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リトル・デビル2

 転生してから一年が経った。

 高校生夏夜だった前世の私はショッピングモールでのテロ事件に巻き込まれて銃殺された。

 そして、今はこの冒険RPGの世界、フロンティアクエストの世界に転生した。

 卵から孵って一年。

 無事に魔王軍に就職した私はリトル・デビルとして、何不自由のない生活を送っている。

 神様の言った通り、魔王城はとてもいい雇用先だ。

 周りの魔族たちは皆個性的だけど、良い人ばかりだし。

 給料もよく、まだまだ新米社員の私には勿体ないくらい綺麗で広い部屋を使わせてもらっている。

 仕事も至って上々。

 ここ一年で五回くらい勇者に殺されたけど、それも大した問題じゃない。

 直ぐに生き返れる最近はもう生死に関する概念がかなり緩くなっていた。

 今は城の廊下を歩いている所だ。

 今日の仕事終わりを事務のブラックドッグさんに伝えるべく、事務室に向かっている。

――ここの生活にも慣れたなー。

 雇用面接を受けた時は上手くやっていけるか不安だったのに。

 周りは凄い魔族ばっかりだったし、正直、スライムレベルの私がやって行けるのか解らなかったから。

 ~面接~

 広間の中央。

 王座に座る魔王様と。

 階段の下に浮いている私。

 魔王様は長い黒髪と頭に二本の角がある、とても人間に近い姿をした、全身真っ黒な服装の魔王様です。

「其方、名を何と申す。」

「リトル・デビルです!」

「先日、ロゼットが孵した悪魔と言うのが其方か?」

「はい!」

ロゼットさんと言うのは私が卵の時に育ててくれていた、この世界での私の母親みたいな魔族のことです。

「ロゼットが育てた卵であれば、少なからずの力は持っているであろう。だがしかし、我が下部に半端なものはいらぬ。よって其方に何ができるかを示せ。」

「はい!えっと、じゃあスキルを!」

「ほほう!早速スキルを使うか!よかろう、余に唱えてみよ!!」

「はい!!では行きます!スキル発動!呪いの夢!」

 前に両手を突き出して、そう大声で唱える。

 小さな黒い手から紫色の靄が溢れだし、雲のように巻き上がった靄は魔王様に向かって飛んで行った。

 しかし、

 

 ブワァァ!!


 魔王様がマントを翻すとその靄はあっさりと消し去られてしまった。

「あっ!」

「あまいな。こんなことでは我が軍には入れぬ。」

 魔王様がドヤ顔で言っていると、吹き飛ばされて靄の断片が魔王様の顔に飛んでいく。

 腕を組んで、目を閉じている魔王様はそれに気づいてないらしい。


 ふあふわふわふわ


 飛んで行った靄は魔王様の顔に当たって消えた。

「良いか?真のスキルと言うのは相手に感ずかれぬように使うものであり、」

「・・・。」

「聞いておるか?」

「あっ、はい!聞いてます!」

「其方が今唱えたのは睡眠魔法であろうが、それらの類は長距離より近距離の方、が、」

「・・・。」

「余で、あれば、一撃でかく、実、に、」

「・・・あの、魔王様?」

「ゆうしゃな、ぞ、ありいかで、あ、」

「ま、魔王様!?」

「Zzz」

「寝た!!」

 どうやら魔王様の顔に飛んで行った少量の靄が本当に効いてらしい。

――えー、初めて使ったのに。

 よもや魔王を眠らせてしまうとは。

 撃沈した魔王は目を閉じたまま動かない。

 しかし、困ったことに私は呪いの解き方を知らなかった。

 昨日産まれたばかりで、スキルを使うのも今日が初めてだ。

――どうしよう・・・。

 やがて、眠りに落ちていた魔王様がの顔が歪み始めた。

「ま、魔王様?大丈夫ですか?」

「Zzz、Zzz」

「魔王様ー?」

「く・・・」

「く?」

「近寄るで、ないわ・・・触手生物ごとき、が、余に盾突こうなどっ、」

 どうやら夢にうなされているらしい。

 ダダ漏れの寝言の中で魔王様が苦しそうにもがいている。

「ま、また其方の仕業か!?よ、止さぬかロゼット・・・!!そ、其方まだ、あの事を根に持って、」

「あの、」

「な!?どこへ行くロゼット!?か、鍵まで閉めよったな・・・!?だ、出せ、出さぬか!ひっ!?」

「大丈夫ですか!?」

「来るな、や、止めろっ、こ、この、タコ風情がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ザラアーキぃぃ!!」

