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第七十三話 まとめて



 それから三日間。クラードたちはリゴの村に滞在していたが、魔物たちに襲われることはなかった。

 拍子抜けしてしまうほどに平和だ。

 三日の間、何もしなかったわけではない。

 山を一通り探索もして、魔物を探した。ニニたちも村の防壁を作り続けた。

 

 魔物と直接戦うことはなかったが、それでも、ニニたちの活躍のおかげで、ただ働き扱いされることもなかった。

 クラードたちはその日を持って、契約を終了とする。――表向きは、であったが。


 村長の家で、報酬の六万ラピスをもらう。一人当たり二万ラピスだ。

 ニナとニニが喜んでそのお金をぎゅっと握り締めていた。

 二人からすれば始めての稼ぎだ。嬉しいことこの得うないだろう。


「それじゃあ、村長さんたち……あんまり何もできてないけど、それじゃあな」

「おうっ、そんじゃあ、あとはよろしく……じゃなくて、さようならだぜ!」


 村長が手を振り、クラードはこくりと頷いた。

 まだ仕事のすべてが終わったわけじゃない。

 ニナとニニもそのことを思い出したようで、非常に顔色が悪い。


 クラードたちが来てから、ぱたりと魔物の出現はなくなった。

 山やリゴ村周囲の魔物が住めそうな場所をあらかた調べ、それでも一切魔物の痕跡を見つけることができなかった。

 だから、クラードたちは、これを人為的なものと仮定し、行動することに決めた。


 敵は知性のある人間であることは明らかだ。

 それも召喚、あるいはそれに順ずるスキルを持っている。そこまで考え、クラードたちは一度村を去ることにしたのだ。

 村を囮に敵をおびき出すという作戦だ。


 村の人たちは、この不可思議な現象に対して、勇者様のお怒りというものが多かった。

 そのたびにミクンの顔色が悪くなる。それを見て、クラードは絶対に助けてやりたいと思った。


 ニナとニニを連れ、アクリスの街へと向かう。

 長い道のりに、ニナとニニを交互に背負いながら移動する。


「作戦をもう一度まとめてみてもいいですか?」

「ああ、いいぜ」

「クラードはアクリスの街で突っかかってきた冒険者たちが怪しいといっているんですよね?」


 クラードの中では犯人の可能性のある人物たちがいた。

 それが、今ニナがいったものたちだ。


「まあな。ギルド職員の話もあったけど、最近あいつらはこの町にやってきて、増えていった難易度の高い依頼を受けているんだろ? ギルド職員は魔物が増えた原因を、鬼魔や鬼神が関わっていると予想してたけど……そんな影響別に水の都でもなかっただろ?」

