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攻撃全振りダンジョンマスター  作者: えうああ
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ペテ北門観光

 西ルギウス国軍がダンジョンマスター擁する北リス国に敗戦した知らせで、炭子がどうも落ち着かない。次の日乞食をしている間も変化の芽を探すようにきょろきょろしてしまっている。世間の不安感が感染したと子供にいっても治るはずもない。


「北からダンジョンマスターの魔物が攻めてきたりしないかな」


 最近の人々の不安はそればかり。北門に行くのを避けている人間も多いらしい。西にもいるが、姿を見せていないから自然に考慮していない。

 一号としては、ダンジョンマスターがダンジョンから離れるのはよっぽどだとわかっている。部下が死んだら生き返らすことができるにしろ、それには同等のポイントが必要になり、軽く一当たりと攻めるのにも費用がかさむ。

 第一、この巨大な城塞都市は百万の大勢をなさなければ落ちない。十年後はまだしも、今現在は心配する必要はない。


 一応それを説明したところで、炭子の未知のダンジョンマスターに対する恐怖は薄れない。

 仕方なく、一号は次の日休みをとり、北門へおもむくことにした。ダンジョンマスターと軍はどこにもいないぞと安心させるためだ。

 寝床から北門へ行くには三時間以上かかる。帰りを考えると北門には三時間ほどしかいられない。北前町でものぞくかと道々に会話を交わす炭子と女辻斬りの二人。辻斬りのジャムは心配でついてきて、もう一人は来たばかりなのでいろいろ見てみたいとついてきた。


 女三人に小汚い乞食が一人。男女バランスに普通なら気後れするところを、一号は何でもないように先頭を歩く。


「きこりさんなんですか。すごいですね。エリートじゃないですか」


 炭子が新しく入った辻斬りの女を褒める。

 この世界は南に行くほど魔力やら経験値が濃い。そのため南は屈強な生き物が多く生存しづらい。北は逆に、経験値はまだしも魔力の要素が薄いために生存しづらい。ここ城壁都市はちょうど濃度にあるから栄えているといえる。


 魔力と経験値がある程度が局所的にたまると、それらを自然に生える木などが吸い上げ、強靭な木々が密集する森のようになる。そして、一部の強靭な木々は切り倒すことすら難しい。そのため、この辺りから南ではきこりがエリート職となる。

 エリート職のきこりと知り合えて、炭子は疲れも知らずに歩いた。

 たどりついた北門は、南門と同じものだ。意匠の違いはあれど、いつも見ているのと方向が逆になっただけ。しかし周りの騒々しさが違った。兵士は念入りに荷物を点検し、並んでいる人間は北への道を見つめている。


「比べると南は落ち着いたもんだったな」

「普通怖がるもんだよ」


 西の壁側から出てきたことで兵士が話を聞きに来る。それも親分さんたちに守ってもらったの一辺倒で押して、お許しをもらう。


「北前町には木製品が多いらしいな」


 そのまま北前町まで向かう。北の木々は切り倒しやすいから、北からの交易として木材が流れやすいらしい。

 北前町も、南前町と同じく石材でできた家ばかり。それでも敷かれたござで売る商人には木製の椀などが多く並ぶ。椀の技術は未熟で、厚みがひどくてざらざらとしている。

 炭子にこづかいを与え、一人になってぶらつく。女の買い物には付き合えない。

 時たま北からの敗残兵団が疲労困憊で町に入ってくる。それを兵士が助け、北門へつれていく。そんなシーンを一時間で二度見た。


 手足のどこかを失っている敗残兵が多く、あれでは夜盗にもなれない。

 広場で空を見ると晴れ。そして数羽おかしな鳥がいる。魔物のくせに鳥のしぐさをするおかしな鳥だ。


「あれは偵察か」

『不自然なドロークロウはそう考えても良いでしょう』


 答えはわかっていても、やることもないので一号は聞いた。そしてその通りの答えだと無感動に思った。

 炭子たちと合流して、贅沢にならない昼食をとる。いいものを食っていたと後ろ指を差されたら乞食をやりづらくなる。

 食後、炭子の買って大切に持っていた日用品を風呂敷につつんで背負う。


「帰るぞ。忘れ物はないか」

「ないよ。持ってくれてありがとう」


 炭子は行きと同じように硬くなった身体を動かして家路に向かう。それでも買い物をして気が晴れたのか歩みが軽い。


「自分で立ち上がって歩くことは人としての尊厳を守ることだ。しっかり歩けよ」

「なにそれ」

「よくわからん」


 一号は炭子の歩くペースを覚えている。なので後ろを振り向くことなく、北門への道を南下する。

そうしていると北前町から悲鳴が上がる。一号が振り向くと炭子が悲鳴に怖がるようにしていた。


「ゴブリンたちが攻めてきたぞ。衛兵を呼んでくれ」


 北前町から鐘の音が響き、兵士を呼ぶ人間が横を走って行く。そしてすぐ見張り塔に供えられた鐘が大音声で鳴り響く。


「逃げるぞ」


 この道は大国西ルギウスの首都へ通じる。そのため他国へ威勢を伝えようと馬車が横に五台並んで耐えられる石畳になっている。道に左右には雨用の側溝を挟んで大人の膝までの石が高さを揃えられて並ぶ。一定の間隔で日陰ができる程度の木が植えられ、行きには休む人間もいた。パニックで北前町から全住民が雪崩こんでも、道の右側を走る兵士の邪魔にならないだろう。


