表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/85

第十二話 『装備操作』


 冒険者ギルドについてから、冒険者資格を見せる。

 一時間の利用制限はあれど、ギルド二階へと案内される。

 ギルド二階には、様々な情報が転がっている。


 学園の図書室のような場所だ。

 迷宮に関する情報が本となって、あちこちにある。


 また、迷宮以外に魔物やスキル、なんなら神や精霊について書かれた本もある。

 ギルドは街にいくつもあるが、今来ている場所はその中でもっとも大きな第一冒険者ギルドとなっている。


 人も多いため、受付に並ぶ時間などもかかってしまうが、情報収集という点でいえばここが一番だ。


 クラードはすぐに本を探す。

 「どこで見たのだったか……」としばらく本棚を回っていく。


 しばらく探していたが見つからない。

 司書に話をすると、すぐにある場所へと案内される。

 そこは、精霊、神をあらわす場所だった。


 ぺらぺらと本をめくり、


「……あっ」


 思い出した。

 模様をどこで見たのか、それはこれだった。

 フィフィの体にあった模様と同じものが、そこにはあった。

 

 四の精霊がこの世界にはいる。

 土の都には、精霊ノーム。

 各国にはそういった精霊がいる。


 昔――精霊たちが、まだ地上にいたときがあった。

 そして、精霊たちはそれぞれ、自分の僕に対して、ある模様を入れていた。

 それが、昔のステータスの代わりであった。


 フィフィは、もしかしたら昔のステータスを持っているのではないか。

 そう考えていたが、載っているものと彼女の模様は少し違う。

 ぺらぺらと本を読み進める。そして、ある場所で手を止める。


「……竜神の紋章」


 本をめくっていき、最後の章までたどり着いたところで、竜神の模様が出てくる。

 竜神はこの世界でもっとも偉い存在だ。

 かつて、鬼神に敗北しかけた人間を導き、大陸を取り戻してくれた存在だ。


 何より、現在いる精霊と、ステータスなどの能力を、竜神が作りだしてくれた。

 フィフィの模様と竜神ラピスの紋章を見比べる。

 竜神ラピスの紋章は、現代も残っている。


 この世界には、いくつか入口の開かない迷宮がある。

 固く閉ざされた扉は、今まで何度もこじ開けようと試みられたが、侵入者を拒むように閉じていた。

 その扉には、揃って不思議な紋章が刻まれていた。

 

