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玉座の間の衝撃から一転。俺は王の部屋の前で頭を抱えていた。

あれから王は、あの突然現れた男を引き連れて自室に籠られている。危険だから警護を付けさせてほしいとお願いしたのだが、聞き入れて貰えず今こうして部屋の前で待機しているという訳だ。

「……アイツが、勇者だと……?」

あの時王は確かにあの男の事を勇者、と呼んだ。

一体どういうことなのか。

あの男は誰なのだ。どこからやってきたのだ。

何故あの男が勇者なのか……考えれば考えるほど分からない。喜びの絶頂から一転、絶望に突き落とされた気分だ。

「はぁ……」

「こら、警備はどうしたんだ!」

「あっ! 申し訳ありませんただ今…………フレイア……」

注意されたのかと思い慌てて顔を上げると、わざと怒ったような顔をしているフレイアと目が合う。なんだフレイアか……と、再び壁にもたれかかる様にして膝を抱えて座ると、フレイアも俺の真似をして隣に座る。

「その……さっきの、あれ。びっくりしたね!」

「……そうだな」

「えっと……お父様、中で何話してるんだろうね?」

「……勇者について、じゃないか?」

「あ、そ、そうだよね……はは……」

フレイアが一生懸命励ましてくれようとしているのは分かる。だが、俺は今フレイアに合わせる顔がないんだ。

「フレイア……」

「ん? なに?」

「……ごめんな。勇者になれなくて……」

膝を抱える手にぐっと力が入る。そう、俺はずっと勇者になりたかった。それがフレイアと約束した夢だったんだ……。

幼い頃にフレイアと一緒に見た絵本。そこには魔王や魔物どもと勇敢に戦う勇者と、勇者に守られる美しい姫の姿が描かれていた。

『私、こんなきれいなお姫さまになりたいな!』

 フレイアがそう言ったので、ならばと俺は言った。

『だったら、俺が勇者になってお前を守ってやるよ! 魔王も魔物も俺がやっつけてやる!』

『本当!? 約束だからね!』

『あぁ、これは俺たちだけの夢だ!』

時が経ち、現実を知り騎士となった俺の元に舞い込んできた勇者という夢……。それが一瞬のものとなってしまった。

せっかく、せっかくフレイアとの夢を叶えるチャンスだったと言うのに……!

「ごめん、フレイア……ごめん……」

俺は、自分が情けない。と同時に、降って湧いたような奴に勇者の座を取られた悔しさと虚しさで涙がこぼれそうだった。フレイアに、こんな顔は見せられない。

「俺は大丈夫だから……早く部屋に……」

突如、フレイアが俺に抱き着く。温かな体温が服越しにでも伝わる。

「ばか……バカアベル……」

「……バカ?」

「バカだよ、勝手に謝ってさ。私の気持ちなんて、知りもしないで……」

フレイアの、気持ち?俺が勇者になれなかったことで、フレイアは俺に失望してしまったのかと思っていたが……違うのか?

「夢を覚えててくれたのは勿論嬉しいけど、でも、私は別にアベルが勇者じゃなくたって……」

「フレイア、それってどういう……」

と、言いかけたところで突然王の部屋の扉が開く。俺たちは慌てて立ち上がると扉の方に注目する。

扉からは王に続いて、例の勇者と呼ばれた青年が出てきた。

「おぉ、アベルにフレイアもいるのか。丁度良い。勇者様をご紹介するから、入れ」

そう言うともう一度部屋の中に入って行く王。一方の青年は頬を掻きながらぼうっとこちらを見ている。

……何か言いたいことでもあるのか?

「フレイア、先に行っててくれ」

「え、えぇ……」

取りあえずフレイアを先に部屋の中へと行かせ、勇者の青年と対峙する。

「何か言いたいことでも? 勇者、様?」

俺が棘のある言い方で尋ねると、青年は呆気にとられたような顔をしてから笑う。

「いや別に……ただ周りを見てただけ」

「では中へお入りください。王がお待ちですので」

「まだ話すのか……はぁ、しょうがないなぁ……」

ぶつくさ文句を言いながらも部屋に入って行く青年。……本当にあれが勇者だと言うのか。俺には到底そうは思えない。

「アベル、何をしておる!」

「はっ、ただ今参ります!」

王からの催促の声を受けて、俺は慌てて扉を閉めたのだった。

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