第五十九話 苦手
「結局一日武器屋巡りだったなぁ……」
空はオレンジ色に染まり、子どもたちは帰宅を始めている。
クラードはフレアの呟きに、頭をかいた。
途中、昼食を食べるために店に寄ったはいいが、それ以外ではほとんど武器屋に行ってしまっていた。
同じスキルにしても、別の店ではもっと安く買える場合もある。
結局あちこち回って、スキル付装備を三つ購入し、すべて一つの武器にまとめた。
スキル付装備たちに、もらった給料すべてをつぎ込んだ。残っているのは旅費と、今までに稼いだものだけだ。
そして今は、宿を探していた。
「悪かった……その、もうちっと、フレアの意見も聞けばよかったよな」
「いやいいっての。クラードが楽しそうなのみてるのが楽しかったから、オレは一緒にいたんだしさ」
「……そういってくれるならありがてぇよ」
クラードはフレアの素直な言葉に、顔をそらす。ほのかに熱くなった頬を隠すように。
フレアはそれに敏感に反応し、さっとクラードの顔を覗きこむ。
「あっ、今照れたろ? 頬赤いぜ?」
「い、いや別に……その夕日が暑かったんだっての」
慌てて誤魔化したクラードは、逃げるように顔を背けた。
そうすると、フレアが笑い出す。
クラードは彼女へ、「一体なんだ」、と視線をやる。
「いや、別に赤くないぜ? 嘘だからな」
「……お、おまえなぁっ」
「あはは、クラードって単純で面白いなぁ」
クラードは嘆息をつき、腰に手をやる。もうこれで何度からかわれたのかわからなかった。昼飯のときも、「あーん」と食事を運んできた。そんなにからかうのは楽しいのだろうか。クラードは口をぎゅっと結んだ。
「宿はここでいいよな」
いくつかあった候補から、一つを選んだ。旅費はもらっているため、いい宿を借りようと思っていた。
「ああいいぜ」
二人は店へと入っていく。
入り口にいた店員が頭をさげた。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「そういえばクラード。部屋はどうするんだ?」
「どうするも何も、別々でいいだろ」
旅に必要な分の金はアリサからもらっている。
わざわざそこをけちる予定はない。
そうこう話していると、店員が疑問そうに首を傾げた。
「おや、カップルの方ですのに、いいんですか?」
「クラード、どうする?」
にやにや。フレアがもうすっかり慣れた笑みを浮かべる。
クラードも反応したくはなかったが、あれこれと思考が回ってしまい、首を振るしかない。
「そもそもカップルじゃねぇよ! 別々にするからなっ」
クラードが叫ぶと、フレアは大きく笑う。
手続きのため受付が奥へと向かう。
クラードの提案に、フレアは首を振る。
「フレア、明日にでもラピス迷宮に行ってみるか?」
「オレは一度サラマンダー迷宮に行ってみてぇな。滅茶苦茶暑くて大変な場所なんだろ? ちょっと面白そうだ」
興味本位で行く場所ではない。しかし、クラードは顎に手をやる。
「……まあ、そうだけど。そうだな、一度行ってみるか」
フレアのような興味本位ではなく、一度戦い方を確認したかったからだ。
ラピス迷宮はどこも難易度はそれほどではないとアリサから聞いていたクラードだったが、いきなり挑みたくはなかった。お互いが、どのくらい戦えるか確認をしておくのも悪くない。それと、今日購入したスキルをいくつか試しておきたいというのもある。
残りの日にちで考えても、ラピス迷宮の攻略は安全に、確実に行えるように準備をしてからのほうが理にかなっている。
「それじゃあフレア。明日の予定はそれでいいか」
「おう」
部屋の用意が終わり、クラードたちは階段を上る。
隣同士だ。受付で預かっていた鍵を使い、部屋に入る。
部屋は人が一人生活するには十分な大きさだ。綺麗に整ったベッドが一つあり、小さな椅子が窓際に置かれている。
確認だけをしてから、クラードはフレアとともに食堂へと向かう。
「クラードクラード! この宿温泉がついているんだよな?」
目を輝かせたフレアはそのまま、クラードを覗き込んだ。
「みたいだな。ていうか、だいだいの宿が温泉付だな。火の都の特徴でもあるな」
火の都では、温泉が多い。火の精霊、サラマンダーが関係している、とも言われているがその因果関係は今のところはっきりとはしていない。
温泉を中心に宿を作るようにと、貴族から命令が出るほどだ。休日などには、貴族が温泉目的で訪れることも多い。
フレアの口がにやりと歪む。これはからかうときのものだ、クラードは先を予想する。
「それも混浴もあるんだ」
「それがどうしたんだ?」
「狙ってここにしたんだろ? ほら、一緒に行こうぜ」
「狙ってねぇし、行くわけねぇだろ! 俺は男湯、お前は女湯これでいいだろ!」
ある程度覚悟はしていたが、クラードはフレアの裸を想像してしまった。
声を荒げていると、フレアが目を見開きわずかに体を引いた。
