表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/85

第四十七話 共闘

 周囲の鬼魔を倒し終え、クラードたちは一度休憩をとった。

 そこまでの疲労こそなかったが、状況を整理するため、クラードも冒険者たちか離れた場所で体を休めていた。


「フィフィ、大丈夫か?」

「うん、全然。まだまだ戦える」


 フィフィはそこまで派手な移動はしていない。移動の際はクラードの背中に張り付いていた。そのおかげか、体力はまだまだ有り余っているようだった。

 何より、ここしばらく体力を鍛えていたことも、今の余裕さの理由だろう。


 クラードは剣を鞘に戻す。外にいた人々が、活気を取り戻したように声を上げている。


「鬼魔なんて怖くねぇ! 俺たちの街を守るぞ!」

「ああ! 他の場所にも応援に行くぞ!」


 冒険者たちの声が重なり、それぞれ剣を振り上げる。


「おう、兄貴じゃねぇか! さっきは助かったぜ」

「ああ、さっきの。怪我はしてないですよね?」


 最初に助けたランクCの冒険者だ。相手はクラードよりも年上だ。

 先ほどは緊急事態であったために、言葉が砕けたものになっていたが、状況が落ち着き、クラードは言葉を正した。

 彼はへへっと笑みを浮かべ、強気に胸を叩いた。


「大丈夫だぜ、兄貴のおかげでな。あのままじゃ、まずこの区画は鬼魔の手に落ちていたぜ」

「そう……ですかね?」

「ああそうだっての。鬼魔の出現にみんな浮き足立っていたからな」


 戦いは心が大切だ。

 鬼魔ゴブリンは確かに通常のゴブリンよりも強い。だからといって倒せないほどではない。


「兄貴は名のある冒険者かなんかなのかい?」

「いや、そういうことはないですよ」


 クラードは彼の言葉に苦笑した。

 冒険者は目を見開き、それから顎に手をやる。


「あれだけの実力と度胸をもって、違うっていうのか。いやー、俺もCランクにあがったからって調子に乗りすぎはよくねぇなぁ」

「確かに……それは俺も気をつけたいですね」


 彼の言う通り、強くなったらと言って己の力を過信することは危険だ。

 できること、できないこと、その見極めは非常に大事だ。


「兄貴はこれからどこに行くんだ?」

「俺は……」


 クラードが言いかけた時だった。

 大きな音とともに、建物が崩れた。

 小さな建物が壊れると、そこから人間の大人よりも一回り大きな生物が出現する。


 崩れる建物を意に介さず、その膨れ上がった筋肉を見せつけるようにそいつは歩く。


「あ、あれは……ワーウルフか?」


 男の呟きにクラードは頷く。

 ワーウルフはランクE、Dの人間にとってちょうどいい魔物だ。

 ワーウルフは、ゴブリンと同じで黒い角を持っていた。


 ワーウルフは口角を吊り上げた。まるで、大量の獲物を見つけたことを喜んでいるかのようだった。

 ワーウルフは手に持っていた人間を放り投げる。その騎士の鎧は、牙の餌食になったのか、鋭い穴が開いている。


 騎士は一切動かない。それに、フィフィが小さな悲鳴をあげた。

 ワーウルフはだらだらとたれる涎を手でぬぐい、大きく吠えた。


「ガァァ!」


 鼓膜が割れそうな咆哮に、クラードは顔を顰めた。

 大人の足ほどはありそうな両腕が、瓦礫の一つを掴んだ。

 ワーウルフがそれを持ち上げたときには、すでに冒険者たちは悲鳴をあげ、逃げだしている。


 落ち着いた雰囲気は、一瞬で消し飛んだ。

 クラードは剣を抜き、ワーウルフを見据える。皆が逃げた以上、やるしかない。


「クラード、あの瓦礫はわたしが防ぐ」

「じゃあ、その隙に俺が仕留めればいいよな?」


 フィフィはじっと騎士を見て、唇を結んだ。


「……フィフィ、任せたからな」


 その言葉だけを送り、クラードは走り出す。

 一気に距離を詰め、ワーウルフが崩れた建物を放り投げた。


「ウィンドウォール」


 フィフィが魔法を放った。上にあがった瓦礫は、空中で緑の風によって止まった。

 その風が瓦礫を運び、人のいない場所に落ちた。


 ワーウルフに肉薄したクラードは、その胸元へ剣を振り抜く。

 ワーウルフは素早く動き、近くに転がっていた斧を拾った。武器を使ってくれるのならば、ありがたい。


 クラードはすぐに限界突破を発動し、数度かわしたあと、斧が壊れるタイミングで踏み込む。


 ワーウルフの斧が砕け散り、隙だらけのその胸に、背負っていた剣を突き出す。

 押し込み、その胸を貫く。ワーウルフがよろめく。

 クラードは飛び上がり、持っている剣を首へと振り抜いた。


