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炎を纏ってかぼちゃは踊る  作者: かぼちゃ
第2夜 とある《退治屋》の災難?
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第13話 新人《退治屋》、修業中~夢を視る~




――――ざぁぁーっ……ざぁぁーっ……




 木々の騒めきが聞こえ、ティトンは目を開いた。

 気が付けば、ガドの家がある森の中に立っていた。


(――あれ? いつもより、明るい……?)


 等間隔に並ぶ木々の中で、いつもと違うのは頭上から落ちる木漏れ日だ。

 日中でも薄暗かったのに、今はとても明るい。

 木々の騒めきに合わせて、地面で木の葉の影が躍っている。


「――……」


 その木漏れ日に誘われ――さらに、後ろから風に背中を押され、ティトンは歩き出した。

 いつも冷たい風は、今日は仄かに温かくて心地良い。

 ただ風を感じたくなって、探知はせずに歩を進めた。


(ただ歩くのもいいな――)


 ずっと、探し出さないとと言う焦燥感が募るばかりで、ゆっくりと自然浴なんてしていなかった。

 偶にはリラックスして歩くのもいいだろう。

 深呼吸を繰り返し、木漏れ日を視線で追ったり、目に付いた大きな葉の影を足で踏んだりしながら歩き続けていると、唐突に視界が空けた。




―――ざぁぁーっ、




と。後ろから強めに吹き抜けた風は、周囲の木々と眼前に広がる開けた場所を覆っている草を強く揺らす。

 ティトンは真上で輝く太陽の光を右手を眼前に挙げることで遮りつつ、その場所を見渡した。


(…………木と岩?)


 草の高さは膝の辺りまであり、そこから突き出るよう岩が転がっていた。その岩も、ところどころ、苔が生えている。

 そして、中心には周囲の木に比べて低い――自分よりもやや高いくらいの背丈しかない細い木があった。


(何だろ……)


 その木に視線が惹きつけられる。

 ティトンはユラユラと風に葉を揺らすその木に向かって、一歩、足を踏み出した。




―――――――――






「――――と、言う夢をあれからよく見るんです」


 霊力が暴走して、四日が経っていた。

 ティトンは久しぶりにガドの下を訪れ、霊力が暴走した日の夜から夢に見る光景を相談していた。

 少し日が空いた理由は、その翌日はバイトの日だったが、念のために休んで休養し、その後はバイト先の埋め合わせに行ったりしていからだ。




―――「これを覚えるまでは、森に入るのは控えるように」




 もう体調に問題はなかったが、ガドはそう言ってティトンに術式が書かれた紙を差し出してきた。

 その構成や効果などを教わった後、リビングのテーブルにスケッチブックを広げて術式を描き、ティトンはひたすら頭の中に叩き込でいく。

 今回、教えられたのは霊力の調整を補助する術式で、霊力を吸収して術者に還元させるという効果があるらしい。周囲の霊力を多く吸収した時や急激に術者の霊力が高まった時に有効で、覚えるように言われたのは先日の霊力の暴走が一因だろう。

 もう一度、霊力が暴走したら自分だけで押さえられる自信はないので、ティトンは必死に術式を頭の中に叩き込んでいた。


「同じ夢、か――」


 ガドはティトンが書き上げた術式の添削の手を止めて、ティトンを見た。


「少しずつ、進んでいる気はするんですけど……」

「暴走した時、周囲の霊力がかなり吸収されていたからな。今まで以上に影響があったんだろう。……もしかしたら、〝血〟の覚醒も近いかもしれない」

「!」


 その言葉に、ティトンは目を瞠った。


退魔師(エクソシスト)に稀に現れる〝予知夢〟の能力者は知っているな?」

「? はい。知ってます」


 突然の質問に目を瞬きつつ、頷きを返す。



 未来に起こる出来事を夢で視る能力――〝予知夢〟。



 そのほとんどが抽象的で、ただの〝夢〟と捉えても仕方がない代物ではあるらしいが、〝魔女〟の〝星読み〟ほどではないにしろ、解読された内容は実現する確率は高いと聞いている。

 ティトンは〝予知夢〟なんてフィクションの世界の話かと思っていたが、《退治屋》や退魔師(エクソシスト)たちにとっては、当たり前の能力の一つだった。

 最近、今代(・・)の能力者が現れたと噂になっていたので記憶にも新しかった。


「〝予知夢〟とその上位互換の能力である〝魔女〟の〝星読み〟も当てはまるが、その原理は簡潔に言えば〝霊力を通じて世界の流れを読む〟ということになる」

「霊力を通じて、世界の流れを……?」

「世界を構成する霊力の流れを読み解き、その先を視るということだ。抽象的な〝夢〟として視るのは、それが膨大な情報量を処理できる範囲で知ろうとした結果――人としての限界なのだろう」

