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炎を纏ってかぼちゃは踊る  作者: かぼちゃ
第2夜 とある《退治屋》の災難?
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第10話 新人《退治屋》、修業中~宝探しをする~



―――シュッ、




と。風を切りながら、顔のすぐ右横を木製のナイフが通り過ぎた。

 ティトンはそこから感じる霊力の圧力に目元を歪ませながら、真っ直ぐに伸ばされた腕の向こう――ガドを睨み付ける。一歩踏み込み、伸ばされたガドの腕の下から逆手に持った右手の木製のナイフをアッパーをかますように振り上げた。

 そのナイフが纏う霊力は朧げで頼りなく、洗練された霊力を纏っているガドのナイフとは比べものにならない――未熟さが現れていた。



―――パンッ、



と。軽い音を立てて、ガドの左手がティトンの右手を包み込むように一撃を止めた。

 その切っ先はガドの鎖骨の手前で止まる。

 ぐっと右手を押し返され、ティトンはバランスを崩した。


「っ?!」


 その視界の右端から黒い影が迫ってきた。

 ガドが伸ばした右腕を曲げて肘鉄を放ったのだ。


「――くっ」


 ティトンは咄嗟に左足を曲げて身体を左に倒しつつ、最小限の動きで左手を振って〝カード〟を放つ。

 それを感じたのか、ガドはティトンの右手を離すと軽く後ろに跳んで距離を取った。




―――バチバチバチッ……!




と。数秒前までガドがいた場所で〝カード〟が発動し、放電。


(駄目か――っ?!)


 ティトンは左腕で顔を庇いつつ、慌ててその場から飛び退いた。

 ガドが手を振るい、ナイフを放ったのが見えたからだ。


「っ!」


 ティトンも牽制のため、短く呼気を吐いてガドに向かってナイフを投げた。

 シュッとガドとティトンの中間の位置よりもややティトンに近い場所で投げ合ったナイフが交差し、お互いに迫る。鋭い霊力を纏うガドのナイフの方が早い。


「ぐっぅ!」


 ティトンはその軌道から身を捻り、とっさに胴体部分に霊力を集めたが、脇腹を殴られたような衝撃が走って息が詰まる。

 どさっと地面に倒れ込むも何とか受け身を取り、その勢いのまま一回転余分に転がることで体勢を整える。

 追撃は、と顔を上げると――


「ここまでだ」


ナイフの切っ先が眼前に突き付けられ、それ持っているガドに終了を告げられた。

 そのナイフはティトンが投げた物だ。


「っ……は、はい!」


 ティトンは浮かしかけた腰を下ろし、呼吸を整えながら攻撃を受けた脇腹を右手で押さえた。

 ジンジンとした痛みに、目元が歪む。


「だいぶ、物に霊力を纏わせることも慣れて来たな」

「ただ、纏わせるだけですが……」


 ティトンは苦笑した。

 ガドがナイフに纏わせたように、一撃の威力を高めることも放った速度を速めたりすることも出来ない。


「さっきのナイフの一撃、霊力で防御力を上げた判断はいいが少し広げ過ぎだ。もう少し範囲を狭めて厚くした方がいい」

「はい……」


 戦闘中は意識して安定した霊力を必要な分だけ纏っているが、とっさの行動ではまだまだ制御が甘い。

 ティトンは肩を落とし、小さくため息をついた。


「休憩にしよう――」






 ティトンがガドの下で修業を開始して、一年が経っていた――。


 基礎体力は自覚できるほどに向上し、ガドとの模擬戦も長めの打ち合いが出来るようになった。

 ガド曰く、インクの精製も少しずつ精度が上がっているようだ。

 出来上がったインクを見てもピンとこなかったが、半年前から一カ月に数回ほど受けている依頼で使用すると、威力や扱いやすさが上がってきていることを実感することが出来た。


 ただ、肝心の〝()〟に目覚めてきているのかどうかは、全く分からなかったが――。






 コトッとリビングのイスに座るティトンの前に、パウンドケーキとコーヒーが置かれた。


「ありがとうございます」


 ティトンはガドに小さく頭を下げ、手元に引き寄せた。

 お礼に持ってきていたパウンドケーキは、いつの間にか実技後の休憩のお茶菓子として出されていた。

 母親にソレを伝えるとさらに味のバリエーションが増え、毎回、ココに来るたびに渡してくるようになっていた。


(ん。今日のはこしょうのパンチがきいてるなぁ……)


 一口に切り分け、モグモグと口を動かしていると、


「この前、言っていたデザインのコンペはどうなったんだ?」

「アレは――」


 休憩中の話題は、次のインク作りについてのアドバイスや合間に受けている依頼のことだけではない。

 ティトンのアルバイト内容や師匠であるオットーのこと、会社の先輩で退魔師(エクソシスト)ある人たちの話などが多かった。

 ガドはティトンの話に相槌を打ったり、話題を広げようと質問してきたりと、意外と言っては失礼だが聞き上手だった。

 ガドも〝五ツ星(サンキ・エワル)〟として受けていた仕事のこと――極秘案件もあるので話せる範囲内で――や他の《退治屋》の武勇伝などを話してくれるので、ティトンはこの時間を楽しみにしていた。


