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炎を纏ってかぼちゃは踊る  作者: かぼちゃ
第2夜 とある《退治屋》の災難?
15/33

プロローグ 新人《退治屋》、噂と出遭う

かぼちゃ、第2夜です。

また中編(10万字前後)になるかなと思います。

申し訳ないのですが、更新は不定期となります。





「では、コレで新人講習は終了だ。諸君らのこれからの活躍に期待する」


 講師のその言葉を合図に、静まり返っていた室内にざわめきが戻った。


(やっと終わった……)


 ティトン・クラコーンは一息つき、肩から力を抜いた。


「各々、受付にて身分証と鍵を受け取り、指定の討伐に申請するように」


 では解散、と言い終えると、講師はそそくさと部屋を出ていった。

 その言葉に、ティトンは緩まりかけていた気を張り詰める。


(討伐か……)


 ごくり、と生唾を呑み込んだ。

 〝ティルナノーグ紹介所〟に登録するため、その門を叩いてから三日。

 能力検査と新人講習を終えると登録は完了し、決められた討伐依頼を受けることになる。

 依頼は二人から六人のチームごとに申請し、それらが幾つか集まって依頼に向かうが、今回の討伐は少し特殊だった。

 新人《退治屋》のヘッドハンティングも兼ねているため、先輩たちとの合同となっているのだ。


(――よしっ)


 ティトンは気合いを入れて、同じく新人講習を受けていた人たち――同期と一緒に部屋を出た。

 受けていたのは二十数人ほどで、既に幾つかの集団に――チームが出来上がっていた。


(早いなぁ……)


 知り合いだよな、と視線を泳がせて話しかけやすい相手を探すも、全員が年上のようで話しかけづらい。

 ティトンは諦めて流れに沿って歩き、受付に向かった。











「お待たせ致しました。こちらがクラコーン様の身分証と鍵、そして専用の携帯端末となります」


 受付に並んで順番が来ると、受付嬢は赤茶色の瞳でティトンの顔を一目見た後に一礼した。

 そして、カウンターの下からティトンに差し出してきたのは三つ。




―――写真と名前、ランク、登録場所などが記された身分証。



―――金の紋様に一つの星(・・・・)が描かれた白い鍵。



―――手帳型のケースに収まった、手の平サイズの携帯端末。




「端末のケース内部に身分証を入れて、肌身離さずお持ちください。まず、鍵の登録をお願いいたします。霊力を流していただければ、自動的に登録されますので」


 ほとんど表情もなく、淡々と紡がれる言葉にティトンは頷いて、鍵に手を伸ばした。


(ココに来るための鍵……)


 《退治屋》の〝紹介所〟は退魔師(エクソシスト)と違い、件数が少ない。

 それも人知れない場所――〝現〟にいたティトンには想像もつかない場所――にあるらしい。

 そのため、《退治屋》たちは鍵が渡された。



 〝紹介所〟の所長――〝古き魔女〟が作り出した、特殊な鍵が。



 その鍵を使えば、どこからでも登録した〝紹介所〟に―― 一部の者たちを除いて――辿り着くことが出来るのだという。


(確か、最初の登録方法は――)


 鍵を右手で持ち、ぐっと力をこめて霊力を流す。

 一瞬、星が光ったような気がした。


「ありがとうございます。無事に登録は完了いたしました。鍵を落とした場合、自動的にケースに戻りますので、ご心配は無用です」


 受付嬢は、ケースの左上の角――ストラップを付けるような小さな穴を指した。


「帰還場所の登録は講習で説明があった通り、〝紹介所(こちら)〟に来る時に設定をお願いいたします」

「はい。分かりました」

「―――では、指定の依頼の申請手続きに移らせていただきます」

「お、お願いします」


 身分証をお預かりします、と受付嬢は手元に引き寄せ、何かを操作した後、再びティトンに差し出した。


「手続きは無事に完了いたしました。端末の方に依頼内容の詳細を送りましたので、ご確認をお願いいたします。依頼は明日の午後十時、現地集合となっていますので、時間厳守で宜しくお願いいたします」

