12(クルビス視点)
「それで早かったんだな。」
「はい。視察の方に手伝ってもらったなんて、本当はいけないことですけど。送り返される荷物の量がすごく多くて。明日は残業になるかもしれません。」
「そうか。もし遅くなりそうなら、早めに警護をしている隊士に知らせてくれ。それで伝わるから。」
「はい。ふふ。良いことって続きますよね。」
ハルカの話だと、他にも『いいこと』があったらしい。
何かは教えてくれなかったが、恐らく見直しのことだろう。
キィの話と違って、直接聞いたわけではないのかもしれないな。
慌てて帰った様子から推測しているといったところか。
「ああ。そうだ。おやつの時間をまた復活させようって決まったんですよ。」
嬉しそうに話すハルカを見ながら、北西の転移局が改善する方向に動きそうなことに安堵する。
北西の転移局はハルカが来てから変わったな。
ハルカには自覚がないが、彼女がいることによる影響はかなり大きい。
風に流れるつややかな黒髪を見ながら思う。俺もそうだが『黒の単色』の影響は絶大だ。
ただでさえ、下に見られている北西の地区では、単に荷物が多いだけでは『術士の力量が足りないから』と言われて終わる。
だが、黒の単色がいて『こなせない程の流通量』があるとなれば、見方は変わってくる。
昔、「黒にこなせない仕事は『無茶』と呼ぶのがふさわしい」と言った学者がいたらしいが、今の北西の転移局はまさにその状態だ。
この間差し入れに行った時など、ハルカの魔素の量は8割を切っていたし、他の術士も同じような状態で、母の機転には心から感謝した。
転移局の方でも荷物は増えると予想していたものの、ここまでとは思っていなかったとカイザー殿も疲れた様子だったな。
あのままでは、過労で倒れる者も出たかもしれない。
キィを見習って、もう少し他の仕事についても知っておかないとな。
知らないことで取り返しがつかないこともある。
そんなことを頭の片隅で考えていたが、視線は楽しそうに話し続けるハルカに釘付けだ。
笑っている彼女を見ていると、俺も笑っていることが多い。彼女といるのが楽しくて仕方ない。
「それで、明日からおやつを持ちまわりで持っていくことになったんです。差し入れてもらったお菓子も美味しく頂いてしまって、もう無くなりそうですし、誰かひとりに決めるより順番で持ち回りにした方がいいだろうってことになって。私は3日後で、何がいいかなって思ってるんですけど、クルビスさんは何か思い付きます?」
「水菓子はダメなのか?」
「この暑さだと傷んじゃいますよ。職場に冷蔵庫はありませんし、今は作る時間もありませんしねえ。」
そういって、思い付くスイーツをひとつずつ上げていくハルカにまた笑みがこぼれる。
自分がこれ程穏やかな時間を過ごせるようになるとは思わなかった。
彼女と巡り合えたことを世界に感謝している。
願わくば、彼女が傷つくことがないように。あの夢が現実になりませんように。