「――そうか。合格点は貰えたんだな」


 何とか及第点は貰えたことを告げると、良かったな、とガドは笑った。

 応援してくれていることにむずがゆくなり、「はい、何とか」とはにかんだ笑みを返す。


「色々と、改善するところも多かったですけど……」

「まだまだこれからだ。たくさん見て、その技術を勉強すればいい」

「はい……!」


 ガドはパウンドケーキに視線を落とし、


「一度、お前が描いたデザインを見てみたいな」

「っ?!」


 思ってもみなかった申し出に、ティトンは目を見開いて固まった。

 ガドは窺うように視線を向けて「ダメか?」と尋ねて来た。


「えっと……いえ、その」


 ティトンはオロオロと視線を泳がせ、ごくり、と生唾を呑み込んだ。

 コンペ前の時と同じように、ドキドキと鼓動が速くなる。


「まだ、人に見せれるようなものじゃ……」

「ダメなのか?」

「えっーと……」


 ちらっとガドに視線を戻すと、頬杖を突きながらこちらを見ていた。

 口元には、楽しげな笑みが浮かんでいる。


「…………」

「…………」


 無言で見つめ合うこと数分ほど――先に視線を逸らしたのはティトンだ。

 手元のパウンドケーキに視線を落とし、フォークでつつく。


「ちょっと……じ、時間を……いただきたいんですが」

「ああ。楽しみにしているよ」

「は、はぃ……」


 嬉しそうなガドの声に引くに引けなくなり、ため息のような声で了承してしまうティトンだった。


(デザイン、デザイン……えっ、どうしよう? ど、どれを見てもらえれば……?)


 グルグルと頭の中で考えているティトンに気付いているのかいないのかは分からなかったが、ガドはパウンドケーキを切り分けて口に入れて、


「思っていたより精製用の術式の習得が早く終わったから、少し刻印術の習得の方にも手を伸ばしてみるか?」

「――――えっ?」


 見せるデザイン画について考え込んでいたので、数秒ほどガドに何と言われたのか分からなかった。

 ティトンが呆けた表情で、パチパチ、と目を瞬いていると、


「初めは、もっと習得にかかると思っていたからな――好きなんだな、描くことが」

「!」


 褒められたことが照れくさくて、ティトンはにやけそうになる口元を引き締めた。


「インクの質も安定してきているから、幾つか〝闇〟側(こちら)の刻印術に手を伸ばしてもいいかと思ってな」

「〝闇〟側(そちら)の……」

「覚醒した後のことを考えると、攻撃系のモノは威力の制御などで時間が掛かる可能性もあるから、覚えるなら結界系か補助系のモノにはなるが」

「!」

「手は多い方がいいだろう?」


 どうする、と尋ねられ、ティトンは大きく目を見開いた後、


「お願いします!」


がたっとイスを勢いよく倒しながら立ち上がり、ガドに向かって身を乗り出した。

 ああ、とガドは笑って、手で座る様に促してくる。


「す、すみません……っ」


 慌ててイスを起こして、ティトンは座り直した。


「そうか。なら、幾つか覚えやすいモノを見繕っておこう」






 それから結界系と補助系の刻印術を一つずつ教わって、上手く書けるようになって来た頃――。


 ティトンはガドから少し変わった修業内容を言い渡された。






「そろそろ、次の段階に進もうと思う」


 いつものようにガドに挨拶をし、リビングのイスにウェストポーチを置いて走りに行こうとしたティトンをガドは呼び止めた。

 そして、促されるままイスに腰掛けると、ガドは単刀直入にそう言った。


「次の、段階に……っ」


 ティトンは一瞬、息を呑み込み、頷いた。

 それは基礎訓練は十分だと言うこと――つまり、覚醒についてだ。


「一年余りをかけて基礎をさらに鍛え、〝()〟の覚醒に耐えられるように準備をしてきたが、そろそろ、本格的に覚醒を促していってもいい頃だ」

「! はいっ」

「そこで、まず最初にやってもらうのは――」

「――」


 いったいどんな内容なのかと固唾を呑んで待つティトンに、ガドはにっと少しイタズラを思いついた子どものような笑みを浮かべた。


「〝宝探し〟だ」

「………………………………えっ?」


 ぽかん、とティトンは口を開けた。

 ふっとガドは笑みを濃くしつつ、話を続けた。


「以前にも話したが〝()〟を覚醒して、まず必要となるのは制御能力だ。通常、加護でソレを得るが、お前の場合はソレを得ることは出来ない。だから、代わりとなるモノが必要となる」

