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第六十六話 天才

第六十話は元の場所に戻しました。ほんとすみませんでした。


 朝のランニングのついでに、クラードは冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドにはほとんど人がいない。まだ日が出てすぐの時間だからだ。


 クラードは依頼が張り出されている掲示板を見る。

 依頼は常時受け付けている普通依頼と、緊急依頼の二つによって分かれている。


 普通依頼をちらと見る。

 今このギルドでは薬草が少ないため、通常よりも高く買い取るというものがある。

 あとは、街近くでゴブリンを目撃することが多くなったため、それを討伐した場合に報酬を払うというものだ。


 クラードが今日予定があったのは、緊急依頼のほうだった。

 例えば、近くでゴブリンリーダーが発見されたため、それの討伐を頼むものなどがある。

 クラードは昨日街を歩いているときに、ある村の話を聞いていた。

 

 その村はリゴ村という場所だ。これからクラードたちが向かう予定のラピス迷宮にもっとも近い村だ。


 そのリゴ村では、現在魔物が増加しているらしく、それを討伐してくれる冒険者を募集していた。

 ギルドの掲示板にもその依頼は張り出されている。しかし、受けるものはいない。


 クラードはギルド職員と話をする。彼は眠そうな顔であくびをしていた。

 リゴ村内部にまで魔物が侵入してしまい、現在非常に大変な状況となっている。

 出現する魔物はランクC、あるいはランクB相当のものばかりで、討伐できる冒険者が少ない。


 その依頼の報酬金が少ないのも原因の一つだ。

 報酬は六万ラピス。一人で達成できれば多いが、ランクC、B相当の魔物が村を荒らすほどいるのなら難しい。村で出せるぎりぎりの金額なのかもしれない。


 リゴ村の代表者は騎士に頼んだのだが、騎士は動かなかった。


「どうしてなんだ?」

「さぁね。騎士たちも、別の事件で忙しいんじゃないかね?」


 とにかく、リゴ村が危険な状態で何とか持ちこたえている状況は変わらないらしい。


「依頼者はアクリスの街に戻ったらしいよ。そっちで冒険者を探しているらしいぜ」


 アクリスの街は、クラードたちが次に向かう予定の街だ。

 一通り話を聞き終えたクラードは、宿へと戻る。

 それからニナたちの部屋の扉をノックする。一度や二度では反応がない。最後には押し入るようにがんがん殴って、ようやく扉が開いた。


「なんですか……クラードですか。まだ眠る時間ですよ」

「もう朝だっ。話したいことがあるから、ほら食堂まで起きて恋」


 下着姿で登場したニナは、眠そうに目を閉じていた。

 クラードは軽くデコピンをすると、それで意識が覚醒したニナが目を鋭くする。


「……こんな朝早くから活動するなんて、無駄ですよぉ……もうちょっと寝たいです」

「おまえなぁ……昨日は早起きだったよな?」


 うぐっとニナが詰まったような声をあげ、腕を組む。


「き、昨日はなぜか起きられましたから!」

「そりゃあ自分の大好物を食べにいくんだもんな。今日は嫌かもしれねえけど、頼むって。なっ?」


 クラードが両手を合わせる。ニナは息をついてから、ベッドのほうに歩いていき、それからはっとした顔を作る。


「に、ニナたち下着姿なんですよ!」

「うん? ああまあそうだけど……」


 彼女たちはフィフィよりも少し上くらいだろうが、まだまだ子どものような体だ。それに欲情するはずもない。


「安心しろって、おまえたちに興奮なんか――」

「するしないではありません! 見るなというのです! ニナはともかく、ニニのまで見ようとしたら殴りますよ!」

「わ、悪かったって!」


 ニナが声を荒げ、ニニを守るように経つ。

 彼女の叫びによって、ニニが眠そうな声をあげる。彼女が起きたら大変だ。クラードは急いで扉を閉めた。

 それから、部屋に戻り、しばらくベッドで寝転がってから、二人と合流する。


 いつもの服に身を包んだ二人は、対照的な顔をしている。

 ニナは不機嫌そうな顔で、ニニは眠そうな顔だ。ニニは先ほどのニナとクラードのやり取りのときも静かに眠っていた。

 ニニがニナに気づいて問いを投げるが、彼女はなんでもないというばかりだ。


 クラードも何も言わず、さっさと食堂に下りる。

 朝食を注文してから、二人にギルドでの話を切り出した。


「今、リゴ村になんか魔物がたくさんでいているみたいなんだ」

「……そうなのですか?」

「……魔物、ですか」


 二人がその言葉に、うつむいた。

 魔物まで出て、いよいよそれを理由に行きたくないと言い出すかもしれない。

 実際、クラードも、一度城に戻ることも考えていた。

 二人は勇者だ。万が一があったとき、クラードは責任をとれない。


「俺はリゴ村に行くつもりだ。けど、二人がどのくらい戦えるかわからねぇからな……どうする?」

「どうするとは?」


 ニナが首を傾げた。


「行かない場合もあるのですか?」


 ニニはそういったが、その顔はわずかに陰りが浮かぶ。

 クラードは彼女の反応に驚いた。てっきり、それを推奨するような発言をするとばかりに思っていた。


「……まあなんだ。俺ひとりで行くって言うのも別にいいんじゃないか? リゴ村の状況を知って、それからでもいいしな」


 ニナとニニが顔を見合わせる。それからニナが首を振った。


「ニナたちは別に魔物との戦闘は得意なほうです。これでも、何度もずっと訓練を積んできました」

「はい。それにニナお姉様の言うとおり、ニニたちは戦うのは得意なほうです。これでも、望んではいませんが、勇者ですし」


 ニニが視線を外に向けていった。目を隠すように伸びた前髪を、つまらなそうに弄った。


「それじゃあいくっていうことでいいか?」

「はいそれに……魔物に困っている人がいるのでしたら、ニナは助けたいです」


 ニナがはっきりといって、クラードは視線を落とした。


「……そっか。悪かった、ごめんな。二人は行きたくないだろうと思っていたし、俺も無理に馬車に乗せるのもなぁって思ってさ。……できるなら、聖都に戻れるようにしたかったんだよ」