「魔王様ぁ!?」

 魔王様の目が覚醒したように開かれると、タコに対する絶叫が広間中に響き渡った。

 同時に、何やら聞き覚えのあるような呪文が魔王様の口から聞こえてくる。

 そして本当に魔王様の手から紫色の光が出てきたから驚きだ。

 放たれた紫色の光は私の頭上をかすめ、広間の外に出て行った。


ビュウゥゥゥゥ!!ドゴっ


「ギャアアアアア!!」

 大広間の外でザラアーキが誰かに直撃したらしい。

――あぁ、罪のない命が犠牲に。あとで蘇生しよう。

 私は夢の中で唱えたはずの魔法が自分の部下に直撃したことなど知りもしない魔王様を見た。

 夢から覚めたらしい魔王様は大量の汗を流しながら私の方に目を向けてくる。

 かなり真剣なまなざしだった。

「余は、何か言ったか・・・?」

「・・・いえ、何も。」

「何も、聞いておらんな?」

「・・・聞いてません。」

 真剣過ぎるまなざしと威圧感で魔王様の目を見ることはできなかった。

 顔を完全に逸らしたまま大嘘をつく。

――さっきのは、聞かなかったことにしよう・・・。

 そう心に決めた私であった。

 一方、現実に戻ったことを理解したのか、椅子に座り直した魔王様は止まらないのであろう汗を拭いながら言った。

「中々やるではないか。しかし、この程度で覚めてしまう呪いなど取るに足らぬ!!」

「す、すいませんでした。」

 語尾がやたらと強い言葉だった。

 取り繕おうとしているらしいが汗は今だに止まっていない。

――魔王様、タコ、嫌いなんだ。

 聞かなかったことにしたいのに忘れられない!

 人それぞれ好き嫌いがあることなど当然の事なのに。何故だろう、この事実がすごく重い気がするのは。

 ちらほら出てきたロゼットさんの名前については触れないでおこう。

 それは魔王様の為であり、まだあまり彼女のことを知らない私の身の為でもある。

 しかし、これはもう駄目かもしれない。

 魔王様を呪った挙句、まさか辱店まで知ってしまったとなると

「だが、この余に一撃食らわせたのもまた事実!よって、我が軍に所属することを認めようぞ!!」

「マジですか!!」

「む?」

「いえ、本当ですか?」

「あぁ!余が認めよう!」

「ありがとうございます!!」

 床に降りて土下座した。

 思わずこぼれた感激の言葉。

 私の就職はこうして決まったのであった。

「しかし、一つ条件がある。」

「はい、何でしょう?」

「今日のことは、誰にも言うな・・・。」

「あ」

「良いな?」

「はい。」

 聞いていないと言ったのにどうやら信じられなかったらしい。

 魔王の威圧と必死さに押されながらもこうして、リトル・デビルは魔王軍の一員となった。

~回想終わり~


 そんなこんなで就職してから一年。

 今日もさっき勇者の所に行って呪いをかけてきました。

 後ろから不意打ちで攻撃したので今日は死ぬことなく無事生還。

 呪いの夢を一発撃っただけでMPが0になってしまったので、呪文を唱えた後は勇者の仲間に邪魔されてしまい、勇者を仕留めることはできなかった。

 勇者の仲間は三人だ。

 賢者、魔法使い、盗賊。

 その内の魔法使いに返り討ちにされてしまった。

 でも、呪文をもろに受けた勇者は暫く眠ったままだろう。

 仕事を初めて気づいたけど、勇者は正直、周りの仲間よりずっと弱い。

 何せ、私の呪文で軽く十時間は苦しんだことがある。

 他の仲間なら十分くらいしか持たないのに不思議な話だ。

 勇者が眠ったのを陰で見ていた時、彼の仲間たちたちが眠っている彼を見て言った。

「またなの?本当、弱いわね。まさかリトル・デビルの魔法でこんなに苦しんでるなんて有り得ない。」

「どうしましょうか?」

「置いて行くに決まってんだろ。待ってると街にたどり着けなくなんぜ、全く。」

「さっさと行きましょう。あたし、お腹すいたわ。」

「では次の街で食事にしましょうか。こんな事を言ってはいけないと解っていますが、勇者さんがいるとどうしてもお金が無くなりますからね。出来れば、これ以上は一緒にいたくないですよ。」

