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第二十二話 わたしはクラードが大好き



 機獣というものは、戦闘を行うための道具だ。

 それがたとえ、人の姿をしていたとしても、機獣として扱われる。


 人型の機獣は、前回戦ったのよりも一回り小さい。

 だが、その両手には剣を握られている。

 双剣使い、といったところだろう。

 

 クラードも負けじと両手に剣を持つ。

 機獣の目がぎらりと光る。

 まず試したいことの一つを行うため、クラードはアイテムボックスから投げナイフを取り出す。

 

 この投げナイフは大問題のスキルがついたものだ。

 装備しなければすべて効果はないが、装備者にスキルを付与すれば――。

 仮説が正しく行われるかの実験。


 機獣が動き出し、その赤い瞳を自分へと向ける。

 スラスターがついているのか、その背中からはエネルギーが放出され、常に加速をする。

 前回戦ったものをパワータイプとするなら、こいつはスピードだ。


 素早い動きで自分の動きを翻弄してくる。 

 だが、その剣の動きについていけないことはない。

 飛び掛ってきて、すばやく振りぬかれた剣に当てる。


 力任せに押し切ることはない。機獣はすぐに後退して、スラスターを使いながら、反時計回りに切り込んでくる。

 連続の剣をすべて捌く。


 あいにく、ステータスのない状態ならラニラーアに負けたこともない。

 自分の剣に絶対の自信を持っている。

 連続の攻撃をさばき続けているが、一向に敵の動きは変わらない。


 相手は機械で、スタミナの概念がない。

 昔、世界が機獣に苦しめられた点はそこだ。

 クラードは絶え間ない剣を見ながら、投げナイフからスキルを一つ取り出す。


「装備操作――スキルチェンジ」


 投げナイフに付与されていたスキルを、無理やり相手の装備に重量アップのスキルをつける。

 途端、機獣は持っていた剣を落とすように体が傾く。

 相手が装備中の武器のステータスは確認できないが、その反応で十分わかった。


 片方の剣を失い、機獣は混乱したかのように動かなくなる。

 隙だらけの体に剣を叩きつける。

 それから、その剣を奪い取る。スキルもきっちりと投げナイフに戻し、機獣の片手剣をアイテムボックスにしまう。


 もう片方の機獣の剣にも細工を仕込む。

 別に、重量アップを与えてしまえば良いが、他のスキルの効果もみてみたかった。


 残りのスキルのうち、確率麻痺状態を付与する。 

 効果はあるかわからない。数度の剣の打ち合いを行うと、機獣が不自然に固まるときがあった。


 機械の体でも、麻痺は機能する。

 ならば、毒は? 幻覚は?

