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第六十一話 火の都 ラピス迷宮


 次の日、クラードたちはラピス迷宮を目指していた。

 街を北に出て、しばらく歩いていくとラピス迷宮は見つかった。

 小山のような入り口は、いつもの通り竜神の紋章が入った扉がある。


 クラードが視線をフレアに向けると、フレアは片手を扉に当てた。

 重苦しい音をあげ、ゆっくりと扉は開いていく。

 先の見えない階段が、奥深くまで続いている。

 

 階段の壁には魔石がついている。それが煌々と進むべき道を照らす。

 それを頼りに、クラードたちは階段を降りていった。


「なぁフレア。聖都では、ラピス迷宮の調査はもう行われたんだよな?」

「そうだなぁ」

「けど、アリサのもとにはあまり情報がいかなかった。だから、俺たちにこうして頼んだんだよな?」


 フレアは顎に手をやる。


「まぁな。あとは、クラードにラピス迷宮を見てもらいたいっていうのもあるのかもなぁ、アリサお姉ちゃんのことだから」

「俺に?」

「ああ。口で説明するのは難しい部分もあるしな」


 フレアはあまり表情を変化させずに、そういった。

 クラードは彼女の言葉に疑問を抱きながらも、階段を進む。

 一階層に降り立つ。

 そこは霧の深い未開拓大陸のような大地。


「ここの構造……ていうかラピス迷宮は全部で五階層までの造りになっているんだ。んで、まあここに出現する魔物は未開拓大陸の鬼魔だな」


 フレアの説明に、クラードは肩を落とす。


「……うへぇ、また鬼魔かぁ。あんまり面倒な相手でなければいいんだけどな」

「そうだな。クラード、ちょっと暗い場所苦手だから、もうちょっと近づいてくれ」


 そういってフレアが腕に絡み付いてくる。

 クラードは柔らかな感触に頬が引きつった。あまり意識しないように顔をそらした。


「あはは、オレなんかでそんなに恥ずかしがるのはクラードくらいだぜ」

「おまえなんかって……おまえかなり可愛いだろ。普通な、男の子はそういう子にこんな風にくっつかれたら誰だって恥ずかしがるのっ。俺の友達なんてみんなそうだろうぜ」


 別に女性への免疫がないわけではない。その言い訳に友人たちを使った。

 フレアはその言葉を聞き、僅かに表情を赤らめる。それから両目を細めた。


「こんだけ恥ずかしがってくれるなんて、オレは嬉しい限りだぜ」


 そういいながら、彼女はさらに強く接触する。

 その脅威にさらされたクラードは頭の中まで熱が流れ込んでくるような錯覚を覚えた。

 クラードはぶんぶんと首を振って熱を逃がした。


 ここは迷宮だ。周囲に魔物の気配を感じ取りながら、クラードたちは一階層を進んでいく。

 魔物は出てこないまま、二階層へと降りる。こんなときに限ってどうして魔物は出てくれないのか。

 魔物がいれば、フレアをはがすこともできる。今だってやろうと思えばできるが、柔らかな感触すべてを捨て去るほど強引にはできなかった。


「クラード、なんだかこうしているとカップルみたいじゃねぇか?