「何でこんなのに付いて行かなきゃなんないのかねぇ。一層、モンスターに食われちまえばいいのに。」

「あたしたちだけでも旅できるんじゃない?」

「ダメですよ。魔王を倒すためには彼の聖剣が必要なんです・・・はあ。」

「何でこんな馬鹿に聖剣なんか・・・。」

 なんて酷い扱いだろう。

 最初、その光景を見た時はいたたまれなくて思わず呪いを解いてしまった。

 起き上がった勇者は仲間がいなくなったことに気づいて、涙目になりながら彼らの跡を追っていった。

 転生して一月くらいで知ったけど、何故かこの世界の住民はみんな、勇者に対して無情に近い扱いをする。

 まだ勇者のことをよく知らないので何故かは解らないけど、彼に助けられたと言う村人たちまでもがそんな感じの扱いだ。

 まぁ、彼の扱いの酷さにも段々慣れてきて、最近は普通に呪文をかけて帰ってくるようになったけど。

 何度か殺されているのでその恨みも少しある。

 違和感も長らく付き合えば日常になるのだ。

――しかし、やっぱりこのままじゃ駄目だな。

 MPは魔法一回分しかなくて、呪文も普通の人間相手なら十分程度で解けてしまう。

 これじゃあ、まともな戦績は上がらない。

 次の勇者討伐までに攻撃力を上げよう!

 何か武器でも使える言うになれば、少しは違うかな。

「武器かあ。剣とか槍とか弓?でも、私、じゃなくて僕の大きさだったら剣は持てないし。じゃあ槍か弓かな?」

 考えながら廊下を飛んでいた。

 因みに今、一人称を言い換えたのは転生してからリトル・デビルが性別不明だと知ったからだ。雌でも雄でもないので一人称を変えることにした。

 前世の時から僕と言う一人称は割と男女ともに使える。

「あ、小さいハンマーとかもアリかな?付け爪とかも!あとはー、」

「どうしたの?リトル・デビル。」

 考え込んでいると曲がり角でロゼットさんに声を掛けられた。

 光のように淡い黄色の髪がふわりと波打っていて、色白な肌に垂れた目がとても綺麗な魔族。髪と同じ色のドレスを着ていて、黒い目の奥には人間を窒息死させる力を持つ三日月が潜んでいる。

