時折出てくる用語だ。歴史に異様に詳しいとはいえ中学生のカーネリアンにはなんとなくしか伝わらなかったようである。



企業の経営権を狙って、経営者の同意なしに買収を仕掛けてくることがある。これを敵対的買収という。狙われた側は何らかの策を打つ必要がある。打たねば経営権を奪われるが、打っても身内に大打撃を与える場合がある。それを防ぐために経営者に友好的な第三者が「敵に代わって私が買い取ろう」と名乗りを上げることがある。

この第三者を<ホワイトナイト>と呼ぶのだ。



「<パンナイル>の軍師様に、どんな仲裁をさせようとしたのかしら」

エレオノーラは優雅な微笑みの中にちょっぴりと憂いを湛えて質した。



<ナカス>と<オイドゥオン>の関係を、敵対的買収に見立てて桜童子が解説する。


「今朝まで続いていた<ナカス南門>での緊張状態を、<ナカス>の統治権を<オイドゥオン>が奪いに来た状態だと考えとくれー。防衛しなかったら<plant hwyaden>の統治権は奪われる。衝突したら<ナインテイル>との全面戦争に発展する。

そこで、爵位を得れば<plant hwyaden>に友好的立場にあるとみなされる龍眼さんに、『<ナカス>は俺が治めるから』と登場させようとしたわけだねー」


「そんなホワイトナイト役、即刻辞退したがな」

龍眼は苦笑いを浮かべた。


<ナインテイル公爵>とは、あまりに大きな肩書きである。この場の誰よりも高い地位に就くというレベルの話ではない。

皇王に代わって<ナインテイル>を支配する権限が与えられるのだ。


<ナインテイル>の軍事・政治・経済が手に入るからといって、仲裁がうまくいくとは限らない。


例えば、あと数日事態が膠着して、ナカルナードが逆に<オイドゥオン>の本拠地を叩くような危険な抵抗策に出たとしよう。それが仲裁に乗り出した後であれば、その策は、<ナインテイル公爵>の指示、あるいは容認による軍事行動となってしまう。


<オイドゥオン>対<plant hwyaden>で起きるはずの「武力衝突」は、<オイドゥオン>対<ナインテイル公爵>の「西南戦争」に構図が変わり、全責任を龍眼が負うこととなる。


仮に仲裁に成功し、戦争を回避できたとしよう。しかし、<ナインテイル>は自治組織の集合体なのである。合意もなしに統括するような立場に龍眼が就いたとしても、猛反発されるか有名無実化されるかどちらかしかない。


いずれににせよナカルナードが和解に持ち込んだので、この時点では辞退して正解だったと言える。


「なんか、難しいこと考えたら、腹減ったよ」

ヴェシュマが言うと、城の主人のエレオノーラは「お茶にしましょう」と微笑んだ。



桜童子の後ろのドアが開き、執事姿のウパロと、メイド姿のルチルがワゴンにティーポットと茶壺を載せて運んできた。

二人は<ノーラフィル>というエレオノーラ姫の親衛隊だが、冒険時と違ってその服装がよく似合っている。こちらの方がメイン職といった感じである。


何かを察したようにあたりを見回した桜童子は言う。

「飾られた花を楽しむ心も失っちまってたみてえだ。<コショタニウツギ>に<虹色カキツバタ>かー。こっちのはあまり見ないが<地母のモリシマ>っていうのかい」


エレオノーラが静かに微笑む。

「カーネリアンが季節の花を飾りました。<地母のモリシマ>は花も美しいのですが、魔法具の木材として<アキヅキ>の特産にしようと思うのです」

「アカシアの仲間ですか」

「ええ」


茶を注いで回るウパロとルチル。

ネコアオイがワゴンの茶入れを見て声をあげる。彼女の鑑定眼をくすぐる逸品のようだ。

「これは、<ナラシバカタツキ>じゃないかにゃん!」

「今日はみなさんがいらっしゃるので是非にと御用意いたしました」


ようやく緊張が解けたシモクレンも周りを見回す。

<秘宝級>の茶入れに貿易品の樹木、周りの調度品。どれも<アキヅキ>復興をアピールする品だ。


「ぷはぁ。ねえねえ。肉ないの?」

早速茶を飲み干した海賊巫女ヴェシュマはそんな空気などお構いなしだ。右近に耳打ちされる。

「うん、分かった。みんな! 後でバーベキューやろうな! (あたし)うまい酒持ってきたからさ!」

部屋に笑いが起きる。


会議が再開される。

「我が軍師龍眼は<ナカス>と<オイドゥオン>が全面衝突した場合の備えとして危うく生け贄にされるところだったにゃん。だけど、斎宮は簡単には辞退させてくれなかったにゃん」