「あ、はい……」


 慌てて口を閉じ、ティトンは頷いた。

 頭の中では、グルグルと宝探しという単語が巡っている。


「その代わりとなるモノを考えてみたが、霊石を使用する特殊な術具を使おうと思っている」

「術具、ですか? それって〝闇〟側で作られた……?」


 術具の値段は、使われている霊石の純度――霊力の含有量やその質――と刻まれた術式によって変わってくるが、全体的に高価な代物だ。

 〝現〟の退魔師(エクソシスト)関係の専門店で見かけたことがあるが、新人には手が出しにくい値段だった。

 〝闇〟側の物も〝紹介所〟でインクの素材を購入したついでに見た程度でしかないが、霊石の品質も高く術式も複雑なものが多い――つまり、性能が高いからか、〝(こちら)〟の方が〝(うつつ)〟よりも高額だった。


「そうだ。俺もその術具を見たのは一度きりだが、あの性能の高さなら問題はないだろう」


(え? 元〝五ツ星〟(ガドさん)が一度きりしか見たことがないって……)


 何となく嫌な予感がして、ティトンは頬を引きつらせる。


「えっと、それって希少な物だったりしませんか……?」


 ソレで〝()〟が制御できるのなら、他の〝混血(ハーフ)〟たちも使えばいいはずだ。

 だが、そういう話がなかったことを考えると――。


「そうだな。その製作者は〝闇〟で知らぬ者はいないが、その術具を知っている者はごく僅かだろう。俺自身、その術具を付けている者と会わなければ知ること(・・・・)はなかった(・・・・・)代物(・・)だからな」

「……っ!?」


 その口ぶりから予想以上に――かなりの希少な代物のようで、ティトンは絶句した。


「えっーと、そのぉ……」


 そのことを告げるのはとても言いにくく、ティトンは視線を泳がせながら口を開いた。


「そうするとお値段も、かなりお高いかと思うのですが……その、買えるような気が……しなくてですね」


オットーのところのアルバイト代は大学の学費用に貯めてあり、《退治屋》としての報酬も必要経費を除けばあまりなかった。

 購入費用がないことをしもろもどろに話すティトンに、ふっとガドは笑った。


「そこは問題ない。高名な方ではあるが、半ば趣味で作っている。販売されている物もあるが、それ以外は料金を請求されることはないからな――まぁ、借り(・・)は出来るが」


 ぼそり、と最後に付け加えられた言葉は、趣味や料金不要と言う言葉ですでに混乱していたティトンの耳を素通りしていた。


「半分、趣味? えっ、でもお金……いったいどういう……?」

「お金に頓着はしない方だし、どちらかと言えば副業で術具を作っているからな。ソレを所持していたヤツも伝手(・・)か何かで渡された物だと言っていた」


(趣味を副業にってこと?……いや、でも〝()〟を制御できるほどの物を?)


 とても理解が追いつかず、ティトンは呆然とガドを見つめた。


「長い時を生きる〝闇〟の住人は世界の均衡を崩す事柄には敏感だが、それ以外のことに関しては、それぞれ独自の価値観がある。……色々と〝現〟の常識と離れていることも多いだろう」

「えーと……そう、ですね?」


 そう言われてしまうと、〝現〟で育ってきたティトンはソレが〝闇〟側の常識なのだと納得するしかない。

 とても〝現〟の常識では考えられないことではあったが。


(作り手さんも長寿の人なのかな? ガドさんがそう言うなら、お金とかもそう気にしてない人、とか……??)


 どれほどの時を生きる人かは分からないが、例えば吸血鬼(ヴァンパイア)一族も千年は生きているのだ。百年はいかない〝現〟の住人と吸血鬼(彼ら)との寿命の差を考えれば、価値観が違っても仕方がない。

 でも材料費とかは、と混乱するティトンを置いて、ガドは話を進めていく。


「いくつかの伝手を使って、製作の依頼をするつもりだ。受けてもらえるかは五分五分だが、ダメだった場合はまた別の案で制御を試みる予定だ。――安心しろ、それなりに伝手は広い」

「あ、はい」


 はっと我に返り、ティトンは何とか頷いた。

 元〝五ツ星(サンキエワル)〟なら、想像もつかないような伝手がありそうだなぁとぼんやりとした頭で思う。

 混乱する頭を落ち着かせようと、ティトンはコーヒーに手を伸ばした。


「まぁ、受けてもらえるか否かの前に、要となる霊石を探すことから始める必要があるがな」

「霊石を……」


 ふぅー、とやや重い一息をつき、希少な術具に使用する霊石って何処にあるんだろうとティトンはコーヒーの水面を見つめながら考えて――


(ん? 本当に何処に……っ?)