「もちろんです。増えるのは魔物ではなく鬼魔となりますからね」


 ニナの言うとおりだ。

 以前のように魔王が村を狙っているのならば、出現するのは魔物ではなく鬼魔となる。

 そして鬼魔は、たとえ倒したところで死体が残る。今回村を襲っている魔物たちとは違う。


「なら、最近街の緊急依頼が増えた理由として、鬼神はありえねぇ。他に関係するのだとしたら……あの冒険者たちだ」


 クラードはアクリスの街にいた冒険者たちを思い出す。

 彼らは依頼を受けるそぶりを見せながら、その報酬を吊り上げるように要求していた。

 彼らの実力はランクB、C程度だ。そんな彼らが、自信満々に村を守りぬけるといった様子だった。腕に自信があるとはいえ、なかなか難しい依頼であることに変わりはない。


「……まあ、気に食わないですが、さすがに疑うには要素が少なくないですか?」

「まあな。だから、これからそれを確かめにも行くんだ」

「……だからって、アクリスの街まで行くのは面倒ですよ」

「いいじゃねぇか」


 クラードは苦笑する。ニニがくいくいとクラードの服を引っ張る。

 交代の時間だ。しかしニナは気づかないふりをして、クラードにぎゅっとつかまる。

 普段ならば「変態」というニナであるが、それほど歩くのが面倒なようだった。

 クラードの背中に仄かに柔らかな感触がある。確かにアリサよりかはありそうだった。


「ニナお姉様、交代してください……」

「……わかりましたよ」


 仕方なくといった様子で、ニナがクラードの背中から降りた。

 ニニが変わりにクラードの背中に飛び乗り、ほっと息を吐く。


「あいつらは意外と狡猾な奴らなのかもしれねぇんだ。俺たちを警戒していて、だから……」

「一度村を離れるというわけですね」

「そういうわけだ」

「……だから、ニナたちは面倒な移動をもう一度しないといけないんですよね」

「景色いいから、歩くのも楽しくないか?」

「楽しくありません。これに喜びを見出せるとき、それは人としておかしくなったときです」

「……そこまでいうのかね」


 クラードは小さく息をはく。ただ、今クラードはそれなりに楽しんでいる。景色ではなかったが。

 クラードたちはやはり一度も魔物に襲われることなく、アクリスの街へと戻ってきた。

 ニナとニニはぺたりとその場で座る。


「ほら、せめてギルドまでは歩けよ」

「……はぁ、わかりましたよぉ」

「……あとでクラードに何か悪戯しましょうお姉様」

「そうですね。寝ているときに背中に氷でも入れましょう」

「それはいい案です、さすがお姉様です」

「ふふん」

「やったらおまえらこめかみぐりぐりしてやるからな?」


 ニナとニニはささっとギルドへと走りだす。

 「まだぜんぜん元気じゃねぇか」、と呟いてから、クラードもその後を追いかける。

 出来る限りの笑顔とともに、クラードはギルドに到着した。


 前に世話になったギルド職員がいた。彼女がこちらに気づくと、軽く手を上げる。クラードも手を上げ返した。


「冒険者さん、リゴの村はどうでしたか?」

「いやぁ、それが魔物なんてぜんぜんでなかったんだよ」

「……そうなんですか? 不思議なこともあるんですね」

「これならあの『竜の爪』たちも受ければよかったのにな。村近くを見回りしただけで、金が入ってきたんだから楽な仕事だったぜ」

「それはよかったですね」


 ギルド職員が微笑む。クラードはきょろきょろと周囲を見た。


「そういえば。『竜の爪』たちはどうしたんだ? まだこの街にいるのか?」

「はい。いますよ、彼らもたくさんの緊急の依頼を受けてくれますから、助かっていますよ」

「……そんなに依頼がたくさんあるのか?」

「……もう、本当そうなんですよ。町にいる冒険者たちも毎日休みなく、って感じで仕事していますよ」


 ギルド職員が嘆息をついた。惨状を思い出したのか、酷く疲れた様子だ。


「へぇ……そりゃあすげぇな。『竜の爪』ってもともとこの街にいなかったんだよな?」

「そうですね。いなかったらどうなっていたのかと……。ちょうど魔物が増えた時期で助かっていますよ」


 ギルド職員の言葉に、クラードは目を細めた。

 ニナとニニも、いぶかしんだ目を作る。


「それより、あなたたちも依頼を受けていきませんか? まだまだたくさん依頼はあるんですよ」

「……そうなのか?」

「はい。もうこれだけ魔物が出現してしまいますと、この街の冒険者では足りない可能性もあります。……今は『竜の爪』さんたちが頑張っているから何とかなっていますが。どれもランクC以上の魔物ですので、この町にもともといた冒険者たちでは歯が立たないんですよ」

「それじゃあ、俺たちもいくつか依頼を受けるかな。近場のもので何かあるか?」

「はいっ! ランクC相当のものがいくつもありますよっ!」


 ギルド職員が提示した依頼は合計五つだ。不思議なことに、ランクCとBのものしかなかった。


 どれも、リーダー種の魔物が出現したために、繁殖する前にしとめて欲しいというものだ。

 似たような依頼だが、もしもこれを『竜の爪』たちが仕組んでいるのだとしたら、彼らはそれを利用して金儲けを行っている。


 ならば、ひとまずはその依頼を潰し、彼らの動向を見守る必要がある。


「ニナ、ニニ、一つずつ一人で受けてくれるか?」

「まあ、あんまり歩かなくて済むのでしたら、構いません」

「ニニもです」

「そんじゃ俺が三つ受けるな」

「み、三つもですか……?」


 ギルド職員が驚いたように呟く。


「ニナはこれにします」

「ニニはこれにします」


 二人はギルド職員が指名した依頼を一つずつ掴む。

 クラードも三つの依頼をまとめて受け取る。


「だ、大丈夫ですか?」

「まあ、無理そうなら途中で引き返すよ。今はこの街だって苦しいんだろ? こんな討伐以来ばかりで、ほかの依頼がぜんぜん出来てないみたいだし。……まあ、風の都に戻る前にちょろっと運動がてら行ってくるってことで」

「ありがとうございます。冒険者資格を見せてもらってもいいですか?」

「あー、了解だ。俺が五つまとめて受けるってことでいいよな? 面倒だし」

「それで構いませんよ。それでは、よろしくお願いしますね」


 ギルド職員も相当に困っていたようだ。すんなりと依頼の受注が完了する。

 ニナたちはふうと息を吐き、立ち上がる。


「まあ、二人とも面倒ならここで休んでいても問題ないぜ?」


 ステータスの速度と筋力に、装備品を割り振っていく。

 しかし、ニナたちは首を振った。


「ニナはあいつらの困った顔を見たいです」

「ニニもです。出来ればこの手で困らせてやりたいのです」


 二人は悪い笑みを浮かべる。

 クラードは苦笑する。まだ『竜の爪』が完全に黒と決まったわけではない。

 ただ、この依頼の結果次第では、彼らの動向を観察することができる。

 

 それに、本物の魔物の発生であれば、街の人たちが困っていることは変わらない。

 それを排除するというのは、冒険者として当たり前の行動である。

 街の外まで行き、ニナとニニとは分かれる。

 

 クラードは外をランニングのように走り、依頼書にあった魔物たちをしとめていく。

 それらの魔物は四体、五体の集団で行動していた。

 それらを討伐したとき、残るはずの死体は一切残らなかった。


 素材さえも一切落ちず、クラードはその魔物たちが召喚されたものであるものだと把握するのに、時間はかからなかった。

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