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六傾姫の雫~ルークィンジェ・ドロップス~  作者: にゃあ
Ⅸ ツークツヴァンク・タクティクス
146/164

146 プロフィラクシス〇

■◇■13.1 不可解な一手


「そこでいよいよワシの登場というわけか。あのモノノケに格の違いというものを見せてやれば佳いのじゃな」


真の姿を現した<火雷天神>は、ダブルレイド級である。一方、咽び泣くアマワリはフルレイド級である。


「とことん暴れ尽くしてくれようぞ。さあ、あやかしウサギよ。どう暴れてほしいか言うが佳い」


「あなたは何もしなくていい」


そうかそうか、と雷を手に集めようとしていた<火雷天神>は、思わず聞き返す。


「はあ!? 今、何と()かしたあやかしウサギ!」


「まだです。あなたはアマワリと、この船の間に立っていてくれさえすればそれでいい。ヴェシュマさん! 左近さんにヘイトを上げるように伝えてください!」


「左近!」

左近という名があまり似合わないバイキング風の男が、ヴェシュマに駆け寄り耳を近づける。

耳元で指令を伝えられた左近は、手斧を振って了解の意を示す。


「カイティングしながら<典災>の攻撃範囲を出ます。右近さんに沖に向かって六十メートル退るよう伝えてください」


「右近!」

呼ばれたのは魔法のランプから出たような男だ。これも耳打ちで指令を伝えられ、フククジラとの交信に入る。


「気は確かか、あやかしウサギよ!」

ただでさえ<火雷天神宮>が奪われて手足も出せないことでフラストレーションが溜まっているのに、立ってるだけで何もするなと言われれば正気を疑いたくなるのも無理はないかもしれない。


だが桜童子は冷静のようだった。


「<蒼球>の力を使っても、あなたが全力を出したら二分ともたずMP切れを起こすのは、以前<欺きの典災カホル>と戦ってお分かりでしょう」

「ぬぐっ! そんなもの調整で何とかなるわ!」


「お忘れのようですね。あの<典災(カホル)>は西の納言が半身を砕いていたから弱っていたんです。こっちの<典災(ヒザルビン)>は海の底で蘇った完全体。以前に戦った時よりもきっと厄介なんですよ。そんな相手に二分やそこらでは困るんです。おいらたちは最低でも六分先の未来を見据えて戦わないといけない」


桜童子はしきりに顎を伝う水を手で払う。その水は汗なのか、雨なのか。桜童子は平静を装ってはいるが、決して心中穏やかというわけにはいかないようである。

「ぐぬぬ」


<火雷天神>が言い淀む間に、船を乗せたフククジラがゆっくりとアマワリから距離を取る。


手足をディルウィードとアリサネに縫い止められたアマワリにも、カイティングは効いているらしい。アマワリがゆっくりと顔を上げた。



その間、<海難の典災ヒザルビン>との戦いは最初の局面を迎える。

「火力上げても意味ない! 手数だ! 手数増やせ!」

クロラインが叫ぶ。

居合型ビルドのクロラインが最大の一撃を放っても、ヒザルビンのコアまで届かない。届かなければHPを一削ったにすぎない。

軽く刀が当たっても一。ならば、火力よりも手数というわけだ。



<新機動戦線アマワリ>は、<アロジェーヌ17>や【工房ハナノナ】の他にもメレダイアやスワロフのようにどこにも属さない<冒険者>も多くスカウトしている。

<大地人>のメンバーは万が一を考慮して、岸で補給業務に携わっている。


いかんせんレベルが高くないものも多いため、<アロジェーヌ17>や【工房ハナノナ】のメンバーが攻撃の主体となってくる。

しかし序盤こそ、てるるの<パルスブリッド>やバジルのナイフが活躍したが、手数勝負でいいと分かると、次第にレベルの低いものたちも積極的に前に出て切りつけ始めた。



「玉ねぎ薄皮ペリペリ作戦だー! 玉ねぎの芯が出るまでとことん剥くぞー!」

みな、(玉ねぎに芯なんてあったっけ?)と思いながらフルオリンの声を聞く。

だがイメージは分かる。分厚いコンクリートの壁をスプーンで削る作業に近いが、玉ねぎの方が気持ちは楽だ。

それに玉ねぎを剥けば涙が出る。思わぬ反撃に注意せよ、ということだと、みんな良いように解釈した。


「触手攻撃警戒! カウント開始! 全員筏三つ分下がって!」

ハギが鋭く攻撃の予兆を見抜く。


触手を持ち上げ海面に叩きつけるヒザルビン。

「予備動作五秒! 再カウント!」


この戦いが初レイドの者たちも多いらしい。先ほどはゴサマルを倒した喜びで頭がいっぱいになって、ユイが泡の餌食になったのを見てなかったのだろう。四人の<冒険者>が即座に触手と反対側の筏に飛び乗った。


