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第八十一話 覚悟


 フィフィたちは、みな手錠をつけていた。

 彼女たちが能力を使い、逃げ出さないようにしているのだろう。

 それだけ見れば、まるで罪人でも裁くようだった。


 彼女たちは前にあったときの服装と変わらない。クラードはそんな彼女たちを見て、息を吐く。

 駆け出したかったクラードだったが、その片腕には手錠がついている。もう片方の先をオリントスに握られていて、どうしようもなかった。


「ブレイブ様、クラードはやはり逃げ出し、こうしてここへとやってきました」

「オリントス……」


 ブレイブの隣にいたラニラーアは僅かに顔を輝かせる。

 その近くにいたフィフィも、暗い顔を明るくする。

 しかし、ニナ、ニニ、フレアの顔は晴れない。なぜきてしまったのか、彼女たちの顔にはありありとその色が見えた。

 

 クラードたちの近くにいた騎士は困惑しながら、剣を構えていた。

 オリントスは軽く息を吐きながら、一歩を踏み込む。


「……やはり僕の味方になってくれる人は少ないよ」


 嘆くように聖王が呟いた。

 その言葉を聞いたオリントスは、小さく息を吐く。


「ここまでか」

「……裏切り者のオリントスとクラードを捕らえよ!」


 叫んだのはブレイブだ。

 クラードは驚いてオリントスへと視線をやると、彼はすぐに土で鍵の形を作り、クラードの手錠をこじあけた。


 自由になった片手を軽く動かすと、騎士がクラードへと飛び掛る。

 その彼へと、魔力をこめて吹き飛ばす。

 すぐに別のところからスキルが跳ぶ。

 貴族たちは慌てたように逃げ出し、彼らの近くにいた騎士や冒険者もそれぞれ武器を構える。


 とびかかってきた騎士の剣を、オリントスがさばく。

 オリントスがさばき終えるより先に、脇から別の騎士がとびかかってくる。クラードがそれの間に入り、剣を振る。

 

 クラードが剣を戻すより先に、別の騎士が剣を振りぬく。クラードが後退すると、土の壁が出現し、クラードを守る。

 息つく暇はない。

 あっという間に周囲を囲まれたクラードとオリントスは、視線をかわす。


「クラード、逃走手段は用意しているといったな?」

「ああ、友達が飛行船で迎えにくるんだ」

「それは画期的な逃走だな。……僕が道を切り開く。合図を出したら跳べ」

「……わかった」


 騎士たちが揃って攻撃を開始する。


「クラードのスキルは武器を奪うスキルだ! なるべく装備はしまって戦え!」


 もう遅い。クラードは彼らの武器に干渉していく。周囲にいた騎士たちはそもそもブレイブの言葉を理解していない。

 彼らの装備を根こそぎ装備し、クラードはすべてのステータスを自分のものにした。


 せまってきた騎士たちに気づかれることもなく、剣を叩きつける。

 膨れ上がったステータスに、体のほうが適応に時間がかかる。

 敵が増え、その敵が装備を身にまとっていれば、それだけ強くなることができる。

 

 この戦場には二人、ではない。クラードからすればほぼすべての相手が味方に見える。

 オリントスが土の力を放つ。囲んでいた騎士たちを弾き飛ばし、オリントスは真っ直ぐブレイブを睨む。


 ブレイブもまた、息を吐く。

 彼は即座に動き、取り出した手錠でラニラーアの腕へとかけた。


「な、何をしますのブレイブ様!?」

「……おまえはクラードたちの味方だろう。悪いが、これ以上敵を増やしたくはない」


 オリントスとともに聖堂をかける。しかし、周囲にい冒険者や騎士たちからスキルが襲いかかる。

 スキルがやめば、次は近接した戦士たちだ。彼らは意識を失うまでは仕事を全うするとばかりに攻撃をしかける。


 全力の連続の剣に、クラードとオリントスは足を止める。

 別の騎士がフィフィたちのもとへと向かう。


「クラード、跳べ!」


 オリントスの声にあわせ、クラードは足に力をこめる。

 騎士たちを飛び越えるようにジャンプしたクラードへ、閃光のようにスキルが飛ぶ。

 そのクラードの周囲を土の壁が守り、さらにクラードの足元に土の足場が生まれる。 

 それは波のようにして、クラードをブレイブの前まで運ぶ。


 彼はすでに鎧を脱ぎ、長剣を構えていた。

 クラードは両手に剣を握り締め、ブレイブへと振りぬく。

 ブレイブの長剣を装備したが、それのステータス合計値はほとんどないようなものだ。クラードへの対策だろう。


 ブレイブの脇を抜け、フィフィたちを連れて行こうとする騎士たちへと手を向ける。

 テレキネシスのスキルを発動し、一気に騎士たちを弾き飛ばす。


「クラード! 私を前にして、他に気を配っている暇があるのか!」


 ブレイブが長剣を振り下ろす。風をまとった刃は想像よりも範囲が広かった。

 僅かにクラードの肌を切りつける。クラードは攻撃をくらいながら、紫の短剣を投げる。

 ブレイブがそれにちらと視線を送る。


 一気にブレイブへ距離をつめ、剣を振る。

 ブレイブが受けようとしたそのとき、クラードは紫の短剣へとワープし、背後からブレイブを着る。

 ブレイブはその場でくるりと回り、長剣を振りぬく。


 風の刃がクラードの剣に当たり、大きくのけぞった。


「マジかよ……っ」


 今のを初見で受けきられるとは思っていなかった。

 ブレイブは短く息を吐き、剣を構える。


「戦いで一番恐ろしいのは、知らないことだ。相手の能力が何かわからなければ、対応するのに時間がかかる。似たようなものを知っていれば、それを参考に、対応策を考えることはできる」


