014 集結 ~ビグミニッツの再会~
ディルウィードには<ビグミニッツ>までの行軍はきつかった。
異常エンカウントを起こすギルドマスターがいないのは幸いだが、逆に彼がいないことで、一戦一戦が死闘になる。
<タチアライの武者像前>では危うく命を落としかけた。
HPがわずかになったので<ルークスライダー>で後方に逃げたのだが、これがまずかった。イクソラルテアと山丹が射撃部隊を一掃しなければ死んでいた。
<ビグミニッツ>でたんぽぽあざみの姿を見たときには、膝から崩れ落ちてしまいそうになったほど、くたくただった。
そこにユイの蹴り飛ばした木片が飛んできて、頭に当たる。
あわててシモクレンが回復呪文を唱える。
「ウチがおらんかったら死んでんで? 感謝の証なんか買うてね」
「<ヒール>こんだけかけりゃレベルアップも早いでしょう。僕のおかげですよ」
「言うねえ、ディル君。あ! あざみー」
「遅かったじゃん、ムダ巨乳! しぼらせてー」
「ナマケギツネにやる乳は一滴もない! でも会えてよかったー」
ここでもまたぎゅうぎゅうと抱きしめ合って再会を喜び合う。
「おおい、おおい。ちゃんと紹介をしないと、ここに気まずい空気の三人と一頭がいるよいるよー」
「おわぉ、ドリィ。相変わらずちっこいのにセクシーラブリーやなぁ」
「そう言われるとドワーフやっててよかった気になるよー。うん、なるなる。ディルっちもこっち来て」
桜童子がいないときの代行はサブマスターであるシモクレンが務める。
「ウチが【工房ハナノナ】のサブマスター、シモクレンよ。<施療神官>やから、傷ついてる人は言うてね。それから、ギルマスは今、もうひとりのメンバーを連れてこちらに向こうてます」
大柄で大雑把なところのある彼女だが、優雅に振舞うとおっとりとした口調も相まってそれはよく似合う。後ろを振り向いて紹介する。
「こちらは、<守護戦士>のイタドリと、雷系<妖術士>のディルウィード」
「よろしくよろしくぅ。はい、ディルっちもー」
「はじめまして」
イタドリは何かとディルウィードの世話を焼きたがるが、ディルウィードは意外とそれに好感を持っているらしく、仲の良い姉弟のようにみえる。
「こちらは<パンナイル>からウチらを護衛してくれたイクソラルテアさんで、こっちの<剣牙虎>は山丹ちゃん」
「イクスでもいいにゃよ? あ、山丹は牙短いにゃけど、一応<剣牙虎>の女の子にゃよ。山丹、いーして見せて、いー」
「ぐるるるるぅ」
素直に牙を見せる山丹にイクソラルテアはキウイを与える。
ここから、紹介役はあざみに変わる。どうやってもぶっきらぼうにしか話せないのは、ひょっとすると照れ隠しかもしれない。
「そこの筋肉だるまは、ヨサク。アタシの性奴隷になる男だ」
「ならねえよ、っていうかまともに紹介しろよ。俺は<ブリガンティア>のヨサクだ。職業は<武闘家>、サブ職は<採掘師>だ。この狐女に頼まれたから付き合ってやってるが、<エッゾ帝国>に戻るまでの付き合いだ。悪く思うな」
「アタシから離れたくないくせに」
「は! あと二日だからな」
あざみに任すと話がすすまないので、シモクレンが先を促す。
「オレの名は、ヴィバーナム・ユイ・ロイ。<古来種>になる男だ」
「<大地人>だけど<暗殺者>なんだな」
年が近い親近感のせいか、珍しくディルウィードがステータスを見ながら話しかける。
「そういうの、よくわかるなあ。なあ、後で一緒に特訓しようぜ」
「僕は構わないよ。んで、君はどこから来たの?」
自己紹介が終わってそれぞれ散らばり始めた。
