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どうにも聞いてる様子と違う風なのが気になったけど、その後もどんどん荷物は送られてきて意識はそちらに向いた。
ちょっと迷惑だけど、手伝ってもらえて助かった。
おかげで、午前中だというのに、仕分けされた荷物が転移陣の前に並んでいて、それを送るだけでいいようになっている。
受け取った荷物も、名前順に並べられて、すぐに探して渡せるように棚に移されていた。
「ありがとうございます。これで大方片付きました。」
「ふん。これくらい当然だ。」
うん。口は悪いし、魔素の扱いもちょっとアレだけど、仕事は出来るひとだよね。
周りの話を聞かないけど。お付きのひとも扱いに困るだろうなあ。
そのお付きのヘビの一族の女性は、たくさんのお客様の列を捌き、ノートを配布し、テキパキと荷物の受け渡しをしていた。
うん。こっちも仕事出来るひとだ。
荷物を転移陣に置きながらちらちら見てるだけだけど、動きに無駄がないというか、そつがないというか。
日本の会社の先輩にああいうひといたなあ。
旦那さんの出張についていくことになって、退職することになったんだけど、社長が直々に「やめないで欲しいなあ。」って言ってたくらいのひとだ。
ヒット商品を生み出したとかじゃないんだけど、会社には欠かせないひと。そんなひとだった。
あのレベルのひとが付いてくるって、視察の男性はそれだけ偉いんだろうか。
いきなり視察が始まったおかげで、自己紹介も聞いてないから、今イチどれくらい偉いひとが来たのかわからないんだよね。
「さて、鐘もなったが、食事処はどこにある?」
「そうですね。左手に進めばいろいろと店がならんでいますので、お好きな所をお選びください。まだ荷物が来ますので、我々はここで食事を取りながら、交代で受け取りをします。」
お昼の鐘が鳴ったらしく、視察のひとの質問にカイザーさんが食堂や屋台の並ぶ方向を教えて、さらに同行出来ない旨を伝える。
その辺りで荷物を送り終えて振り返ると、視察のおふたりはとても驚いてるようだった。
「は!?昼だぞ!?」
「ええ。お昼ですね。」
「まだ荷物が来るのか?」
「はい。先程より少ないですが、来ますねえ。」
セリフだけ聞いてると笑っちゃいそうなやり取りだけど、お互いの表情は真剣そのものだ。
それもそのはずで、魔素の補給が第一とされる世界で、食事を何かの作業の合間に取るという行為はかなり異色だ。
それでも、仕方ない時というのはあって、特別営業期間やその前後は、どの転移局でも大量の荷物やひとのやり取りをするため、常に職員が待機していなくてはいけないから、いくらかは残る。
まあ、北西の転移局は人手が足りないから、全員残ることになるんだけど、それがまた驚きだったみたいだ。
「なぜだ!3つもいるなら、1つはきちんとした魔素の補給を行うべきだろう!倒れたらどう対応するつもりだ!」
至極もっともな言い分だ。
だから、普通は術士は2つ以上勤務してるものなんだけどね。
うちは人手が足りないから全員待機なんです。
デリアさんがいる状況は当たり前じゃないし、まだ新人の私もいるしで、通年通りの対応を取ることになったんだよね。