神様がリトル・デビルに転生させてくれるそうです。
夏の日の放課後のことだ。
授業を終えて帰宅途中だった私は雪と一緒に街を歩いていた。
中央に噴水のある広間。
丁度、学校終りの夕方が一番騒がしい時間だ。
ただでさえ熱にやられて頭がおかしくなりそうなのに、人ごみのせいでさらに気分が悪くなる。
人の声が騒がしい。
照り付ける太陽のせいでコンクリートから上がる水蒸気。
耳を塞いでも聞こえてくる蝉の声。
額から流れる汗は拭っても拭っても限がない。
左隣を歩く雪が下敷きで自分を仰いでいる。
その生ぬるい風の名残が彼女の真横でバイト雑誌を凝視している私にも当たっていた。
「夏夜、いつまで見てんの?それ。」
暑苦しい物を見るような眼で見て来る雪に見向きもせず、答える。
「割のいい仕事が見つかるまで。」
「夏ん家、両親離婚したって言ってたよね。一週間前だっけ?」
「その通り。」
「何でそんなにお金欲しいの?学費は父親持ちなんでしょ?」
「学費だけあってもどうしようもない。このままじゃ、母娘共に餓死してしまう。」
「おばさんは?」
「父さんが出て行ってから昼夜問わずに飲んだくれてるよ。飯もまともに食わんし、家のことも何にもしない。」
「あー、それでか。んー、じゃあさ、これとかどうよ?時給七百円で一日二時間からOk。」
「時給七百円は安すぎ。学校終るのが五時だとして、ここまで行くのに三十分。平日一日三時間働くとして、2100円。私一人なら十分だけど、家にはもう一人、飲んだくれの役立たずが居るもんで。」
「荒んでるなー。」
「今すぐ金が欲しい。割のいい働き先が欲しい。大金を手に入れたい。」
「生々しいな。因みに理想はどの位な訳よ?」
「月給二十五万~三十万。」
「うん、普通の高校生には無茶な金額だね。」
雪に一刀両断されて理想は儚く崩れ落ちる。
このままじゃ本当に餓死してしまう。
父が出て行ったのは一週間前。
両親は一年くらい前から喧嘩が絶えず、愛想を尽かした父がとうとう弟を連れて実家の方に帰ってしまった。
残された私はアル中の母を押し付けられ、今に至る。
通帳に入っていたはずの貯金は母の酒代と消えた。
生活保護を受けたくても、家には車があるためそれも無理。
何故かはよく解らないが車のある家は生活保護を受けられないと役所に言われた。
でも、あれが無くなったら私たち母娘の移動手段は完全になくなる。
高校は街に近いけど、自宅は電車で一時間の所にある住宅地だ。
スーパーは隣町にしかない。
――まぁ、あの人があんな状態じゃ、車なんてあっても意味ないけど。
それでも、母に車を売れ何て言おうものなら暴れ出して手が付けられない。
と言うことで生活保護は諦める。
高校卒業まであと一年半。
それまで生きていられる自信がない。
「それにしてもあっつー!ねぇ、夏、ショッピングモール入ろ!」
「だから金ないって、」
「涼むだけならタダじゃん!あたしはアイス食べるけど!」
「薄情な奴。」
「ほらほら早く!」
中央の広間を抜け、促されるままショッピングモールに入った。
去年出来たばかりの巨大モールには平日にも拘らず、多くの人々が集まっている。
自動ドアを抜けて中に入れば、冷たい冷気が肌の熱を冷ました。
「よーし!サーティーツーにレッツゴー!」
「本当に食べるの?」
腕を引っ張られてそのままエスカレーターを上る。
このままでは読めそうにもないからバイト雑誌は鞄の中に突っ込んだ。
前を走る雪の茶色いポニーテールが尻尾みたいに揺れている。
アイスクリーム店は二階の奥、フードコートにある。
そこからさらに中央コートでアイスを食べたいと言い出した雪に引きずられ。
散々走りまわされた私は、彼女が嬉しそうにトリプルアイスを食べている頃には息切れで死にそうになっていた。
ここはモール内でも一番人が集まる。
この時間帯だと特にだ。
エスカレーター傍の椅子に腰を下ろした私は室内なのにだらだら流れて来る汗と雪を心底疎ましく思った。
隣では満面の笑みを浮かべた悪魔女がアイスを食べている。
「んん!美味しい。」
「ぜぇ、はぁ・・・ぜぇ、」
「もー、情けないなぁ。しっかりしてよ。」
「誰の、せいだと思って、」
「あ!それより夏!サーティーツー、バイト募集してたよ!あそこで働きなよ!そして私にたっぷりサービスして!」
「お前の私欲のために働く気はない。」
「ちぇー、夏のケチ。」
そう言って、雪は唇を尖らせる。
能天気すぎる彼女に私は溜息をついた。
俯いていた顔を上げ、六階より上にある吹き抜けの天井を見上げた。
窓ガラスになっている天井からは日の光が降り注いでいる。
「本当、割のいい仕事、ないかなぁー。」
ぼやく様に吐き出した。
瞼を閉じて、黒くなった視界で思う。
一層、逃げ出した方が楽かもな。
馬鹿らしい考え方だ。
直ぐに目を開けて、もう一度バイト雑誌を読もうと思った。
けど、
バババババババババババッ!