ネコアオイは憤慨して言う。


なぜ龍眼なのか。

それはシモクレンにも想像がついた。

マルヴェスが自分の失策の帳尻合わせに龍眼を使ったのだろう。

「<パンナイル>侵攻は百害あって一利なし。しかし、有能な人材を発掘した。攻め入るよりも、むしろ彼を利用してこそ意味がある」などと吹聴する姿が目に浮かぶ。


ヴェシュマは言う。

「この場は、『斎宮を敵に回しちゃった。どうしよう』の会なのかい? 妾に言わせりゃ『肉食って忘れろ』だ」


「問題は簡単に辞退させてもらえないことなのですね。そしてそれが、私たちに関わる話なのでしょうか」

カリステアが言う。

龍眼はひとつ頷いてから答える。


「<北ナインテイル辺境伯>。それが彼等が次に提示し、この私に与えようとした爵位だ」



カーネリアンも事前に詳しくは聞いていなかったようで、どういう影響があるのかをエレオノーラに確認していた。


シモクレンも同じように桜童子に訊ねた。

「辺境伯って意外と高い位なんだよなー。公爵が『ナインテイルはあなたのもんだからね』っていうレベルだとすると、辺境伯は『北はあなたのものだからね。南は戦って取ったらいいよ』くらいだからなー」

「北ってどっからどこまでなん?」


「それを決めるのがこの場なんじゃないの? 龍眼さんが引き受けるならばの話だけど。そう易々とは決まらないと思うぜー。自分のところが『北だ』って言ったら、それは龍眼さんの支配下に置かれるってことだ。逆に『南だ』って主張するならば、それは敵対宣言するのも同じだ。おいらたちが呼ばれたのは、揉めた時の仲裁役にするためなんだと思うぜー」


「んもー、あのマルヴェスって人は厄介事しかもって来ぃひんなぁ」

正月頃にフルマラソンの末、巨大な猫と戦わされた記憶がシモクレンに蘇る。


「まずはこの龍眼の考えを述べさせてくれ。私はこの話を受けようと思う。そして私自身は<パンナイル>を出て<カンモンビッグブリッヂ>以北を我が領としようと思うのだ」


シモクレンは龍眼が山口出身だというのを聞いたことがある。異世界であっても地元と思える空気はどこか懐かしく感じるものである。


有力だった<二十四士家>のひとつ<イッセー家>は、<ハギナガトの乱>以降急速に力を衰えさせてしまった。あと二つの<二十四士家>は、元より古いだけの弱小貴族である。

<北ナインテイル辺境伯>に任じられるのであれば、龍眼にとってもまたとない絶好の機会であり、<カンモン>以北は絶好の領土なのである。


ただ、<斎宮>としては、龍眼が寝返って<ナカス>を挟み撃ちにすることだけは避けたいところだ。<九商家>に睨みを効かせる役を龍眼に押し付けるはずである。


そう簡単に下手な命令は下さぬであろうが、情勢によっては<ナカス>と連携して<九商家>を討ち滅ぼせという司令が下らぬとも限らない。


ここはひとつ<軍事協定>を結んでおいた方が得策であろう。それが今回龍眼が四商家を集めた主旨である。


<パンナイル>でこの会談を開かなかったのは、軟禁状態での脅しとならぬよう、自由意思によって決定してほしいと考えたからに違いない。

「なあ、軍師の兄ちゃん。返答はいつまでなんだい」

ヴェシュマが問う。


「ちょうど<ナカス開放祭>最終日だ」

「即答は無理、と言ってもいいわけだね?」

「ああ、可能な限りじっくりと考えてほしい。<ナインテイル>の未来に関わることだからな」


「じゃあ決まりだな」

ヴェシュマは勢いよく立ち上がる。

「肉祭りだ! ナカス(あっち)が開放祭ならアキヅキ(こっち)は食い放題だ! 酒池肉林の準備をしろ、右近! 左近!」


■◇■


「そ、それが」


ヴェシュマの一味が今にも泣きだしそうな勢いで弁明している。

会議室のある迎賓閣から少し下った所の広場では、野外炉が組まれ赤々と火が燃えている。


問題は、その周りの光景だ。肉は食い散らかされ、酒の瓶は空になって木箱から転がり出ている。


「だーれーが、妾が来る前に酒池肉林おっぱじめていいって言ったんだい!」

「ひいいい! 蹴りつぶすのだけは勘弁してくださいー! 蹴りつぶすのだけはぁああ!」


屈強な海の男が内股になって懇願している。よほど怒ったヴェシュマは恐ろしいらしい。


「やだもー。でも、誰が食べたか言わなきゃ、握りつぶしちゃうぞ」

声は可愛いが言っていることはえげつない。


「ウサギ耳の旦那が! 十人くらい仲間の方を連れて座ったから! 食い物運んだらじゃんじゃん食べ始めちまって! 酒も勝手に開けて飲み干しちまって、ぐぎゃ」


ヴェシュマの見えない蹴りが入ったようで、弁明していた男は泡を吹いて倒れた。


「姐さん! コイツの言うことは本当なんです」

「バカ言ってんじゃないよ! ウサギ耳ちゃんなら妾らとずっといたよ! アンタたち! 【工房ハナノナ】とは南海で戦ってきた仲なんだ。見間違えるなんてあっていいと思ってんのかー!」


