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日常

 晴れた日の午後。俺はいつも通り騎士団員としての責務を果たしていた。

「おーい、アベルー!」

遠くの方から声をかけられ振り返る。誰かが長い城の廊下を、走ってこちらへ向かってくるのが見える。よくよく見てみればどうやら見覚えのある顔のようで、俺は安心しつつ手を振る。

「おいキルシュ。廊下を走るとまたメイド長に叱られるぞ?」

走ってきたのは同僚のキルシュ。俺と同じ金色の髪が特徴の青年騎士団員だ。違うのは俺の髪はコイツみたいにくるくるとした巻き毛ではないと言うことか。

「さっき叱られたから大丈夫! そんなことよりお前、騎士団長になるんだって? すごいじゃないか!」

「なんだ、もう知っているのか。ついさっき決まったばかりなのに」

俺の制服の胸に付いている、真新しい金色の星の形のバッジが光る。これは騎士団の中で最も地位が高い騎士団長であることの印となっており、俺は本日より晴れて騎士団長という訳だ。正確に言えば30分前から騎士団長、かな。先ほど貰ったばかりなので、実際の所俺にもあまり実感はない。

「アベル。騎士団長就任おめでとー」

 キルシュの後ろからひょっこりと顔出したのは、これまた同僚のシード。俺と同じ青い目をこちらにじっと向けている。

「リュート、ありがとう。君も知っているのか」

こんなに短い期間にここまで広まるとは、何だか照れ臭くなり頬を掻く仕草をすると、リュートがちらりとキルシュの方を見て指さす。

「うん、キルシュに教えてもらった。キルシュ皆に言ってたよ」

「あっ、バカ、シード!」

「皆って……一体誰に教えたんだよ、キルシュ」

「いや~……」

決定してからまだ30分だぞ?全く……。そしらぬ顔をしているキルシュを問い詰めようとすると、ふいに声をかけられる。

「やぁ、アベル」

「グラハムさん!」

 声をかけてきたのは俺の先輩騎士に当たるグラハムさん。灰色の髪と物憂げな紫色の瞳が特徴の、騎士団内外で大人気の人だ。俺の尊敬している先輩でもある。

「聞いたよ。騎士団長に決まったんだってね。おめでとう」

「ありがとうございます。しかし本当は俺ではなくグラハムさんがなるはずでしたのに……」

 前騎士団長が怪我で引退し次の騎士団長を決めると言う話が出た時、誰もが次の騎士団長はグラハムさんだと思っていた。勿論俺もそう思っていたのだが、結果は皆の想像とは違う形になった。

 グラハムさんは、騎士団長を辞退した。そしてその結果、俺が騎士団長となったのだ。

「僕は皆をまとめられるような人柄ではないし、第一、君が誰よりも努力しているのを知っていたからね。是非君をと推薦したんだよ」

俺にはグラハムさんの様な才能に恵まれなかった。だから何とか近づこうと日々鍛錬に励んできたわけだが……それがこういう結果になってしまうと、少し複雑だな。

「そんな、俺は本当に努力だけが取り柄で……。グラハムさんは素晴らしい人です。俺の憧れなんです」

「はは、それは嬉しいな。ありがとう。ではまたね」

 グラハムさんは穏やかな笑みを浮かべながらその場を去ろうとするも、ふと、何か思い出したように足を止めて振り返る。

「あ、そうそう。団長決定の知らせはどんな方法で行われたんだい?」

「え? いつも通り団長室で前団長から直々に……」

 騎士団の伝統として、団長決定の知らせは団長室において前団長から直接言い渡されることになっている。今回も伝統と同じように行われたが、何かあったのだろうか。

「あれ、そうなんだ。僕が知った時にはすでに食堂のおばちゃんからメイド長にまで知れ渡っていたようだから、今回は何か特殊なことをしたのかと思っていたけど……」

 どうしてだろうね、と言い残してグラハムさんは別の仕事があるとかで去って行ってしまった。

 な、何故そんなにも知れ渡っているのだ……と考えたところで一人、心当たりがいるのを思い出した。

「……キルシュ!」

「すまん! 嬉しくってつい!」

 キルシュに文句を言おうとするも、ものすごい勢いで頭を下げられる。全く、仕方ない奴だなぁ……。そんなことを言われたら、怒るに怒れないじゃないか……。

「まぁ、いいよ。許す」

「アベルってキルシュに甘いよねー」

「やめてくれ」

三人でやんややんやと騒いでいると、背後から聞き覚えのある女性の声がする。

「アベル!」

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