「…………」

「そして、稀に能力者以外でも、世界の流れに触れてしまった者も〝夢〟を視ることがある。それが未来()のことか現在()のことなのかは分からないが、何かしらの意味はあると思ってもいい」


 夢の意味、とティトンは呟き、


「森を――探せということですか?」


 最初はずっと森を探索していたので、夢にまで見出したのかと思った程度だった。

 だが、それが二回、三回と続いて、やっとおかしいことに思い至って相談したが、他に何かしらの意味がある可能性があると言われても、何も思い浮かばなかった。

 直球の答えにガドは小さく笑い、


「それを見て、どう思った?」

「どう……?」

「夢の中は理性から解放された本能しかないからな。それを見て〝何を思ったのか〟が重要になる」

「―――……」


 ティトンはその言葉に、目を伏せた。

 思い出そうとすれば、難なく脳裏に浮かび上がる光景。


 風に背中を押され、歩いた木漏れ日の道。

 その先にある開けた場所。

 草に覆われ、岩が転がる中心にある木。


 どうしてか、あの木の下に行きたいと思った――。






―――――――――






―――ざぁぁーっ、ざぁぁーっ




「―――?」


 目を開けると、ティトンはまた森の中にいた。

 いつもと違うのは森の中ではなく、あと一歩、前に踏み出せば開けた場所に出る――その境界に立っていることだった。

 燦々と降り注ぐ日の光の眩しさに目を細めた。

 ふと、気になって森の方に振り返ると、木漏れ日の道が続いていて吹き抜ける風に揺れていた。




―――ざぁぁーっ、ざぁぁーっ




 森の奥から吹き付けた風に急かされた気がして、ティトンは空き地の方に向き直る。




―――「お前は、どう思った?」




 唐突に頭の中に響く声。

 それは信頼できる、厳しくも優しい人の声だ。

 その声と風に押され、一歩、足を踏み出してティトンは森から開けた場所に出た。

 中心部にある木に向かって、ゆっくりと近づいて行く。

 草をかき分け踏み締める音が響き、周りを囲う木々の騒めきはまるで周囲を回っているように聞こえて来た。

 岩の近くを通りかけ――その高さは胸の位置ぐらいまである――何となく、視線を投げかけると、


(――あれ?)


その頂上付近に、不自然に平らな場所が目に付き、足を止めた。

 まるで、そこだけ切り取ったかのように滑らかになっていて、よく見ればそこに何か(・・)が刻まれていることに気付いた。

 やや前屈みになって、そっとその場所に触れる。

 鋭利な刃物で刻まれているソレは――


(この模様は……術式?)


 ただ、知っている術式のどの構成よりも複雑で、いったい、どういった効果を持つのかは分からない。

 模様から顔を上げ、近くにある他の岩に目を凝らすと、同じように頂上付近に切り取ったような場所があるのが分かった。

 恐らく、触れている岩と同様に術式が刻まれているのだろう。


(もしかして、基点になってる? その中心は――)


 岩の位置は、刻まれている術式の基点となる場所とほぼ一致している気がした。

 そして、その中心部にあるのは、あの細い木だ。


(何で、こんなところに術式が?)


 もっと、よく見ようと岩に顔を近づけ――ふわっと横から吹き付ける風が頬を撫でたので、ティトンは身を起こした。


「?」


 何故か、早く行こうと急かされている気がした。

 やや後ろ髪を引かれつつ、ティトンは木へと向かう。


(……………………術式(コレ)も、気になるけど)


 術式も気にはなるものの、あの木に行かなければならないという思いの方がやや強い。

 ただ、近くを岩が通るたびに視線を向けていると、何処からか風が吹いて足を止めないように背中を押して来る。

 よそ見をしない、とでも言っているようだった。


「ちゃんと、行くから」


 分かっているよと告げると、風はティトンの周りを一周し、草をかき分けながら木の方へと進んでいった。

 その後を追うように歩みを進め、やがて、辿り着いた木は高さが二メートルもない若木だった。

 抱えられそうなほどに細い幹に、瑞々しい黄緑色の葉を茂らせている。

 さわさわ、と風に揺られて心地いい音を奏でていた。


「――――」


 手を挙げて幹に触れると、ざらり、とした感触と――。


(――生きてる…………?)


