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「まあまあ、ようこそ。こんにちは、クルビスさま、ハルカさん。お待ちしていましたわ。」
2階の奥の部屋に行くと、こげ茶のヘビの女性が出迎えてくれる。
この教室の創設者で、トカゲの一族の現家長アルフレッドさんの伴侶のウジャータさんだ。
手紙でのやり取りはしていたけど、こうしてお会いするのは式の前の挨拶の時以来だ。
穏やかで上品な奥さまだけど、伴侶にスイーツをささげるためだけに調理師の特級に上り詰めた女傑でもある。
「こんにちは、ウジャータさま。本日はよろしくお願いいたします。」
「こんにちは。突然の同伴の申し出、ご了承いただきありがとうございます。」
「あらあら。いいんですのよ。クルビスさま。こちらこそ、まだ蜜月なのに、急いでしまってごめんなさいね?今の時期が調理師たちにとって一番都合がよろしいの。今日はクルビスさまには退屈かもしれませんけど、どうかお楽になさってね。さあ、こちらが講師用の調理台ですわ。」
ウジャータさんは挨拶をすませると、私たちをさっそく案内してくれる。
円を4分の1に区切った部屋は、直角の真正面にあたる、円周部分っていえばいいのかな?そこにドアがある作りだった。
そして、今私たちがいる講師用の調理台は、部屋の直角の角が左手に見える位置にある。
そして、幾つかの調理台が私の調理台に対して、三角になるように、つまり、部屋の形に添うように設置されていた。
「当日は正面には材料が置かれますわ。今回は豆やお砂糖を使いますけど、これまでスイーツには使われてこなかった材料ですから、どんな種類があって、何が適しているのかという基礎もおさらいしていただこうと思いますの。特にお砂糖は精製で味に差が出ることを知らない方も多いですから。」
真ん中のぽっかり空いた空間には、当日は材料が並べられるらしい。
そういえば、市場を除いた時もお砂糖を扱ってる店は少なかったなあ。
それでも深緑の森に近いから、北では扱う店が多いんだって。
苦労して開発したのに、お砂糖の普及が思うようにいかないってメルバさんが愚痴っていたっけ。
そんな状況なら、精製の差で香りや味が違うのも知らなくて当然だろう。
う~ん。じゃあ、当日は餡子を作る時に焦がすひとが多そうだなあ。
お砂糖がいかに焦げやすいかデモンストレーションしてみようか。
カラメルソースとかどうだろう?ウジャータさんに聞いてみよう。