「待!」

経験豊富なメンバーが制止の声を出す間もなく、筏が砕けて、四人は落とし穴にはまったように海中へ落下していく。


一瞬早く飛び出したユイが<ワイバーンキック>で距離を詰め、海面ギリギリのところで四人を救出した。

ただ、ユイの腕やトンファーが当たったのが四人の喉元で、そのまま<ドラッグムーヴ>で海中から引き抜いたため、四人は強烈なジャンピングラリアットを食らったような形になった。しばらく回復魔法の世話になっていた。


だが、海中に錐揉み状に落ちていけば、<水棲>のタグでも得ない限り自力では浮上出来ず、そのままリタイアしたことだろう。咳き込んだだけで済む方がましだ。



「あやかしウサギ! 串刺しが解けかけておるぞ! もう、仕掛けて佳いか! もう、佳いであろう」

巨大化した<火雷天神>は船を振り返る。


「あなたはそいつの進路を妨害することに徹してください。ヴェシュマさん、左近さんにヘイト上げるようにお伝えを。右近さんにはしばらくそのままと」

「承知したよ!」

桜童子はまだ何もしようとしない。ヘイトを重ねてカイティングを続けるのかと思いきや、ただの足止めだけを命じてくる。


「何を考えておる! まさか、駒遊びのような手筋を考えて悦に入ってるのではあるまいな! 美しい勝ち方などにこだわってる場合じゃなかろう。今ならワシはこやつを楽に仕留められるのじゃぞ!」


「敵の意図を読み切って、不利な一手を打たせることにこだわってるんじゃないかって? おいらにゃそんな大それたことできねえですよ。おいらはただ、どうやったらあの<典災>を倒せるかしか考えられねえ。さあ、来ますよ。ブロックしてください」



第二局面。

<典災>の触手攻撃が毎回一秒ずつ早くなっていることが判明。

波も高くなり沿岸の人員を高所へ退避させる。

能生が再び水中からの攻撃を試みた。


「何とかコアまで届いたが、ちくしょう。渾身の力で撃ってかすり傷程度かよ」

ユイとディルウィードが能生が筏によじ登るのを手助けする。

「海中にいて、一つ分かったことがある。触手攻撃をする瞬間、ヤツは海水を強く吸い込む」


ちょうど隣の筏に移ってきたバジルが「それがどうしたってんだよ」と小馬鹿にして言ったが、ユイとディルウィードは何か閃いたらしく同時に駆け出していった。


「若手に追い抜かれんじゃねえすか? 先輩(バジパイ)よう」

「い、いや、オレ様が育てたようなもんだからな。いいんじゃねえの、ハッハッハ」


負け惜しみを言ってバジルが去る。

能生の筏に飛び乗ったものがいる。

「アンタ、いつ<ウォーターブリージング>なんて身に付けたのよ」

あざみだった。


「<ロクゴウ>で置いていかれたからな。あんたの鼻を明かしたかっただけだ」

「ストーカー失格よね。でも、少し見直したよ」


あざみは、腰からリンゴを取って渡す。能生は多少ためらったが、それを受け取った。



ディルウィードが駆け出した先はアリサネだった。

「うん。いけるんじゃないかな。そもそも、君に託したもの(シンギュラリティ)はこのような相手にこそふさわしい。ただ、先ほど攻撃を当てた彼の協力は不可欠だろうね」


「よし、やってみます!」



一方、ユイが駆け出した先はフルオリンだった。

「最&硬だよ、そのアイディア。超ロケットだよー。分かる? ロケット。ああ、知らないかー。でも、もふもふうさちゃんの協力がないとだめねー。待って、連絡してみる。もふうさちゃーん」


(聞こえてるよ。こっちはこっちでギリギリだ。岸にいるスワロフくんを呼ぶわけにはいかないのかい)