 ドクンドクン、とその内の脈動を感じた。

 その感覚に惹かれるようにティトンは距離を詰め、両手で幹に触れて額を当てる。

 目を閉じて耳をすませば、より一層、木の脈動を感じた。

 ドクンドクン、と耳の奥で鳴る自分の脈動と同じモノを――。


(何だろ……この感じ――)


 二つの脈動を感じ、身体の内側から霊力が高まっていくのを感じる。

 もっと感じたくて、無意識にこすりつけるように額を動かす。

 さわさわとした騒めきが頭上から聞こえ、目を閉じていてもその葉っぱ一枚一枚が淡く輝くのが分かった。

 周囲に在る光の粒――霊力がその葉に吸い込まれて、木の内側に満ちていく。

 そして、脈動と共に全身を巡り、余分なモノは根を通じて大地に還っていった。

 その感覚に引かれてティトンから滲み出て来た霊力にも周囲の霊力(光の粒)が吸い込まれていき、その影響で体内の霊力が高まり出した。



―――ティトンの脳裏に、ガドから教わった術式が浮かび上がった。



 吸収された周囲の霊力(光の粒)がその術式に吸い込まれて発動し、淡い光を放ち出す。

 その光から感じる温かさ――周囲の霊力(光の粒)の影響で高まった霊力は、ティトンの身体に負担にならないようにゆっくりと全身を巡り始めた。

 その心地よさに、しばらくの間、ティトンは身を任せていたが、




〝―――〟




〝何か〟に呼ばれた気がして、ゆっくりと瞼を開いた。

 地面の草や木から、滲み出るように立ち昇る光に目を細める。

 直感で、ソレが霊力だと言うことは分かった。


(探知では、分かっていたけれど)


 目にはっきりと見えるのは、初めてだった。

 さらにもう一度、音のない声に呼ばれて顔を上げると、右側に視線を動かした。

 若木の、少し上にある枝。

 その枝の上に置かれたように、エメラルドグリーン色の霊力を含んだ風の渦があった。

 周囲の霊力(光の粒)でも、木から滲み出る霊力でもない。周囲を駆けまわる風――ここまで背中を押して来た〝何か〟の霊力だ。


〝―――〟


 その風の渦の中から、音のない声がする。

 柔らかく包み込むような優しい霊力の中心には強い光が宿っていて、声はその光から聞こえてきていた。


「―――」


 その光に引き寄せられるようにティトンは右手を伸ばし、渦の中に手を入れた。

 風の渦は手を傷つけることはなく、ふわり、と歓迎するように解ける。

 そして、中心にあった光が形作ったモノは――。




―――――――――






「っ?」


 右手に軽い痛みが走り、ティトンは目が覚めた。

 ややぼやけた視界に握り締めた手が見えて、爪が食い込んだ痛みかとぼんやりと思う。

 ゆっくりと手を開いて、茫洋とした瞳を向けた。

 見慣れた天井は自室だ。

 夜が明けたのだろう。まだ薄暗いものの、鳥の鳴き声が聞こえていた。


(あれ、は……)


 先ほどまで見ていた、森の夢。

 寝起きでぼうっとした頭でも、目を閉じれば思い出すことが出来た。

 右手で目元を覆い、瞼の裏に広がる光景を見つめる。

 森の中の開けた場所、転がった岩に刻まれた術式、術式の基点と重なる岩の配置、その術式の中心にあった若木の脈動――そして、若木の枝にとまるようにいた風の渦と、触れたと思った〝何か〟。