「そ、そうか?」

「うんうん。まあ、今くらいはこの関係を楽しんでもいいよな?」

「……おまえ、俺をいじめて楽しいのか?」

「いじめるって人聞き悪いな。オレ本で読んだことあるんだぜ。男の子ってのは、好きな異性をからかったりするんだろ?」

「……うーん、確かにわからないでもねぇかな」

「そうなのか? まあ、つまりオレはクラードのこと気に入ったし、なんなら好きみたいなもんだからな。つまりからかってもいいってことだろ?」

「いやその理論はおかしい」


 クラードはますます顔が熱くなってしまった。


「クラードって誰かのこと好きになったことってあるのか?」

「まあ、小さいころにはあるな」


 故郷にいたころの話だ。相手はいくつか年上の子だった。

 同年代の子は誰もいないし、クラードは自分より四、五つ下の子しかいない。そのため、年下相手になると、どうしても面倒を見るという感覚のほうが先に来る。


 そして、ラニラーアとロロはどちらかといえば同年代には見れなかった。恐らくは子どもっぽい性格が原因だ。

 ある意味子どもっぽいクラードがその判断を下しているのだ。ラニラーアとロロが聞けば、意義申し立てをするだろう。


「最近はねぇのか? ほら、一緒にきたラニラーア、だっけか? ブレイブ様の従騎士になったっていう期待の新人さんとも仲いいんだろ?」

「仲はいいけど、あいつは手のかかる妹みたいなものだからな」

「フィフィはどうなんだ?」


 フレアの言葉にクラードは苦笑する。それが一番ありえない場所だ。


「手のかかる妹その3だな」

「2もいるのか?」

「ああ、水の都で騎士をやっている奴だ」

「へぇ……その子も女なのか?」

「そうだな」


 フレアのじとっとした目に射抜かれたクラードは、叱られているような気分を味わうことになる。


「クラードって女たらしなんだな」

「た、たらしってなんだよっ。たまたま、一緒になる機会が多いだけだっての」

「特に深い感情はねぇってことか?」

「あるわけねぇだろ」

「そうなのか。それじゃあ、例えば突然こうぎゅって抱きつかれてもか?」

「べ、別に今再現しなくてもいいだろ!」

「それじゃあ答えたら離してやるよ」


 からかうように目元を細めるフレア。


「……まあ、その。さすがにその女の子らしさ……というかまあ、あれだな。そういうのを意識すると、ちょっと恥ずかしい」

「ああ、おっぱいってことか」

「言わなくて良い、当てなくていいから!」


 クラードが声を荒げると、フレアはそこでようやく離れたr。

 霧の濃い迷宮内で、なんとも余裕のある二人だ。

 クラードは息を吐きながら頭をかく。


「で、どうしてこんな話になったんだっけか?」

「オレが聞いたんだよ。好きな人いないのかなぁってさ。オレ恋愛小説とか読むのすきなんだ。それで、実際の人ってどんな感じなのかなぁって思ってよ。あんまり聞く相手がいなくてさ」

