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第十四話 装備操作ってまさか



 二階層へと降りる。

 空間の造りは変わらない。

 相変わらずのさびれた景色――。


 ただ、一階層とそう変わらない造りであったのがよかった。

 ここが、迷宮内だとわかるからだ。


「クラードクラード、ここって本当にあった場所なのかな?」

「……さぁ、どうだかなぁ。俺にもよくわかんね。……こういうのはレイスが詳しいんだよな」


 あとで彼に調べてもらうことを検討しながら、二人で歩いていくと何かの起動音が耳に届く。

 

 たいていの階層は二階層と一階層の魔物はそう変わらない。

 ウルフの警戒をしていたが、起き上がったのは人型の機械だった。

 クラードよりも頭一つ大きな機獣に、クラードとフィフィは頬がひきつる。


「クラード、これ大きいけど――」


 ぎろりと機獣の目が光る。

 人型の機械の右手には一振りの大剣が握られている。

 それが振りぬかれれば、自分たちの体はいともたやすく破壊される。


「フィフィ、いつものとおり、準備!」

「クラードっ、気を付けてね!」

「わかっちょる!」


 クラードが剣を構えて前に出る。

 何度か気を引くために左右へ動く。

 機獣の目が自分を捉えた。


「……」


 ウルフと違い、言葉はない。

 ただぼーっと、感情のこもらない目で自分たちを見ている。


 敵、と認識されているのはわかった。

 機獣の体が動き出し、大剣を握る手に力がこもった。


 動きは緩慢だ。

 機獣の攻撃が届かない後ろ側へと回る。

 クラードにあわせるかのように、機獣も体を捻る。


 だが、それより早くその後ろ側へと回り、剣をふるう。

 機械の体は頑丈だ。


 クラードの剣などやすやすとはじき返す。

 鎧をつけているわけでもないのにこの強度。


 弾かれた腕を引き戻しながら、もう一度走る。

 機獣の動きが遅いのなら、そこをつく。

 

 スタミナには自信がある。フィフィの魔法の時間を稼ぐくらいならば、問題ない。

 と、機獣はフィフィの方へと歩き出す。


「そっち行くなっての!」


 遠くにいたフィフィがびくりと肩をあげる。

 今まで、戦闘の途中で魔物がフィフィを狙うことはあったが、それは魔法の準備が終わった段階であることが多い。


 そうなれば、フィフィに気をとられた瞬間にクラードが足止めをして、そこへフィフィが魔法を放って終わりだった。


 だが、まだフィフィは魔法を用意できていなかった。

 時間から考えるにあと少しだ。


 クラードは舌打ちを一つして、フィフィへ向かった機獣の背中にとびかかる。


 しかし、機獣は即座に反転して大剣を振りぬいた。

 予想外の動きであった。

 完全な死角からの一撃にも関わらず機獣は、まるでそうなると予想できていたかのように攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 そこではっと気づいた。

 ――こいつ、最初からそれが狙いかよ。

 クラードはもう一度舌打ちをする。そして、ひきつって笑うしかない。

 

 まるで、機獣の狙いがそうであったかのように、敵の目がきらりと光る。

 機械に積まれた優秀な能力が、自分とフィフィを計算して導き出したのかもしれない。


 まずい、とクラードは思った。

 空中にいる以上、回避はできない。

 機獣は不安定な姿勢からも力を籠める。それが、人間と機械の大きな違いだ。


 振りぬかれた大剣に体が吹き飛ぶ。

 近くの崩れた家の外壁に背中が直撃する。


 痛みが全身を抜ける。

 なんとか目を開けると、フィフィのもとへと機獣が歩き出している。


「フィフィっ! 魔法を放て!」


 恐らく、詠唱はすんでいるはずだ。

 よろよろと体を動かし、クラードは何度か呼吸をしてアイテムボックスからポーションを取り出す。


 ポーションには傷をいやす、体力回復の赤ポーション、魔力を回復する魔力回復青ポーション、スタミナを回復させる白ポーションなどがある。


 赤ポーションを取り出し、一気に全身へとかける。


 体内の傷は飲むことで治療ができ、体にかけた場合は外傷の治療だ。

 体の内部よりかは、体の外側の治療のほうが先決だった。


 内部の治療は後で行えばいい。

 今はとにかく痛む足の傷を治すのが先だ。


 ポーションの利点は、傷を負ってすぐに使用した場合の治療がもっとも効果的というところだ。

 

 クラードはいくつか質の良いポーションを持っていて、今使用したのは彼が持っている中で最上のものだ。

 

 ポーションを一気に足へとかけた。痛みが引いていく。だが、完全にではない。

 もう動けるほどまでは回復している。すぐにフィフィを助けるために走り出す。


 機獣がフィフィに迫る。

 フィフィは片手を機獣へと向けて、いつものように魔法を放つ。

 

 彼女の手から、フィフィさえ飲み込むほどの水の槍が出現する。

 その先が鋭くとがり、機獣へとはなたれる。

 