ふと、嫌な予感がして顔色を変えた。

 ゆっくりとガドに視線を向けると、その大変さを理解したことを察して、口元の笑みを濃くした。


「それも少し特殊な、な」


 そして、あっさりとトドメを刺してくる。






(見つける自信がないんだけどなぁ)


 ティトンは意識を遠くに飛ばしつつ、ガドに促されるがままにウェストポーチを手に家の外に出た。

 森の方へと連れていかれ、その境目で立ち止まる。


「この森の中なら、かなり高品質な霊石があるはずだ。さっきも言ったが、これからは走り込みを止めて、最初にインク作りと刻印術の勉強、そのあと霊石探しをしてもらう」

「この森の中から、霊石を……?」


 森から感じる霊力に頬を叩かれ、幾分か飛びかけた意識を取り戻したティトン。


「そうだ。この中から、特に純度の高い霊石を見つけて来るのが第一関門だ」

「………」


 そう言われて、ティトンは森の奥に目を凝らした。

 ざぁぁーっと木々が騒めいて、吹き抜けて来た風が全身を叩いていく。

 ごくり、と生唾を呑み込んでガドに振り返った。


「でも、入っても大丈夫ですか? 色々と結界を張られているじゃ……」

「それは、手を考えておいた」


 これだ、とガドが差し出されたのは、表面にびっしりと刻印が刻まれたバンクルだ。


「これを付けていれば、ある程度、結界を避けることが出来る。最初に渡したのとは少し違うものだ」


 帰る時には返してくれ、と言われ、ティトンは頷いて受け取ると右手に付けた。


(迷っていても仕方ないし、ガドさんがココになら可能性があるって言っているのなら……!)


 よしっ、とティトンは自分を奮い立たせた。

 改めて、森に向き直り、辺りの霊力を探る。


(……定期的に悪霊を退治しているって言ってたけど、やっぱりおかしいよな)


 〝闇〟のことに疎かったティトンも、さすがに一年も通い続ければ、この森の異常性に気づいていた。

 広大な森に結界を張り、集まる悪霊を祓っているということ。

 初めて聞いた時は、あまりにも高い霊力に〝劇場(モルセーヌ)〟化しないよう引退したガドが住むついで(・・・・・)に管理しているのだろうと思っていた。

 けれど、この場所の異常性がだんだんと分かっていくにつれて、管理するために(・・・・・・・)ここに住んでいるのではないかと思い始めていた。

 ただ、そうする理由が思い浮かばず、何となくティトン(下っ端の退治屋)が知るべきものではない気もして、その疑問をガドに投げかけたことはなかったが。


「悪霊はいないから安心しろ。この森を探すとなると大変だと思うが、修業で霊力の感知能力もだいぶ上がっているはずだ。時間はまだ十分にあるから、感じるままに探せばいい」

「感じる、ままに……」


 ある意味、感知能力のテストでもあるのだろうか。


「ただ、術具に使用するのはそれなりの品質が要求されるから、一つ見つけたといっても使えないものであればまた探す必要がある。そこは注意しろ」

「はい。分かりました」

「あと、迷って帰ってこれなくなるかもしれないから、コレも持って行け」


 ガドが差し出したのは、小さな方位磁石だった。

 首から掛けられるように、紐が付いている。


「それが指すのは俺の家だ。あまり、暗くならないうちに戻ってこい」

「分かりました」


 ティトンは方位磁石を受け取って首から下げると、


「行ってきます!」


ガドに一礼して、森に向かって走り出した。






         ***






 弟子が森の中に消えた後も、ガドはしばらくの間、そちらをずっと見つめていたが、


『——ガド。問題なく追えているわ』


頭の中に、レンツェの声が聞こえてきたので意識をそちらに向けた。

 ティトンに渡した術具は、結界内をある程度自由に動き回れることだけでなく、その位置を知らせる役割もあった。

 その理由は奥地(・・・)まで行かないように監視するためであり、その行先に先んじてレンツェが結界の細かな操作を行うためだ。


(そうか。引き続き頼む。〝外〟の警戒は俺がする)


『分かったわ』


 声が聞こえなくなり、ガドは頭上を――空を振り仰いだ。

 今日も、心地よい風が吹いている。


「――――頑張って、探してやってくれ」


 ぽつり、と呟いた言葉は、誰にも聞かれることはなかった。






         ***






 ガドの家を出発してしばらくの間、小走りに森の中を進んでいたティトンは、きょろきょろと辺りを見渡してゆっくりと速度を落としていき、立ち止まった。


(前に入った時も思ったけど、日中でも暗いな)


 足場の悪いところで模擬戦をするため、何度かガドと一緒に森の中に入ったことはあった。

 森の中は、覆い茂った木の葉で日の光は遮られて薄暗い。何処からか吹き付ける風は、日光がないからか森の外よりも冷たく感じた。

 まるで、誰かが植えたかのように等間隔に綺麗に並んだ木々の間を、波立つ木の根が繋いでいた。

 次は懐中電灯でも持ってこよう、と心の中で決めて、ティトンはウェストポーチから端末を取り出した。


(普通なら、コレでだいたいの目星はつくはずだけど……)


 《退治屋》になった時に配布されたこの端末には、《退治屋》として必要となる様々な機能が入っている。

 〝劇場(モルセーヌ)〟を鎮めた後、周囲の霊力の濃度が一般的な規定値になったかどうかを調べるために、その測定機能ももちろんついていた。

 その機能を使えば、ある程度の目途がつくと思ったのだが――。




――――ビーッ!