「!!」
「キャア!!」
瞼を上げると同時、何かが破裂するような音が耳を劈いた。
椅子に凭れ掛かっていた体を咄嗟に起こし、音の下方へ目を向ける。
「クッソ!絶対ぇー許さねぇ!!お前ら全員皆殺しだぁぁ!!」
コートの中央には黒いマスクをした男がマシンガンらしき銃を乱射している。
男の周りではもう既に数名が血を流して倒れていた。
興奮した様子で銃を振り回している。
流れ弾が次々と人を捕えていく。
店のショーケースが音を立てて割れて行く。
コート内は阿鼻叫喚し、大勢の人たちが逃げようと必死になっていた。
「ぐぁ!!」
「キャアアアア!!」
「逃げろ、逃げろぉ!!」
「誰か、誰か助けて!!」
「ママぁ、どこぉ、」
「死ね!死ね!死ね!みんな死んじまえぇぇぇぇぇぇ!!」
白い床がどんどん赤く染まっていく。
人が倒れて行く光景を見ていた私は現状が理解できずに一瞬硬直した。
――て、テロリスト?ただのショッピングモールに?
よく見れば、男の目が焦点を捕えていない。
「な、夏夜!夏夜!は、早く逃げよう!」
アイスをテーブルに落とした雪が制服の袖を引っ張ってくる。
恐怖に顔を歪め、今にも泣きそうになりながら。
「う、うん!」
返事をして身を翻した。
持っていた鞄も置き去りに雪の背中を追いかけて走る。
エスカレーターは人が多すぎて通れなかった。
私たちは後ろに在った通路に向かって逃げる。
「うあああああああああああああ!!」
ババババババババババ!
男の奇声が聞こえてくる。
頭がイカれてるんだ。
汚い声が頭にまで響いてきた。耳を塞ぎたい。
逃げようとした通路の先から警備員らしき人が駆けつけてきたけど、この状況じゃあ近づくことも出来ないだろう。なく、
心臓の音がやたらと五月蝿かった。
蝉の声なんかよりもずっと。
息がしずらい。
手が小刻みに震えているのに気づいての刃その二秒後だ。
どうしようも逃げ惑う人たちにぶつかりながら、必死に前に進もうとしていた時、
バババババババババ、
鳴り響いていた銃声がふと止んだ。
「あぁ!?何だテメぇ!?」
金切声に近い男の声に思わず振り返った。
それが私に対しての言葉でないことは解っている。
でも、男が銃の乱射を止めて誰かに叫んでいると言うことが、何故か私の体を咄嗟に動かした。
足を止め、中央コートに目を向ける。
「!!」
そこには、一人の少年が立っていた。
視線に彼の姿が入った瞬間、目を剥いた。
肩位までの翡翠色の髪に帽子をかぶった小学生くらいの男の子。
彼は男の真正面に立ったまま、動かないのだ。
全く逃げようとしていなかった。
――あの子、何で逃げないの!?
帽子で顔は良く見えない。
なにも言わない少年に男が怒鳴り続けている。
「夏?何やっての夏!?早く!!」
足を止めた私に気が付いて、雪が叫んだ。
けど、その声が私の耳に届くより先にわたしの足は中央コートに向かって走り出していた。
「夏夜!?」
雪が呼び止めるのが聞こえた。
中央コートでは、目を血走らせた男が少年に銃口を向けている。
「テメぇも俺の事馬鹿にしてんだろ!?舐めんじゃねぇぞ!?ぶっ殺してやるクソガキがあ!!」
帽子の下から少年が小さく男を見上げた。
それでも彼は逃げない。
男が彼に銃口を近づけ、引き金に指をかける。
「止めろ!!」
バババババ!