「……竜神ラピスの紋章が、迷宮の入り口にあるよな?」


 クラードは顎に手をやり、それから口を結ぶ。

 フィフィの模様が、もしも竜神ラピスのものと同じなのであれば――。


「何か、やべぇような気がするな……うん」


 フィフィの存在を知れば、多くの者がその体に興味を示すだろう。

 下手をすれば、聖都に連れていかれ、研究施設で一生を過ごすことになるかもしれない。

 あるいは、それを一度どこかで体験してしまっているのかもしれない。


 そう考えれば、フィフィが極端に騎士を嫌う理由もわかる。

 騎士に突き出さなくてよかったのかもしれない。


 現在確認されている開かずの迷宮『竜神ラピスの迷宮(仮)』の場所をメモしてから、書庫を離れた。



 〇



 部屋に戻ってくると、すでにフィフィと大家も帰ってきていた。

 クラードが玄関で靴を脱いでいると、フィフィがとてとてとやってくる。


「見てどう?」

「……おお、可愛いな」

「えへへ……」


 ふんわりとした白のブラウスに、ふんわりとした可愛らしいスカートを身に着けていた。

 結構な値段がしそうな衣服だ。

 大家を見ると、にやりと腕を組んだ。ちなみに彼女は、『休息』と白い文字で書かれた黒のシャツと、ショートパンツを身に着けている。


 まさに、休日に家で過ごすような、それで近くに少し出かけられるような格好だ。

 彼女らに合わせるように席に座ると、大家が腕を伸ばした。


「前にもあの店いったことあるのか? フィフィを連れて行った一人の店員に滅茶苦茶声をかけられたぜ?」

「……ああ、くらんくらんって店ですか?」

「おうそうだぜ。あそこいったら、店員がフィフィのこと知っていたんだよ。まあ、いいや。そんで、午後はどうすんだ?」

「俺はフィフィと一緒に迷宮にでも行こうと思っていたんですけど……」

「そんじゃ、頑張れよー。またなんかあったら、あたしに言えよなー。フィフィも、こいつにいじめられたら、ちゃんと言えよ。ぼこぼこにしてやるから」


 大家が肩を組んでくる。

 そして、頬をぐりぐりと指でつついてきた。

 胸が頬に当たっているにも関わらず、まるで感触はなかった。


「うん、ありがとう大家さん」


 フィフィはこくりと頷いて、大家がそれに笑みを返した。


「おうよ。そんじゃなー。クラードもあんま無茶すんじゃねぇぞ」

「無茶はしませんよ。心配しなくても大丈夫です」

「心配じゃねぇよっ! んじゃなっ!」


 大家が片手をあげて去っていく。

 クラードはフィフィをちらと見てから、立ち上がる。


「それじゃあ、迷宮にでも行くか?」

「うん」


 必要なものを用意してから、家を出た。

 家を出てしばらく歩いていく。

 フィフィがきょろきょろと街を見ている。


 やがて、彼女はきょとんとした表情を浮かべた。


「今日はノーム迷宮に行かないの?」


 ああ、そうだった。まだ伝えていなかった。

 クラードはそれを思い出してから頷いた。


 現在向かっている場所は街の外だ。

 ノーム迷宮に向かうのならば逆方向になる。


「ああ、今日は外にある迷宮に行く予定だ」

「外にも迷宮ってあるんだ」

「ああ。外の迷宮はそんなに深くない迷宮ばっかりだけどな」

「うんうん」


 さらに先を期待するような彼女の表情にクラードは頬をかく。

 あまり大した知識はもっていない。

 それでも期待されているとなると何かを口にしなければと思った。


「ノーム迷宮は一番奥がまだ知られていないんだ。けど、他の迷宮はすでに攻略されちまってるところばっかりだな」

「そうなんだ。攻略されると何かあるの?」

「一番下にはさ、ボス部屋のあとに宝箱があるんだ。迷宮攻略時にはそこに宝箱が入っているんだ」

「ボス部屋……宝箱……」

「ああ。ノーム迷宮だと、十階層ごとにボスがいるんだ。他よりちょっと強い魔物って感じだな。そんで、宝箱ってのは迷宮内にあるもんだ。特にここっていう場所はないみたいだけどな」


 十階層にあまりいい思い出はない。

 あそこのゴーレムを思い出し、一人落ち込む。


「そうなんだ……じゃあ、他の迷宮だと宝箱見られないかな」

「まあな……見たかったか?」

「うん」

「あったらいいなぁ。中のアイテムっていいものが多いから高く売れるしな」

「高く……それじゃあ頑張って探す」

 