「えっ、クラードってもしかして男好きなのか!?」
「なぜそうなったっ」
「だって男の裸が見たいって……」
「そんなこと一切言ってねぇよ! 俺は男だから、男湯に行くの!」
フレアは顎に手をやり、ぽんと手を打つ。
「それじゃあ、女の裸はすきなのか?」
「え、いやぁ……その」
「やっぱり男のほうがいいか?」
「そ、そんなことはねぇよ! 女の裸のほうがいいっての! って何を大声で言わせやがるんだっ」
フレアの卑怯な質問に、クラードは顔をゆがめる。
フレアはそれからすぐにクラードへ、腕を絡ませた。
軽くため息をついてから、クラードはフレアと一緒に夕食を食べる。
「クラード、部屋の鍵は開けとけよな」
「なんでだよ」
「夜遊びに行ってやるからな」
「……来なくていいから。全力で閉めておいてやる」
フレアがそこでうっと顔をゆがめる。
「い、いや……あけておいていいから、な?」
「……どうしたんだよ?」
フレアの様子が少し変で、クラードは顔を覗き込んだ。
途端フレアは、短い悲鳴をあげ、髪の先を指に絡みつかせた。
「その、だな。実をいうとオレ一人で寝るの苦手なんだ。いつもはアリサおねえちゃんか、ニナたちの部屋にお邪魔しているんだけど……頼む!」
「……おまえなんだかんだ可愛いところあるんだな」
「か、可愛いだなんて……そんなことねぇだろ」
「あれ? いまおまえ照れたろ? 頬赤いぜ」
「べ、別に照れてねぇよっ。頬だって赤くねぇだろ!」
クラードは苦笑を浮かべる。
「ああ、赤くなかったぜ。でもすげぇ慌てようだったな。やっぱ照れてたのか?」
「……クラード、意地悪しやがって」
「ちょっとした仕返しだっての。まあ、わかった。怖いっていうなら、そのくらいはいいよ。体休めなかったら、大変だからな」
「……おう、クラードありがとな」
フレアは何度か呼吸を行ってから、笑みを浮かべる。
「でも、さっきの。クラードに褒められるのは嫌な気はしないかな」
「……そ、そうかよ」
「なあクラード、オレって可愛いのか?」
ずいっとフレアが顔を寄せる。からかうような様子でありながら、頬が僅かに赤い。
しかしクラードから、「おまえも、恥ずかしいのか」という言葉は出てこない。
クラードは答えに迷う。もちろん、フレアは可愛いのだから、正直に伝えればいいが、なかなかすぐに出ることはなかった。
フィフィなら、と思わなくもない。彼女ならば、可愛い可愛い、ということはできる。ある程度、フレアの年齢が近いから仕方ない。
「まあ、可愛いんじゃないか? ほら、世間一般でみればさ」
「そういう評価じゃなくてさ。クラードの本音としてはどうなんだ? 可愛いか? 恋人だったら嬉しいのか?」
「……あ、ああ可愛い、ぞ」
「そんじゃ恋人だったらどうだ?」
「……いや、ほら、恋人って容姿だけじゃねぇじゃんか? 性格であったり、まあ色々あるだろ?」
クラードはそういうしかなかった。別にフレアの性格が問題がある、わけでもないのだから答えにくい。
フレアはますます笑みを濃くする。
「ちなみにオレはクラードが恋人でも問題ねぇかな? 相手がいないときは声をかけてくれればいいぜ」
「……お、おまえなっ」
「あはは、顔真っ赤じゃんか」
「お、おまえもだろっ」
クラードはとうとう言い切った。そうすると、フレアは頬をかきながら僅かにそっぽを向く。
「い、いやぁ……さすがにここまで言うのは、そのからかうにしても大変だったっていうか……あ、からかうっていっても、全部が全部じゃないからな? 半分くらいは本気だったからな?」
「……お、おまえな」
くらりと倒れそうになる。最後の言葉のせいで、余計に恥ずかしくなってしまった。
それは、フレアも同じようだった。お互いに顔を赤くしたまま、運ばれてきた食事に手をつけていった。
○
次の日の朝。クラードはいつもの通り体を動かしてから、フレアと合流する。
今日の予定はサラマンダー迷宮の攻略だ。
昨日何もしなかったため、いつもよりも念入りに体を動かした。
朝食の後、クラードはフレアとともにサラマンダー迷宮を目指して歩いていく。
昨日は良く眠れたようだ。寝付くまで、一緒にいて適当に談笑をしていた。
サラマンダー迷宮の前に到着し、冒険者資格を見せてからクラードはフレアとともに中へと入っていった。
「クラードが前衛でオレが後衛だよな?」
「ああ。ひとまずは適当に戦ってみようぜ」
「おうっ、任せろよな。オレの魔法でばんばん倒してやるぜ!」
フレアが腕を元気よく回す。
クラードもまた、今日は緊張と期待が混ざっていた。街で購入したスキルを試すときがきた。目論見が正しければ今まで以上に戦闘に幅が出る。
大金かけて購入したスキルたちだ。ある程度、購入前に試し打ちはしていたが、実戦でどこまで使えるかはわかっていない。
クラードはすぐにスキルを使いたくて、魔物を必死に探していった。