「呼んで、る……?」


 霊力の渦に触れ、その気配はガドがいる森を訪れた時からずっと、傍にいたことに気付いた。

 あの呼び声は、見つけてくれることを待ち望んでいたのだと――。


「…………………………………………行かないと」


 ティトンは身を起こし、茫洋と呟くとベッドから降りた。

 あの木に触れてから、身体の内側から溢れ続けている霊力――無意識下で発動し続ける術式に、気付かないまま。






―――思えば、ジオラと共にガドの下へ赴いた時から、その存在は感じていた。


 大自然に囲まれた中、常に在るために気付かなかっただけで、一歩、その地に踏み出した時から。

 体力づくりのため、周囲の霊力の影響をより受けるために湖の周りを走り込んでいた時も。

 ガドと模擬戦をしていた時も。

 森の中を探索していた時も。


 ずっと傍にいて、呼び続けていたのだろう―――。






「っ! コレって」


 白い鍵を使ってドアを開けた途端に飛び込んで来た光景に、ティトンは目を見開いた。

 森全体からエメラルドグリーン色の光の筋が溢れ出し、周囲一帯を巡っていたからだ。

 その光の筋――霊力を見た瞬間、身体の奥底で、どくり、と一際強く脈動する〝何か〟に胸元を握り締める。


「こんなに、霊力が溢れているなんて……」


 修業中、常に感じていた霊力ではあったが、これほど強く感じたことは――目に見えるほどに高まったことは、今までなかった。

 けれど、威圧感もなく畏怖も抱かせない――むしろ、包み込むような温かさにほっと心が安らぐ。


「…………ぁ――」


 ティトンは霊力(光の筋)が集まる方向――倉庫の裏へと足を進めた。

 森にほど近い場所に、〝夢〟と同じくエメラルドグリーン色の光を含む風の渦が在ったからだ。


「いつも、傍にいたの?」


 ティトンは風の渦の下にたどり着くと、ソレを見上げつつ尋ねた。

 正確には、その中心にある光に向けて――。


「湖の周りを走っていた時も、森の中でも」


 触れたと思った瞬間に、目が覚めてしまった。

 手が届く位置にいた〝夢〟の時とは違ってやや高い場所にいるが、再び、手を伸ばす。



『―――ああ。ずっと傍で見ていた』



 耳に心地いい、落ち着いた声が頭の中に響く。

 やっと話せた、と自然と笑みが零れた。


「もしかして、夢の中(あそこ)にいたのも君?」


 〝夢〟の中でも、常に風を感じていた。

 周囲を駆け回り、あの若木の方へと背中を押してくれた風を――。


『ああ、そうだ』


 ふわり、と風の渦がティトンの手に落ちて来る。


「君が……君が、木の下(あそこ)に連れて行ってくれたんだよね?」


 両手を合わせて受け止め、ティトンは真っ直ぐに渦の中の光を見つめた。


『ああ。そうだ』


 ティトンの問いに頷くように、チカチカと光が瞬いた。


「ありがとう、連れて行ってくれて。…………森の中も、良い場所だったね」


『もっと、ゆっくりと散歩がしたかったな』


 同意しつつも残念そうな声に、ふふっ、と笑いが漏れた。


「でも、どうして連れて行ってくれたの?」


『行きたそうだったからだ……そうじゃないのか?』


 どこか恐る恐る尋ねて来る声に、うん、とティトンは頷いた。


「行きたかった……行かないとダメな場所だったと思う」


 森の中は心地良くて、ずっとあそこにいても良かったけれど、あの木に触れてからは、その下には行かなければならなかったのだと分かっている。


『そうか。それなら、良かった』


 ほっと安堵した声色に、そういえば、とティトンはココに来た理由を思い出す。


「今日見た〝夢〟で、呼ばれている気がしたんだけど……?」


『……………………ああ。いつも、気付いてくれないかと声を掛けていた』


 少し逡巡するような間の後、頷きが返って来た。


「えっ――?」


 思いがけない返答に、目を丸くする。


『話がしたかったから……ずっと声を掛けていて、今日、やっと気づいてくれた』


「そう、だったんだ……ごめん。全然、気付かなかった」


『大事な修行中だったのは分かっていた。邪魔はしたくなかったから、それはいいんだ』


 ただ、と少し声量を落とし、


『聞こえないとは分かっていても、声をかけていただけだから』


「どうして……?」


『………………話が、してみたかったからじゃダメか?』


 素朴な疑問に、真っ直ぐな答えが返って来て、ティトンはパチパチと目を瞬く。

 この森はあまり人が寄り着かなそうな場所でもあるので、自分が珍しかったのだろうか。

 その疑問を見透かしたように、ふふっ、と笑う気配がした。


『君と、話がしてみたかったんだ』


「!」


『だから、こうして呼びかけに答えて来てくれてありがとう』


 本当に嬉しそうな声に、ティトンはぎゅっと胸の奥が苦しくなった。

 全然、気付かなかったのに、それでもそう言ってくれることに申し訳なさがこみ上げてくる。


「えっと、その……また森の中に行くから、その時は一緒に行く?」


 そろそろ、森に入れるはずだ。