「あの子がリアちゃんと一緒だったって子やね。そうや、リアちゃんは?」
「あの姉ちゃんなら、廃墟にこもってなんかやってるぜ。火力が足りないって嘆いてたがなあ」
ヨサクが近づいたとたん、シモクレンの腰のあたりの耐火炎性革袋がもぞもぞと動きだす。袋から赤い子猫のような生き物が顔を出した。
「熱っ、うわ。なんだそいつは」
「サラ坊! 元気になった」
<サンライスィルド>に立ち寄った際、連れてくることにしたのだが、先程までひどく弱っていた。
「こいつ、サラマンダーか! 熱! お前、熱くねえのかよ」
「うん。ウチは平気よ。でもなんでサラ坊元気になったんや」
「ひょっとして、こいつかもしれねえな」
ヨサクは腰の鞄から青く深く輝く宝石をつかみだした。
<ルークィンジェ・ドロップス>だ。サラ坊は外にぴょんと飛び降りてぽてぽてと散歩を楽しむほど元気になった。
「ホレ、貸してやるよ」
「あー、レンったら、アタシの性奴隷取ったな! アタシだってまだプレゼントもらったことないってのに。この乳からどんな魔力を放ったのさ、こんにゃろー!」
「おい、俺が女の胸に惑わされたような言い方はよせ!」
割って入ったあざみの言い草に、珍しくヨサクが動揺している。
シモクレンは何かに気づいたようだ。急いで革手袋を装着する。
「あざみ、この石もってリアちゃんにとこ行ってくる。サラ坊! おいで!」
ラグビーボールでも掴むかのように、大胆にサラ坊を抱えて走り出す。
■◇■
「リアちゃん!」
「わあ! びっくりしたあ!」
廃墟に入ったシモクレンは、かまどに火が燃えているのを認めると、サラ坊をそちらへ押しやった。
ぽてぽてと歩いていく。かまどの口に<ルークィンジェ・ドロップス>を置く。
ごぅっと音を立て、サラ坊は激しく炎を吹き上げ始める。お風呂に入っているような気持ちよさそうな表情だ。
「レンちゃん! むぎゅ!」
一通りのことを終えるとシモクレンはサクラリアを強く胸の中に抱いた。
「よう無事やったなあ。ひとりでがんばったなあ」
「大丈夫、私、ひとりじゃなかったよ」
息のできる方に首を捻るとサクラリアは穏やかに言った。
「私、ツクミのじいちゃんに拾われて、ユイがずっとそばにいてくれたよ。ヨサクさんも助けてくれたし。あざみちゃんにも会えた。これからは工房のみんなも、それから、にゃあ様もいっしょにいられる。でもね、だからね」
サクラリアは顔を上げる。
「私、強くなりたい」
シモクレンは頭を撫でる。
「よし、んで、リアちゃんの円刀を改造するわけやな。ようし、腕利き<刀匠>のシモレン姉さんが一肌脱いであげようじゃない。鋭くよく切れるようにすればいいわけね」
そこで机の上をみると円刀はたくさんの銀色のパーツに絡みつかれて、このままでは切れ味はまったく保証できませんといった様子だ。
「え? なんやこれ、何しようとしてんの?」
「はずかしいからまだ見ちゃダメー」
「いや、お姉さんびっくりしすぎておっぱいから汁出そうやよ」
サクラリアは異形の円刀にサックスの指貝のようなものをつけようとしているらしいのだ。
サクラリアは、戦いの最中に円刀が風切り音を発するのを聞いた。Fの音だったそうだ。それは刃に付いた溝と埋めた飾りと吹き抜け部分から発生している音らしい。
「いやあ、ウチはなんで愛剣を楽器もどきにしようとしているのかなと」
「<月照らす人魚のララバイ>」
「え? 何かの曲名? あ!」
「そうだよ。私、新たな呪文覚えたの」
そう、サクラリアは自分を生かすための新たな装備を生み出すつもりなのだ。