「はい――」

「では、クラコーン様のご武運をお祈り申し上げます」


 一礼する受付嬢に「ありがとうございました」と頭を下げ、ティトンは身分証などを持って受付を後にした。

 そのまま、帰路にはつかずに待合場に足を向ける。

 待合場は依頼を確認する同期だけでなく、先輩らしき姿――彼らは値踏みするような視線を向けて来た――もあり、少し気後れしながらカウンターの隅に腰を下ろした。

 一息ついているとカウンターの向こうに店員が立ったので、ひとまず、アイスコーヒーと軽食を頼んだ。

 ひと段落ついて緊張が解けたからか、小腹が空いてきたのだ。


「………」


 鍵をカウンターに置き、ケースの内側のスリット部分に身分証を差し込む。


(画面は……ホントにスマホだな)


 端末はちょっと厚めのスマートフォンにしか見えず、その使い方については講習で受けていた。

 通信だけでなく、依頼についての情報のやり取り、各国の時刻、地図、周辺の霊力測定など――《退治屋》として活動するにあたって、必要な機能が備わっている。

 一通り、教わった機能を確認して、ティトンは依頼内容に目を通した。



 今回の依頼場所は、定期的に討伐が行われているところだ。



 《退治屋》は霊力の力場が不安定になりやすい場所――つまり、〝災級(オードラスカ)〟と化することが多い場所のこと――で定期的に悪霊の討伐(浄化)を行っており、今回、その一つが選ばれたのだ。

 あとは参加人数と参加者名――先輩の場合はチーム名もあった―― 一番近い〝紹介所〟に通じるドアナンバーなど、基本情報が載っていた。


(特に注意事項は……ない、よな)


 何度も読み返すが、初めての依頼に不安は拭いきれないティトンだった。










         ***











 翌日――討伐の夜。

 ティトンは家の近くから鍵を使って〝紹介所〟に行き、指定されたナンバーのプレートがかかったドアをくぐって現場に向かった。

 端末の地図で集合場所――町外れの森に向かうと、少し開けた場所に参加者の半数ぐらいの人たちが集まっていた。


(うっ……)


 周囲からの視線が集まり、ティトンは頬を引きつらせながら今回の指揮官の下に――簡易テントのところに向かった。


「新人のティトンです。今晩はよろしくお願いいたします」


 テントの下には、ホワイトボードに貼られた地図を見ている者や機材に向かい合っている者など、十人ほどがいた。

 挨拶をすると、ホワイトボードの地図を見ていた四人の男は振り返ってティトンを見ると、それぞれ挨拶を返してくれた。

 パソコンを操作していた女性が顔を上げ、


「身分証、提示してくれるかしら?」

「あっ――はい!」


 慌てて、端末のケースから身分証を取り出し、女性に渡す。

 パソコンの横にある機械にスライドさせ、何かを確認した後、


「――ありがとう。まだ全員来ていないから、少し待っていてくれる? 集まったら簡単に作戦とかを説明するから」

「は、はい。分かりました」


 身分証を返してもらい、ティトンはテントを後にした。

 えっと、と目だけを動かして周囲を見渡すと、何人かは目が合ったが、さっと逸らされてしまう。


(一人の人とかいるけど……)


 周りは年上ばかりしかいない上に、一人で佇む者は何処か近寄り難い雰囲気を感じ、話しかける勇気が出ない。

 そろそろと空き地の端の方――森に近い、人があまりいないところに移動した。


(うぅ……同い年ぐらいの奴っていないよなぁ……)


 木の幹にもたれ掛かり、はぁっ、とため息をつく。

 端末をウエストポーチにしまい、


(とりあえず、呼ばれるまでは確認しているか……)


