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カラメルソースを一端別の容器に移し、フライパンを洗っておく。
冷めるまでそのままにしておくと、こびりついちゃうこともあるからね。
料理教室のシンクは何とタッチ式でお水が出るようになっていた。
守備隊のは蛇口式だったのに、ここのはハイテクだなあ。
ウジャータさんに教えてもらいながら、スポンジで軽く洗っていく。
スポンジや洗剤は守備隊で使わせてもらったものと同じだった。
洗ったフライパンはフキンで水気を取って、乾かしておく。
水気は最初に取っておかないと雑菌が増えちゃうからね。
「あらあら。完璧だわ。ハルカさんはちゃんと片付けが出来るのねえ。うちの娘に見習わせたいわ。あの子、作るだけ作って片付けは嫌いなのよ。」
困ったように言うウジャータさん。
娘さんのビアンカさんは片付けが嫌いかあ。気持ちはわかる。
作るのって楽しいけど、片付けるのって面倒だもんねえ。
我が家では作ったら片付けまでがワンセットで、それが出来ないとおやつやデザートが抜きになるから、私も片付けまでは一応やれる。
「作るのは楽しいですもんね。」
「ええ。でも、それだけではねえ。守備隊の調理師になりたいって言ってるけど、あれだけ片付けるのが嫌いだと、独り立ちさせて大丈夫か不安になりますわ。」
ウジャータさんが世間話というには暗い表情でつぶやく。
ビアンカさん、片付けるのそんなに嫌いなのかな。
でも、挨拶に行った時に一緒に水菓子作ったけど、そんなそぶりは無かったような?
あ。でも、洗い物とかしてるとこ見てないかも。
なんせ、翌日のために10000個も作らなきゃいけなかったから、最後は力尽きちゃってよく覚えてないんだよね。
う~ん。でも、実際に修行を始めたら、洗い物なんて新人の仕事の基本だし、嫌でもやるハメになると思うけどね。
水菓子を作る時も私の手元を見ながら上手く真似てたし、ビアンカさんは実地で叩き込まれる方が頭に入るタイプみたいだから、心配はいらないんじゃないかなあ。
「う~ん。必要に迫られれば、身につくんじゃないでしょうか。私もそうでしたから。」
包丁や調理器具の扱いも丁寧だったし、後はお家じゃなくて、他所で修行に出れば甘えも抜けると思うなあ。
私だって、一人暮らし初めてから、部屋の片づけや調理に興味を持つようになったんだし、よくあることだと思う。
「そうですわね。自分がしなくてはいけないと思えば、自然と出来るようになるかもしれませんわ。家でやっているから甘えてるのかもしれませんわね。」
たしかに。実家だと甘えは出ちゃうかも。
納得したのか、晴れ晴れとした表情のウジャータさんに曖昧に頷いておく。後はご家族の問題だ。
さて、カラメルソースも丁度いいかな。
味見してみようか。