 すべて試してみたところ、機獣は限りなく人間に近い機能が備わっているようで、装備越しにすべての状態異常を食らうようだった。


 ただ、毒に関してははっきりとはわからない。

 とにかく、スキルの強制付与の効果は十分わかった。

 すべて投げナイフに戻してから、機獣の剣を奪い取り、その首をはねた。


 ばちばちと首の接触部分から電流があがり、次にはその体は消滅する。

 後に残った魔石を回収する。


「どうだ?」


 自慢するように振り替える。

 レイスがぽかんとした表情のまま、拍手をする。


「……いや、凄い驚いたな。この前より見違えるほどに動けるようになっているな。……それで、まだ装備品を集めればいくらでも強くなれるんだろ?」

「まあ、強くはなれるかもしれないけど、集めるのも結構大変だからなぁ……だいたい、知っている装備屋全部回ってこれしか手に入らなかったんだからな」


 機獣の剣を確認する。

 どれもステータスが10しかあがらない。

 装備するにしても、現在身につけているだけでも結構な量だ。

 さすがに、この大剣を常に装備しているのは難しい。


 これからの戦闘スタイルを考えながら、ひとまずは装備はしておくがアイテムボックスにしまっておくことにする。

 武器はいくらあっても困りはしない。


「……それにしても、今のおまえはオレと同じくらいの実力はあるんじゃないか?」

「どうだろうなぁ……」


 レイスには有用なスキルがある。

 雷刀にはもちろんあるし、彼自信の素の能力も決して低くはない。

 レイスの武器を奪い取って、ようやく五分だ。


「まだ、難しいんじゃねぇかな?」

「……とはいえ、そう遠くないうちには抜かされるだろう。やれやれ、天才というのは恐ろしい」

「天才って……それ他の人に聞かれたらバカにされるからな?」

「いや、そうでもないだろう。オレはおまえがいつか冒険者として外の大陸に行くと信じているよ」


 レイスの柔らかな笑みにクラードは頬をかく。

 そう応援されると、嬉しい反面力も入ってしまう。


「まあ、おまえの予想通りになれるように、頑張るつもりだ」

「頑張ってくれよ」


 レイスが軽く笑みを浮かべてから、ちらと自分の魔石を見てくる。


「……その魔石、少し見せてもらっていいか?」


 レイスが片手を向けてくる。

 ひょいっとそちらに投げると、彼は器用に掴んだ。

 それをじっと覗き込む。

 

 クラードも昨日人型機獣から獲得したものを取り出してみるが、特に違いがわからない。


「……クラード。この魔石、少し違うぞ」

「はへ?」

「ウルフの魔石も持っていたな? 少し見せてもらってもいいか?」

「あ、ああ」


 取り出してレイスに魔石を渡す。

 レイスはアイテムボックスから魔石を取り出す。

 それはおそらく、ノーム迷宮などの魔物から獲得したものだろう。


 それをじっと見比べる。

 魔石は淡い光を持っている。

 倒した魔物がもつ属性によって、魔石の色は変化する。


 レイスは同じ赤色の魔石を並べてみていたが、やがてとんとんと指を叩く。


「……街に戻って詳しく調べないとわからないが、魔石が明かりとして使われていることは知っているよな?」

「町の街灯とかって、確かそうだった……はず」


 魔石には、魔力を溜め込む力がある。

 魔石の内部の情報をいじくり、吸収した魔力を外が暗くなったら発光するようにして作ったのが街灯だ。


 自然に手に入る魔石は常に光を放っているが、それではやがて魔力がつきて光らないときが出てしまう。

 それが、レイスが取り出した魔石でも分かる。


 明滅を繰り返しているのは、魔力が枯渇している証拠だ。


「だけど、機銃の魔石を見てみてくれ」

「……言われると確かにそうだな」


 そこでようやく気づいた。

 機獣から獲得した魔石は、光こそ弱いが常に光を放ち続けている。

 魔力を吸収、それを光に変換するという作業を一瞬で行っているのか、それとも――。


「魔力を無駄なく活用しているの、かもしれない。例えば、光として放った魔力のいくらかをまた明かりの魔力に戻して……みたいな再利用を行うように、魔石の内部構造ができているのかもしれない」

「よくわかんね。……それで、魔力としてきちんと機能するのか?」

「しているから光っているんだろう」

「俺はそういう難しいことは嫌いなんだよなぁ。それで、これが何になるんだ?」

「……もしかしたら、だが飛行船に応用できるかもしれない。すべてが、すべて、計画通りにいくかは分からないが、試さないよりはマシだ」

「そりゃすげぇっ。そしたら、その飛行船には俺の名前とかつくかな?」

「いや、開発者の名前をつけるから、飛行船につくのならオレの名前だな。おまえの名前は、この新しい魔石を発見したこっちになる」

「俺は石でおまえは飛行船かよー、ずるいなー」

「ずるいって……まあ、とにかくだ。これは面白い魔石だ。一応ウルフの分ももらっていいか? 本来の魔石程度の料金は払って買い取る。少し高めにしてもいいが……」

「いいって……そもそも、ギルドを通さない魔石の売買は駄目だろ? 友達なんだし、やるよ」

「……いや、だがな……」

「その代わりっ。おまえの開発した新しい飛行船ができたときには、俺を真っ先に乗せて飛んでくれ!」


 クラードがにやりと笑って、魔石を彼に渡す。

 レイスは軽い笑みを浮かべる。


「……おまえは本当、ラニラーアの隣にいられる器の人間だな。約束は守るさ」

「おうっ。絶対乗せろよな!」


 クラードはレイスにそう笑いかける。

 時間はまだまだ余裕がある。

 腕時計で確認してから、第三階層へと向かう。


 途中の階段で一度休憩をとる。

 レイスが魔石をじっと見ている。

 階段を椅子代わりにして、足を一つしたの段差に下ろして据わる。

 

