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第七話 これでも毎日鍛えてるからな


 服屋にいって、フィフィの服を購入してきた。

 フィフィの容姿は非常に整っているため、店員も服を選ぶのが楽しかったようだ。

 何度も着せ替えを行われ、フィフィは疲れてしまったようだ。


 結局、選んだのは簡素なシャツとズボンだ。

 もっといえば、ジャージでも良いほどだったが、店員に強く勧められて結局これを購入した。

 どうせ値段は大して変わらないのならば、普段使いもできるこちらのほうがいい、と。


 買ったときは納得したが、ジャージだっていつも着たって構わない。

 そう思ったのは戻ってきてからだ。

 可愛らしいフィフィの容姿に、男性が着ていそうな上下のセットは、始めこそ不釣合いだと思ったが、似合っている。

 

 店員がオススメしていた理由もよくわかる。

 彼女をちらと見て、体力が回復するまでにおにぎりを作っておく。

 迷宮での弁当だ。アイテムボックスに放り込んでおけば、一日くらいはもつ。

 

 昨日は引越しの疲労も残っていたため、外食にしたが、これからは節約しなければならない。

 フィフィが回復したところで、ノーム迷宮へと向かう。

 ノーム迷宮の一階層に到着する前に、装備品をすべて取り出す。


 階段を下りながらの操作であったが、それをみたフィフィが驚いたように顔を近づけてくる。


「それもステータスの力なの?」

「装備っていってな。武器や防具を身につけることで、ステータスに影響が出るんだよ。下手したら、いい武器と防具をつけるだけでステータスが100近くまであがるのもあるんだよ」


 歴代の騎士や冒険者には、そういったものもいる。

 迷宮で発見した優秀な装備ならば、それも可能ということだ。


 ただし、その人間の技量が伴わなければ、装備の性能すべてを引き出すこともできない。

 幸い、クラードは技量だけは十分あった。

 学園でひたすら鍛えていたからだ。


 だからといって、その性能すべてを引き出したところで、大して意味はないのだが。

 武器と防具は、あくまで補助だ。

 

 素のステータスが低ければ、何の意味もない。

 ノーム迷宮の第一階層に降りたところで、フィフィに視線を向ける。


「なんだかくらい場所。土の中にいるみたい」

「ノーム迷宮はだいたいこんな感じだな。他の場所だと、サラマンダー迷宮は暑い場所だし、シルフ迷宮は風が吹き荒れる場所らしいし、ウンディーネ迷宮は水が多くて、寒かったり、足場が悪かったりするらしいぜ」

「そうなんだ」


 各迷宮には様々な特徴がある。

 低階層ならば、その特徴も気にならないようなものだが、階層が深くなればなるほど、それらは激しさを増す。

 ノーム迷宮は深くなれば深くなるほど、地面に埋め込まれた魔石のあかりが薄くなっていく。

 

 低階層ならば外より少し暗い程度で違和感はない。

 低階層に多くいるブラッドバッドは、目が赤く染まっていて、動けばどこにいるのかもわかる。


「とりあえず、魔法の威力を確認するか」

「うん」

「けど、昨日の魔法だと当てるのが難しいよな……なんかこう、発射とかってできないか?」

「発射……ちょっとやってみる」

「あのコウモリを打ち落とすって感じで頼む」


 ブラッドバットは天井付近を飛んでいる。

 奴らは空腹時以外は攻撃をしてこないため、クラードは周囲を警戒する。

 幸い、冒険者の姿もどこにもない。


「『精霊よ。我水の槍を求める。水なきここへ、水の元素を集めよ。形成せよ、水の槍。その先を鋭く尖らし、天高く飛び上がる魔を食らえ。アクアランス!』」


 朗々と、しかしすべてを言い終えるのに、おおよそ二十秒だ。

 一言一言に、何かを込めるように言っているからだろう。


 フィフィの右手に集まった青い光が、水の槍へと変化する。

 彼女の手のひらから作り出されたように、空へと一本の槍が放たれる。


 真っ直ぐに飛んでいったその槍が、人間の頭ほどのサイズしかないブラッドバットを飲み込んで突き刺した。

 ブラッドバットが死んだことで、魔石が上から落ちてくる。 

 

 予想以上の威力だ。

 だが、魔法詠唱から実際に放たれるまでで三十秒近く経過している。

 戦闘中にそう何度も打てるものでもないだろう。


 ただ、自分の戦闘時間を思い出す。

 うまくいっても十分はかかるのだから、彼女の魔法を当てられたほうが確実に早いだろう。


「どう?」


 まるで子どものように彼女は評価を待っている。

 クラードはぐっと親指をたてる。


「魔法は十分すぎるな。たぶんだけど、俺なんかよりずっと強い」

「けど、クラードがここで見守ってくれてないとわたしは魔法をうてなかった」

「そうでもねぇだろ。とりあえずは、こんな感じでやっていこうか」

「うん」


 フィフィははにかんでそれから歩き出す。

 ひとまずは、彼女を守るように戦闘を行っていけば良いだろう。


 