「でかいの、炭子を背負ってやれ」


 新しく来た手斧の辻斬りにいい、炭子が背負われる。これで離れることはない。

 北門の前には乗り捨てられた馬車の列。みな北門の中に避難している。

 一号たちは門から外れて西の壁へ。


「たかがゴブリンとはいえ、噂が本当だったら大変だな」

「うん。自爆するんでしょう。北のダンジョンマスターの配下は」


 手斧の辻斬りの背中から炭子が答える。

 北のダンジョンマスターに西ルギウスの強兵がやられた理由は、魔物が自爆することにあったらしい。ゴブリンなど弱い魔物を殺したと思えば自爆され、殺さなくてもくっつかれたら自爆される。さらにそういった魔物が籠城から万と飛び出てくる。

 この単純な初見殺しが戦場に広がったのだ。この国が対処できずに敗退するのも理解できる。


「ゴブリンは十ポイントだったか」

『はい。不自然なドロークロウもそうです』


 口に出さずサポートへ確かめる。自分の個性をよくつかったものだと感心する。


「ここまで来ればいいだろう」


 西側の壁前の堀に沿って十分ほど早足で進んだ。

 後ろを振り向くとダンジョンマスターの視力でゴブリンの群れが小さく見える。五十匹程度だろうか。ときどき爆発しながら、北門への攻撃を強行している。


「攻めるというより、ありゃ鉄砲玉だな。面子を潰されないように暴れにきただけか」

「おじさんわかるの?」

「ダンジョンマスターは知らんが、国と国なら追撃くらいするだろう。ダンジョンマスターとではなく、小国として見たらいいんだ。そして途中にある砦を無視して来たってことは、落とす気のないただの荒らしだ」


 なるほどなと、子供に感心される。

 炭子はそのまま背負わして、歩くペースを落とす。

 西の壁の上部は通路になっていて、そこを通っていく弓矢を装備した兵士を良く見た。従兵のような兵士は、大量の弓矢を箱に入れて運んでいる。


「自爆されるなら、遠くから弓で射殺せばいいんだよ。種が割れたら簡単な話だ」

「すごいね」


 安心したのか、炭子が元気になってきた。また明日から卑屈に見られるよう動き、相手から同情される大変な仕事がある。気が滅入っていてはやってらない。

 手斧の辻斬りの身長は二メートルを超えている。そのせいか安心した炭子が単純に高いところからの景色にはしゃいでいる。手斧の辻斬りもそれを悪く思っていないようで、たまに回転して遊んでいる。走ったり歩いたり、よく体力が持つなと今は先行していた炭子を見ていると、小青竜刀の辻斬りジャムが小声で伝えてくる。


「おい、ゴブリンがこっちに来てるらしい。お前ら先に行ってろ。俺も急ぐ」

「おじさん大丈夫なの?」

「問題ない。走ったらいけるだろ。寝床近くまでゴブリンがきたら南前町まで逃げるぞ」


 指示を受けた手斧の辻斬りは、あっという間に走っていった。追いかけているイッシュがスタート数秒で遅れ始めている。乗せてやればよかった。


「あいつ早いな」

『彼女には初期の大ボスよりポイントをつぎ込んでいます』

「住環境に力を入れないといけないのも大変だな」

 一号は別に立ち止まって迎え撃つつもりはない。そのまま疲れない程度に早足を進めた。ゴブリンと対面したくない。

 護衛の小青竜刀の女辻斬りと特に会話もなく、二時間ほど歩いて寝床にたどりついた。寝床では手斧の辻斬り対炭子とイッシュで木の枝をひっぱりあって遊んでいた。それを一人、小刀を持つ男の辻斬りがほほえましそうに見ている。


「一部のゴブリンは城壁を一周でもするみたいだ。荷物持って南前町に行くぞ」

「うん。寝る場所あるかな」

「ゴブリン恐れたやつらが集まっているところで寝たらいいだろう」


 偵察程度なら一日でどこか行くだろう。一号はそう考えていた。

ふと気づき、念じて質問する。


「他のダンジョンマスターにここがばれるか?ばれて不都合はあるか?」

『回復が早くなるのは自軍の者だけですので、初期位置だけでは気づかれません。知られても人間に対して他のダンジョンの情報を伝えるのは禁止されていますから、情報漏えいは問題ありません』


 ならいいかと、自分の毛布やすのこを拾おうとする。


「過分な荷物は森に隠すか。すのこを運ぶのは外聞が悪い。楽をしているのがバレる」

「隠すならイッシュのおしっこがかかってないところにしてほしい」


 イッシュがどこかとぼとぼした姿で森に向かい、マーキングしていないところを教える。それを参考に一号たちは贅沢品を森に隠し、獣にとられないようイッシュにまた木にマーキングさせた。

 もう夕暮れは近く、西日が当たって空気が暖かくなってきた。


「またそのでかい女に背負ってもらえ」

「やった」


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