第六十八話 『報酬』
ニナとニニが顔を真っ赤にして吼えた後、冒険者たちが思い切り笑った。
「おいおいっ、まずは加護を受けてから、そういう話はしろよな!」
「ったく、おら、ガキとその子守はさっさとどこかに行きな」
冒険者たちが手をひらひらと振る。ニナとニニが真っ赤な顔になってキレた。
彼女たちは一瞬で魔法を放った。
土と風の魔法だ。大きな土がゴーレムの形を作る。緑色の風が人型へと変化する。
それが冒険者たちの周囲を囲んだ。
冒険者たちはスキルを発動したのだと理解し、驚きながらもこちらを睨んできた。
「確かにスキルのレベルはなかなかのようだけどな……だからって、こんな不意打ちで勝ったつもりになってんじゃねぇぞ?」
「別に勝ったつもりではありませんよ」
「先ほどのガキと変態という言葉を訂正しろということです」
「変態のほうはそのままでいいですが」
変態に関しては一切言っていない。クラードが嘆息をつきながら、二人の前に立つ。
「二人とも、スキルは解除しろって。……ここで争ったって仕方ねぇだろ」
クラードがそういうと、『竜の爪』のリーダーが笑みをこぼす。
「こいつらの兄貴か? 妹たちにはしっかりしつけてもらいたいもんだねぇ。こっちは、この街じゃ有名な冒険者パーティーなんだぜ?」
ニナとニニがまた怒ったが、クラードはそれを抑えるように片手を向ける。
そうして、クラードは冒険者たちに視線を向けた。彼らは何かを思案するような顔をしている。
「ああ、それは悪かったよ。ただ、ニナたちだって別にいきなり怒ったわけじゃないんだよ。……そっちの女性を馬鹿にするようなことを言ったからな」
『竜の爪』はふんと鼻を鳴らした。
「まあ、そうだな。そりゃあ確かに悪かったが、こっちも頭にきててな。さすがに毎日言われてりゃ面倒だからな」
「……それはすまなかった」
リゴ村の女性が深く頭をさげる。冒険者がふんと鼻でそれを笑った。
「ありゃ冗談みたいなもんだぜ。ま、本気でそれで払ってくれるなら受けるけどな。どっちにしろだ、あの程度の額で依頼を受けるつもりはねぇんだよ」
「……まあ、そうだよな」
クラードは頭をかくしかない。
リゴ村の女性は、覚悟を決めるように顔をあげる。
「……わかっている。報酬で足りない分は……その、私が体で――」
「いやいや、その覚悟はしなくていいからなっ。……ひとまず、俺たち三人で村の状況を確認するから」
「え? ど、どういうことだ? まさかキミたちが依頼を受けてくれるのか?」
クラードはそこで悩んだ。リゴ村の女性はかなり切羽詰っている。
依頼というのは契約だ。受ければしっかりと完遂する必要がある。もちろん、難しくて途中で破棄することもあるが、依頼者からすれば契約してくれたほうが安心できるだろう。
別に途中で投げ出すつもりはない。だが、相手からすれば見知らぬ人間だ。そんなクラードの心まで、理解はしていない。
こうした形で話してしまった以上、依頼を受けずに無償で助ける、などというのは悪いかもしれない。
リゴ村の女性が焦って変な条件で依頼を飲ませられることもあるかもしれない。
「とりあえずはな。その話をしたくて、依頼者を探していたんだよ」
「本当か。本当に受けてくれるのか?」
女性が目を輝かせる。村娘は最低限の装備をしていた。
これに対して、先ほど絡まれていた冒険者たちが目を見張る。
それから冒険者たちは苛立ったような声をあげる。
「おいおい。一万ラピスだぜ? ランクB相当の冒険者を雇うなら、少なすぎる額だろ?」
「そうだそうだ。そんな風に依頼を受けてたらな、どんどん支払われる金が減っていくんだよ」
彼らの言い分も一理ある。
安く出された依頼を誰かが受ける。
それが一つ二つ程度なら構わない。しかし、何度も依頼を受けてしまえば、どんどん値段は下がっていく。
冒険者たちが危惧するのは当然だ。
「まあ、今回は緊急事態なんだ。ギルドでも聞いたけど、騎士が来てくれないんだろ?」
「……そうなんだ。鬼魔が水の都で出てからというもの、人手が足りないらしくてな。冒険者に依頼するように言われてしまった」
「それじゃあ仕方ねぇだろ。今回は特別な事情があるんだから……まあ今回だけってことで、な?」
クラードは手を合わせると同時、笑みをこぼして頭をさげる。
それでも冒険者たちは声をうるさくする。
「そんなの関係ねぇよ。おまえ、あんまり勝手なことするんじゃねぇぞ?」
男たちがいよいよ、鋭く睨んできた。
クラードは彼らの目の奥にぎらりと燃える何かを見た。依頼を受けさせたくない理由が、他にも何かあるようだった。
クラードは彼らをじっと見てから、諦めるように呟いた。
「ランクBなら、確かに一万ラピスは安いかも知れねぇな」
「ああ、そうだ。適正価格以外の依頼は受けんじゃねぇよ」
「けど、例えばランクGならどうだ?」
「……は? そもそも、そんな奴冒険者にもならねぇだろ。一般人以下じゃねぇか」