「触手来ます。総員下がって!」

ハギの声で筏を移る。


後方に飛びながらフルオリンは会話の続きをする。

「スワスワには高波対策の仕事があるから無理なの。それに、あーし、キミの張った氷じゃないと滑る気しないから」

「プロフィギュアスケーターかよ」


今の一撃で筏は半数まで減った。退避し損ねて波に飲まれ、ようやく救出された者もいる。


「いよいよ足場がなくなるよ。次あたりからマジでやばい」

フルオリンの声に、いよいよ桜童子も動かざるを得ないと判断したらしい。


(ユイにその作戦させるなら、アスタさんを確実につけてやってくれ。ドリィをデコイに。おいらもすぐ行く。ヴェシュマさん、合図を出したら左近さんと右近さんにすぐ動くよう伝えてください。<火雷天神>、あとは頼みます)


「アスタ! ユイくんにぴったりはりつけー!」

「やーん、アスタ頑張っちゃうー!」


ユイのいる筏にあすたちんがぴょんぴょんと近づく。静かに怒気を孕んだサクラリアも駆け寄る。


(リア、悪いがドリィについてやってくれ)

「はあ!?」

サクラリアは思わず悪態をついてしまい、はっと口を押さえた。


「にゃ、にゃあ様。ごめんなさい、理由が聞きたいです」

(<カーテンドロップス>が必要だ)

それでサクラリアは分かったらしい。踵を返した。



ディルウィードは能生と<ウォーターブリージング>について打ち合わせをしている。


その間、他のメンバーは総攻撃に出ていた。イタドリが<アンカーハウル>を連発する。


ベテラン組ほど、終局が近いことを感じ取っているのかもしれない。


<クェダ=ブラエナ号>からは<絶海馴鹿>が光の粉を撒き散らして空を駆ける。<飛行>タグを得た桜童子は、緩やかな放物線を描いて最初の筏にふわりと降下する。


次の筏に飛び移ろうとしたとき、海中から大口を開けて飛び出したものがある。

<鮫>だ。



「こんな時まで、異常エンカウント起こさんといて!」

シモクレンがウォーハンマーを<鮫>の脳天に叩き込む。

「サンキュな、レン。ナイスフォロー」


ひっくり返った<鮫>の腹を蹴って次の筏に飛ぶ桜童子。シモクレンはハンマーを再び振りかぶる。


「ウチも待っとったもん。【工房ハナノナ】の再結成を」

「おいらを、じゃあないのかい」

「言わさんといて」


桜童子が海面に近付いたため、大量の鮫を引き寄せてしまったらしい。シモクレンが<リターニングハンマー>を発動して投げると、次々とヒットしては仰向けにひっくり返る。それほどひしめき合っているのだ。


<ウンディーネ>に切り替えて、ひっくり返った鮫を氷で繋ぐ。

うじゃうじゃと群れる鮫の中をぴょこぴょこ駆ける姿は、さながら「因幡の白兎」だ。



「予備動作まであと二十秒! 十九! 十八」

ハギがカウントダウンする。桜童子が何か仕掛けるのが分かったのだろう。ここら辺は阿吽の呼吸だ。


「待たせた!」

「滑走路と滑り台を!」

短い会話を交わす桜童子とフルオリン。


桜童子は駆ける勢いのまま手を振る。<ウンディーネ>はその動きに倣い、海面に長さ三十メートルの氷の滑走路を造る。


「十五!」

「もういっちょ!」

桜童子が宙返りするほどの勢いで手を振ると、滑走路の先に急傾斜の坂が仕上がる。

桜童子は背中で滑走路に着地する。そのままつるつると滑って行くが、コースを外れて落ちれば鮫の餌食だ。


「リア! <カーテンドロップス>だ!」


桜童子は叫びながら、真上に<エレメンタルボルト>を放つ。

素早く<セイレーン>に切り替えて、氷塊を風の矢で撃ち抜く。

弾けた氷片を<リュミエール>を掲げて照らす。

氷の花火で合図を出したのだ。


「九!」

「<鋼尾翼竜>!」

鮫の餌食寸前で空へと舞い上がる。

「ユイ!」


「八!」

<鋼尾翼竜>の背に飛び乗るユイ。

「アスタも!」


「七!」


「いい氷じゃん。さっすがもふもふちゃん。行っくぞぉぉぉぉおおおお! 最! 硬! ロック! オン!」

フルオリンは手を上下に組む。

<口伝:天盾地弾(ヘル・アンド・ヘヴン)>の構えだ。



「予備動作三秒前!」

周囲でざわつく声が聞こえる。

慌てて筏を飛び移るものもいる。

慌てすぎて鮫に襲われるものもいる。


アマワリが、ヒザルビンに並ぶほどの位置まで戻ってきたのだ。


いよいよ終局が訪れる。



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