 そう提案すると、一瞬、渦の中の光が驚いたように強く光った。


『いいのか? 修業の邪魔じゃ……』


「うん。ちょっと探すことに行き詰っていたし、一緒に探してくれたら嬉しいよ」


 黙々と集中して探すのもいいが、誰かと一緒に行けばまた違うかもしれない。

 それに風の渦から感じる霊力は心地よくて、余計な力が抜けて上手くいく気がした。


『一緒に…………うん、うん。一緒に行きたいな』


 光が点滅し、そこから嬉しそうな気配を感じたティトンは、ほっと息を吐いた。


『―――でも、もう探す必要はないよ』


「ぇ……?」


 その言葉の意図が分からず、きょとんと風の渦を見つめた。


『君が望むのなら――……』


 その後に続いた言葉は、聞き取れなかった。

 一際、光が強く輝いて、ティトンは思わず目を閉じる。




―――ぽとり、




と。手の平に冷たくて硬い物が落ちたのを感じた。


「!」


 はっとして手の中を見ると、いつの間にか風の渦は少しだけ浮かび上がっていて、手の平に転がる楕円形の石が見えた。

 綺麗なエメラルドグリーン色をした三センチほどの大きさの石で、その内側から溢れる〝力〟が煌めきとなって表面を彩り、淡い輝きを放っている。


(コレって……っ!?)


 その石から今までに感じたことのない――この森で見つけた霊石でさえ霞むほどの濃密な霊力を感じ、ティトンは目を丸くした。

 ふわり、と風の渦が浮かび上がったことで、ティトンは我に返った。

 慌てて空に向かう風の渦を見上げると、


『さぁ、コレで良いか聞いてごらん』


からかうように言ったのを最後に、風の渦は解けるようにして消えてしまった。

 その風に吹き流され、周囲一帯に広がっていた霊力の奔流(光の筋)も霧散する。


「…………」


 ティトンは目を丸くしたまま、風の渦が消えたところを見つめていたが、ゆっくりと手の中にある石――探していた霊石に視線を落とした。




―――ざっ……!




と、地面を踏み締める音とともに知った気配を感じて、ティトンは振り返った。

 少し離れた場所に、いつの間にかガドが立っていた。

 恐らく、霊力の奔流に気付いて家から出て来ていたたのだろう。


「……!」


 ガドはティトンと目が合うと、一瞬、驚いたように目を見開く。


「ガドさん、見つけました」


 ぎゅっと両手で霊石を握り締めて告げれば、ガドは一部始終を見ていたのか口元に笑みを浮かべて頷き、


「ああ。よく見つけたな」

「――!」


 満足げなガドの表情――褒められたことが嬉しくて、ティトンは満面の笑みを返した。

 そして、ぐるり、と視界が回り、意識が途切れた。






         ***






「っ!」


 意識を失い、崩れるように倒れるティトンの下にガドは駆け寄った。

 その身体が地面に触れる前に片手で受け止め、ずっしりとした重みが手にかかる。


「…………」


 腰を落としつつその身体を引き寄せれば、こてん、と頭がこちらに寄りかかってきた。

 顔を覗き込むと、穏やかな寝息をたてている。


『無事に見つけたようね』


 ほっと息を吐いたガドに、レンツェがそう声を掛けて来た。


(――ああ)


 少し前。

 突然、森全体で高まった霊力に驚き、警戒したガドに「来たわ」とレンツェは告げた。

 それとほぼ同時にティトンの気配――高まった霊力も感じ、とうとう気づいた(・・・・)のだと分かった。

 その後は、レンツェに仲間たちに問題ないことを連絡してもらい、結界で気配を隠しつつ、ティトンと〝彼〟のやり取りを見守っていた。


(覚醒の方も、な)


 話を終えたティトンに声を掛ければ、ゆっくりと振り返った時の表情は何処か夢うつつで、本来、碧眼であるその両目は血のように赤く染まっていた。

 吸血鬼(ヴァンパイア)一族特有の、瞳の色へと。

 〝混血ハーフ〟が瞳の色が変わる理由は唯一つ、〝()〟が覚醒した証だ。


(契約を交わしてなくても、波長が合うだけでこれほど違うのか)


 意識を失いながらも、ぎゅっと握り締められた手。

 その中にある石から漏れる〝力〟が、優しくティトンを包んでいることは分かる。

 それが教えた術式の動力源となって覚醒した力(溢れる霊力)を抑え、ゆっくりと全身を巡りつつ収まっていっていることも。

 ガドはそっと息を吐き、ふと、その前髪が小さく跳ねていることに気付いた。


「寝癖がついているぞ」


 ふっと口元に笑みが零れる。

 手櫛で直してみるが、あまり意味はなかった。少し髪が濡れているので、慌てて顔を洗って出て来たのだろう。


(あの様子だと、黙って来ていそうだな…………連絡手段はないし、後でさせるしかないか)


 朝食を食べてない可能性もあるので軽く用意しておくかと考えながら、ガドは両手でティトンを抱えて立ち上がった。

 森の方へと視線を向け、


「家の方に来てくれ。目が覚めたら、自己紹介をしよう」


姿が見えなくても、森から吹き抜けてきた風が返答だった。




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