 血が溢れたワーウルフは、そのまま後ろへと倒れた。

 歓声が周囲から溢れた。


「す、すげぇ! さすがだぜクラードの兄貴!」


 冒険者の一人が声を荒げる。周囲に魔物がいないことを確認し、クラードは剣をしまう。

 そうして、視線をワーウルフが来たほうへと向ける。そちらは、中央区画だ。ワーウルフがうじゃうじゃといれば、中央区画は大変なことになっている。


 フィフィはくいくいとクラードの服を引っ張った。


「どうした?」

「クラード、なんか向こうから変な感じがする」

「そう……なのか? ……鬼魔がたくさんいるからかな?」

「うーん、ちょっと違う気がする。なんか、懐かしい感覚、というか……わたし知っているような感じがするの」

「どういうことだ?」


 フィフィは首を左右にふった。彼女自身わかっていないのか、眉間に皺を刻んでいる。 問い詰めても仕方ない。


「あっちには、ラニラーアやロロもいるはずだ。だから俺は中央区画に行ってくる。……フィフィはどうする?」


 ラニラーアならば、鬼魔が相手でもそう遅れをとることはないとクラードは信じていた。

 ただ、ロロは心配だ。もともと彼女は、予想外の出来事が発生すると慌てる性格をしている。

 怪我をしていなければよいのだが――クラードは僅かな不安を抱えながら、フィフィを見た。

 

「わたしも行く。おいていかないでね」

「おう、援護、頼むな」

「任せて」


 冒険者たちも即席でパーティーを組み、別区画へと向かっていく。

 クラードとフィフィは中央区画へと走って行った。


 中央区画もあちこちに鬼魔の姿があった。

 鬼魔ゴブリンもいるが、鬼魔ワーウルフのほうが多い。どこにこれほど隠れていたのだろうか。


 クラードは自問し、すぐに否定する。隠れられるはずがない。ならば、これらを作り出した者がいる。

 クラードは唇をぎゅっとしめた。


 まっすぐに騎士の宿舎へと走り、すぐにたどり着く。


「酷いなこりゃ……」


 宿舎はそれまでの立派な様子など一切なかった。

 建物のあちこちが崩れ、中が見えていた。まるで、中で鬼魔が発生し、暴れだしたかのようだった。


「……ラニラーアやロロ、それに他の騎士さんたちは大丈夫なのかな?」

「……どう、だろうな」


 宿舎に騎士はいない。それどころか、死体が一つもない。

 ただ、だからといって安心もできない。鬼魔たちは人間を取り込み、力にすることだってできる。

 周囲を見ていたところで、一人の騎士がやってきた。


「く、クラード! おまえ、無事だったのか!?」

「ロロっ! おまえこそ!」


 そこにいたのはロロだ。彼女の鎧や肌には汚れこそ目立ったが、大きな怪我はしていないようだった。


「……私は、大丈夫だ」

「よかったよかったっ。他の騎士たちはどこにいるんだ?」

「向こうだ。宿舎に鬼魔が突然現れてな……別の場所に避難したんだ」


 ロロがぐっと唇を結んだ。悔しげな彼女の顔に、クラードは首を捻る。


「どうしたんだ?」

「……私は、何もできなかったんだ。驚いてしまっては……いつものようにうごけなくて、それで……フィンスさんにたすけてもらって」

「……そうだったのか」

「散々、私はあの人を馬鹿にしていたのに……このざまなんだ。そのせいで、フィンスさんは怪我をしてしまって……。そのせいで、王女様まで――」


 ロロは両目に涙をためていた。

 クラードはロロの肩を掴み、睨みつけた。


「そんなこと、いつまでも落ち込んでるなよっ。今まだやれることあるだろ! フィンスさんに助けてもらったなら、今度はロロが助ければいいんだよっ」

「……クラード」

「大丈夫だって。ロロの力は俺もよく知ってる。本気出せれば、全然あいつらに遅れをとることもないはずだ!」


 ロロは口をぎゅっと結んで、それから慌てて目元をこする。


「わ、わかっている。……そ、そのありが……とう。すまない、迷惑をかけてしまって」

「迷惑なんかじゃねぇよ。……それより、ロロはここにきてどうするつもりだったんだ?」

「あ、ああ……宿舎のほうに避難してきた市民がいないか、確認に来たんだ。無傷の騎士は、私くらいしかいなかったからな……」

「そうか……そういえば、ラニラーアはどうしているんだ?」

「ら、ラニラーア! そうだ、クラード! ラニラーアは今、王女様を連れて街の中を逃げているんだ!」

「ど、どういうことだ? 王女様って」

「……それが、王女様が、水の都に来ていたんだ。騎士の宿舎に泊まっていたのだが、そこでいきなり鬼魔が出てきてしまってな。鬼魔は王女様を狙っているようでな……、ラニラーアが彼女と共に行動し、安全な場所まで誘導しているんだ」

