第五十五話 決闘
聖都で獲得した装備を取り出し、クラードはそれらの調整を行っていく。
アクアブレード
筋力100 防御0 速度0 魔法力0
筋力半減 体力消費アップ スキル封印
クラッシュソード
筋力0 防御0 速度0 魔法力100
魔法力四分の一 確率麻痺状態
アグリブレード
筋力80 防御40 速度0 魔法力0
確率眠り(C)状態 確率防御ダウン(A)状態
ホワイトソード
筋力30 防御30 速度30 魔法力30
重量アップ(B) ステータス半減
ブラックソード
筋力60 防御60 速度40 魔法力40
幻覚状態 混乱状態 感覚なし状態
どれも酷いスキルばかりがついていたが、そのおかげで値段は安く購入することができた。いつものごとく必要のないスキルは投げナイフへと移す。
ひとまず、筋力速度、防御に均等になるよう振り分けた。
これで、今までの装備とあわせての合計値は1100だが、実際に装備できる剣は多くて五本が限界だ。
実際の数値は1000近くになってしまうが、それでも十分すぎるほどの強化となった。
クラードは現在のステータスを確認する。
ランクG
筋力24(24)
防御23(23)
速度22(22)
魔法力18(18)
スキル 『装備操作』
とてもではないが、これから勇者スキルもちに挑む男のステータスではない。
クラードは体を起こし、部屋を出た。
今日は聖王と約束をしていた模擬戦の日だ。
城内にある訓練場にたどりつく。
すでに訓練場内には多くの人がいた。
騎士はもちろんだったが、クラードの戦いぶりを見ようと謁見の間にいた貴族たちが集まっていた。みなの想像は、クラードが無様に負ける様だろう。
訓練場を進むと、オリントスがいた。彼は閉じていた目を一度開き、クラードを一瞥したあとまた閉じた。
アリサとフィフィの姿もあった。
まだ聖王はこの場にはいない。
オリントスはブレイブの騎士隊である証である青の鎧を身にまとっている。
装備は、剣と盾だ。
剣は220、盾は200の合計ステータスを持っている。クラードはひそかにそれを羨んだ。
やがて聖王が来たことで、訓練場の空気が引き締まった。
聖王は豪華な服をまといながらも、その右腕は包帯でぐるぐると巻かれていた。アリサ曰くそれは、ファッションらしい。
聖王とともにブレイブとラニラーアも入場する。
ラニラーアも青い鎧を身にまとっている。これで晴れて、近衛部隊の騎士となったのだ。
「やあやあ、遅れてごめんね。いやそれにしても結構集まってるね」
聖王がのんきな声をあげる。
訓練場にいる人々を見たクラードは、それを喜んでいた。オリントスに勝てば、周囲の避難する目は確実に減るからだ。まぐれ、とあおれば、それはオリントスを馬鹿にすることにもつながる。
ぱんと頬を叩き、雑念を吹き飛ばす。クラードは両腰の剣に手を伸ばす。
聖王が一歩前に出て、オリントスとクラードに視線を送った。
「二人とも、昨日は十分休めたかい?」
オリントスとクラードは一度お互いに顔を。
午後に多少のもめごとはあったが、その疲労が残るほどクラードの体力は少なくない。
試合の準備が始まる。聖王を含め、周りの人々はクラードたちから離れていく。
距離をあけるように叫ぶのは、近衛騎士たちだ。オリントスの戦い方を知っているからだろう。確かにあの土のスキルは厄介だ、とクラードは思う。
離れていった周囲の中にいたアリサとフィフィは不安げな顔を浮かべていた。
クラードは、剣を強く握って笑う。心配なんて無用だ、と。
「体の調子は問題ないようだね。……それじゃあ、そろそろ始めてもらおうか」
オリントスのランクはAだ
ランクA対ランクG。勇者対ランクG。
そんな風にいうものも少なくない。
認識を変えるには、この戦いで勝つしか方法はない。
クラードは聖王の声に耳をすます。彼が息を吸い、そして吐き出した。
