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第二十一話 やっぱりクラードの友達なんだね


 ラピス迷宮の扉は今日も固く閉じられている。

 侵入者を阻むその扉に、フィフィが手を当てる。

 それまで半信半疑だった様子のレイスだったが、フィフィが触れた瞬間に開いたこの扉に、目を見開く。


 激しい地響きのような音とともに、その扉は完全に開いた。

 やはり、フィフィが扉の開放に関係しているようだ。


「……いったい、何がどうなっているんだかな」


 レイスがフィフィをじろっと見ている。

 その視線にフィフィがびくりと肩をあげる。


「あんまり変な風にみるなよなー、フィフィがびびっちゃってるだろ」

「みているつもりはなかったが……まあ、すまない。どうしても、気になってしまう部分があるんだ」


 レイスの研究者気質な部分が関係しているのだろう。

 レイスはしばらくフィフィのほうを見ていたが、やがてその視線を前に向ける。

 階段が終わり、視界が開ける。


 眼前に広がった世界は、夕焼けのような空。

 崩れた建物があちこちで転がっている。

 何度見ても、痛々しい景色だ。


「これは……っ」


 レイスの声が上ずる。

 それから近くに崩れた建物へと向かう。

 彼の表情には笑みが浮かんでいる。


 やっぱり、レイスはこういう奴なんだよな。

 クラードはにやっと苦笑を浮かべた。

 それから、フィフィに視線を向ける。


「魔法のチャージができるんだよな?」

「うん」

「それって、今からやって戦闘まで維持できるのか?」

「あんまり長くなければできる、かな? あとは、移動しなければ」

「やっぱり、維持ってなると結構集中するのか?」

「うん。魔法の詠唱を途中で止めるんだけど、それを維持するってのは……えーとこう、動きつづけるものを無理やり止めて、それがおかしくならないようにする感じ、かな?」

「なるほど……よくわかんねぇけど、難しいって感じだな?」

「……うん」


 それなら、魔法はいつも通りにしてもらえばよいだろう。


(レイスには魔法のこと話したんだっけか?)


 クラードは腕を組んで考えた。

 はっきりとは思い出せなかったが、レイスならきっと受け入れてくれるだろうと特に気にはしなかった。


「……たしかにこれは、記録に残っている崩壊前の世界に似ている。それに、この舗装された道路――。今の土の都の何倍もしっかりしている……建物も、きっちりと作られている――なるほど、これは凄いっ」

「楽しそうだな」

「ああ、当たり前だ……。この迷宮は素晴らしいな」


 うっとりとした声をあげ、レイスは崩れた建物に顔を近づける。

 クラードからすればただの瓦礫だ。

 しかし、レイスには違うようだった。


「別に、少し前の街だろ? それ以外は普通の迷宮とい――」


 クラードが片手を振りながら、全部同じだろ、と切り捨てるとレイスの目がつり上がる。


「一緒なものか! この迷宮はな、いっておくがタイムスリップしたようなものなんだ! 当時の記録はロクに残っていない。その中で、これほど見事に形が残っているというのは、本来ありえないことなんだっ! わかるか、この凄さが!」

「い、いやー俺はそういうの管轄外だからなー」

「くっ、歴史にまるで興味がないなんて、もったいない!」

「……だって覚えるばっかりでつまんねぇだもん」


 じろっとレイスに睨まれる。

 今日のレイスはいつもとテンションが大きく違った。


「一応ここにも魔物はいるんだからな。あんまりはしゃぎすぎんなよ」

「……わかっている」


 いつもと立場が逆だ。

 レイスはそれを一瞬恥じるかのように目を伏せたが、次にはまた楽しそうに視線を周囲に向ける。


 その時だ。

 自分たち以外の音が響く。

 何かの起動音、クラードは視線を周囲に向ける。


「レイス、気を付けろ。たぶん、機獣がこっちに来ているぞ」

「機獣か、機獣かっ」


 機獣も現代では消滅した魔物だ。レイスは剣を構えながらも、どこか興奮した様子だ。

 そいつは瓦礫の間から現れた。

 駆けるように二体の魔物が飛び出す。


 二体の機獣たちは態勢を整えると、遠吠えをあげる。


「き、じゅう!」


 機獣ウルフに対して、レイスの目が無邪気な子どものように輝く。

 レイスは冷静な人間だが、ことこういった古いものや機械に関しては目の色を変える。


「おおっ、あれをオレは家に持ち帰りたいな……っ」

「行っておくけど、こいつら魔物だからな!? 戦うんだぞ!」

「わかっているが……くっ、惜しいものだな。あれを捕獲して、迷宮の外に出すことができれば……そのエンジンなどを調べて、飛行船に役立てることもできるというのに……」


 飛行船、という言葉にはクラードも聞いてみたい。

 機獣たちが攻撃を仕掛けてくる。

 クラードは後退し、レイスも刀を構える。

 レイスがちらと自分を見てくる。


「連携はどうする?」

「一気にぶっ壊す」

「……それは連携じゃない。まずはそれぞれできることをやってみるか」


 レイスは呆れた様子で自分へと視線を向けてくる。

 もともと細かいことを考えるのは嫌いだ。

 とびかかってきた機獣ウルフの攻撃をじっと観察する。


 動きが遅い。

 この前見たときは、まるで歯が立たないと思っていたが――。


「今なら、やれるなっ!」


 寸前でかわし、その背中に剣を叩きつける。

 地面に叩きつけられたウルフが、即座に体を起こして飛ぼうとする。

 飛んだ先へと回り、両手に持った剣を交差させるように振りぬく。

 ウルフの足を切断し、動けなくなったその背中に剣を突き刺す。


「……思っていたよりも余裕だな」


 ちらとレイスのほうに視線を向ける。

 彼も刀を巧みに扱い、ウルフの動きに合わせている。

 あちらも時間の問題だ。

 

