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六傾姫の雫~ルークィンジェ・ドロップス~  作者: にゃあ
Ⅰ ルークィンジェ・ドロップス
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013 狂乱 ~熱狂の歌姫と裸で舞い踊る街~


「なんもなかー!」


 ウンディーネたちが作った氷の城の上で、金髪の娘が拳を振り上げて叫ぶ。

 オーディエンスとなった冒険者たちもその声に応えて拳を突き上げて叫ぶ。


 その大音声を受けて、茶髪の娘が両手を広げて呼びかける。

「ウチらを縛るもんはー!?」


「なんもなかぁぁぁああああああ!」


 わっと起きる喚声の後、オッオッオッとビートを刻むような声に変わる。

 一角から「しょーんなか! しょーんなか!」とコールが湧き上がり、それが全体に広がっていく。

 ふたりの娘が氷のテラスの手すりに足をかける。片手をローブの首元にやる。そして声を揃えて歌うように言い放つ。

「服着とったってェェエ!?」


「しょんなかばぁぁぁぁああああい!」


 バサリとローブを脱ぎ捨てる。

 ひらひらと舞い落ちるローブを追うように、水着姿になったふたりはテラスからダイブする。 

 どよめきの中、<召喚術師>の呼んだ竜と鳳がふたりを背中でキャッチする。

 

 獣の背中から、観客に「しょんなか」コールを呼びかける金髪の娘。名を<イングリッド>という。茶髪の娘は<ミヤムー>。

 イングリットの指先からは炎が迸り、鳳凰の後方で花火のように弾ける。

 ミヤムーの掌からは冷気が走り、水竜の後方で雪のように舞い散る。

 火の粉と氷を浴びながら民衆は「なんもなかー、しょんなかばーい」と口々に叫んで踊る。それは楽しそうで、身に降りかかった不安を全力で吹き飛ばしているかのようなはしゃぎっぷりだ。


 

 この大行列の中ではぐれてはまずいので、ハギの肩の上にヤクモが肩車されている。そのヤクモは桜童子にゃあを抱きかかえ、桜童子の耳と耳の間にはハトジュウが冠のように鎮座する。まるでブレーメンの音楽隊のようである。


「何もない、仕方がないとネガティブなことを口では言っているが、実にポジティブなエネルギーに満ちているな」

 発言するたびに、喜んで鼻をグイグイにじりつけてくるヤクモに閉口しながらも桜童子は言った。

「ナカスから出たら即PKという閉塞感じゃ仕方ないかもですねえ。どうせ神殿送りなら服着ても損、踊らにゃ損ときたわけっすな」


「<大地人>にしてみりゃ不気味だろうなー。むご」


 ヤクモに無遠慮に口に指を突っ込まれてむせる桜童子。

「裸で舞い踊る不死の集団っすからねえ。でもこの熱気に惹かれるのか<大地人>ギャラリーも多いように見えるっすよ」


「ハギ、お前、こんなん毎日見てんのか。いだだだだ」


 ヤクモは目をむしろうとする。ウンディーネが主人を守ろうとヤクモにまたがって目隠ししようと逆襲に出る。むあーと一声あげてヤクモは桜童子を放り捨てた。落下する桜童子。動じないハトジュウ。ウンディーネが心配げに飛んでくる。


「ハイハイハイ、イヤでしたねー。でもヤクモがリーダーいじめるからですよ。ね、め!」


 しがみついてきたヤクモをあやすハギ。まるで親子だ。

 

「起きてください、隊長。それにしても飽きないもんですよ。夏休みとクリスマスがいっぺんに来たみたいでねえ」

「そりゃあ忙しねえな」


 桜童子はノーダメージで起き上がる。見た目はぬいぐるみとはいえ、<冒険者>の頑健さを持ち合わせている。



「夕暮れ時からのこのバカ騒ぎなら、周辺警備にもなってちょうどいいかもしれねえな。さて、おいらがここに長居しちゃ、あの無防備な集団に凶悪なエネミーをぶつけちまうかもしれねえ。行くぜ」


「おや、隊長。ボクはきっと、あの竜や鳳を呼び出した術者をスカウトするんだろうと思ってましたよう」

「おめえは、あの姉ちゃんたち連れて行きてぇんだろうが、諦めな。彼女らはこの<ナカス>に必要な人間だ。身の丈に合わないスカウトはしねぇよ」


「いやあ、隊長の身の丈じゃあ、なかなかヘッドハンティングは厳しそうっすねえ」


 一メートルほどしかない身長をからかってみたが、そんな言葉を気にする様子もなく、金色の<鋼尾翼竜>をその場に召喚した。<大地人>のギャラリーたちが驚いて退く。


「こんな所で喚ぶなんて!」

「これも<しょんなか舞い>のひとつだと考えるさ。乗れ、ハギ、ヤクモ」


挿絵(By みてみん)


 ハトジュウは言われなくても桜童子の頭上に舞い戻って来る。しつけているためではなく、慣れているのだ。これも異常エンカウントと関係があるのかもしれない。

 翼竜は二、三歩駆け出すと、風を掴んだか大きな羽ばたき一度だけで急上昇した。



「もうナカスに用はないんですか?」


 ハギの尋ねに素っ気なく「ないよ」と桜童子は返答した。


 おそらくは、先ほどのように「強力な従者を喚ぶ<召喚術師>」や、「指先から正確に炎を打ち上げる<妖術師>」などは、その有力さゆえに大手ギルドにヘッドハンティングされていくであろう。そしてそれを契機に加速度的に大手ギルドへの参入が始まり、<ナカス>は一大組織が握ることになる。

 それが踊り狂う彼らにとって幸せなことか不幸なことかはわからない。



 確実に言えることは、自分たちが<ナカス>以外の神殿を手に入れなければ、その勢力に飲み込まれてしまうということ。<ナカス>に覇を称える勢力が一体どこになるかということにもよるが、その勢力に与するかどうかは、自分たちが精一杯生き抜いたあとでいい。



「おいらたちはおいらたちで生き抜く方法を考えなきゃなんねえんだ」

 桜童子は強く手綱を引いた。

「んで、リーダー、これからどこへ? ボクの勘が正しければ、これ南に向かってますよねえ」



「この先のため、おいらたちは、あの男に会わなきゃならねえ」

「あの男って?」

「ハギ。おめえはしらねぇかもしれねえな。<汚れ狼>、<カワードウルフ>、<奇人盗剣士>。あいつの呼び名はいろいろあるが、おいらたち<篭城戦>世代の中ではこう呼ばれていた。<バジル・ザ・デッツ>」

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