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攻撃全振りダンジョンマスター  作者: えうああ
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宗教女で遠く戦争のターニングポイント

 その報を聞いたのは、雨が上がった日の乞食帰りだった。

 地面は雨でぬかるみ、ズボンと手足が泥だらけ。泥がお恵み様に飛ばないよう動けない。そうなると冷たい土が体の熱を奪う。


「ござ使ったらダメなのおじさん?」

「乞食が楽するな。下の人間にお恵みをやってやろうという気持ちがなくなろだろ」


 南前町にて雨後で濁った水場を使って汚れをとり、帰ろうとしていると東の壁で炊き出しをしている宗教の女が来た。

 南門の前で待っていて、二人を見たらかけよって話しかけてきた。

 一号は炊き出しをして飯を食わせてくれるのならいくらでも説教を聴く人間だ。なので素直に説教と炭子の孤児院への誘いを聞く。


「ごめんなさい。同じさらし者になるくらいならこっちのほうがいいんです」


 一号はどうせ孤児院の宣伝に使われて利益をとられるより、ダイレクトに入ってくるこっちのほうがいいと考えていて、それを伝えている。ダイレクトに入ってくるといっても、食料やらを買って辻斬りに渡した後に二人で半々にするのだが。


「誰かの保護があるのなら良いのです。ただ乞食は何があるかわかりません。安全と教育が必要になることもあります。何かあれば寺の門を入って大声で呼んでください。誰か出てきますから」


 そういって宗教の女は二人に取り置いていた固いパンと近くで採れた野菜を挟んだだけのサンドイッチを渡した。固さは麦が違うらしいとしか一号は知らない。


「ありがてえことです」

「ありがとうございます」


 どんなものでもらったら感謝をする。しっかり頭を下げて、周りにも見えるように。お恵み様が輝くように。


「スープもう全部出ててごめんなさいね」

「サンドイッチだけで嬉しいです。お姉さんありがとう」


 一号がしっかりと教えたから、宗教の女に炭子が嬉しそうに返事をする。『かまってもらえたイッシュみたいになれ』をちゃんと守っている。

 炭子の両親おかげもあり、小さなころからこれだけできるのなら大きくなってもいい乞食になれるだろうと、一号は嬉しくなった。ただ表情に出すほどでもないのでそのままでいると、宗教の女がびくりと反応して表情をなくした。


「何かあったんですか?」


 色をなくした宗教の女に炭子が聞く。

 炭子は何を聞いているのかと思ったが、宗教の女が南門の周りの人間を集め、お触れにその答えを混ぜる。


「ペテ神殿組合から、ペテ市民のみなさまに向けてのお触れを出させていただきます。私の法名は雲法師。情報は速やかに開示することを条件に神託を受けております」


 これは宗教の女にとって何よりも優先すべきことだろうと、一号は真面目な聴衆としての顔を作った。


「神託を開示します。神託は『北リス国の首都ポラでダンジョンマスターが出現した。』です。これはポラのどこに、ではなく、ポラ自体がダンジョンマスターのダンジョンに変化したということです。繰り返します」


 宗教の女の周りに人が集まってくる。繰り返し事触れする姿に、一号は仕事の邪魔をしてはいけないと炭子をひっぱって離れた。


「宗教女はああやって金を稼いでいたのか。神託を任されていたから、毎食東で炊き出しができたんだな」

「おじさん知らなかったの。このあたりの人じゃないから当たり前か。反進歩的で嫌がられてるけど、神託を受けられるから偉い人なの。でも大丈夫かな」

「何がだ」


 女はすぐに話が飛ぶと一号は顔をしかめる。


「うちの国、西ルギウスは今ポラに攻めてるんだよ。そうなるとダンジョンマスターと戦うことになる。あ、倒したらうちの国から勇者出てくるんだ。すごい。見たことある人だったりして」


 ダンジョンマスターは経験値装置。ダンジョンマスターかダンジョンコアを壊せばダンジョンの経験値を得て強さが手に入る。そのシステムを世間は知っていて、大量の経験値を手に入れた者を勇者と呼ぶ。


「北門で乞食をしたら勇者が前を通ったりして」

「やるとしても南で常連がついているから、すぐにとはいかねえな」


 そうして話しながらシェルターを片付けた寝床に戻る。雨はともかく晴れの日は警備の邪魔だと考えたからだ。兵士の中にもお恵み様はいる。邪魔してはいけない。

 今夜の寝床の警備は辻斬りの女、ジャム。自分でつけたらしいく、イチゴジャムクッキーがおいしかったらそうつけたらしい。ジャムは炭子の姉分を自認していて、炭子も雨の日以来懐いている。




 そうして穏やかに過ごし、五日後、南門で噂を聞いた。戦争に出た兵士が小さなグループに別れて北門から逃げ帰ってきたと。そうして敗戦の不安は広がり、最後には北門から立派な棺に入った高官の死体が戻ってきたことで敗戦が確定された。

 逃げ帰った兵士はどこか身切れしていて、火傷がひどいらしい。

 一号はなおさら相対的な自分の乞食としての地位が下がっていく気がした。

暗くなり寝ていると、頭に初動ランキングと浮かんできた。


『初動ランキングが発表されました。多様性を願い、普通とは違う行動をしたダンジョンマスターにボーナス経験値が与えられます。普通とは違う行動は死に直結しやすいので、そういうことです』

「俺はいくらもらえた」

『一号は一位でした。おめでとうございます。五千ポイントを授与されました。残高合計六千ポイントです』

「ボーナスは初期値の半分か。それを全部使って一体作っておいてくれ」

『大雑把な案はありますか?』


 一号に案は何もなかった。ただ経験値を還元すれば、ダンジョンマスターの義務を果たせると考えているからだ。それに生き残ろうという意思も最低限しかない。


「ない」

『では最近の不自由はどうでしょうか。道具でもかまいません』

「不自由はないと乞食にならない。今あるすのこでも充分だ。それに超常のものを手に入れても使えない。その辺に撒いて終われないか」

『森が活性化して警備を増やさないといけなくなります。今、辻斬りから要請がありました』


 横を見ると、辻斬りの女ジャムが何度もうなずいている。


『男女の割合に偏りが見られるので職場環境を是正してほしいです。それと職場への往復に三時間かかるようです。あとはお嫁さんがほしいと訴えています』


 一号がついでにイッシュを見ると、こっちも何度もうなずいている。たしかこいつはオスだったと思い出す。


「辻斬りに女を一人増やしておけ。通勤時間は我慢しろ。嫁は自分で探せ」

『ではすべてのポイントを使って辻斬りの女を召喚します。よろしいですか?』

「やってくれ」


 暗闇からがたいのいい女が現れる。武器は手斧。


『他の辻斬りとの違いは、怪力と木こりの才能などです』

 

どうでもいいので一号は聞き流して寝ることにした。イッシュを見ると残念そうな顔をして小さく鳴いていた。


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