 立ち上げた瞬間、規定値以上の数値が検出されて、警告音が響いた。


(ですよねー……)


 元《退治屋》のガドが端末について何も言ってこなかったので、何となく予想はついていたが、はぁ、とため息が漏れてしまった。

 数値は〝劇場(モルセーヌ)〟になる寸前――危険区域(レッド)には達していなかったが、その二つ手前の要注意区域(イエロー)で染まっていた。

 広域モード――自分を中心として、半径一キロ圏内の濃度を表示できる――にしても、要注意区域(イエロー一色)だった。


(ホント、綺麗に一色だな)


 いつもなら基準値以下は黒に近い深緑色(ダークグリーン)で、霊力が濃くなるにつれて注意区域(ライトグリーン)要注意区域(イエロー)警戒区域(オレンジ)――そして、危険区域(レッド)で表示される。

 あまりに無駄なく一色に染まった画面に、ガドが調整していると言っていた理由がよく理解できた。


(あー……まぁ、何処にでも転がっている可能性があるってことだよな)


 とりあえず、ダメ元だが定期的に確認して、色が変わったところが表示されたらそこに向かうしかないだろう。

 その画面のメモ機能を起こし、ティトンはガドの家がある大よその位置を書き込んだ。

 この広い森の中だ。無作為に探して見つけられる自信は全くないので、せめて、探した範囲だけでも把握しておこうと方位磁石の向きと走って来た速度と時間から凡その現在地を追加して――


(ひとまず…………三時の方向から時計回りに行くか)


 ガドの家を中心に湖のある方向が九時から十二時の位置とするなら、現在、ティトンがいるのは三時の方向だ。

 ざっと辺りを見渡した限り、目に付くのは木の根と草ばかり。

 落とさないように端末に付けているストラップの先をベルトループに付けて上着のポケットに入れ、腕時計のタイマーを十五分にセットしてからティトンは歩き出した。自分の歩く速度は十五分で一キロぐらいになるからだ。


(霊石探し、偶に依頼はあるけど……だいたい、採取場って決まっていたなー)


 霊的な力場が高い場所は世界各地にあり、定期的に霊石の採取依頼はあった。

 ティトンも何回か受けたことがあり、その時は端末を見て――表示される色である程度の目途はつくので、それほど苦労することはなく見つけることが出来た。

 霊力が固まった物質なので、地面に深く埋まっていることは――自然災害が関わらなければ――少なく、だいたい、石ころのように転がっていたり、木の根に埋もれていたりすることが多い。




―――「探し出すのは、特殊な霊石だ。この森の霊力の濃度なら、何処かには発現しているだろう」



―――「感じるままに探せばいい」




(普通のモノと比べて感知しやすいのかな? あと、探し出すことが訓練ってことか……??)


 ティトンは歩きながら、少しずつ周囲に霊力を放ち始めた。

 走り込みで感じていた風に乗せるような感覚――周囲の霊力に触れ、さらに先へと手を伸ばしていく。

 森の中も風が吹いているので広げていくことに対しては、それほど難しくはなかった。

 ただ、少しずつ霊力を放出しているとはいえ、広げるに比例して消費も大きくなることを注意すればいい。


(このまま伸ばし続けると、もたないな)


 風に乗った霊力は足元の地面を覆い、木の根を乗り越え、木の幹を撫でて葉を揺らした。

 周囲の霊力を取り込んでいるんだろう。木々や地面の草むらからも霊力が滲み出ている。


(あ。……別に上の方まではいっか)


 つい、走っている時と同じ感覚で自分を中心に半円状に伸ばしていたが、木の枝に絡まっているわけではない。

 木の成長とともに幹に呑み込まれた可能性はゼロではないが、どれも樹齢がありそうだ。その中に埋もれていたら、ティトンの幼稚なこの方法では感知することは出来ないだろう。


(割り切って足元……根元の方に集中させて広げるしかないな)


 下に押し流す――流れ落ちた水が広がる様に、足元から範囲を周囲へと広げていく。

 先ほどよりも少し精度が上がり、探知範囲も広がった――気がした。


(よし。当分の間は、このままだ!)


