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第九話 誰から聞いても同じだろ


 フィフィとの狩りは、考えていたよりもずっと良かった。

 何より、今まで自分が気が付くことのできなかった様々なことに、気づけた。


「……あせりすぎてたんだよな」

「どうしたの?」

「いや、俺は自分のできることをしっかりやっていけばいいんだよな」

「よく、わからないけど、クラードはよくやっている」

「なんか上から目線だな?」


 からかうように頬を引っ張ると、フィフィは柔らかく微笑む。

 フィフィに感謝をしつつ、街を歩いていく。

 太陽は沈み始め、街頭がまばらに点灯している。


 巡回する騎士の数も増え始めている。

 ギルドに寄って、集めた素材を売却する。

 今日はミントの姿はなかった。

 フィフィのことをツッコまれずにすんでよかったと思いながら、ギルドを離れた。


 今日の稼ぎは三千ラピスだった。


 これでも、一日そこら辺でアルバイトをしたほうが儲かるのだから、冒険者という仕事が厳しい職業であるのはよくわかる。


 才能がないなら早々に諦めたほうがいいのだ。

 とはいえ、実力があれば稼ぎはもっと増える。

 

 クラードはフィフィとの報酬を半々にしておく。


「これで今日もごはんを食べられる?」

「ああ、食べられる食べられる」

「よかった……」


 ほっとした様子で胸をなでおろしている。

 彼女の笑顔を見ると、クラードもまた落ち着けた。


 それからクラードは昨日利用した食事処へと向かう。

 外食は控えたかったが、今日はレイスと約束をしていた。


「夕食は昨日と同じ場所でとるからな」

「うん」

「あと、俺の友達も一緒にいるから」


 いつまでになるかはわからないが、フィフィとはしばらく一緒に生活をすることになる。

 そのことを、彼に話しておき、大家への対応を一緒に考えてもらいたかった。

 大家とは何度か話したことがあるが、気の強い自分よりいくらか年上の女性だ。


 勝気な性格で、面倒見の良い人だ。

 だが、何も伝えなければ信頼関係なんて簡単に崩れてしまう。


「クラードの友達……? 悪い人じゃない?」

「ああ、すっげぇいい奴だ。たまーに人のことからかうけど、そのくらいだ」

「……そうなんだ」


 知らない人となると、フィフィも警戒するようだ。

 とはいえ、クラードだって元は知らない人だった。

 それなのに、今はこれほど懐いているのだから、大丈夫だろう。

 

 クラードたちが店に到着すると、レイスが入り口に立っていた。

 学園の制服を身につけ、腰には一振りの刀。

 彼は自分を見ると、多少切れ長の瞳で射抜いてくる。


 びくり、とフィフィがクラードの後ろに隠れた。

 そんなに怯える必要はない。

 彼女の頭を軽く叩いてから、レイスに近づく。


「レイスー、フィフィが驚いているぜ」

「……目つきが悪いのは生まれつきなんだ。勘弁してくれ」


 肩をすくめながら、彼が壁から背中を離して笑った。

 笑みを浮かべたが、フィフィはいまだ怯えた様子は消えていない。

 ぽりぽりと困ったようにレイスは頬をかいた。


「その子が、わけありの子、か。詳しい話は聞いていないが、とりあえず中に入ってからでいいか」

「おうっ、了解」


 店に入り、空いている席へと座る。

 昨日と同じく、安い料理を注文すると、レイスもそれを頼む。

 料理が運ばれてくるまで、しばらく待っていると、レイスがじろっとフィフィを見た。


「まずは……自己紹介だな。オレはレイスだ。一応、騎士、の立場になるのだろうか」

「騎士……」


 その言葉にフィフィがびくりと肩をあげる。

 クラードの左手をぎゅっと掴んでくる。

 不安げなフィフィを見て、レイスは顎に手をやる。


「……冗談だ。まだオレは騎士じゃない。まあ、騎士から誘われているのは本当だが」


 冒険者として腕の立つものは、聖都に呼ばれることもある。

 騎士になるか、冒険者として生きるか。

 そこは人それぞれではあるが。

 そのあたりについてフィフィに説明をすると、彼女は顎に手をやる。


「クラードは、違うの?」

「そういうわけだな。レイスはすげぇ奴だからな」


 レイスは、騎士として仕事をするよりかは、技術開発のほうに力を入れている。

 聖都に呼ばれたのも、彼の技術面での才能に関係してだ。

 騎士というよりかは、技術者だ。


 レイスは兵器に興味があり、その才能を伸ばしていった。

 現在では未開拓大陸の調査を行うための飛行船の開発に協力している。


 実際に、何度か聖都にも顔を出していて、その技術開発に手を貸しているような状況だ。

 聖都で仕事をするという点だけでみれば、ラニラーアよりも凄い奴だ。


「そうでもないさ。オレはまだまだ。それよりも、今は彼女について話をしようではないか」


 レイスの言うとおりだ。


「そんじゃ、手紙でも伝えたけど、フィフィをアパートにおいてもらうにはどうしたらいいかって話なんだが……」

「おまえの手紙をみたが……はっきりいって、このままではまずいと思ったがな。騎士に相談するべきだ」

「まあ、そうなんだけどさ。訳ありっぽいんだよ。ほら、騎士に怯えているみたいだし……だから、それはなしってことで」


 そういうとレイスの視線が鋭く、自分を睨んできた。


「彼女が騎士を恐れる理由は簡単だ。騎士に対して後ろめたいことをしているのではないか? そんな奴をかくまっていたとすれば、おまえ、冒険者になれなくなるかもしれないぞ?」