「レイス、凄い楽しそう」

「まあな。……あいつは未知のことを見つけると、一日中だってそれについて調べるような子どもだからな」


 子どもを強調していうと、レイスがじろっと見てくる。

 クラードはどこ吹く風でいると、くいくいとフィフィが袖を掴んでくる。


「どうしたフィフィ、腹減ったのか?」

「ううん。迷宮に入ってからあんまり話していないから、もう少し話をしたい」

「……話かぁ。っていても、俺は別に博識ってわけじゃないからなぁ。適当なことを話させるなら、レイスのほうが得意なんだよ」

「さっきから聞いていれば、随分な言い方だな」


 眉間に皺を刻み、レイスが魔石を指ではじく。

 それを掴み、彼はアイテムボックスにしまう。


「フィフィ、さっきもっと話したいといっていたな?」


 レイスがフィフィに声をかける。


「……うん」

「オレとクラードがずっと話していて、どんな気分だった?」

「……もっとわたしとも話してほしいって思った」

「そうだろう? それはな、嫉妬という感情だ」

「しっと?」

「ああ、嫉妬だ」


 レイスの言葉に、クラードは眉間に皺を刻んだ。


「大好きなクラードをとられて悔しいって思いがあるんだ。それが嫉妬ってわけだ」

「だ、大好きって……なにいってんだおまえ!」


 クラードは自分の頬が熱くなるのを感じた。

 あまりこういった話は好きじゃない。

 ラニラーアと一緒にいるのを、十三、四歳のときはよくからかわれた。

 

 「付き合っているのか? やーいやーい」と同い年の男から言われたときは、たまらなく恥ずかしくて否定しまくったものだ。

 その否定が、彼らからすれば楽しくてさらなるからかいを生むのだと知ったのは成長してからだ。


「大好き……」


 フィフィはそれをよく理解していないようだった。


「ああ、おまえ別にクラードのこと嫌いじゃないだろ?」

「うん、一緒にいて楽しい。これが好きなのなら、わたしはクラードが大好き。間違っていない、と思う」


 それ以上の話は聞いているクラードのほうが苦しかった。


「はいっ、ここで話終了なっ! もう三階層行こう!」

「クラードくん、そんなに急がなくてもいいじゃないか」


 くっくっくっとレイスが楽しそうに笑う。

 フィフィはきょとんとしている。

 意味がわかっていないとはいえ、大好きとこれほどの美少女に言われるのはなれないものがある。


「まあ、つまりだ。クラードがオレとばっかり話していて、嫉妬していたんだ。もっと仲良くなりたいっていうのに、オレとばかり話して……ぷんすかって感じだな」

「ぷんすか……」


 そこだけフィフィが取り上げると、レイスが少しだけ恥ずかしそうにした。

 クラードはもう耳を押さえていたくなった。かわりに、水筒を取りだして水をがぼがぼと飲んで誤魔化す。

 と、フィフィは悩むように顎に手をやる。

 それから、レイスに視線を向ける。


「けど、レイスとも、仲良くなりたいよ? ……もしかしてわたしはレイスのことも好きなの?」

「い、いや……それは違うぞ」


 フィフィが無邪気に聞くと、レイスがあからさまにうろたえる。

 思わぬフィフィの反撃に、クラードは口元を隠して笑う。


「レイスっ、おまえだってそういうの慣れてないんじゃねぇか」


 追撃すると、レイスが顔を僅かにそめて叫ぶ。


「うるさい黙れ。オレは少なくともおまえよりかは経験はあるからな」

「どんな経験だ」

「そりゃあもう、フィフィにはいえないような経験が、あれだ。あるんだ」

「……ぜってぇ、嘘だな」

「クラード、レイス、いえないような経験ってなに?」

「「なんでもない!」」


 クラードとレイスは同時に声を荒げる。

 フィフィはいまだに首をかしげていたが、さっさと次の階層へと向かった。





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