それと同時、私は男に飛び掛かっていた。
銃口を逸らし、取っ組み合いになる。
床を剥いた銃口からは幾つもの弾が吐き出された。
足元には破片が散り、空薬莢が転がる。
――何発あるんだよ、この銃!
必死に掴みかかった。
けど、気が狂った成人男性の力にかなう訳もなく、私は振り払われた勢いで床に倒れ込んだ。
立ち上がる間もなく、男の陰が私の視界を覆った。
「ふざけんじゃねぇぞ?テメぇ、女のくせに俺に歯向かいやがったな!?女子供まで俺の事役立たずのゴミだって思ってんだろうがあぁ!?」
叫び散らしてくる男の怒声に唇を噛んだ。
睨むようにして男を見上げ、あいつがまた銃の引き金に指をかけた。
そして、その銃口を何故かさっきの少年の方へ向ける。
その時、私の顔には多分、驚愕の二文字だけが浮かんでいただろう。
少年はさっきの位置から離れることなく、まだそこに立っていたんだから。
「死ねぇぇ!!」
喉の奥が見える程男の口が開く。
私は立ち上がることもせず、床を這うように走った。
瓦礫に足を滑らせながら前に進む。
男の銃から弾が吐き出されるギリギリ前に立ち上がり、そのまま少年を抱き込んだ。
ババババババババババババババババババババ! バン!!
背中に物凄い衝撃が立て続けに走った。
「夏ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
雪が泣き叫んでいる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今までで一番多く弾を吐き出した銃は大きな音を立てて爆発すると、男の手を血塗れにして、指を引きちぎった。
コートには男の絶叫が響く。
銃が無くなると直ぐ、男は警備員に取り押さえられて。
背中が死ぬほど熱い。
皮膚と言うよりは腹の内側から生焼きにされてるみたいだ。
今までに感じたことがない激痛に、正直、意識を保つのも厳しかった。
腕の中の少年に見る。
これだけ撃たれたら、何発かは貫通しているかもしれない。
首を動かすだけの力も残っていなかったから目だけを向けると彼の翡翠色の目がこっちを見上げていた。
無表情で、何の変化もなさそうに。
――良かった・・・。
一気に安ど感が襲ってきて、私は少年の上に崩れた。
――ここで死ぬのかもしれないなぁ。
最早それは可能性ですらない。
これだけ背中を穴だらけにして生きて居られてらそれこそ奇跡だ。
視界の片隅で雪が走ってくるのが見える。
ゆっくりと瞼を下ろそうとした時、少年の顔が映った。
「君は馬鹿だなあ。」
愉快そうに笑っていた。
さっきまでの阿鼻叫喚の後継何て無かったみたいに、子供らしい顔で笑っている。
その顔を見てすぐ、意識は黒く塗りつぶされた。
♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢ ♦♢
「ん?」
目を覚ました時、そこは白い靄の中だった。
辺りを見回しても何もない。
体が妙にふわふわしている。
まるで、浮いてるみたいな感覚だった。
――何でこんな所に、あの時、男に背中を撃たれて、それで・・・。
「死んだかなあ、私。」
「そうだよ!」
「うわあ!?」
逆さまの少年が行き成り目の前に現れた。
思わず悲鳴を上げて、数歩後ずさる。
翡翠色の肩位まで伸びた髪に帽子をかぶった十歳くらいの少年。
彼は空中で胡坐をかき、笑顔でこっちを見ている。
「あ、あの時の、」
「君って本当に馬鹿だなあ。」
最後の瞬間と同じ暴言が飛んでくる。
――は?
