6
器が冷めてるのを確認して、スプーンの先にほんの少しカラメルソースを乗せる。
トロリとした感じを見る限り、粘り気は丁度良いようだ。
口に含むと、少し焦げた香りに濃密な甘さ、そして後から感じる苦味が舌にからむ。
見た目は私が知ってるカラメルソースよりも緑がかっていて黒っぽさが増してるけど、味は良く知るものだった。
味覚の鋭いシーリード族やスタグノ族にはもうちょっと苦味を抑えたものでもいいかもなあ。
帰ったら、ルドさんやキーファさんにも味見してもらおう。
「ん。成功です。苦味もこれくらいか、もう少し抑えてもいいですね。後はプリンの味とかで薄まりますし。」
「あらあら、まあまあ。確かに苦味はもう少し抑えてもよろしいかもしれませんけど、プリンに合わせればちょうど良ろしいのがわかりますわ。わざと焦げさせるソースだなんて、斬新ですわあ。」
「苦いが、甘ったるさが和らぐな。これなら、俺も大丈夫だ。」
ウジャータさんとクルビスさんからも好評だ。
これなら、調理師さん達にお披露目しても大丈夫かな。
焦げたことで、若干魔素は飛んじゃったけど、そこはお砂糖。ほとんどの魔素はソースの中に留まっている。
濃厚な魔素たっぷりのソースなら、多少苦くても受け入れられるだろう。
「これなら、焦げやすいというのが目に見えてわかり易いと思うんです。魔素が飛びにくいという利点もわかりますし。」
「そうですわね。とても良い例になると思いますわ。ただ、最初にハルカさんの故郷のレシピだとはっきり申し上げた方がいいですわね。わたくしは関係ないと知ってますけど、階級の下の調理師の方には、これは深緑の森の一族のレシピに関わると思われるかもしれませんし。」
ああ。その問題があったっけ。
こっちの世界ではカラメルソースは再現されてなかったけど、プリンはエルフのレシピってことになってるから、プリンに合うカラメルソースも実はエルフの物じゃないかって言われちゃうかもしれない。
特級の調理師のウジャータさんくらいになると既存のレシピには存在しないとハッキリわかるけど、階級がまだ下のレシピに制限のかかる調理師さんにはわからないだろう。
そこは制度上仕方ないけど、疑われるのも気分が悪いから、手は打っておかないとね。
「そうですね。プリンに合うから何か言われるかもしれません。最初に故郷のレシピだと伝えるのはもちろんですが、メルバさんにもお話して、関係ないことをハッキリさせておこうと思います。」
「わたくしもお手伝いしますわ。上の調理師たちが『いままで無い』と認めれば、後は大丈夫でしょう。」
ウジャータさんの言う通り、わかる人にはすぐわかる話だ。
そうおかしなことにもならないだろう。
念の為に確認は取るけど、メルバさんだって、私が抹茶ソースを作った時もすごく驚いてたし、今まで食べたエルフの洋菓子もソースはかかっていないものばかりだったことを考えても、お砂糖をたっぷり使ったソースはエルフ達には一般的じゃないと思うんだよね。
薄味好みのエルフの味覚を考えると、あー兄ちゃんが味の濃いソース系は作ってなかった可能性もある。
もしかしたら、エルフの元いた世界ではお砂糖は貴重だったのかもしれないし。
みりんまで再現されてたことを考えると、あながち外れてもいないかも。
それなら、お砂糖をたっぷり使うソース系は作っていないだろう。
ただでさえ、魔素が飛ぶからと煮込む系統の料理は未発達の世界だ。
念の為の確認は必要だと思うけど、調理法といい、お砂糖をふんだんに使う所といい、無関係だと言い張ればそれで通ると思う。