 彼女には水牛のような角と悪魔の尾がある。

 背が高くて、人間が見ればあっさり死んでしまいそうな美女。

 彼女がロゼットさん。

 魔王軍における四天王の一人であり十八議会の一人、そして、現在の私のお母さんみたいな人。

「ロゼットさん、ごきげんうるわしゅうございます!」

「あら、リトル。そんな他人行儀は止めてと言ったでしょう?お前はわたくしの可愛い子なのだからお母様とお呼びなさい。」

「で、でもロゼットさん、貴方はわた、僕の上司様です!本当はさん付けで呼ぶのも恐れ多いのに。」

 そう、本当は四天王であり十八議会の一人であるロゼットさんをさん付けすること事体、良くないことなのだ。

 以前まではずっとロゼット様と呼んでいた。

 でも、そうしたら、拗ねたロゼットさんが部屋から出てこなくなってしまった。

 あの時のロゼットさんは十八議会議にも出ず、勇者を討伐に来る連中の相手もせず、仕事を一切しなかったため、魔王軍が滅ぶのではと言う噂すら流れたほどだ。

 その原因が私だなんてことは誰も知らない。

 知られた時点で私は上司のモンスターさんたちからぼこぼこにされてしまう。

 当の私すら、ロゼットさんに実際会いに行くまだ知らなかったほどだ。

 そんなことがあったので、今はロゼットさんと呼んでいる。それで何とか納得してもらっている。

「もお、いけない子。二人きりの時くらい良いではないの?」

「うぅ、申し訳訳ありません。」

 項垂れて謝る私をロゼットさんが抱きしめた。

 花のようないい香りに包まれる。

 頬ずりされて、少し照れ臭くなった。

「ふふ、私の可愛い小悪魔。今日も勇者の所へ行ってきたの?」

「はい!魔法使いさんに、コテンパンにされてしまいましたが・・・。」

「あら、あの豚女に?いけないわね、家畜に分際で私の子に手を上げるなんて。どうしてくれようかしら?」

 ぶるっ

 急に物騒になった空気に思わず身震いした。

――いけない、ロゼットさんにこういった話は厳禁だった!!

 慌てた私は何とか取り繕う。

「だ、大丈夫ですよ!!ロゼットさん!!」

「いいえ、そんなことなくってよ・・・わたくしは、私は!!」

「ロゼットさんをお母様って呼べるよう、頑張ってしゅっせしますから!!」

「えぇ、頑張ってしゅ・・・え?」

「いつか勇者を倒して、魔法使いにも勝てるようになって、しゅっせして、皆さんの前でもロゼットさんをお母様って呼ばれるように頑張りますから!!だから、大丈夫ですよ!!」

「・・・!!」

「そのために今は魔法使いさんとも一杯闘わないと!大丈夫!何回死んでも生き返れば・・・ふぇ?」

 意気込んで宣言しているとロゼットさんがさらに私を優しく抱きしめた。

 私の顔はロゼットさんの大きな胸に埋もれ、顔が上げられない。

 その間にもロゼッタさんは私の額にキスをして、その場でくるくると回っている。

「ぷはぁ、ロゼットさん?」

 胸から顔を上げて呼びかけると彼女の嬉しそうな声が聞こえた。

「あぁ!リトル!!お前はなんて良い子なのかしらあ、私はお前を子に持てて幸せよ!」

「は、はい!」

「うふふ、お前の口からお母様と呼んでもらったのは今日が二回目ね。嬉しいわ!」

「はい!」

「そうね、これが今のお前の為と言うのなら、あの豚女を消し炭にすることは見送りましょう。人間ごとき、私の相手には値しないもの。」

「頑張ります!」

「あぁ、でもこれでこれから暫くやる気を持って働けそうだわ!リトル、お前が頑張っていると思うと私も頑張れるもの。」

「はい!」

 上機嫌になったロゼットさんの周りには花が飛んでいた。

――これは暫く離して貰えないかもしれないなあ。

 ロゼットさんに宣言したからには頑張って出世しなくては!

 攻撃力を上げて、MPも上げる!給料に見合うだけの働きをするべく努力すると決めた。

 今は戦闘より雑用のが多いけど。やって見せる!

 ついでに勇者の扱いが酷い理由も調べよう。

――ん?あれ、そう言えばロゼットさんは知ってるのかな?

 ロゼットさんは見た目、とても若くてきれいなお姉さんだけど実年齢は三千歳を超えたベテランだ。

 今の魔王様が即位した時から仕えていると言う。

「ロゼットさん、あの、」

「なあに?私の天使?」

「ゆうしゃって、」

『招集。十八議会は直ちに広間に集合せよ。繰り返す、直ちに集合せよ。』

 言いかけた時、頭に直接響いて来たのは魔王様の声だった。

 モンスターたちへの招集は魔王様が行うことが多い。

 私の質問を遮った声にロゼットさんが少し不機嫌そうな声音になる。

「チッ」

「ロゼットさん!?」

「あの魔王、良い所だったのに・・・いいのよ、リトル。なあに?」

「い、いえ、今度で良いです!それより魔王様がお呼びですよ!」

「そお?私はあいつよりもお前を優先したいのに。お前がそう言うなら仕方ないわね。それではね。」

「はい!」

 魔王様の呼び出しに舌打ちをかまし、さらにはあいつ呼ばわりしたロゼットさんは笑顔で去って行った。

 こんな感じで私の魔王城生活は送られている。

「あっ、僕も報告!」

 ロゼットさんと別れた私はブラックドッグさんに仕事の報告をするべく、事務室へ急いだ。

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