「はじめ!」
声が戦場を抜け、クラードは地面を蹴った。
「速い」、「ランクGの冒険者が出せる速度ではないぞ!」、と騎士たちが声を荒げる。
クラードに対する評価は、初手ですでに変わっていた。
貴族はクラードの動きだけを見てもわかるはずもない。しかし、騎士たちの反応が、クラードという存在の評価を変えていく。
クラードが一気に距離をつめる。
剣を振り下ろす。オリントスへと落ちた剣に、貴族たちが悲鳴に似た声をあげる。これほど早く決着がつくのか、その悲鳴にはそんな意味がこもっているようだった。
オリントスは口角をわずかにあげる。それは、馬鹿にするものではなく、好敵手を見つけたときのようだった。
クラードの足元から土がせりあがる。
同時に、オリントスは後退する。剣の射程から逃れたオリントスではなく、クラードは地面へと剣を叩きつける。
土を破壊したが、オリントスとは距離ができた。
オリントスはスキルを連続で放つ。その速度は、異常だ。それだけ研鑽を積んできたのだろう。
オリントスの周囲に土が生まれる。それらは拳の形となり、クラードを襲う。
クラードは剣で捌きながら、かわしていく。まるで大地が殴りつけてきたかのような鋭い一撃に、クラードは顔をしかめる。
クラードは土の拳に剣を叩きつけ、その反動を利用しながら、回避に徹していく。
「やはり、弱いではないか」
貴族が、呆れた声をあげる。クラードは土の拳に連続で殴られている。そんな風に彼らには見えたのだろう。
クラードはその評価を今すぐ覆そうとは思っていない。最後に勝てばいい。クラードは冷静に状況を観察する。
ステータスのほぼすべてを速度にさき、土の拳の間を縫うように駆ける。
肉薄し、オリントスへと剣を振り下ろす。彼はすかさず、盾で防いだ。
「……さすがに、そのスキルは強いな」
クラードは雇われるにあたって、アリサとブレイブにスキルを説明している。オリントスも、聞いたのだろう。
「……そういってもらえるなら嬉しい限りですよ!」
「せめて、貴様のランクがもう少しでもマシならば、僕を倒すこともできたかもしれないな」
オリントスが盾を振りぬき、よろめいたクラードに剣を振りぬく。クラードは左の剣を使って、彼の一撃を受け流しながら、距離を開いた。
戦闘は一度止まる。クラードは短く息を吐き、顎を伝う汗をぬぐう。
「俺はたぶん、ランクGだからこのスキルを得られたんです」
「そうか……ならば、その力を存分に発揮してみせろ」
クラードは剣を持ち直し、再び加速する。
速度と筋力、それらにステータスを割り振り、連続で剣を振りぬく。
オリントスは土の壁を作り出し、それらを捌いていく。手数が多い分、オリントスのほうが余裕がある。
クラードの動きが止まれば、即座にオリントスは土の手を放つ。
彼の実力は本物だ。国内最強である騎士団長ブレイブの部隊で副隊長をしているだけはある。
オリントスの連続の攻撃を、クラードはその足で駆けまわり、かわす。
クラードは師匠であるアステルに教えられたとおりに、体を動かす。
それでも、あと一歩がとどかない。オリントスのもとに剣が届かないのだ。
装備を奪うのはもちろんだが、どこで装備を奪うのかが問題でもある。
オリントスはクラードのスキルを知ってなお、装備を行っている。
クラードは相手の出方を考え、警戒を強めていた。装備を奪ったあと、何か秘策を持っているのではないか。
オリントスは土の手をいくつも作り出した。まるで、大波のように土の手がクラードを襲う。
また先に出現するのを予測しながら走りつづける。
基礎体力がなければ、ここで倒れていた。普段から鍛えていたし、水の都で鍛え直したのがよかった。
ランクAのオリントスに、手持ちの状態異常は入らない。ランクの高さや、その人間自体が持つ才能によっても、状態異常が入らない。