 方針も決まり、ティトンはやや鼻息荒く森の中を進んだ。




 その後、一カ月のうちに幾つか霊石を見つけたものの、目的の特殊な霊石を見つけることは出来なかった――。






         ***






 ティトンは、パクリ、と朝食の食パンにかぶりつき、モグモグと口を動かす。

 その動きは機械的であり、茫洋とした視線をサラダのプチトマトに向けていた。


(全然、見つからないし……)


 〝宝探し〟を始めて一カ月ほど。

 ほぼ近辺は探し終え、幾つか霊石も見つかっていたが、ガドが満足するモノは見つけることが出来ていなかった。

 常に霊力を放出しながら探しているためか、模擬戦での霊力の操作は様になって来たと褒めてもらえたものの、肝心の霊石が見つけられていないので喜びも半減だ。

 あと、鬱憤を晴らすために刻印の方も力が入っていて、使用に問題ないとまで言われるほどに習得してしまったことも複雑な気持ちに拍車をかけていた。


(もう時間が……)


 ガドと約束した修業期間は、二年ほど。

 その期限まで、あと十カ月を切ってしまった。

 霊石を見つけても、その製作期間――受けてくれるかは分からないが――とその訓練期間を考えると、ほとんど時間がないとみてもいいだろう。

 鼻を鳴らすように重い息を吐いたティトンに、


「…………朝から、そんな辛気臭い顔でご飯を食べないでくれない?」


そうため息交じりの声がかけられた。

 ティトンが視線を上げると、呆れかえった表情でこちらを見ている母親と目が合う。

 ごくり、と口の中の物を飲み込んでから、


「別に、辛気臭い顔なんて――」

「しているわ。朝から憂鬱になるから止めて」


 ぴしゃり、と言い切られて、むっとティトンは母親を見た。

 何かしら、とにっこりとした笑みが返って来て、たまらず視線を逸らす。

 

「どうしたの? 少し前までは楽しそうだったのに……コンペに出したデザイン画やら今まで描いたものやら引っ張り出して来ていたでしょ?」

「あ、あれは……」


 ガドに頼まれて、どれを見てもらおうかとデザイン画を選んでいた時のことだ。

 結局、自分で選びきれずに母親にも意見を求めてしまい、その結果、ガドとの約束を知られてしまったのだ。


「褒めてくれたんでしょ?」

「あ、うん。綺麗だって……だから、刻印術の上達も早いんだなっていってくれたけど」


 ガドに見せたのはコンペで指摘されたことを描き直したモノと、幾何学的な模様を描いたモノだ。

 元々、〝カード〟に書く術式も、ティトンには一種のデザインのように思えて習得するのは早かった。

 インク作りの術式やガドが追加で教えてくれた刻印術も、〝カード〟の術式とはまた違ったデザインのように思えたので、覚えるのが楽しかったということも習得の速さの一因だとは思う。


「今、ちょっと変わった訓練をしていて…………それがちょっと、上手くいってなくて」


 〝()〟を制御できるほどの術具が存在することは、〝闇〟側でもあまり知られていないようなので、口にするのは憚れた。

 訓練と言ってもいいか分からなかったが、少しぼかして理由を話すと「そうなの」と母親は深くは聞いてこなかった。


「仕事の方は、成果はでているのでしょう?」

「うん。自覚できるぐらいには……顔を合わせたら、パーティを組んでくれる人も出来たし」


 ティトンが受けているのは、最初に受けた依頼と同じ何十人かの《退治屋》たちが集まって行う合同の討伐依頼だ。

 参加者は十から二十近いパーティが参加していることが多く、ティトンはそのうちの一つのパーティに声を掛けては臨時メンバーとして参加していた。

 何度か顔を合わせたことのあるパーティは、顔を見ると組まないかと誘ってくれるようになっていた。

 よかったわね、と母親は笑みを深くして、


「時間が迫っているから焦る気持ちは分かるけど、焦り過ぎないようにしなさい」

「うん……」

「今日はバイトの後、依頼を受けに行くんでしょ。ヘマして、ガドさんに顔向けできなくならないようにね」


 シャキッとしなさい、と発破をかけられ、ティトンは頷いた。









「二時、一体、牽制します!」


 ティトンはその気配に気づくと同時に〝カード〟を放っていた。


〝ギャゥッ!〟


 突然、右上方から降るように襲って来た黒い影。

 〝カード〟は紫電を纏う光球となったかと思えば網のように広がり、ソレに絡みついた。

 ベチャッと水っぽい地面に落ちる音がして、異臭が鼻をつく。


「!」


 それに向かって背後からゴォッと炎の玉が放たれる。

 一瞬で炎に包まれる影――腐肉犬(グール・ドック)の脇を通り過ぎ、先行するパーティメンバーの後を追った。


「遅れるなよ!」

「はい……!」


 数メートル先頭を走るこのパーティのリーダーの男の言葉に、ティトンは叫び返す。

 深夜の森の中。

 合同の討伐依頼に向かったティトンは、参加するパーティ中に見知った者たちを見つけ、臨時で組んでもらえないか申し出た。数回ほど似た依頼でパーティを組んだこともあってか、二つ返事で了承してくれた。

 臨時メンバーのティトンの役目は、中衛として前衛のカバーと索敵の補助だ。


「十時の方向、距離五十、隠形三!」

「よし。先手を頼む、出鼻をくじいて一気に片付ける」

「はい!」


 ティトンが隠れて潜む腐肉犬(グール・ドック)の目先に一撃を入れ、後衛の面々が追撃する。

 完全に出鼻をくじかれた腐肉犬(グール・ドック)を前衛が難なく斬り捨て、ティトンたちは次の標的に向かった。






 担当の区域の腐肉犬(グール・ドック)を滅し続け、パーティリーダーが本部に連絡を入れている時だった。




―――カラーンッ




 その鐘のような音が鳴り響いたのは。


(この音って――!)