 家を出る前も念入りに確認したが、心を落ち着かせようと右腰に提げている長方形のケースを手に取った。

 ケースは手の平よりもやや大きめで、中には〝武器〟である〝カード〟が入っていた。



 元退魔師(エクソシスト)だった母親から教わった、悪霊たちを滅するための武器――。



 〝カード〟には特殊な素材で作られたインクで書かれた紋様があり、霊力を流すことで記された〝内容〟が顕現するというもの。

 その効果は防御であったり、攻撃――浄化であったりと紋様によって変わり、またインクに宿る霊力によって増幅されるので、使用するインクにも気を遣っている。


(――よしっ)


 手早く確認を終えてケースを元の位置に戻し、その隣に吊っているホルスター ――そこに挿した一本の棒を確かめるように叩いていると、




「―――こんばんは。いい夜だね」




 爽やかな声が聞こえ、はっとしていつの間にか下げていた顔を上げた。


(う、ぃ……っ?)


 いつの間に近づいてきていたのか、目の前に三人の男女が立っていた。

 全員、見た目は三十代ぐらいだったが、《退治屋》が外見通りの年齢なのかは怪しい。

 声を掛けて来たのは、その中央でにこにこと笑みを浮かべている銀色の髪の男だろう。

 肩まで伸びた銀色の髪は月の光を受けて輝き、赤い目は真っ直ぐにティトンを見つめていた。


「こ、こんばんは……」


 突然、声を掛けられたことと、すれ違えば誰もが振り返る美貌を持つ彼にティトンは頬を引きつらせながらも何とか笑みを浮かべた。

 さらに、スラリとしたスタイルの良さはどこかのモデルのようだったが、身の丈はある大剣を背負っているので《退治屋》なのだなと納得する。

 その隣で、じっとこちらに赤い目を向けているのは、金色の髪の男だ。

 銀髪の男に劣らず整った顔立ちをしている上に、三人の中では一番背が高く――何故か、無言で見下ろして来るので威圧感は大きい。

 そして、金髪の男の反対側には、銀髪の男の後ろからやや身を乗り出すように顔を出している萌黄色の髪の女性がいた。

 こちらの女性も目を惹く美貌を持ち、ぱちぱち、と瞬く金色の目は真っ直ぐにティトンを見つめている。


(な、なんだ……?)