「……そう、かもだけどさ」


 ちらとフィフィを見る。

 今もずっと震えている。その小さい体に、一体何があるかはわからない。

 けど、きっとあの人なら、フィフィを助けるだろう。


 昔憧れた冒険者にして、剣を教えてくれた師匠を思い出す。


「絶対、フィフィには何かあるんだ。俺の勘が告げている」

「随分と弱い根拠だな。オレは心配なんだよ。おまえに何か事件でも発生したらって考えたらな」

「……わかってる。けど、頼む。今は黙って協力してくれないか? フィフィのこと」


 両手をあわせて頭をさげる。

 ぎゅっと目を閉じた後、少し目を開けてチラッと見る。

 レイスの目とぶつかると、彼は軽い笑みを浮かべた。


「まあ、何も考えていないわけじゃないのなら、わかった。協力しよう」

「本当か! 大好きだレイス!」

「やめろ。男に言われてもなんも嬉しくもない」

「そんなの今は関係ないだろっ。よっしゃ、これで大家にも話しやすいってもんだ」


 軽く息を吐いた。

 レイスは賢い奴だ。

 自分が思いつかないことをすぐに提案してくれる。


 ラニラーアもクラードも、あまり頭を使うのは得意ではない。

 敵地に攻め込む必要がある場合、ラニラーアならば「正面からどかどか行けばいいんですわ!」といって、自分は「後ろからどんどん攻め込めばいいんだ」程度だ。


 だから、頭を使うときはいつもレイスをパーティーに加えていた。

 レイスがため息をついたところで、笑みを濃くする。


「それに、騎士に何か悪いことをしていたとすれば、フィフィはきっと追いかけられるような立場になるだろ? ってことは、だ。今頃ニュースで騒がしくなっているはずだ。けど、俺は昨日からずっと新聞とか見ていたけど、そんなことは一切なかった」

「……新聞?」


 フィフィが首を捻る。


「ああ、新聞。朝の時間とか見ていただろ? ほら、こう紙きれみたいな奴だ」

「……うん。けど……クラード首がかくんかくんしていた」

「……」

「目は、開いていたからな!」


 じろっとしたレイスの視線に、クラードは苦笑いを浮かべる。

 レイスは軽く嘆息をついて、テーブルにコップを置きなおす。


「わかった。大家にはオレからも話しておこう」

「ああ、任せる」

「大家のことだ。フィフィの事情を話せば、おそらく涙を流しながら許可してくれるはずだ」

「まあ、そうかもしれないけど……やっぱり俺からだとうまく話せるかわからないしな。絶対フィフィは人見知りするし」

「……確かにそうだな。あの人なら、おもちゃのようにフィフィを可愛がるだろうな」 


 レイスとクラードは、お互いに顔を合わせて嘆息をついた。

 やがて食事が運ばれ、真っ先にフィフィが食べる。


「良い食べっぷりだな」

「……うん、おなかすいたから」


 レイスがフィフィに声をかけると、フィフィもはにかみながら頷いた。

 そんなフィフィを見ていたレイスの視線が、クラードへと向けられる。


「そういえば、ラニラーアとは連絡をとっているのか?」

「……いーや、ぜんぜん」


 クラードはラニラーアのことを思い出して、頬をかいた。

 何をどう伝えていいのかわからない。

 スケルトンを倒せるようになったとはいえ、まだ彼女との力の差は歴然だ。


 それでも、一度連絡をとるにはいい区切りかもしれない。

 クラードの思考を破るように、レイスの言葉が割り込んできた。


「ラニラーアな。おまえが学園を除籍された日に、聖都から誘いの連絡を受けていたんだ」

「……聖都、から?」

「ああ。聖都にある学園にこないかって。前から受けていたみたいなんだが、そのときは断っていたらしい。知っていたか?」

「いや……知らなかった」


 クラードはそこでラニラーアのことを思い出す。

 確かに、何度か不自然な日があった気がした。

 それでも、当時はとにかく彼女に追いつかなければという焦りばかりで、自分のこと以外なにも考える余裕がなかった。

 

「それで、ラニラーアはどうするんだ?」

「すぐに断っていたな。おまえとまたパーティーを組みたいから、だそうだ」

「……そう、なのか」

「彼女を説得するように、と学園長に言われたんだ。おまえなら、どうする?」

「俺は……」


 ラニラーアがどうして、強くなりたいのか、その理由を知っていた。

 彼女は吸血鬼として生まれ、その金色の髪は特にこの土の国では悪く目立っていた。

 小さいころからそのことを馬鹿にされて、そういわれるのが嫌だからと、冒険者になって周りを見返そうとしていた。


 昔はとにかく、周りと距離を置き、冷たい態度をとる子だった。

 いつからそれがなくなったのかは不明だったが、今彼女はどのような理由で冒険者を目指しているのだろうか。


「ラニラーアが決めることだ。けど、もしもあいつが俺が原因で聖都行きを断っているのなら、俺はあいつに話をする」

「……そう、だな。それと、今すんでいる場所くらいはちゃんと教えてやれ。オレが、簡単には話しておいたが、やっぱりおまえの口から聞きたいものだろう」

「いや、誰から聞いても同じだろ」

「オレとおまえじゃ、ラニラーアは違うんだよ」

「……そう、なのか?」


 ラニラーアの話を聞いていて、クラードは知らずうちに自分の拳に力が入っていたのが分かった。

 視線をおろして、クラードは息を吐く。

 悔しくないわけがない。


 自分だって、聖都に呼ばれるような人間になりたい。

 そうなれば、未開拓大陸の調査部隊にだって入ることができる。


 クラードは、外の大陸で父親を捜したかった。

 全身に力が入ってしまっている。このままではいけないと思い、席を立つ。


「悪い、ちょっとトイレ」

「……」


 レイスが口に物を入れたまま、自分のほうを見てきたが、それでもクラードは彼の返事を聞く前にトイレに向かった。


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