 ○



 一階層ならば、問題なく戦闘が行える。

 クラードは軽く額を拭った。

 二階層に向かうまでの階段で、一度休憩をとる。


 この階段を、魔物たちは行き来しない。

 フィフィは、この途中にあった大きな穴を思い出していたようだ。


「あれ、凄かった」

「うっかり落ちたら死んじゃうからな? 本当、気をつけろよ?」


 先ほどフィフィは、崖を覗き込んで落ちそうになっていた。

 それを慌ててとめたときは、全身から汗が噴き出していた。

 フィフィの無邪気さは、大切だが少々危うい。


 これからはもっと気を引き締めなければならないと思いつつ、取り出した水筒で水分を補給する。


「クラードクラード。わたしの魔法はどう?」

「ああ、かなり助かってる」


 フィフィはアクアランスしか使っていないが、攻撃のあたる確率が高いことと威力の高さから、重宝している。

 近づいてきたブラッドバットに対しても、クラードが時間を稼ぎ、どこかで動きを止めてから魔法を放てば一撃だ。


 狩りの効率はぐんとあがった。

 魔法タイプのものとパーティーを組む場合、クラードも戦う必要が出てくる。


「少しだけど、ステータスもあがってるな」


 昨日よりも効率が良く、魔物を狩るたび少しずつ成長している。

 フィフィとの連携がそれだけ良い影響を与えているのだろう。


 僅かながらでも、強くなれているとわかれば、やる気も出てくるものだ。


 フィフィの魔法が、どのくらいまで通用するのか。

 それをはかるためにも、二階層を目指す。

 最終的には、三階層まで行きたいが、急ぐ必要もない。

 三階層に行きたい理由としては、ブラッドバットのほかにスケルトンが出現するからだ。


 スケルトンを狩ることができれば、ブラッドバットよりも高く売却できる。

 出来ればそこで戦闘をこなしたい。

 フィフィの体力が回復したところで、二階層に向かう。


 階段を下りていき、たどり着いた二階層は、一階層とそれほど変化はない。

 ところどころ、岩や木の場所が変わっているだけで、地形に変化はない。

 後は、下へと繋がる階段の位置が違うくらいだ。


 それらはすべて、メモに残っている。

 学園に通っていたときに、生徒ならみなが自分で作成し、所持しているものだ。

 

「クラードは、疲れないの?」


 フィフィはすでに足ががくがくと震えだしている。

 これでも休憩を何度もはさんでいるのだが、フィフィは根本的に体力がないようだ。


「当たり前だ。これでも毎日鍛えてるからな」


 体力はステータスが影響しない大事な数値だ。

 学園に通うものは、毎日走りこみをさせられたし、その後に武器の訓練もしたものだ。


 それに加え、自主的に毎日走っているし、ラニラーアの剣、槍、斧などの実戦訓練に付き合ったものだ。

 体力と武器の扱いに関しては、クラードは学園でも誰にも負けるつもりはなかったし、実際学園の実技試験では常にトップを取り続けた。


 最強の冒険者になって、外の大陸を探索したかったからだ。


「フィフィも、魔法使いだからってちゃんと体は鍛えないとだからな」


 学園の生徒たちは、自分の適性がわからないまま訓練をつむ。

 そのため、たくさんの武器を練習することになる。

 そして、ステータスが渡されてから、スキルに合わせた武器を持つことになる。


 自分の適性外の武器の訓練も、すべて無駄にはならない。

 連携をとる上で、武器の特性を知っているというのは重要だ。

 

「うん、わかった」


 フィフィはこくこくと頷く。

 彼女のひたむきな姿にクラードは笑みを返す。

 二階層に降りてから、フィフィに声をかける。


「また一階層と同じように魔物を倒していくぞ」

「うん」


 二階層も一階層もほとんど変わらない。

 だが、階層が進めば進むほど、魔物がアイテムをドロップしやすくなるといわれている。

 気持ち程度ではあるが、その効果を感じられるような気がする。


 昨日は一階層でも悲鳴をあげるレベルであったが、さすがに二人で戦闘を行えば問題はない。

 

「……よし、なんとかうまくいってるな」


 ブラッドバット二体が襲い掛かってきたが、二体をうまく足止めして、フィフィの魔法をぶち当てれば余裕だった。

 

 問題があるとすれば、フィフィの魔法はおおよそ三十秒を必要とする点だ。

 戦闘を行っているときは、この三十秒が思っている以上に長く感じるものだ。

 それでも、一人で長く戦うことになれているため、苦ではなかった。


 剣を鞘に戻して、先へと歩いていく。


「フィフィは戦闘経験はないんだよな?」

「……わからない。戦ったことは、あるのかも、しれない」

「そうなんだ。何か思い出したなのか?」

「思い出したわけじゃないけど……戦うのは初めてじゃない気がする」


 体が覚えているということなのかもしれない。

 

「戦闘が初めての奴は、結構魔物を倒すのに躊躇するもんなんだ。嫌だったら言ってくれ」

「大丈夫。わたし、役に立ってる?」

「ああ、そりゃあもう。俺が戦うよりずーっと強いって」

「そんなことはない。クラードがいなかったら、わたしは魔法をうててない」


 確かに、フィフィは魔法は優れているが、どうにも動きは緩慢だ。

 一度、どこかで手合わせをして、身体能力をはかっておいたほうがいいかもしれない。


「とりあえず、三階層に行ってみるか」


 眼前に三階層へつながる階段が見えた。

 入り口は暗く、先は地獄にでも繋がっているように見える。


 けれど、フィフィがいる今ならばその先に行くことも難しくないだろう。

 僅かに緊張する体を抑えつけて、その階段への一歩を踏み出した。

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