 クラードとブレイブの経験の差だ。

 ブレイブはクラードよりもずっと長く戦っている。

 

「私は勉強をした。訓練生時代は誰よりも才能がなかったからな。もちろん、スキルの勉強もした。……お前のは道具を使用した転移と、テレキネシスのようなものだろう? そのくらいのスキル、私は今まで何度も見てきたし、知っているぞ」


 ブレイブの言葉に、クラードは歯噛みする。

 クラードは先ほど騎士たちから奪った装備へと目を向ける。距離ができてしまい、範囲から外れてしまったそれらを、テレキネシスで引き寄せる。

 しかし、それらは途中でブレイブの風によって妨害される。


 肉薄と同時、クラードとブレイブの剣がぶつかりあう、

 ぎりぎりとブレイブはクラードを睨みつける。そうしながら、彼は声を荒げた。


「クラードどうしておまえは……アリサ様たちを助けに来たんだ」

「俺は世界よりも、友達を選びたかったんです……。友達がいるからそれで始めて、俺にとって世界が大事なものになるんです!」

「世界あってこその、人だっ!」


 ブレイブは剣を思い切り振りぬくと同時、風の刃がいくつもクラードを切り裂く。

 風をまとった一撃を、クラードはかわし剣を振る。

 せめて、ブレイブから武器を取り上げれば――クラードは手を向けたが、テレキネシスで引き寄せるより先に、風に弾かれる。


 クラードは取り出した剣をテレキネシスで操作しながら、ブレイブへとせまる。

 両手の剣と操った剣による連撃を、ブレイブは風の刃を作りだして受けきる。


 防ぐだけで終わらない。ブレイブは風の剣を作り出し、クラードの手数を上回る刃で切りつけた。

 ブレイブの猛攻を剣とスキルで防ぐ。クラッシュを発動し、それらを霧散する。だが、それは一瞬にしかすぎない。


 連続の剣によって体がいくつも切り刻まれる。

 クラードは血を流し、息を吐きながら膝をつく。

 ブレイブもまた呼吸を乱していた。顔をあげたクラードは彼の迷いを含んだ顔に、愕然とするしかない。


 ブレイブは今のでも、まだ力を制限しているのだ。――できる限り、クラードを殺さないよう。


「……クラード、まだやるのか?」


 クラードはちらとオリントスへと視線を向ける。

 彼もまた、大量の冒険者と騎士を相手に、一人もクラードのほうへと生かせないよう戦い続けている。


 両膝を支えにクラードは立ち上がる。 


「……フィフィたちを渡してくれるのなら、もうやりませんよ」

「クラード……」


 そのときだった。クラードの前に小さな影が移動する。

 クラードは銀色の髪を揺らし、涙を浮かべていたフィフィに視線を向ける。


「フィフィ、よかった。……悪いな。だらしなくって」

「……もう、やめて。クラード、わたし……色々と話を聞いたんだ。……わたし、クラードが死んじゃう世界になんかしたくない。だから、わたしは……ここで一生懸命頑張るから」


 フィフィは笑顔を浮かべる。

 

(なら泣くなよっ)

「まだやりたいことあるんだろ」

「……」

「フィフィはまだ冒険者として一緒に旅をしたいっていってた」


 クラードはフレア、ニナ、ニニを見る。


「フレアは可愛い服たくさん着たがってただろ。俺も、おまえに似合う奴一つ買ったんだよ。まだ、渡してねぇ」


 その隣にいたニナとニニは唇をぎゅっと噛んでいた。


「ニナとニニは、たくさんの甘いものを食べ歩くって夢があるんだろ?」


 風の都で見た二人の笑顔は、年齢に相応した無邪気さがあった。

 そんな笑顔がまた見たいと、クラードは思った。


「アリサはみんなのお姉ちゃんとして頑張ったんだ。あとはもう、自由にしてやりてぇんだよ」


 クラードは両手に剣を持ち、大きく息を吐く。


「みんなまだやりたいことたくさんあるんだ……そんな奴らを俺は絶対死なせたくない……」


 クラードはブレイブをじっと睨みつける。


「世界に鬼神が復活するのなら、俺がぶっ倒す。それで、この平和な世界で、こいつらのやりたいことを思う存分できるようにしてやる!」

 

 クラードは覚悟を決めた。

 弱気だった自分を捨て去り、クラードはブレイブを倒すために、もう一度立ち上がる。


「私にも勝てないのに、鬼神を倒す!? ……できるわけがないだろう」

「だから、今ここでまずはあんたを越える。それで、鬼神も超えて、終わりだ!」


 クラードが剣をブレイブに向けると、彼は大きく息を吐く。

 両手剣を構えなおした彼からフィフィを守るように、クラードは前に出る。


「……やはり、おまえはあいつの弟子なのだな」

「よくわかんねぇけど……それであんたに勝てるなら、もうなんだっていいっての!」


 クラードが地面を蹴り、ブレイブもまた距離をつめた。

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