第十九話 レアモンスター
お金に余裕があれば、今日はこのまま一日のんびりしていたかったが、そういうわけにもいかない。
フィフィより先に食事が終わったので、クラードは装備品を取り出していく。
剣が二つに、短剣が二つ、アクセサリーが一つ。
取り出したそれらを確認していく。
ウォリアソード
筋力5 防御5 速度20 魔法力70
重量アップS
刀身は銀色に輝いて、特徴的なものは何もない。
聖都の騎士に支給される剣に似ているが、おそらくはドロップしたものだ。
重量とそのステータスのアンバランスさから、高値で購入できたものだ。
ブレイドソード
筋力20 防御10 速度10 魔法力10
装備者毒(B)状態
ブレイドバグという、鋭い剣のようなものをもった魔物が落とす剣だ。
十階層以降に出現する魔物で、そこそこの性能の武器であるが、装備者に毒を付与してしまうという厄介なものであり、呪いの剣とされてしまった。
ステータスの分配もあまりよくなく。千ラピスで購入することができた。
Bランク程度の毒であるため、SやAランクの人間であればこの毒を無効化できるが、そもそも、そのランクの人間ならば、もっと上の階層でいい武器を手に入れるため、売れ残っていた。
刀身は両刃の切れ味の良さそうなものであり、僅かに緑がかかった部分がある。
柄には、虫の顔のようなものがついており、あまり趣味の良い剣ではない。
グラディラス
筋力10 防御30 速度30 魔法力0
装備者確率麻痺(B)状態
これは両刃の短剣だ。
グラディウスという短剣に似ているが、それとは微妙に名称が違うのは、ドロップする魔物がグラディラスという奴だからかもしれない。
ドロップしたアイテムの名称は、ステータスで確認するため、神がつけるようなものだ。
自分たちではその意味までは分からない。
両刃の短剣で、この中では一番持ち運びが楽だ。
ただ、装備した人間に、一定の確率で麻痺を起こしてしまう。
簡単にいえば、時々体がしびれて動けなくなるのだ。
これは二千ラピスで購入した。
すべて、それなりに値段がついているのは、人によっては麻痺を無効化するスキルを持っていることがあるからだ。
または、苦肉の策で、アクセサリーによって状態異常を無効化して使用するということもある。
普通の人ならば装備品の制限があるため、そこまで無理して装備を行うというのは少ない。
結果、十階層を越えてドロップするアイテムのほとんどが安値で購入できた。
最後にアクセサリーだ。
ノームネックレスだ。
ノーム迷宮の様々な魔物がドロップするが、このネックレスはステータス補正が非常に高かった。
そのせいか、マイナススキルも多くのっている。
ノームネックレス
筋力40 防御40 速度40 魔法力40
幻覚状態 体力消費アップ 混乱 怒り
性能は非常によいのだが、これだけの呪いはさすがに危険だ。
幻覚状態は、敵も味方もすべて魔物に見えるようになるらしい。
敵と味方が分からない状態だけならば、攻撃をしなければよいのだが、混乱によってそれが悪化する。
混乱してしまえば、敵か味方の判別が完全につかなくなる。
さらに、怒りも合わさるともう手がつけられなくなる。
沸点が低くなると思えばいい。攻撃されて、すぐに切れるため、こんなものを装備すればパーティーが壊滅する可能性もある。
これはステータス上昇のわりに、非常に安い値段だった。
すべてのスキルを一つの投げナイフにまとめる。
ナイフ
筋力1 防御1 速度0 魔法力1
幻覚状態 体力消費アップ 混乱 怒り 装備者毒(B)状態 装備者確率麻痺(B)状態 重量アップS
これで、安い値段で高価な装備品の完成だ。ついでに、世界でもっとも恐ろしい投げナイフの誕生でもある。
ただ、このマイナスのスキルだって使い方はある。
装備操作は他人の装備品にも干渉できる。
これらの状態異常を、他人の装備品へ強制的に映してしまうこともできるというわけで、捨てるのは少しもったいない。
魔法で状態異常にかけるのとは違い、これならばある程度の相手に確実に状態異常をかけられる。
おまけに相手に認識もされにくいという利点がある。
後は、装備のステータスだが、すべて魔法力以外で平均的なものにしておいた。
フィフィを守るために盾になることもあるし、もちろん単純に攻撃力が必要な場面も多い。
速度も同じような理由で必要だ。
後は、戦闘のとき、必要なものに調整していけばいいだろう。
クラードはすべての装備を行う。