「コイツの肩持つわけじゃねえですが、姐さん! ウサギ耳の方は全くそっくりだったんすよ。ホラ、そこにいたー!」

「いやー、おいらは本物の方だー」


桜童子は困ったように頭を掻いた。

「まさか、偽【ハナノナ】までいるとはなー」


どうやら<コショ>の山の方に逃げて行ったらしく、桜童子、シモクレン、小手鞠、龍眼、チャロ、ゴシェナイトで追跡部隊が作られた。


「久しぶりに【工房】最強のシャーマンとパーティ組めておいらは嬉しいぜ」

「莫迦じゃないの? 浮かれてんじゃないわよ。それに元【工房】よ。間違えないで。それにしてもあの鎧男は大丈夫なの? もう特技使ってるけど」

小手鞠は冷たい視線を後方に投げる。


「ゴシェ卿ー。全部龍眼さんの指示に従って動いてくれ」

「心得たで御座候」


桜童子もニセウサギ耳もエンカウント異常があるせいか、少し分け入ったところにある<地母のモリシマ>の森の前でバッタリと遭遇した。


「ウチのそっくりさんってアレなん? どう見ても大きすぎやろ!」

シモクレンが敵を指さす。

「キクエ・デラックスだな」

桜童子が笑う。

「本名でいじらんといてー」


「オオカミっぽいのとネコっぽいのがいるから、まあ間違う気持ちも分からなくはないが、全然似てねぇな」

「焼き肉係は南方レイドに来てへんかった人たちやからね。でも、ちょっとショックやわ」


「莫迦なの? 戦闘準備なさい!」

小手鞠が叫ぶ。

「行け」

龍眼の指示で前衛に出るゴシェナイト。


「いや、近い近い近い」

チャロに立ち位置を指摘され、敵に背中を見せて戻ってくるところをバッサリと斬られるゴシェナイト。

「莫迦なの?」


龍眼は冷静に指示を出す。

「回復効いている。そこで<アンカー>」

「<アンカー>、えー、<アンカー>は何処」


<アンカーハウル>に手間取るゴシェナイト。<コールストーム>を発動し終わった小手鞠に、ニセウサギ耳の<ヴェノムストライク>が小手鞠を襲う。


(ニセモノ)は<暗殺者>かー」

氷の盾が小手鞠を守った。桜童子の援護だ。

<コールストーム>は冷気や電撃属性を強くさせる。

桜童子の<ウンディーネ>もどこか得意気だ。


「お前ぇさんのサポートがあったら、おいらのウンディーネちゃんも大活躍だな。戻ったらどうだ。【工房ハナノナ】に」

桜童子はウンディーネと<剣閃皇女>で挟撃を狙うも、ニセウサギ耳に軽やかに逃げられる。


シモクレンが指示を出す。

「チャロ君、茂みの二体を倒してきて!」

「オレひとりスか!?」

「マリちゃんの<ウィロースピリット>で捕らえるから!」


「もう捕らえてるわ。早く行きなさい」


ニセウサギ耳が今度は龍眼を襲う。

シモクレンがハンマーの柄で<暗殺者>の攻撃を食い止める。

「痛っ。ゴシェ卿はんに頑張ってもらわんと、後衛、紙装甲だらけなんよね」


「<オウスオブナイツ>で御座居!」

ゴシェナイトが独断で特技を発動する。

咄嗟に<リフレックスブースト>を放つ龍眼。


<オウスオブナイツ>は味方の攻撃力を上げ、ヘイトをかき集める代わりに、自身の防御力を下げる<守護戦士>専用特技である。


それで龍眼は回避スピードを上げる特技をかけたのだ。

しかし、ゴシェナイトは足を止めている。頭を庇うように腕をクロスしたまま、<オウスオブナイツ>を連発した。


<暗殺者>は既にゴシェナイトに突っ込んで来ているのだから防御力の下げ損である。

それ以外の敵もゴシェナイトを狙う。矢を食らい、魔法を浴びる。

「<オウスオブナイツ>で御座居!」


それでも防御力を下げ続けるゴシェナイト。

「何を考えている!」

龍眼が吠える。

<アサシネイト>がゴシェナイトを襲う。


「ゴシェ卿はん!」

無理矢理<暗殺者>とゴシェナイトの間に身体をねじこんだせいで、林まで吹き飛ばされるシモクレン。

小手鞠は<ウィロースピリット>を使ってシモクレンの身体を受け止める。

