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「そうおっしゃられても、デリア殿は臨時で派遣していただいてるだけなので、来年は術士2つで対応しなくてはならないのです。今年は新人の彼女の教育も兼ねているので、なるべく本来の状態での対応を憶えてもらわなくてはなりません。」
カイザーさんが視察のおふたりに丁寧に説明する。
そう。来年は術士2人で乗りこないといけない。それはわかってもらわないと。
「…どういうことだ。」
カイザーさんの説明にますます顔をしかめるイグアナの男性。
付添いの女性は事情を理解しているのか、目を伏せて下を向いている。
「ですから、本来の状態では術士2つの状態でしたので…。」
「それではない!」
カイザーさんの説明を遮って、イグアナの男性が怒鳴る。
だから、魔素を飛ばすのはやめてください。カイザーさん大丈夫かなあ。
「なぜ、臨時がいない状態を想定しているんだ?これ程の流通量なら、臨時どころか、術士の増加申請も通るはずだ!」
出してるんですけどね。
通らないんですよ。
あれ?中央局では常識じゃないのかな?
臨時の申請が通ったのでも、カイザーさんとキャサリンさんが大喜びしてたのに。
「ギガ殿はうちの規模を憶えていらっしゃいますか?」
激昂するイグアナの男性に対して、カイザーさんは静かに質問をする。
余りにも当たり前なことだ。視察に来る人が知らないはずがない。
でも、それが今の状態の一番の原因。
北西の転移局の不遇の象徴だ。
「当たり前だ。小規模だろうが。…そうか。だからか。」
「はい。」
イグアナの男性は顔をしかめて確認するように言い、カイザーさんも頷いた。
通じたみたいだ。どうやら、実状を知らなかったみたい。
話が違うとか言ってたし、何か吹き込まれてたのかもなあ。
ここを下に見てるひとなんて、他にもいるだろうしね。
「シルキー。」
「はい。」
「ここのこれまでの報告をもう一度洗う。帰るぞ。」
「はい。」
え。帰るの?視察は?
驚く周囲を物ともせず、視察の2人は身支度を整えるとさっさと入口に向かう。
「いいか。言っとくがお前のためじゃない。この私にウソの報告をしたやつがいるから、事実を確認しに帰るんだ。」
「はい。またいつでもおいで下さい。」
「ふんっ。私は忙しいんだ!そうそうこれるか!」
そうして、捨て台詞みたいなものを残して、視察の2人は本当に帰って行った。
後に残ったのは、上機嫌なカイザーさんと呆気に取られる私たち。
「…帰っちゃいましたねぇ。」
「帰りましたね。」
「ええ。」
キャサリンさん、デリアさん、私の順でつぶやく。
それにカイザーさんだけが苦笑していた。
何が何だかわからない。
久々に、説明プリーズ!