「そうなのか……ブレイブ様とかは?」


 クラードは少し気になる相手の名前をあげた。

 渋い見た目をしていて、多少年齢は結婚適齢期を逃しているとはいえ、それでも人気の高い男性ではある。

 フレアは首を振った。


「いや、話す機会はほとんどねぇなぁ。アリサお姉ちゃんはあるかもしれないけど、だいたいアリサお姉ちゃんを通してくらいしか話さないなぁ」

「そうなのか」

「ある意味かなり気になるよな。あの人が誰かと恋愛しているところって想像できねぇよな」

「そうだよな」

「案外、ロリコンかもしれねぇしな」

「……だったら驚くけどな」


 フレアがからかうように言う。

 のんびりと先を歩いていくフレアを目で追っていると、周囲に魔物の気配を感じ取れた。

 フレアも同じようだ。片手を下に向け、火の玉を作り出す。


「っと、魔物が出てきたな。クラード、どうする?」


 魔物が小さくなき、飛び掛ってきた。そいつは羽を持ったコウモリだ。

 鬼魔ブラッドバットが出現し、クラードたちは顔を見合わせる。

 コウモリの顔の部分には黒い角が生えている。クラードはブラッドバットの装備を確認する。

 やはり、ブラッドバットは竜神の管理下にあるもので、装備品を確認することは可能だ。


 ブラッドバットの攻撃は素早いが、十分かわしきれるものだ。

 さらに数体が集まってくる。ブラッドバットは仲間を呼ぶ習性がある。鬼魔になってもそれは変わっていない。


「フレア、魔法で焼ききれるか? できそうならお願いする」

「了解。んじゃ、巻き込まれんなよ!」


 言うが早いか、フレアは作っていた火の玉を放り投げる。それを空中で作り変え、火の渦を作り出す。ブラッドバットを飲みこみ、一瞬で焼ききった。

 後には魔石だけが残った。クラードはそれらをアイテムボックスにしまっていく。


「……今の魔法は詠唱しといたのか? やけに速いな」

「へへへ、まあな。魔法自体はほぼ完成しててさ、形だけは後からでも変更できるようにしておいたんだ」

「……なるほどな。スキルみたいなものか」

「そんな感じだな」


 だいたいのスキルは発動した状態が決まっている。だからこそ、発動までの時間が短いのだ。

 だが、融通が利かないものがほとんどだ。例外ももちろんあるが。

 例外の一つがクラードの持っているテレキネシスだ。

 

 クラードはいまだ慣れていないテレキネシスの練習をする。フレアの言っていた通り、どのようにスキルを使うのかイメージをしっかりと固めておく。

 どのようにテレキネシスを使いたいのか、そう決め手から、クラードは腰に差していた剣に発動する。


 クラードの近くで一本の剣が浮いた。それはしばらく続いている。

 さらにもう一本を追加する。そちらも問題ない。


「おお、クラード何かコツを掴んだのか? 昨日は一本の操作しかできなかったのに、今日は早速二本じゃんか」


 フレアの言うとおりだ。昨日は一本を必死に操作しながら、もう一本に手を出そうとして失敗した。

 右手である教科の勉強をしながら、左手で別の教科にも手を出すようなものだ。

 昨日は一つ一つを浮かせるために、思考回路を使っていた。

 だが今日は違う。


「さっき、フレアが言っていたことを参考にしてみたんだよ。一定の動きを繰り返す、っていうのなら、今の俺でもぜんぜんできる」


 周りに浮かせるだけでスキルのイメージを固め、発動した。

 浮かせるために魔力が必要になり、それに魔力を供給する必要こそあるが、魔力を流しこむだけで難しくはない。

 昨日とはやろうとしていることの次元が違う。


 両手で同じ教科の同じ範囲の問題を解いているようなものだ。負担はあるが、昨日のようにあっちこっちと思考を行き来させる必要はない。

 同じタイミングで同じ答えを記入する。それだけのことならば、難しくはない。


「あとは戦闘中にステータスの操作をしながら、戦えるかどうかってところだなぁ」

「……なるほどぉ。集中力をどれだけ維持していけるかってことだな」

「まぁな、こればっかりは実戦でやるしかねぇよな」


 戦いの中でこれらの操作ができなければ意味がない。

 それでも道中でも練習を行っていく。

 と、フレアがぽんと手を打った。まるで、いいことでも閃いたとばかりの顔だ。少しからかうように歪んでいた。


 これはあまり良くないことだ。

 クラードは気づかなかった振りをして歩き出し、フレアがクラードの前に躍り出た。


「戦闘ほどとは言わないけど、集中力を鍛えるってのは今だってできるんだぜ」

「そうなのか? どうやるんだよ」

「こうするんだっ」


 嬉しそうな笑顔とともに、フレアが腕に抱きつく。

 クラードは何度もやられるが、その感触はどうしても慣れない。

 それでも初めに比べれば素っ頓狂な声をあげないだけ、免疫がついたほうだ。


「へへ、クラードどうだ? この状態でもきちんとテレキネシスを使い、ステータスの操作もできるかな?」


 クラードはテレキネシスに送る魔力の量を誤り、スキルを暴発させてしまった。

 剣があらぬ方向にとんでいき、フレアが笑う。


「クラード、ぜんぜんなれないなぁ。オレだって……最初は恥ずかしかったけど、今じゃ別にぜんぜんなんだぜ」

「……俺だって最初に比べれば慣れたほうだ。けどさ……やっぱり、その……恥ずかしいんじゃねぇかよっ」


 クラードが声を荒げると、フレアは楽しそうに笑った。

 そのまま、クラードは必死にテレキネシスの訓練を行う。

 ブラッドバットの戦闘よりも、はるかに神経を使う時間だった。



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