 フィフィがぐっと拳を固める。

 彼女の健気な姿に苦笑を返す。

 街の外へと出ると、草原が広がっている。


 魔物の遠吠えが聞こえるが、姿は見えない。

 フィールドにも数は少ないが魔物がいる。


 それでも、迷宮ほど危険な魔物もいない。ステータスを持っていなくても、戦えると言われているようなものだ。


 フィールドには迷宮を目指して歩いている冒険者が他にもいる。

 クラードは印刷しておいた地図を見る。


 ずいっとフィフィもくっつくようにして地図を見る。

 これから向かう場所を確認して、そちらへ向かう。


 いくつかの迷宮があるが、その中でももっとも遠い場所だ。

 攻略するつもりはない。

 フィフィの腹についている模様と、その遺跡の紋章の違いを確認する。


 そのあとは適当な迷宮に潜って街に戻る。

 今日の予定はそんなところだった。

 魔物に襲われることもなく、まっすぐ進んでいく。


「あっ、なんか飛んでる」

「蝶だな」

「魔物じゃない?」

「ああ。大丈夫だ」


 フィフィが蝶を追いかけて走っていく。

 しかし、やはり動きはかなり悪い。

 この状態では魔物に襲われた時、逃げるのも難しいかもしれない。


 後衛は魔法を使うたび、魔物に狙われやすくなる。

 もう少し、動けるようにならないと、護衛ありでの戦闘しかできなくなるだろう。


「そういえば、フィフィは何か武器とか使ってみたいって思わないか?」


 武器は装備をしなければ意味がない。

 フィフィの場合扱いがどうなるかは不明だが、そもそも素手でやりあうよりかは何かしらの武器を持っておいたほうがいいだろう。


「剣……」

「ああ、剣か。確かに試しに使ってみるか?」


 クラードは余っていたロングソードを取り出す。

 一本では折れた時に問題があるため、常に2本以上は持っているようにしている。


 彼女に剣を渡すと、どかんと派手な音がした。

 彼女に渡した瞬間、剣が地面にささったのだ。

 そのまま動かない。彼女は剣を抜こうとする。


 顔を真っ赤にして、ふぬぬと声を上げる。

 そうして、彼女は必死に抜こうとして、結局ぺたりと倒れこんだ。


「……重たい」

「……マジかよ」


 日頃から運動は苦手そうに見えたが、ここまでとは思っていなかった。

 フィフィは少し、不満そうに自分を見てくる。


「……わたしには魔法があるから」

「まあ、剣を装備しなくてもいろいろ道はあるけどな。最低限敵から距離を取れるようにならないとな」

「……うん、そうだね」


 フィフィはこくこくと頷いた。剣を拾い上げ、クラードは装備を確認するためにステータスを開いた。


「ありゃ?」

「どうしたの?」

「なんかスキルがあるな……あれ? なんで、だ」


 初めは戸惑い。

 次には体が震える。

 驚きと感動、期待を含めて指がうまく動かない。


「スキル?」

「あ、ああ」


 一つ咳払いをして、クラードは腕を組む。

 確認よりもまずは落ち着くことが大切だ。


「簡単に言うと、だな。フィフィの魔法よりも使い勝手を悪くしたけど、すぐに使えるって感じの技だな」

「……なるほど。今までなかったんだよね?」

「あ、ああ」

「よかったね」

「お、おうっ!」


 クラードは一度呼吸をしてから、スキルを確認する。

 『装備操作』というスキルだ。

 ちらと見たが、いまいち使えるのかはわからない。

 それでもそこにあるだけで十分だった。


「おお、スキルくん! もう能力なんてなんでもいいや! 俺のところにも芽生えてくれてありがとう! 竜神ラピス様! 精霊ノーム様! ありがとう!」

「嬉しいの?」

「そりゃもうな! スキルがあるだけでかなり違うってことはよくあることなんだよ! 昨日の戦闘がよかったのかな……」


 スキルを取得する状況は様々だ。

 魔物との戦闘や、危険に陥った時……。

 ただ、クラードもいままでに何度もそういった場面には遭遇している。

 それでも、クラードはいままで一度もスキルを獲得することができなかった。


「まあ、なんでもいいや。……つーか、装備操作ってなんだ? 普通に装備するのとなんか違うんかな?」

「……わからない」


 フィフィはスキル自体知らなかったのだ。

 彼女の返答を期待していたわけでもなかった。


「だよな。説明がみれるわけじゃねぇし、詳しいことは戦闘で調べていくしかねぇかもな」


 試しに使用してみるが、うまく発動しない。

 どんなハズレスキルでも何も効果のないものはない。


 何かしらの効果はあるはずだが、クラードはひとまず検証は後にする。

 木々に囲まれるようにある迷宮の入り口。


 竜神ラピスの紋章が入った扉によって固く閉ざされていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