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「さて、まずは2つで食事を買ってきましょうか。早くしないと無くなりますし。まだ荷物も残ってますから、残りの2つはそれを片付けましょう。」
カイザーさんの指示で慌てて仕事を片付け始める。
その間にカイザーさんとデリアさんは昼食の買い出しに行ってしまった。
「なんかぁ。はぐらかされましたよねぇ?」
「ええ。結局何がどうなったのかさっぱりですね。」
キャサリンさんと首をひねりつつも、慣れた作業に身体は勝手に動く。
そうして、残っている荷物を送り終えた頃に買い出し組が戻ってきた。
「ただいま戻りました。いやあ。予想してましたが、すごい込み具合でした。」
「今日は一段とすごかったですね。」
カイザーさんとデリアさんが疲れたようにイスに座りこむ。
あらら。大丈夫かな。
「あぁ。今日からコンテストの結果が出始めますもんねぇ。」
キャサリンさんも頷いてるから、どうやら今日は混んでる日らしい。
大きなコンテストが終ると、大体どこも順に結果が出始めるって聞いてはいたけど、それがどうして屋台が混むことになるんだろう。
不思議そうな私にカイザーさんが説明してくれた所によると、コンテストの結果次第で後の1年の仕事の入り具合が変わるらしく、この時期の技術者は戦々恐々としているのだそうだ。
授業でも教えてもらったけど、こっちのコンテストは主に技術の上達を競うもので、街のひとも参加のポイント制で、参加者全員の分まで結果が出る。
技術の腕が目に見えてわかるから、この時期は街の商人さん達も次はどの技術者と契約しようかと真剣に審査するそうで、コンテストの結果は技術の腕がどれくらい認められたかを示す基準にもなっているのだそうだ。
だから、入賞するのはもちろん名誉なことだけど、大半の技術者のひと達は、自分のポイントでこの後の1年を予想して、喜んだり落ち込んだりしつつも無事に乗り越えたことを家族と祝うものらしい。
コンテストで入賞できるような技術者さんは食堂を借り切ったりして親戚一同で祝ったりして、普通の技術者さんは屋台で買って家でご馳走を食べるのが一般的らしく、そのため、この時期はどの屋台も食堂も大忙しとのこと。
それで、3人とも混むのを当たり前のように話してたというわけ。
コンテストの結果でお仕事の先行きまでわかるなんて、怖いなあ。
そりゃ、無事終わったら『お疲れ様ー!』ってなるわ。
理解した所で、お昼ご飯をもらって皆で輪になって食べ始める。
今日は視察の方々が手伝ってくれたおかげで、荷物の整理が早くて皆揃って食事が出来た。
それをチャンスと思ったのか、あらかた食べ終わった所で、キャサリンさんがどういうことなのか聞いてくれた。
「あのぅ。結局、あの視察は何だったんですかぁ?」
「そうですねえ。一応は、ハルカさんの様子を見るためだったと思いますけど、何か吹き込まれてきたようでしたね。名乗りも忘れて、あら捜ししてましたし。」
苦笑しながらカイザーさんが説明してくれた所によると、恐らく、私が伴侶のクルビスさんの関係で不遇にも北西の転移局で勤務せざるを得なかったというウワサがあるらしく、それを確かめに来たのだろうということだった。
まあ、そのウワサも信憑性の無いものだけど、北西の転移局の立場では、私が自分から希望したとは中々信じてもらえないらしく、それなりに流れているらしい。
だから、もし本人の希望ではない勤務であれば、転移局としては『トカゲの一族の次代の伴侶』である私に無理をさせたことになる。
術士の希望を第一としている転移局で何ということだ!確かめなければ!
ということで、急遽、視察が決まったんじゃないかとカイザーさんは推察しているようだ。
いやいや。私から希望したから勤務してるんですけど。
ちゃんと書類に勤務地の希望や理由も書いて提出したのに。
何でウワサの方を信じるかなあ。