「まあ、例えばの話だっての。ランクGなら適正価格なんて千ラピスもいかねぇだろ?」
クラードは胸倉を掴んでいた男の手首を掴む。
男が力を入れて抜けようとした。しかし、クラードはその手を離さない。
しっかりと、力を示してから、クラードはステータス画面を彼らの眼前に表示する。
ランク以外のすべてを見えないようにしたまま、彼のほうに見せる。
勇者たちが竜神と協力して作ったこの能力は、身分証明などでも非常に役立つ。
男たちは目を見開く。クラードのランクはGなのだから当然だ。
そうしながらも、クラードは男から手を離さない。男はいよいよ、本気で力を出してきたが、それでもクラードはそれを超える力で抑え込む。
「まあ、こういうことだ。俺はランクGだから、適正価格じゃねぇ。そっちの二人はまあランクBとランクAだけど、俺たち三人で合わせて一人当たり一万ラピスなら、別におかしくもなんともねぇだろ?」
「ら、ランクG、だと……」
大剣を背負っていた男は何度も力を込める。それでもまるでびくともしないことに驚きが隠せないようだった。
背後にいた冒険者たちが慌てた様子で声を上げる。
「だ、だからって……ランクGで受けるなんて!」
「そ、そんな雑魚がランクBの魔物を倒せるわけが」
「別に、軽く試してもいいけどな。今すぐに示せるのは筋力くらいか? 力比べでもするか?」
肘を安定した床におき、お互いに力をこめて相手の手の甲を先に床につければ勝ちだ。
力を示すのならば手っ取り早い。別に実際にやりあっても問題ない。
「……いや、やめておこう」
クラードが腕を掴んでいた相手がそういった。クラードがぱっと手を離すと、男は手首を何度かさする。
「……ふん、別に勝手に受ければいいだろう」
冒険者はそういってから依頼が張り出されている方へと向かう。
ニナとニニがべーと舌を出す。クラードはその頭をぽかりと殴る。
「な、何をするのですか!」
「ニ、ニニの頭は柔いのですよ!」
「おまえら、喧嘩腰に言ったら駄目だろっ。確かにそりゃむかつくこともあったけどな、もっと穏便に済ませられる方法もあっただろ」
おかげで、普段やらないような脅すような言い方をしてしまった。
なれないことをして疲れたクラードが息を吐く。
ニナとニニはぶーっと頬を膨らませる。
「すまない……私のせいで、こんなことになってしまって」
そんなとき、リゴ村の女性が頭をさげた。
「あー、いや別にあんたは関係ねぇよ。……悪いな。もしかしたら依頼を受けてくれる可能性のある奴の芽をつんでしまって」
「……いや、もう五日もこうして頼み込んでいたんだ。……あの報酬では難しいことはわかっていたんだ。……それよりキミたちが受けてくれるといったのは本当か?」
「まあ、俺たちでよければな」
「いや、ぜんぜんだ。先ほどの少しの動きでわかったが、とてもランクGとは思えなかった。……そちらの少女たちも強いスキルを持っていた。頼もしい限りだ。依頼に関して詳しい話をしたい。話をしても構わないだろうか?」
「……ああ、それでいいぜ」
クラードがこくりと頷くと、女性は柔らかく微笑む。
「私の名前はミクンだ。よろしく」
「……俺はクラードだ」
「ニナはニナです」
「ニニはニニです」
ぺこりと二人が頭をさげる。
ミクンもそれにあわせて頭を下げた後、ギルドへと体を向ける。
クラードも彼女の背中を追いかけていくと、ニナたちが服を引っ張った。
「結局依頼を受けるのですね。ニナはどちらでもよいですが」
「まあな……あの状況じゃ仕方ないだろ。ミクンが無茶な……その報酬をするようになったかもしれねぇしな」
『報酬』で言葉を詰まらせると、ニナとニニが露骨にジト目を作った。
「それは確かにそうですね。ニニは許せませんよ。あのような言い方は、頭にきますね」
ニナとニニはそれぞれ頬を膨らませていた。
それから、彼女たちは思い出したように腰に手をやる。
「クラード、一つ言わせてもらいます」
「はい。気になっていたことがありますから」
「な、なんだよ」
二人が異常なほどに睨んでくる。クラードがたまらず一歩後退する。
と、彼女たちは
「ニナとニニは同じ能力です。ランクBとランクAにわけないでください」
「そ、そんなことかよ!」
「そんなことではないです! お姉様とニニは同じ力なのですっ。同じなんですっ」
「そのわりに甘いものに関しては意見が分かれていたじゃねぇか」
「それは別問題ですっ」
ニナとニニが声を荒げる。
先を歩いていた、ミクンが振り返る。
「三人ともどうしたんだ? ま、まさかやはり依頼を受けないという話をしているのでは……た、頼む見捨てないでくれ!」
「そ、そんなこと話しているわけじゃねぇよ。ほら、二人もさっさといこうぜ」
逃げるようにニナたちに声をかけ、クラードたちはギルド内にある椅子へと走っていった。