「どう?」
フィフィが首を捻ってくる。
クラードは自分の体を確かめてみるが、いまいちわからなかった。
「……何か、変わったのかって言われるとどうなんだろうな。うーん、よくわかんね」
「戦闘じゃないとわからないのかな?」
「かもしれねぇな」
「それなら、迷宮に行ってみよう」
フィフィも自分の魔法が試したいのかもしれない。
広場からノーム迷宮へと向かう道すがら、自分のステータスを確認する。
ランクG
筋力175(10)
防御135(9)
速度130(9)
魔法力13(9)
スキル 『装備操作』
装備の分の数値によってステータスが100を超えている。
だが、もともとのステータスはこれほど低い。
そして、今身に着けている装備品の数からして、これ以上武器は増やせない。
そもそも、アイテムボックスだって無限に装備を入れられるわけではない。
アイテムボックスに収納できるアイテムは、十×三の、合計三十という限界がある。
だからこそ、パーティーに荷物持ちなどの役割が必要な場合があるのだ。
今後、増やすとすれば、重量のないアクセサリーになるだろう。
だが、アクセサリーは呪いのものだとしても、普段の生活で身に着けるものとして買う人もいるため、なかなか市場に出回らない。
装備に関しては暇な時間で探していくしかない。
クラードは、自分のステータスの上昇を見て、嬉しくもあった。
武器の性能を全開で引き出せるか、そこが一つの悩みでもあった。
どれだけ良い武器を持っていても、所有者の技量が微妙なら、ステータスにマイナス補正が入ってしまう。
しかし、今これらを装備しても、すべて問題ない。
今まで自分が積んできた訓練は、無駄ではなかったという証明でもある。
○
ノーム迷宮にたどり着き、三階層まで向かう。
道中、ブラッドバッドと戦闘になったが、一度も苦戦を強いられることはなかった。
それだけ、武器によるステータスの恩恵があるのだろう。
ただ、それでもやはり、まだどこか不安というか疑心はあった。
一番わかりやすい、スケルトンとの戦闘を行うために、三階層におりた。
クラードは軽く体を伸ばし、高揚感を押さえつける。
今まで、フィフィに頼りきりだった戦闘が、一人でこなせている。
強くなるための手段が、はっきりとしてきたのも大きかった。
クラードは早くスケルトンと戦いたいという気持ちが先行してしまい、たびたびフィフィより早く歩いてしまっていた。
振り返り、フィフィの様子を確認する。
「スケルトンとの戦闘も、フィフィは手を出さないでくれ」
「わかった」
「それでも、万が一ってこともあるから、魔法の準備はしておいてくれ」
「うん」
そう、万が一は十分起こりうる。
今は気分が高まっていて、うっかりミスをしかねない。
自分が調子に乗りやすいタイプの人間であることは重々承知している。
フィフィにその分の警戒をしてもらいつつ、三階層でスケルトンを探していく。
地面が盛り上がり、すぐにスケルトンが姿を見せる。
数は二体だ。以前までなら、間違いなく逃げ出していた強敵だ。
だが、今は違う。体の底から力がわきあがる。
装備品によるステータス強化は、例えるなら、自分の限界が伸びたような感覚だ。
出そうと思えば引き出せるようになる。
それが装備品による強化だ。
スケルトンが活動を始める。
クラードはそれにあわせて剣を構える。
ウォリアソードがロングソードと似ていてもっとも使いやすい。
それ以外の武器でも問題がないといえばそうなのだが、ひとまずは使い勝手の良いこれを使っている。
スケルトンが駆け出す。
二体同時に、自分へと迫る。
スケルトンたちは手に持っていた剣を振りぬこうとしたため、まずは弱体化だ。
装備解除――。
そう心中で考え、目で見れば、スケルトンの装備が外れる。
スケルトンにとっては微々たるものかもしれないが、それでもステータスに僅かでも変化があればすぐには適応できないだろう。
もくろみどおりだ。
スケルトンたちは困惑げに自分の持っている剣を見ている。
一気に距離を詰める。
その間抜けな顔へと剣を叩きつける。
一体のスケルトンが派手に吹き飛ぶ。
スケルトンがクラードを見て、慌てた様子で剣を振る。
いつもよりも随分と遅く見える。
それを受けずにかわして、脇へと切りかかる。
間接部分へと剣が刺さる。食い込んだ剣をはじくように捻る。
スケルトンの腕が粉砕し、その腕が飛ぶ。
スケルトンの悲鳴が耳に届く。
いいぞ、うまくいっている――!