 クラードは周囲への警戒に力を入れ、フィフィも魔法の詠唱を中断して自分のほうに来る。

 

「くらえっ、イカズチっ!」


 レイスが刀を振りぬく。

 それに切り付けられたウルフの体に雷が落ちる。

 あれは、雷刀のスキルだったはずだ。


 レイスの武器はスキルとステータスの両方が優れた良い武器だ。

 戦闘を終え、レイスは自分のほうを見てきた。


「おまえ……かなり強くなっているな」

「まあな。よい装備が手に入ったからさ」


 先に進みながら、装備を手にいれた経緯を離すと、レイスが苦笑する。


「おまえの能力、かなり便利だな。というか、そんな風に使う頭があったか」

「うっさいっ。あんまり馬鹿にするなっての。それにしても、ここがこんだけ余裕なら、この次の階層も余裕でいけるかもな」

「前はどうだったんだ?」

「フィフィの魔法でぎりぎりかったって感じだったんだよ」


 二階層への階段を見つけ、レイスとともに下りる。

 二階層に出現する魔物の特徴について話しながら階段を下りていく。

 魔物について話し終えたところで、先ほど気になることを話していたレイスに聞いてみた。


「飛行船の研究、うまくいっていないのか? 確か、レイスはそこらへんでたまに聖都のほうに行っているんだよな?」

「まあ、な。現在ある飛行船は結局のところ、エネルギーの問題が解決していないんだ。魔石を用いて、エネルギーを回復しながら飛行する、ことができればより遠くの大陸までの探索もできる。この機獣たちは、その昔無限のエネルギーをもって戦闘を行っていたらしいからな。どうなっているのかと気になっていたのだが……さすがに調べるのは無理か」


 レイスは一階層の魔物たちを思い出すかのように振り返る。

 ウルフたちの相手は余裕が出てきたが、だからといってその構造を調べるるほどではない。


「戦いながら、考えていくっていうのでいいんじゃないか?」

「そうだな……あれさえわかれば、飛行船がより遠くまでの飛行が可能になるんだがな」


 そうなれば、今までに調査できなかった大陸まで手が届くようになる。


「いいなぁ……俺も早く冒険者になりてぇな」

「まずは、最低限十階層のゴ-レムくらいは突破しないとだな」

 

 すでに自分と同期の人たちは、ノーム迷宮の十階層を超えている。

 クラードは短くため息をつく。

 

「わかってるっての……」

「ラニラーアは、この前二十階層を突破したらしいぞ」

「……あいつは本当、化け物だな」

「まあな。ラニラーアは天才だが、おまえだって負けたくはないんだろ? 頑張れよ」


 レイスの言葉に頷く。

 確かにこのまま負けるつもりは毛頭ない。

 二階層へと降りる。


 景色は一階層とそう変化はない。 

 ただ、レイスには別の場所と映ったようで、また彼は右に左にふらふら歩いていく。


「ここの敵はかなり強いからな、気をつけろよ」

「ああ」


 それでもレイスの好奇心は止まらないようだ。

 それも仕方ないか、とクラードは達観して見つめる。

 彼が歴史の本を読んでいる姿は良く見ていた。

 

 彼は歴史に強い興味を持っていたし、過去というものを好んでいた。

 そして、クラード同様、未開拓大陸に興味を持っていた。

 レイスがこのような姿を見せるのはなかなかない。


 そんな彼を見ていたフィフィが口元を緩めた。


「レイス、やっぱりクラードの友達なんだね」

「うん? なんかすっげぇひっかかるような言い方をしてないか?」


 やっぱり友達――? そのやっぱりってなんだよ。

 クラードは疑問を目にこめて、じっと見続ける。

 フィフィはなんでもないと小さく首を振る。


 二階層も終わりに近づき、三階層への階段が見えた、

 ここまで良いペースだ。

 一度も機獣と遭遇していないのが不思議なくらいだ。


「クラード、ここには機獣はいないのか?」


 物たりない様子のレイスに、クラードは肩をすくめる。


「前のときも、一回しか見なかったな。ていうか、すぐに逃げたからよくわかんね」


 以前のときは、人型の機獣に苦戦したため、すぐに逃げ出した。

 二階層の攻略なんてしていないも同然だった。


 三階層を目前にしたところで、視界の端で人型の機械が動き出した。

 クラードは視線をちらとそちらに向ける。


「レイス、見学しているか?」

「一人でやれるのか?」

「ちょっと、試してみたいことがあるんだ」

「なるほど、それじゃあオレは体を休めていようか」

「あっ、一応ピンチのときのためにスキルの用意しておいてくれよ、二人とも!」


 それだけはしっかりと叫んでおく。

 レイスのからかうような笑みを受けてから、クラードは機獣に向かった。





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