クラードは顔をしかめながら、襲いかかる土の手を切り伏せる。
土の手はへびのように自由自在に動き、クラードを攻める。恐ろしくうねる土の手を何度もかわす。
近づくために、どうするか。クラードは必死に考える。
クラードがオリントスを破るには、この剣しかない。
ステータスの速度へと割り振る。防御も攻撃も、今は必要ない。
オリントスの土の手がさらに増え、クラードへと襲いかかる。
オリントスの表情が一瞬だけ曇ったように見えた。連続のスキル使用は、彼自身を確実に追い詰めている。
土の手の包囲網には、いくつか穴があった。
クラードは、そこを駆け抜ける。
伸びる土の手をぬけ、オリントスの前へと躍り出る。
「らぁっ!」
オリントスが後退し、クラードはそれより早く踏み込む。
剣を振りぬくと同時、オリントスのすべての装備に干渉する。彼に恩恵を与えていた、盾、鎧、剣。合計値合わせて500をすべて、奪いとる。さらに加速した剣を、オリントスは盾で受ける。
オリントスは急激に体が重くなったことを理解しているかのようだった。
オリントスの今までのむすっとした表情が崩れた。そこには笑みがあった。
戦闘を楽しんでいるようだった。クラードも同じく笑みをこぼす。
筋力と速度、それだけにステータスを割き、クラードは剣を突き出す。
だが、オリントスはすぐに剣を掴んだ。
彼の近くにあった土が、剣へと姿を変えた。
「土の勇者は、土を操り、すべての武器の基本を作ることができた。土の勇者スキルは、一時的な武器の複製が可能だ」
オリントスが振りぬいた剣に、クラードの剣が当たる。
土を元に作ったとはいえ、その剣は本物だ。ステータスの影響も、オリントスが持っている他の装備と同じだ。
その装備も奪う、しかし、オリントスは剣を分解し、再構成を行った。
クラードは装備を失ったことになり、オリントスが作り出した剣の恩恵を受けることはできない。
剣術で、負けるつもりはない。その場で身を捻り、剣を振りぬく。
オリントスも剣を振るう。
クラードとオリントスは急所を、寸前でかわし続ける。
オリントスは高速で、武器の製造を行う。クラードはそれを瞬時に奪い取る。
オリントスは奪われた装備を即座に壊し、再構成を行う。
そちらにばかり集中していられない。
オリントスが作り出した土の手をかわしたクラードは、彼の頭へ剣を叩きつける。
オリントスがそれを土の盾で防ぐ。
即座に剣を引き、クラードは横に振りぬく。
オリントスも剣をふるった。ほぼ同時に二人の剣が相手の首元をとらえ、ぴたりと止まった。
「……そこまでだっ!」
ブレイブの声が響いた。
試合終了の言葉に、クラードは焦る。
試合に勝っていない。引き分けだ。それでは、約束が守れない。
クラードが慌てて立ち上がり、再戦を申し込もうとブレイブを見る。しかし、そのタイミングで拍手があがった。
クラードは困惑する。貴族と騎士の半数程度が、その拍手をしていた。
聖王が拍手をしながら前へと出た。
「試合は終了だ。ひとまずは合格だね。あとは、今後よっぽどのミスをしない限りは、問題ないかな」
「……けど、俺はオリントスに勝てませんでしたよ」
「十分だ。誰も次期騎士団長に本気で勝つだなんて思っていないさ。少なくとも僕は、キミの力を見れればそれでよかった。安心しろ、キミは十分、僕の目標としている力を持っていた。その向上心を忘れなければ、いいだけだ」
そうまとめて聖王は人々を見る。いくつかの不満な顔はあったが、口に出すものはいなかった。
そこで、ようやくクラードは体の力を抜いた。
遅れて喜びが全身を襲う。今までで一番なのではというほど、心の奥底から喜びがあふれた。
冒険者学園では苦しい思いをしてきた。けれど、諦めずに剣を振り続けた。
それが今、実を結んだ。それがクラードにはたまらなく嬉しかったのだ。