 はっとして頭上を振り仰いだティトンは、星が輝く夜空に目を凝らした。


「げっ、アイツが来たぞ」

「あー……でも、もう終わりじゃない?」


 同じくパーティメンバーも空を振り仰ぎ、嫌そうな声や呆れた声を上げた。

 その様子から、ティトンが思い描いた人物だということを確信する。


(ジオラさん――!)


 初めての討伐依頼の中で聞いた、鐘のような音。

 その音の根源はジオラが持つランタンだ。


(そうだ、ジオラさんなら……!)


 天啓を得てティトンは夜空に目を凝らすが、かぼちゃの頭を持つ姿も炎も見えなかった。


「――了解。これから本部に戻る」


 同じく目だけを空に向けていたリーダーが、そう言うと無線を切った。


「作戦は終了だ。残っていた奴らも、コイツが滅したらしい」


 そう言いながら、空を指す。


「こ、この音って、」

「ん? 何だ、遭うのは初めてか?」


 どこか呆然と尋ねるティトンに、リーダーは片眉を上げる。


「いえ。初めての依頼の時に……」

「え? 初依頼で遭ったの?」


 うわぁ、と他のパーティメンバーたちは顔をしかめた。

 リーダーはその様子を手で制し、


「驚いただろ。まぁ、横取りはするが無作為に襲ってくるヤツじゃないから」


友好的な言葉に「いえ、その」とティトンは言葉を濁して、視線を空に向けた。


「もしかして、見たいの?」

「やめとけ、やめとけ。関わらないのが一番だ」


 リーダーとは違い、他のメンバーはあまりよく思っていないようだった。


「えっと……」


 何処にいるのか探しにいきたい、とティトンは言い出せず、口を閉ざした。


(ジオラさんに会いたいけど……でも――)