 モデルや芸能人と言ってもおかしくはない美男美女に見つめられ、ティトンは目を泳がせる。

 その様子に銀髪の男は笑みを濃くして、


「ごめんね、急に。離れたところにいるから気になって」

「えっ……あ、すみません」


 居たらいけない場所だったのかと反射的に謝ると、「あ! 違うんだ」と銀髪の男は少し慌てた。


「新人の子、だよね? 一人のようだから、よかったら一緒にどうかと思って声をかけさせてもらったんだけど」

「お……私と、ですか?」


 思わず素が出かけたが、寸前で呑み込んだ。


「うん。初めてだと色々と緊張もするだろうし、嫌ならいいんだけどどうかな?」


 ティトンは目を瞬いて、三人を見渡した。


「……えっと……ご一緒してもいいんですか?」

「一応、そういう場でもあるからね。構わないよ」


 銀髪の男がにっこりと笑うと、隣の金髪の男は小さく頷いた。

 女性も何も言わないことから、話し合ってから声を掛けて来たのだろう。

 知り合いも同年代もおらず――何処となく探られるような気もして――誰にも声を掛けられないティトンにとって、彼らの申し出は有難かった。

 ティトンは唇を一文字にして、鼻で息を吸い、


「よ、よろしくお願いしますっ」


ばっ、と勢いよく頭を下げた。











「僕はサンゼで、こっちはアミド――で、彼女はユイリアだ。僕たちは三人でチームを組んでいる」


 銀髪の男――サンゼは、親しげな声色で自己紹介をした。

 名前を呼ばれ、金髪の男――アミドは会釈をし、「よろしくねー」と女性――ユイリアは小さく手を振って来た。


「ティトンと言います。未熟者ですが、よろしくお願いします!!」


 また頭を下げたティトンに、サンゼはくすりと笑いを零し、


「そんなに緊張しなくてもいいよ。討伐はこれからだし」

「あ、はい……」

「もう少し時間はあると思うから、討伐時のフォーメーションについて話したいんだけど……言える範囲で、君が使う武器について聞いてもいいかい?」

「はい! 大丈夫です」


 ティトンは、〝カード〟とホルスターに挿してある〝柄〟が武器だ。

 どちらかと言えば、悪霊に接近する近接戦闘と中距離から放つ〝カード〟の攻撃が得意だ。

 サンゼたちは、サンゼが前衛でアミドが補佐と中衛、ユイリアが後衛兼周囲の警戒を行っているらしい。

 今回はティトンの初依頼ということで、ティトンが前衛でその補佐をサンゼ、さらに中衛からアミド、後衛兼警戒をユイリアが行う形になった。


「私はいつもと一緒ね」


 ユイリアはそう言うとティトンに笑みを見せ、


「今日は周囲の警戒は任せて。君は訓練通りに悪霊を倒せるか、確認してね」

「はい。ありがとうございます」

「………」


 頷くティトンを鼓舞するように、とんとん、とアミドも無言で肩を叩いて来る。

 アミドを見上げて笑みを返していると、


「―――時間だ! 全員、集まってくれ!!」


 テントの方から召集がかった。

 空き地に散らばっていた《退治屋》たちが、ぞろぞろとテントの方に集まっていく。

 サンゼはテントを一瞥して、ティトンに振り返ると、


「じゃあ、行こうか」











 今回の討伐は、現在、最も霊力の力場が不安定なところを中心にしてチームを展開させ、徐々にその範囲を狭めていくというもの――つまるところ、〝災級(オードラスカ)〟の発生源になりそうな場所に突撃していくということだった。


「今回の討伐みたいな時は、こういう作戦が多いんですか?」


 テントを出て、指示された出撃場所に向かいながら、ティトンはサンゼに尋ねた。


「多いと思うよ。特に、今回は力場の不安定さが大きくなってきて、〝災級(オードラスカ)〟と化す気配もあるから」

「そうなんですか……」

「悪霊も集まっていて、そこに向かう悪霊もいるしね――ユイリア、周囲には十分気をつけて」

「分かっているわ」


 サンゼにユイリアは強く頷いた。


(〝災級(オードラスカ)〟が……じゃあ、中心部には〝主役(プロタニス)〟になりえそうな悪霊がいるかも……)