クラードはスケルトンを圧倒している自分に笑みをこぼす。
「クラード上!」
スケルトンにさらなる追撃をしかけようとしたところで、フィフィの声が聞こえた。
上? 首を捻るようにして、クラードが見上げると、ブラッドバットが飛び掛ってきた。
それも、通常の小さなものではなく、より大きなサイズだ。
「……れ、レアモンスターか!?」
迷宮内ではレアモンスターと呼ばれるものがたびたび見られる。
通常のモンスターに比べて強いのはもちろんだが、その分倒したときには良いアイテムをドロップしたり、けっして悪いということはない。
ただ、レアモンスターは個体にもよるが、本来の階層以上の実力を持つ魔物だ。
ぎりぎりの階層で戦っているものにとって、レアモンスターの遭遇は最高ではなく、最悪となる。
クラードは襲い掛かるブラッドバットの一撃を、横っ飛びでかわす。
鋭い牙が、空を切る。その噛み付いた音が、耳に届く。
穴が開く、なんてものではすまない。
血を吸われるだけでは終わらない。
ぞっと全身に恐怖がよみがえる。
レアモンスターの存在は知っていたが、まさかここで襲われるとは思っていなかった。
飛びついてきたブラッドバットの一撃を、かわしていく。
「フィフィ、魔法の準備はできているか!?」
「まだ、もうちょっと待っててっ」
じわりと汗が浮かぶ。
敵はブラッドバットだけではない。
スケルトンが態勢をたてなおし、それぞれが剣を構えている。
さっき一撃で仕留め切れていなかったのもそうだが、さらにスケルトンが沸き始める。
「まずいまずいっ」
クラードは近場のスケルトンから順に倒していく。
そうしながら、フィフィに視線を向ける。
彼女のほうに魔物がいっていないのを確認しながら戦闘は行う。
フィフィは魔法の準備をしている。
いつもと違う赤い魔力が、彼女の周囲にあふれている。
おそらくは、火の魔法だ。
この場にいる魔物たちに火魔法は有効だ。
ただ、火魔法は扱いが難しい部分もある。彼女がそれを制御しきれるかどうか、フィフィの腕にかかっている。
ブラッドバットが鳴く。
本来、超音波は人間には聞こえないものだが、ブラッドバットのその声は自分たちでもはっきりとわかる。
耳障りな不快な音――。途端に、ブラッドバットの周囲に、小さなコウモリが出現する。
「こいつ、仲間を呼びやがったのか!?」
飛び掛ってきたブラッドバット一体ずつはたいした強さではない。
それらを払いのけたさき、レアブラッドバットが噛み付いてくる。
剣で斬りつける。力勝負はほぼ互角。
向上した今の自分のステータスは、ランクGをはるかに超えている。
それで、互角なのだからレアモンスターの厄介さが十分にわかる。
低階層を狩場にしている冒険者ならば、あっさりと命を落としていた。
クラードは剣にこめる力を増していく。
そうして、ブラッドバットをはじく瞬間に、ふわっと力を抜いた。
いなすように避け、ブラッドバットの体を斬りつける。
柔から剛への変化。それに時間はかけない。
畳み掛けるように剣を振りぬいて、ブラッドバットの体を後退させる。
ブラッドバットは、すぐにその翼を動かして飛び上がる。
クラードの剣が届かない位置まで行くと、ブラッドバットはしばらく自分たちを観察するように、していた。
クラードは周囲に近づいてきたスケルトンを蹴散らす。
これで戦場は一対二の状況となる。
ブラッドバットは自分たちを見てから、にやりと笑ったように思えた。
そして真っ直ぐにフィフィのほうへと向かう。
ブラッドバットのずる賢さに一気に焦りが心を侵食する。
走り出しながら、装備のステータスを防御と速度に割り振る。
無理やり、フィフィとブラッドバットの間に体をねじ込ませて、ひとまずの難を逃れる。
それが、クラードの作戦だった。
フィフィへとぐんぐん迫る黒い塊。自転車ほどはあるだろうそれに、フィフィは片手を向ける。
「アクアランス!」
声が届く。フィフィの水の槍がまっすぐにブラッドバットへと放たれる。
「水魔法……?」
用意していたのは火魔法だと思っていたため、僅かに驚く。
何より、フィフィの魔法の詠唱が早い。
何度も使って慣れたのかもしれない。
ブラッドバットがそれを慌てた様子でかわす。
ブラッドバットが奇声をあげる。
まるで、勝ちを確信したかのような声だ。
しかし、今の一瞬でクラードもフィフィに間に合う。
フィフィの表情には一切の焦りがない。
身を捻ったブラッドバットに、フィフィはさらに片手を向ける。
「ファイアナックル!」
ブラッドバットの頭上に魔法陣が展開される。
そうして、炎の拳が現れるとブラッドバットの体に振り下ろされる。
炎の拳が地面とブラッドバッドをはさみ、すりつぶす。
熱が近くにいても伝わり、その業火にクラードは慌てて距離をあける。
「……魔法の連続使用か」
強くなっているのは自分だけではない。
フィフィは一度大きく息を吐いて、クラードのほうをじっと見てきた。
その口元はむっと結ばれている。
「そんなに心配しないでよ」とばかりに彼女が腕を組んだ。