助けた人間に言われる台詞ではないような気がする。
少年は不服そうに私を見ていた。
まぁ、こっちが一方的に庇った訳だからこんな考えは恩着せがましいかもしれないが、それにしても言い方と言うものがあるだろう。
そんな私の考えはお構いなしに溜息をついた少年は呆れたように言った。
「あのまま放っておけば、あいつは爆死して勝手に死んだのに。」
「ば、爆死?」
「暴発した銃の弾が被弾して、そのまま死んでたってことだよ。君が僕を庇いさえしなければね?」
「な、何でそんなこと解るの?」
「だって僕、神様だもん。」
さらに訳の解らない単語が飛んできた。
「か、神様?」
「うん!」
「あの神様?」
「他にどの神様がいるのかな?正真正銘、僕は神様だよ。この世界のね。」
「本当に?」
「もー、しつこいよ。夏夜。」
行き成り名前を呼ばれた。
宙に浮いたまま笑う少年を見て、私の口は空いたまま閉じなくなった。
その顔を見て、少年は私をからかうようにケタケタと笑う。
正直なところ、信じられない。
――でも、この現状だしなあ。
空中でくるりと一回転した少年、じゃなくて自称神様は後ろ手に手を組んで、私に顔を近づけた。
それはもう鼻と鼻がぶつかってしまいそうなくらいの距離まで。
「本当、神様を庇って死ぬ人間なんて前代未聞だよ。僕不死身だよ?解ってる?」
「そ、それは知らなかった、です。」
「でもまあ、助けられたのもまた事実だ。」
「はあ。」
「君、割のいい仕事、探してるんだって?」
「そんなことまで知ってるの?」
「これは僕じゃなくても知ってるよ。しょっぴんぐもーるであれだけぼやいてたらね。」
「・・・。」
通りすがりの自称神様に聞かれていた。
「僕が紹介してあげる。」
「え?」
「て言っても、君は死んじゃったから、来世でだけどね?」
「来世?」
「そう、異世界転生ってやつ?その世界で一番儲けの良い職業に就かせてあげるよ。」
「ほ、本当に!?」
「うん。一方的に庇われただけだけど、それでも君は僕を助けてくれたからね。僕、痛いのは嫌いなんだあ。だからこれはお礼。君が僕に痛い思いをさせなかったことへのご褒美だ。」
――自称なんかじゃなかった!本当に神様だった!
異世界転生何て言う単語には見向きもせず、拝むように神様を見た私は涙目になった。
――やったあ!これで餓死せずに済む!ありがとう、神様!
目を輝かせる私に神様は満足そうな顔をしていた。
「それじゃ、来世からはその姿で生きてね?」
「え?」
にこにこと笑った神様が私を指さした。
彼が指示した先を辿るように見て行く。
顔を下に向けて、自分の体を見ようと顎を下げた時、
もふん
とてもふわふわした何かに顎が当たった。
それはまるでウサギの毛みたいでとても気持ちいい。
思わず、そのまま顔をうずめてみる。
――もふもふうぅ!気持ちいいぃ!ん?でも、何だろうこれ?
視線を向ければ、首回りが紫色の毛でおおわれている。
そこから更に自分の体に視線を落として行くと、
「な、ななななな!?」
私の体は小さく、と言うより黒くなっていた。
リスのような体系、大きさはリスよりも少し小さいけど、体がさらさらした黒い毛に覆われていた。
小さい手には指が五本ある。足もある。
混乱のあまり頭に手をやるとそこには小さな角のようなものがあった。
握ってみると音が籠るのでどうやらこれは耳らしい。
背中にはコウモリのような黒い羽。
「はいこれ鏡。」
にこにこと笑いながら神様が差し出してきた鏡。
映し出された私の姿は完全に小さな悪魔そのものだった。
大きな目は黄色く光り、鼻は線が二本あるだけ。
口には鋭い牙。
背中の羽とは別に頭にも小さな羽が生えている。
「何これ!?悪魔!?」
「そうだよ。その名もリトル・デビル!君はこれから僕の治める冒険RPGの世界に転生するんだ!勇者と魔王が闘う世界にね!」
「勇者と魔王って・・・、私そこで悪魔として生活していくの!?」
「うん!」
「でも、悪魔ってことはモンスターってことだよね?ゆ、勇者に討伐されちゃうんじゃ、」
「運が悪ければね!」
「えぇ!?」
歯を見せて笑いながら神様が言う。
当然のように言われてしまった。
「それに何か、凄く小さいし、弱そうなんだけど、」
「君の世界に在ったド〇クエに例えるなら、スライム的な感じかな。」
「滅茶苦茶弱い!!」
「でも、魔王城は雇用先として一番いい給料がもらえる所だよ?」
「そ、そうなの?」
「うん。あれ?勇者組の方が良かった?」
「よ、良かったと言うか、まさか人ですらないなんて予想できな、」