 不安が顔に出ていたのか、とん、と肩に手を置かれた。

 その手の持ち主を振り返ると、こちらを見下ろすアミドと視線が合う。


「よくあることだ。いい経験になるぞ」


 大丈夫だ、とその目が言っている気がして、ティトンは不安が和らいだのを感じた。











 作戦の開始時刻となり、ティトンはサンゼたちと共に示された場所――中心部に向かって走り出した。


「よしっ、いいぞ!」

「はい!」


 悪霊を〝カード〟を放って滅すると、サンゼが賞賛の声を上げた。

 ティトンは緊張で顔をこわばらせていたが、小さく笑みを返す。


「そろそろ緊張も解けてきたかな」

「そう、ですかね……」

「……固さがなくなってきている。いい感じだ」


 サンゼだけでなくアミドにもそう言われ、ティトンは照れた笑みを浮かべた。

 ユイリアが悪霊を発見して誘導し、サンゼがやや先行する形でティトンと一緒に先行してその後をアミドが追う形で討伐を行っているが、順調に進んでいる。

 右耳に嵌めている小型通信機(インカム)から――作戦開始前に渡された物だ――指揮官の指示や状況も聞こえ、他のところも問題はないようだ。




 だが、作戦開始から一時間ほどが経って中心部に近づいて来た頃、異変が起きた。




「五時から三体、九時からは二体が接近! さらに一時と十時の方向に気配多数!」

「アミド、二体は任せた! ティトン君、三体に牽制だ」

「了解――」

「はい!」


 ユイリアの情報にサンゼが指示を出す。

 ティトンは振り返りざま――進行方向が十二時なので五時方向は右後ろだ――〝カード〟を放った。

 〝カード〟は木陰から迫っていた大きな影の鼻先で、バチッ、と火花を散らせる。


〝ギャッウンッ!!〟


 出鼻をくじかれた影――大型犬よりも一回り大きな獣型の悪霊は、滑る様に近づいたサンゼによって一太刀で切り伏せられた。

 追随する二体目と三体目にも立て続けに〝カード〟を放つが、三体目は大きく横に飛び退いてティトンの方に突進してきた。


「ッ!」


 とっさに身を翻して避け、振り返りながらホルスターから棒を引き抜き、


〝ギャウッ!〟


 地面から飛び出すように生えた黒い〝何か〟に貫かれた姿が見えてティトンは動きを止めた。


「ぁ―――」


 どうっ、と悪霊は倒れ込むと、そのまま、霞となって消えていく。

 その向こう側で、「大丈夫か?」と問うようにアミドが立っていた。

 どうやら、自分の分は早々に片付けたらしい。

 何となく気まずくなり、少し視線を逸らして頷いた。


「ユイリア、前方の状況は?」

「数が増えているわ。このままだと、発生するのも時間の問題ね」

「そうか。――少し、速度を上げよう」


 サンゼのその言葉で、ティトンたちは再び走り出した。


「発生する確率、高いんですか?」

「そうだね……空気も変わって来てるから、高まってはいるけど――」


 サンゼは少しだけ振り返り、


「けど、まだ防げる可能性の方が高いから、大丈夫だよ」


 そのためにも早くいかないとね、と小さく笑った。

 あまり、切羽詰まった様子はないので、ティトンは少し肩から力を抜いた。

 小さく頷きを返し、前方に視線を向けた時だった。




―――ゴォォーッ、




と。突然、夜空に炎が立ち上った。


「えっ……!」


 ティトンは声を上げ、足を止めた。

 森の中で炎を出せば、山火事の危険が――何より、それはティトンたちが向かっている先、中心部の辺りで燃え上がったからだ。

 一体何が、と疑問を口にする暇もなく、小型通信機(インカム)から声が聞こえた。




『ちっ! 〝かぼちゃ〟が来たぞ――っ!』




 心底嫌そうな――舌打ち交じりの声だった。


「〝かぼちゃ〟……?」


 ぽつり、と呟くと、「ああ、彼か――」と苦笑しながらサンゼは呟いた。

 ティトンが足を止めたことで、サンゼたちも足を止めていたが、ティトンはそのことに気付かずにサンゼたちを見渡した。


『何で来るんだよ?! 呼んでねぇぞ!』

『あの野郎、中央でやりやがったぞ!!』


 その間も小型通信機(インカム)から次々と聞こえてくるのは、悪態をつく声だ。


「〝かぼちゃ〟って……?」


 何ですか、と尋ねると、サンゼは形の良い眉を片方だけ上げた。


「講習で受けていると思うよ? 必須事項だから」

「講習で……」


 講習、必須事項、〝かぼちゃ〟――困惑した頭の中でグルグルと言葉が回る。

 ふと、思い出したのは、最重要事項として教えられたことだった。




―――〝ジャック・オー・ランタン〟の《退治屋》。




