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一触即発だったふたりも横から呼ばれて気がそがれたのか、ぴりぴりしながらも来てくれた。
でもそれも私の顔を見たら急におどおどしだしたけれど。
「あ、あの、今日はクルビス隊長は…。」
ああ。そっか。
このふたり、詐欺にあいかけてたのがわかって、守備隊に呼ばれたんだよね。
その時に、ちょっとクルビスさんにお説教されたみたい。
それが怖かったんだろうなあ。
「いませんよ。私、今日から転移局で働かせてもらってるんです。」
そう説明して、カイザーさん達を見ると、私の言葉を裏付けるかのように頷いてくれた。
それにホッとしたのか、「そうですか。」と頷いてくれる。
そして、思い出したかのように名乗ってくれた。
そういえば、名前も聞いてなかったなあ。
淡いピンクのトカゲの男性はルイさん。染物の原料や布を扱うお店を経営している。
淡い黄色のヘビの男性はカバズさん。ルイさんのお店から材料を仕入れて染物をしている技術者さんだ。
ふたりは幼馴染だって、クルビスさんから聞いている。
その気安さからか、お互いのこだわりが強いからか、仕事のことでもなんでもよく口論になるんだそうだ。
だからキャサリンさん達も「またか。」と思ったというわけ。まあ、このふたりのケンカがきっかけで転移局のことを知って、私の就職が決まったんだけど。
私が転移局で働いていることを話すと、それまでピリピリしていた魔素が無くなり、一転して感謝の魔素になった。
「ありがとうございます。あの、俺がいうのも変ですけど、本当にありがたいです。」
とルイさん。
それにカバズさんも頷いて、同じように感謝すると言ってくれた。
「お前だけじゃねえよ。俺も、いや、きっとこの辺りのやつらは皆感謝します。キャサリンひとつだけってのに、皆心配してたんです。このままじゃ、倒れるんじゃないかって。」
ふたりの心配に、当のキャサリンさんは「ええ。私ですか~?」と驚いた顔をする。
でも、考えてみれば当たり前だ。どこの転移局も2、3人の術士を置いているのが普通なのに、この数か月キャサリンさんひとりで頑張っていた。
休みなんてなかったって聞いてるから、いつか倒れるんじゃないかって周りの皆さんが心配するのは当然だろう。
ただでさえ、差別を受けやすい北西の地区の貴重な術士なんだから。
なのに、キャサリンさんはそんなことちっとも考えていなかったようで、違う違うと否定する。
彼女曰く、「私が仕事を毎日するのは当たり前です~。」とのこと。
「実家がこの近くの八百屋なんですよ~。だから、毎日お店の野菜が届くでしょう?それを届けないと、うちの商売だって上がったりなんです~。実家の手伝いの延長で術士にしてもらえたようなもんですから、仕事しないとやめさせられちゃうんですよね~。休みの日も手伝わないといけませんから、今の生活も前の生活もあんまり変わらないんですよ~。」
ぶちぶちと言う彼女は何だか可愛らしい。
その様子と魔素から感じる彼女は、自分の仕事を大変だと思ったことが無いようだ。
ルイさんとカバズさんは予想外の反応だったのか、ぽかんとしている。
カイザーさんは慣れているのか、皆の反応をおかしそうに見ていた。
私も驚いたけど、これで彼女の明るさのわけがわかった気がする。
キャサリンさんにとって、転移局でのお仕事はお店のお手伝いの延長なんだ。
やって当たり前だから、辛く思うこともなかったみたい。
良かった。これならウツの心配とかもなさそう。
フェラリーデさんに様子を見て欲しいって頼まれてたんだけど、杞憂なようだ。
新しい同僚は明るく強いひとみたい。