「……はあ、そうですか。ホムンクルスの心配をするなんておかしいですね」

「ホムンクルスっていっても、俺には人間にしか見えないからな。まあ、二人ともよろしくな」


 クラードは先ほどニナがいった、困っている人を助けたいということばに偉く驚いた。

 ニナたちは口が悪いし、面倒くさがりな部分もあるが、それでも根はいい子なんだ。


「なんですか、その目は」

「いや、ニナなら面倒だ、とかいいそうだったからさ」

「酷いですね」


 正直にいうとニナはむくれた顔を作る。

 それから、ニナは片手を胸に当てる。


「ニナとニニは、あなたにラピス迷宮を見せるように仕事を頼まれています」

「ですから、それを達成しないわけにはいかないのです。ご褒美にお菓子ももらえ――」


 ニニがそこまで言いかけたところで、ニナが慌てた様子で彼女の口を押さえにいく。


「に、ニニ、それではニナがさっきかっこよくいった嘘がばれてしまいます!」

「あ、危なかったです。ニニ、言い切っていませんでした!」


 ニナが耳まで赤くして、クラードをじろっと睨む。

 クラードは思い切り笑った。


「まあ、動機はなんであれ、助けられる側は嬉しいだろうしな。……よし、二人が戦えるのなら、今日はリゴ村に出発だ」

「……」


 ニナはじろっと睨んだまま、小さくうなずいた。

 クラードたちは運ばれてきた食事を腹につめ、馬車の乗り合い所へと向かう。

 リゴ村まで直接いける馬車はなく、途中にあるアクリスの街まで馬車で向かうことになる。


 馬車に乗って出発を待つ。今回は人が多いこともあり、ニナとニニたちは馬車の壁際に座り、クラードもその隣に座ることができた。

 ニナとニニがすがるように、クラードを見た。


「クラード、どうにか馬車で酔わないようにする手段はないですか」

「……そうだな。俺が聞いたことあるのだと、下を向かないとか、眠っていれば問題ないとかだな。あとは、景色をあんまり見ないとか、かな?」

「もうたくさん寝ちゃったから」

「たぶん寝れないです」


 ニナとニニはがくりと肩を落とす。


「外を見ないようにするというのも……」

「……聖都から風の都の移動のときにそれを試しましたけど駄目でした」


 二人がさらに体を沈ませた。


「……じゃあ、あとはそうだな……二人とも手を握っているのはどうだ?」

「手を握る……」

「それが何の意味になりますか?」

「安心できる相手と手をつなげば、それで結構楽になるって話しだ」

「本当ですか?」

「というか私達、普段からだいたい手をつないでいますが」

「まあ、騙されたと思ってやってみろって。ちゃんと意識して手をつなぐんだぞ」


 クラードの言葉に二人は顔を見合わせた。

 疑い半分の顔だ。クラードは笑みを絶やさなかったが、それは別に何の効果もない。

 単純な話、思い込みの力に頼るだけだ。二人でいれば酔わない、そう思い込ませるだけ。

 効果があるかどうかは試してみるまでわからない。


 ニナとニニはぎゅっと手を掴む。そのとき、馬車が動きだす。

 クラードは窓から外を眺めていた。

 リゴの村ではたくさんの魔物が出現している。ならば、アクリスの街に行くまでも危険なのではないか。


 そう考えていたクラードだったが、魔物の姿はほとんどなかった。

 たまに魔物もいたが、凶暴なものはいない。

 ニナとニニは驚いたように顔をあげていた。

 

「ぜんぜん酔いません」

「クラード……あなたまさか天才ですか?」


 クラードは頬を引きつらせる。この二人、かなり単純なのではないだろうか。


「それだったらよかったよ。アクリスの街はもうそろそろだ。そこからは徒歩になるからな」

「……徒歩ですか。面倒です」

「すでに馬車の酔いを克服したニニたちに敵はないです。馬車で移動したかったです」

 

 二人はふんと鼻息をならすようにしてふんぞり返った。

 クラードは自信を持った彼女たちを喜びながらも、その単純すぎる二人を心配もしていた。


 アクリスの街にはそれからすぐに到着し、馬車から降りた。

 アクリスの街は交通の拠点として利用されることが多いため、宿が多くあった。

 あまり住宅というものはなく、この街は旅をする人を相手にした店ばかりが並んでいる。


 ずっと座っていて凝り固まった体をほぐすように、クラードは伸びをする。

 涼しい風が肌をなでる。

 伸ばした両手を戻しながら、腰に手をあてるようにして、ニナとニニを見る。


「そんじゃ少し早めの昼でも食べにいくか?」

「わかりました。デザートのあるお店にしましょう」

「甘いものがあればいいのですが」


 ニナとニニは手を握って先を歩く。

 アクリスの街は五大都市に比べると田舎、と思わないでもない。

 高い建物は少なく、街はどちらかといえば静かだ。都のように、どこにいても人の声が耳に入ってくる場所とはまるで違う。

 

 ただ、ここよりも田舎を知っていたクラードは特に悪い気もしなかった。むしろ都会すぎずに、ちょうどよい。空気は澄んでいるし、人も多すぎなくてよかった。

 クラードはこれからの予定をあれこれ考えながら、ニナたちの後を追っていった。


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