 リーダーはその様子を見て、


「戻るぞ。一応、周囲は警戒しろ」


了解、とメンバーの声を聞き、ティトンも頷いた。

 とん、とリーダーはティトンの背中を押し、


「まぁ、なんだ。本部の辺りに行けば、もしかしたらいるかもしれないぞ」

「!」


 はっとしてリーダーを見返すと、「何事も経験だな」と笑って先に歩き出す。

 ティトンは慌てて周囲を警戒しつつ、その後を追った。









 本部のテントに戻ると、森の中に散開していたパーティが続々と集まっていた。

 リーダーが代表して報告しに行き、ティトンは残りのパーティメンバーたちとテント近くにたむろっていた。


「ティトン。だいぶ、索敵範囲広がったな」

「そうね。初めて組んだ時より、移動中も出来ているし」

「! 本当ですか……!」


 辺りに視線を向けていたティトンは、ぱっと顔を輝かせてメンバーたちを見渡した。


「ああ、そうだな。最初は……まぁ何だ、索敵か攻撃か悩んでいる素振りもあったが、それもなくなっているしな」


 少し言いにくそうに指摘され、「それは、すみません……」と肩を落とす。


「最初はそういうモノよ。というか、久々に組んでビックリしたわ」

「そうだぜ。まだまだ伸び盛りなんだからよ! 」


 バンバンッと背中を叩かれ、ティトンは前のめりになる。


「が、頑張ります……!」


 そのまま、腕を肩に回された。


「で。何だ? 特訓でもしているのか?」

「え? あ、はい……紹介してもらって、色々と教わってます」


 へぇー、と目を丸くして、ニカッと笑った。


「よかったな!」


 クシャクシャと頭を撫でられて、手が離される。


「はい。とてもいい方で、親切にしてもらってます」


 自然と頬がほころぶ。

 ふぅん、と他のメンバーが興味深げに相槌を打ったところで、


「報告は終わったぞ。これで解散だ」

「うぃーす」

「お疲れ様―」


 テントから出て来たリーダーの言葉に、メンバーたちが答える。


「お疲れ様です! 今日は組んでいただいて、ありがとうございました!」


 メンバー全員を見渡して、ティトンは頭を下げた。


「おう。また今度、依頼先であったら組もうぜ!」

「そうだな。また、よろしく頼むな」


 メンバーの言葉に、リーダーも笑って頷いた。


「! ありがとうございます!」

「じゃ、私先に帰るわねー」

「あ。俺はちょっと用事が……アイツどこだ?」

「お疲れさーん」


 メンバーが解散していく中、リーダーがティトンに向かって、ちょいちょいと手招きをしてきた。


「何か?」


 駆け寄ると、リーダーは少し迷う素振りを見せた後、


「テントの反対側にジオラがいたぞ。知り合いと話していたから、まだいるだろう」

「本当ですか……!」

「ああ。ジオラに、何か用事なのか?」

「えっ……」


 ドキリとして、ティトンは言葉に詰まる。

 リーダーはさっと辺りを見渡して、


「だいぶ前に、ジオラがお前に会いにいったって噂に聞いたのを、さっき思い出してな」

「あっ……」


 恐らく、〝紹介所〟でのこと――ジオラ曰く詫びに来た時のことだろう。

 結界を張ってくれていたので会話の内容までは聞かれていないと思うが、確かに会っていることは待合場にいた《退治屋》たちに目撃されている。


「アイツは悪い奴ではないが……その本性が故に敵も多いからな。あまり、目立つようなことはするなよ」


 ポンポンと肩を叩いて、「じゃあな」とリーダーは去っていく。


「はい。ありがとうございます」


 心配してくれたことにお礼を言って、ティトンは小走りにテントを回り込んだ。


(悪霊だから、か。――でも、色んな考えの人がいるんだな)


 辺りに気を配りつつ、視線だけを動かして見渡していると、




「じゃあなー」




と。間伸びた声が聞こえ、何かが引っかかった。

 はっとして声がした方向――テントがある開けた場所と森との境に目を凝らすと、煌々とした光が森の中に入って行くのが見えた。

 揺らめく炎の光に、オレンジ色の〝かぼちゃ〟の頭――ジオラだ。


「ジっ…………ジオラさん!」


 大声を上げそうになり、慌てて音量を下げつつも鋭い声を上げる。

 とても聞こえる距離ではなかったが、まるで聞こえたようにジオラは動きを止めた。

 そして、誰かに言われたように、ふいっとこちらに――ティトンがいる方向に振り返る。


「んん?」


 カラン、とその手に持つランタンが鐘のような音を立てて、ジオラは首を傾げた。

 ティトンは他の人に見つからないように森の中に入り、ジオラに駆け寄った。

 ある程度、近づいたところで、


「――ティトンか? いったい、どうしたんだー?」


ふよふよと、ジオラはティトンに近づいて来た。

 その黒い三角帽子にとまるコウモリが、一瞬で小人の姿になる。


「ティトン、久しぶりー」


 ブンブン、と手を振る黒紫色の髪と目を持つ小人はエプリだ。


「お久しぶりです。ジオラさん、エプリさん」


 ぺこり、と頭を下げたティトンに「そうだなー」とジオラは言って、テントがある方向へ顔を向けた。

 ランタンから淡いオレンジの光が灯り、ティトンたちを覆うように広がって消えた。


「あ。すみません」


 以前と同様に結界を張ってくれたのだと分かり、ティトンは小さく頭を下げた。


「いや、それはいいけどさー。この討伐、お前も参加していたんだなー」

「はい。ジオラさんたちは、」

「散歩だよ!」


 ティトンの問いにはエプリが即答した。


「でも、全然食べられなかったねー」

「まぁ、そういう時もあるさ」


 ジオラは肩をすくめ、ティトンに顔を向けて来た。

 空いた目の奥に、煌々と燃え盛る炎が見える。

 触れれば燃やし尽くされそうな――それでいて、暖かさのある不思議な光に目を奪われた。


「修業の方はどうなんだー?」

「順調ー?」

「えっ、あ、はい……!」


 はっと我に返ったティトンは、こくこくと頷いた。


「よく、してもらってます」


 最近のことを考えると順調とは言い難いが、紹介される前よりは力はついてきていると思うので、大丈夫だろう。


「そうか。で? それで、わざわざ来たってことは、俺に何か用かー?」

「ぁ、あの……その……」


 ジオラがいると分かって居ても立っても居られず、ただ話がしたいという思いが先走って探していたので、いざ頼むとなるとどう言えばいいのか分からず言葉に詰まる。


「…………」

「?」


 モゴモゴと口籠るティトンをジオラはじっと待ち、エプリは小首を傾げた。


(相談できる人が……他の人にアドバイスを……そうしないと――)


 ガドに師事を受けていることを知るのは、母親とオットーを除けばジオラと〝紹介所〟の上層部だけだ。

 そして、その修業内容について気兼ねなく相談できそうな相手となると、ジオラだけしかいなかった。

 ガドからは既に幾度かアドバイスをもらっているので、これ以上は頼ってしまうと失望されるのではと怖くて聞けなかった。

 ぐっと息を詰め、ティトンは吐き出すように言った。


「そ、相談にのってもらいたいことがあるんです! お時間、いただけないでしょうか?!」


 勢いよく頭を下げたティトンの頭上で、


「は?」

「えぇー?!」


 思いもよらない頼みだったのかジオラは唖然とした声を、エプリは驚きの声を上げた。




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