「さ、さんきゅ! マリちゃん」

シモクレンは<地母のモリシマ>の枝を掴んで身を起こす。

「アレ?」

手に準備していた回復系呪文のエフェクトが枝に移っていく。


「二人仕留めてきました!」

チャロが戻ってきた。

「行くぞ、チャロくん」

桜童子が<独角聖馬(ユニコーン)>に跨って前衛に飛び出す。龍眼から支援魔法をいくつも受けている。

剣閃皇女(ソードプリンセス)>が次々と敵を切り裂く。


「<オウスオブナイツ>で御座居!」

「それ以上防御を下げるな! <キャッスル>出せ!」

頑なに<オウスオブナイツ>を放つゴシェナイト。全員を守りたい気持ちはよく伝わってくる。だが、このままでは盾職を早々に失う羽目になる。

龍眼は敵の後方魔法攻撃を封じつつ、最大限盾職をもちこたえさせる手段を探った。

だが、ゴシェナイトは思ったように動かない。その間もニセウサギ耳の連続攻撃を浴び、HPが削られていく。


「マリちゃん! この枝をゴシェ卿はんに!」

「<ウィロースピリット>!」


<地母のモリシマ>の枝をゴシェナイトに巻き付け、後方に引っ張る。

ニセウサギ耳の<アクセルファング>をギリギリで躱すことができた。


地面に横倒しになったゴシェナイトのHPが回復しはじめる。

「やっぱり!」

シモクレンの回復魔法を吸い取った<地母のモリシマ>の枝が、シモクレンの代わりにゴシェナイトを回復させているのだ。


「今度はウチが相手やで!」


ニセウサギ耳は大技を出し尽くしたので、小技でシモクレンのハンマーを防ぐ。

シモクレンもウォーハンマーを次々と繰り出す。龍眼の支援が効いている。

敵がバランスを崩す。

「吹っ飛んどき!」


シモクレンがニセウサギ耳を大きく吹き飛ばす。小手鞠が<アイシクルリッパー>で追撃する。


横倒しのゴシェナイトの仮面を外す龍眼。

仮面の下には、目を閉じて顔を青ざめさせた少女のような綺麗な顔があった。

思わず龍眼はステータス画面で確認する。ゴシェナイトは<エルフ>の男性だ。

だが、戦場では、年齢も性別も関係ない。


肩を揺さぶる。ゴシェナイトが恐る恐る目を開ける。

「戦場から、目を逸らすな!」

龍眼は厳しく言った。


「しっかりと目を開けて、敵を見ろ! コマンド画面を見ろ! 守るべき仲間を見ろ!」


ゴシェナイトが今まで目を閉じて行動していたと考えれば、不思議な行為の数々に納得が行く。恐怖のあまり、目を瞑ったまま行動していたのだ。コマンド選択しないでも叫ぶだけで出せる<オウスオブナイツ>に頼ったのもそのせいだ。

邪眼師(ゲイザー)>と呼ばれる龍眼には信じ難い愚行だ。


「守るべき、仲間」

ゴシェナイトが呟く。

龍眼とゴシェナイトの視線が絡む。

「立て。立って目を開けよ。そして、あのニセウサギを斬れ」


ゴシェナイトは立つ。しっかり前を見る。敵がいる。蔦や枝で追う小手鞠がいる。ハンマーで応戦するシモクレンがいる。

龍眼がゴシェナイトの背中を叩く。その背中にはたくさんの支援魔法がかけられている。


「行け!」


ゴシェナイトは弾かれたように走り出し、そして桜童子のニセモノを切り裂く。

「やった!」


深手を負わせることができたが、レベル差が大きく一太刀では倒せなかった。


「こっちは全部倒したぜー」

桜童子が戻ってくる。

形勢不利とみたニセウサギ耳は身を翻し、まさしく脱兎の如く逃げ去る。



だが、その方向にはヴェシュマ姫率いる海賊一味がいた。

ヴェシュマに<暗殺者>は飛びかかる。

ヴェシュマは見えない手刀で敵を刺し貫く。

ニセウサギ耳は虹色の泡と化す。


<ユニコーン>に跨って追いかけていた桜童子は、その攻撃に目を丸くした。

「まさか、今のは<戦技召喚:ア・バオ・アクー>なのかい?」


ヴェシュマは言う。

「肉の恨みは恐ろしいってだけ知ってりゃいいのさ」

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