「毎日モンスターまみれの森で野宿して、いつもお金がなくて、だからいつもフケだらけで、旅先の村人にお願いと言う名の面倒事を押し付けられて、挙句勇者だからって理由でお礼のお金も貰えないから食事は道端の草とか虫とかの生活の方が良かった?」
「勇者貧しすぎではないですか!?」
「勇者なんだから仕方ないよ。」
「勇者って、大変なんだ・・・。私はてっきり、もっと英雄視されてるのかと思ってた。」
「僕の世界の人間も似たようなものだよ。人間は常に飢えてるし、汚いし、ずる賢いし。職業何て都まで探しに行かないといけない。」
「そ、それは魔王のせいではなく?」
「寧ろ、魔王に侵された土地は干ばつもなく常に潤ってるよ。」
「・・・。」
「それに比べて、魔王城は三食部屋付きで月収金貨三百二十枚!働いているモンスターたちもそれぞれが自由に生活してるから、勇者の仲間みたいにいつもイライラしてないしね。」
「勇者、本当に可哀想だな。」
「勇者だからね。」
世界のために戦っているはずなのに勇者の人生は波乱万丈のようだ。
それに、何故かは解らないけど神様の勇者に対する扱いもかなり冷たい。
――一体、勇者ってどんな奴なんだろう。
神様の勧誘はまだ続く。
「仕事もちゃんと役割分担されてて無理なく働ける。特に魔族は寿命が長いから就職するならここが一番だよ!野生のモンスターたちが憧れる、エリートしか入れない最高の雇先!」
「だんだん魔王城が良い所に思えてきたなあ。」
神様の勧誘能力の高さ。
気づけば私は彼の話に完全に取り込まれていた。
――まぁ、良い働き先を紹介してくれるって言うことなんだし、これ以上我が儘は言えないな。
紹介してもらえるだけ有り難いんだ。
しかも、ブラック企業ですらないようだし、最早人間でなくても良い気がしてきた。
神様が指をぱちんと鳴らして笑った。
「じゃあ決まり!」
「よろしくお願いします。」
私は空中で羽を動かしながら頭を下げた。
「うん!それじゃ、向こうに行く前にステータスの味方を教えておくね!」
「ステータス?」
「これ!」
神様が私の前に手をかざすとそこに光の文字が浮かび上がった。
日本語ではない、見たこともない文字。
多分、異世界の文字だ。
でも、現れた文字を私は何故か読むことが出来た。
リトル・デビル
HP 230
MP 600
AP 21
スキル 呪いの夢
影の泣声
「これが転生して直ぐに君が持ち合わせられるステータスだよ。」
「ほー、ゲームみたい。」
「RPGの世界だからね。あ、スキルは向こうで使ってみるといいよ。」
「うん。」
「もし勇者と戦って死んでも、魔族だからすぐに復活できるから心配しないで!でも、浄化されたらもう生き返れないから気を付けること!」
「解った。」
「困ったこととか、何かあったら僕の所に来て。」
「僕の所?」
「僕も普段は向こうの世界で生活してるんだ。神の塔って所にいる。」
「神の塔。」
「そーそー!」
至れり尽くせりに神様はいろんなことを教えてくれた。
ここまでして貰って感謝の気持ちでいっぱいだ。
神様が大きく手を振り上げた。
「よし!これで準備は完璧!早速、フロンティアクエストの世界へ、」
「神様!」
「ん?何?」
「ありがとう、ございます!色々助かりました!」
そう言うと神様は一瞬驚いたような顔をして、その後嬉しそうに笑った。
死んだにも拘らず、前世に対して未練がないのは不思議だった。
――雪のことは少し気になるけど・・・。
再び、神様が大きく手を振り上げた。
「さぁ、ようこそ!フロンティアクエストの世界へ!!」
神様の手が振り下ろされると同時に辺りには風が吹き荒れる。
神様がウインクするのが見えたかと思った時。
私はあっと言う間に竜巻に巻き上げられてしまった。
「うわ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
風に巻き上げられ、次の瞬間には暗闇の中にいた。
真っ暗で何も見えなくなって、頭を上げようとしたら何かにぶつかった。
「あた、」
小さい箱にでも閉じ込められているのか、とても狭い。
――ここがRPGの世界?
手を上に突き上げてみると、天井に少しひびが入った。
そこから光が溢れ込んでくる。
「まぁ!産まれるのね!もう少しよ、頑張って!」
誰かの声が聞こえた。
女の人みたいだけど、凄く優しそうな声だ。
――こっち?
声のする方に向かって天井を押し上げて行く。
パキっ、ピキキ、パキパキ、
やがて、目を覚ました時、私の視界には一人の魔族と広い城内が映っていた。