 機獣はそれを見て、目を一度光らせる。

 機獣のその目が光ると、目からビームが放たれる。


「そんなのありかよ!」


 アクアランスは、ビームと相殺した。

 機獣の動きが一度固まる。

 機獣も、それを放つのにまったく隙ができないわけではないようだった。


「フィフィっ安心しろ! 時間は稼いでやるからっ、もう一度魔法の準備!」

「う、うんっ!」


 まさか、魔法が止められるとは思っていなかったようで固まっていた彼女に叫ぶ。

 フィフィが頷いたのを確認し、クラードはさっきのお返しをするために剣を振る。

 ただ、機獣の体に剣が通らない。


「くそくそっ! どうすりゃあいいんだっ! 機獣っ、弱点教えろ!」

「……」


 機獣から冷たい目が返ってくる。

 大剣が振りおろされる。

 クラードはその剣をかわしたが、地面に当たった際に道が砕ける。

 もともと穴だらけだったそこに、さらに大きな穴ができる。


「……よく生きてたな俺」


 ひやりとしながら、クラードは機獣の顔に剣を叩きつける。

 機獣はまるで怯まない。

 

 やはり自分の剣では仕留めるだけの力がない。

 クラードが歯噛みしていると、脳内にスキルの存在が思い出される。


「装備、操作……こいつの持ってる剣とかにも効果あるのか?」


 ふとした疑問。

 どうせ何もできないのだから、実行へと移すしかない。

 発動の条件はわからない。クラードはじっと視線を敵の大剣へと向ける。


「装備操作!」


 声を荒げて叫ぶ。

 殴りつけるようなその声を受け、機獣の手にあった大剣が零れ落ちる。


「……まさかっ」


 手を離したというわけではない。

 とにかくクラードはその大剣を確認するために、手に持つ。

 重量はあったが、その大剣を手に持った瞬間、僅かに体が軽くなった。


 ステータスの欄を確認している暇はない。

 だが、今クラードは腰にロングソードを装備したまま――。


「装備操作ってまさか、装備に関するいろんな情報を操作するって感じか!?」


 驚きながらもその大剣を機獣へと振りぬく。

 体が流れそうになるのを、その場でくるりと回って押さえる。

 二度の剣を浴びせると、機獣の体がよろめいた。

 

「フィフィ!」


 機獣が態勢を戻す前に、声を荒げる。

 同時にステータスを確認する。


 装備欄


 ロングソード

 機械の大剣

 ガントレット

 ウルフの胸当て


 装備欄の項目が一つ増えていた。

 本来、装備品として効果があるのは三つまでだ。

 これは、竜神に与えられたステータスの制約だ。

 それを今、操作したのだ。


「……マジかよ」


 武器によって、ステータスに与える恩恵がある。

 機械の大剣を持った瞬間に体が軽くなったのもそれが関係している。


 いい武器は、それだけステータスを向上させる。

 ――つまり装備品が増えれば。

 クラードは自分が強くなるための方法に気づいた。


 機獣がフィフィの魔法に飲み込まれ、その体が破壊される。

 機械の体は、魔石だけを残して迷宮へと吸収されるように消滅する。


 同時に、クラードの手にあった大剣はしかしきちんと残っていた。


「……おいおい、マジかよ」


 迷宮のアイテムは、モンスターがドロップする以外で獲得することはできない。

 クラードはその大剣をぽいと一度捨てたが、大剣は消滅しない。

 まるでドロップされたかのように残っていた。


 機械と鉱石を組み合わせて作られたその大剣は、現在普通に存在している武器に比べると不思議な部分が多くある。

 それの観察をしていると、


「クラードっ、怪我してない!?」


 フィフィが慌てた様子で自分のほうへとくる。

 そういえば、体内でまだ痛む場所があった。


 赤ポーションを取り出して今度は口につけて飲む。

 それで、体の痛みは完全に消えた。

 二つのポーションだけで、一日の生活費分くらいはある。

  

 その代償に泣きたくはなったが、命には代えられない。


「まあ、大丈夫だっ! フィフィも怪我はしてないよな?」

「う、うん……わたしは大丈夫。だけど、その……一回魔法を防がれて……ごめん」


 涙を流しそうなフィフィの頭を軽くたたく。


「気にすんな。そのために俺がいるんだからな」

「……ありがと」


 フィフィが照れたように頬を赤らめる。

 フィフィの状態を確認して、問題がないのがわかってから、クラードは周囲を見る。


「……とりあえず、二階層の攻略はまた準備をしてからにしようぜ」

「……そうだね」


 最上のポーションは尽きてしまった。

 残っているのは、普通のポーションがいくつかだ。


 前までなら、騎士学園の知り合いが試しに作ったポーションをくれたが、今はそういうわけにもいかない。

 それでもすべてが悪い方向に向かっているわけではない。

 

 獲得した大剣をひとまずアイテムボックスにしまっておく。

 装備操作に関して、詳しく考えるのは後にする。


「そんじゃ、今日は街に戻るとしようか」

「うん」


 フィフィの首肯を確認してから、いそいそと迷宮外へと出た。

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