 悪霊でありながら〝魔女〟の庇護の下、悪霊(同属)を滅する《同属殺し》。

 現在、存在するのは二人で、そのうちの一人が〝ジャック・オー・ランタン〟――つまり、〝かぼちゃ〟だった。


「えっ、まさか――」


 ティトンが驚いて目を見開くと、サンゼは笑って頭上を振り仰いだ。


「その〝彼〟が来てるんだよ――」


 ティトンもつられて頭上を見上げた。

 前方の上空では、相変わらず、夜空を照らすように炎が躍っている。


「あ、あれって大丈夫なんですか?」

「悪霊以外に延焼はしたことないから、大丈夫だよ」

「あの様子だと、もう発生(・・)の心配はないわね」


 ふぅ、とため息をつくユイリアに視線を落とし、


「………あの炎で、悪霊を滅しているんですか?」


 〝かぼちゃ〟の力については、一通り、講習で教えられてはいたが、実際に目にしてみると本当にそうなのかと言う疑問が口から出てしまった。


「そうよ。アレが〝地獄の炎〟よ――」

「地獄の、炎……」


 ごくり、とティトンは生唾を呑み込んだ。

 サンゼはティトンたちに笑みを向けて、


「さて、もう心配はいらないけど、僕らも依頼を遂行しよう」











 ティトンたちが中心部――朽ちた建物の残骸が散乱した場所に着くと、既に半数ほどが辿り着いており、悪霊の討伐を行っていた。

 悪霊の数(その数)は、だいぶ少ない。


(なんだ、コレ……)


 そして、上空には炎の煌めきが舞い、オレンジ色の光に満ちていた。


「……あとは任せても大丈夫かな。周囲を警戒して、漏れがないように見回ろう」


 呆然と辺りを見渡していたティトンは、サンゼのその声ではっと我に返った。

 不思議な光景と、それを見ても平然としているサンゼたちに戸惑ったものの、依頼も大詰めだ。

 あまり、質問ばかりして煩わせるわけにもいかない。


「分かったわ」

「は、はい!」


 歩き出したサンゼに続こうと、一歩、足を踏み出した時だった。




「よぉー。久しぶりだなぁ、サンゼ」




 何処からか、間伸びた声が聞こえたのは――。


(―――えっ……?)


 はっとして、声がした方向――頭上を振り仰ぐと、ふよふよと降りて来る者がた。

 かぼちゃの頭に黒い三角帽子をかぶり、マントを纏った悪霊――〝ジャック・オー・ランタン〟だ。


(こ、こっちに――っ?)


 真っ直ぐにティトンたちがいる方向に――サンゼの名前を呼んでいたので――向かってくる。

 近づいて来ると、身長は一メートル半ばほどで、マントから出た白い手袋に煌々と輝く炎を宿す〝ランタン〟を持っていた。

 そして、その肩にはコウモリが一匹とまっている。

 

「久しいね。元気そうでなりより」

「………」

「相変わらずね、あなた――」


 足を止めたサンゼはにこやかな笑みを返し、〝ジャック・オー・ランタン〟に向き直った。

 アミドは小さく頷き、ユイリアは呆れた声を掛けている。


「今日は依頼があったのかい?」

「いぃーやぁ、散歩していただけだぜぇ」

「あらあら」


 サンゼたちの様子から、知り合いのようだった。


(いや、それもそうか………でも、なんか親しげな感じが……)


 ティトンは両者の間で目を泳がせ、そのやり取りを見ていたが、


「んん?」


くるり、と〝ジャック・オー・ランタン〟がこちらに目を――空いた穴を――向けて来たので、びくりっ、と肩を震わせた。

 すぅーっ、と空を飛んで近づいて来る〝ジャック・オー・ランタン〟に、ティトンは思わず後ずさった。


「で? コイツはなんだんだー?」

「新人の子だよ。今日はヘッドハンティングも兼ねた討伐だからね」

「へぇー」


 サンゼの手がそっと背に触れ、ティトンは肩の力を抜いた。

 どうやら、知らないうちに緊張していたようだ。


「こ、こんばんは……」


 じぃ、と見つめられている気がして――目玉がないので定かではないが――何となく挨拶をすると、こてん、と頭を横に倒した。


「新鮮だなぁ、その反応」


 カランカラン、とランタンが揺れる。

 その音は〝ジャック・オー・ランタン〟の代わりに笑っているようだった。


「新人なぁー」


 まじまじ、と見るように〝ジャック・オー・ランタン〟はかぼちゃの頭を上下に揺らした。


「な、何か――?」


 ひくっ、と頬を引きつらせてティトンは尋ねると、




「お前、ドエムかー?」




「―――はっ?」


 全く、予想していなかった言葉に、ぽかん、と口を開けて、ティトンは〝ジャック・オー・ランタン〟を見つめた。




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