「……それじゃあ、もしかしてラニラーアは一人で王女様を守っているのか!?」

「あ、ああ……」

「……さすがに、ラニラーアでもやばいだろ! いまどこにいるのかわかるか!?」

「……そ、それは、すまない。わからないんだ」


 ロロが顔を伏せる。クラードは拳を固め、それから周囲を見た。

 ラニラーアが強いとはいえ、王女を守りながら戦い続けられるわけもない。


「どうして王女様はこんなときに……護衛も何もいないのか?」

「……それが、鬼魔が突然現れたときに、やられてしまったんだ。王女様は聖王様に仕事を頼まれていたんだ」

「そう……か。タイミング悪いな、本当に。ロロ、俺はラニラーアを探しにいく。もう一人でも大丈夫だよな?」


 クラードが笑みを浮かべると、ロロは耳まで赤くして両手を振る。


「だ、大丈夫だ! さ、さっきのことは忘れてくれ!」

「忘れねぇよ。おまえは、きちんとみんなを守れよっ。フィフィ、ラニラーアを探しに行くぞ!」

「……うんっ」


 ロロと別れ、クラードは走り出す。

 耳をすまし、戦闘の音を頼りに街を走る。

 やがて、鬼魔の死体が多く転がる道を見つけた。


 クラードはその死体を見て、ラニラーアがやったのだと確信した。

 ラニラーアは火の勇者のスキルを持っている。転がる鬼魔の死体は、どれも高温で焼かれたような跡が残っていたのだ。


「クラード、向こうの方に何かいるみたい!」


 フィフィがある方角を指さす。金属音が響き、怒りの声も聞こえた。

 クラードがそちらに走っていき、角を曲がる。

 そこで、ちょうど金色の髪を持つ女性が大きく後退した。


「くっ……まったく、厄介ですわね!」


 舌打ちをしたのはラニラーアだ。


「ラニラーア、無事だったのか!」

「クラード! わたくしは大丈夫ですわ。ですが、あの鬼魔の中に取り込まれてしまった方がいますの!」

「……それってもしかして、王女様か?」

「な、なぜ知っていますの! ……そうなんですわ」


 ラニラーアが指さしたほうには、一人の男がいた。

 そいつは鋭く尖った二本の角を持っていた。膨れ上がった筋肉は、先ほどみた鬼魔ワーウルフを彷彿させる。


「まったく、また愚かな人間が増えましたか」

「……こいつ、しゃべるのか」

「それもそうでしょう。あれらは鬼魔……魔王に仕えるだけの、ただの化け物ですから」

「……まさか、おまえ」

「ええ、そうですよ。私は鬼神様より力を授かった、魔王カルテルです」


 にやりと笑みを浮かべ、魔王は地面を踏みつけた。

 クラードの眼前に一瞬で現れる。余裕のあるその笑みが、酷く脳裏に焼き付いた。


 魔王が拳を振りぬき、クラードは体を捻りぎりぎりでかわす。

 魔王の背後からラニラーアが斬りかかる。魔王は地面を踏みつけ、周囲に黒い衝撃を放った。


「くっ!」


 ラニラーアとクラードを狙った一撃だ。

 クラードたちは大きく弾かれてしまう。だが、その衝撃が向けられていない人間が一人いた。


「まさか、ここで二人目の勇者を獲得できるとは思いませんでしたよ」

「……なにを言っているの」

 

 フィフィの目の前に移動した魔王を引きはがすため、クラードが駆け出す。

 魔王が腕を伸ばし、フィフィが魔法を放つ。


「ファイアナックル!」


 魔王はその魔法を受けながら、フィフィの腕をつかむ。

 クラードとラニラーアが剣を振りぬくが、魔王はフィフィを抱えながら大きく跳んでかわす。


「離して!」

「あまり暴れないでください。せっかくの食事なんですから」


 フィフィが暴れながら蹴りを放つと、男の腹が開く。

 その腹から伸びた舌が、フィフィの体に巻きつけ、全身を飲み込んだ。


「……鬼魔の人間を取り込む力、か」

「ええそうですよ。私たちは、この力で強くなるのです」


 魔王は満足そうに腹をなでる。


「……クラード、王女様もあれによって吸収されてしまいましたわ。どうすればいいかわかりますの?」


 ラニラーアは剣を構えながらも、その両目は震えていた。珍しく、不安そうだった。


「鬼魔も、人間を取り込む奴がいたんだ。けど、そいつらは倒せば取り返すことができた。なあ、そうだよな、魔王!」

「ええそうですね。倒せば、あなた方の大切な勇者たちは取り返すことができるでしょう。……ですが、倒せるでしょうか? あなた方で?」


 クラードは息を吐き、剣を握る。


「倒せば終わりみたいだぜ、ラニラーア」

「みたいですわね。あれこれ考えなくてすむなんて、らくちんですわ」


 それからラニラーアがからかうように笑みを浮かべる。


「クラード、わたくしに合わせられますの?」

「合わせるのはおまえだっての」

「生意気ですわね」


 クラードはラニラーアと一度だけ視線を合わせた。敵は魔王だ。けれど、不安は一切なかった。ラニラーアと、久しぶりにこうして肩を並べられる。

 ラニラーアはいつもの笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