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それからも視察の様子は変わることなく、普通に行われた。
ようは、記録をチェックし、荷物のやり取りから転移で送る様子までを逐一チェックする。
まともだ。
すごくまともな視察だ。小言が多いけど。
その小言も、お昼が近くなるにつれて、増える荷物の量に比例して減っていった。
まあ、そうだよね。天井まで積みあがる荷物で部屋が埋まるなんて、誰が思うだろう。
私が来る前はこれが普通の状態だったみたいだけど。
お付きの女性も唖然としてる。他じゃあここまではならないんだろう。
「これは…。まだ増えるのか?」
「そうですね。毎年ことですが、午前中は返却の荷物も送られてくるので、もっと増えると思います。術士の臨時派遣を認めていただけて助かりました。今年は交代で転移陣を使うことが出来ています。」
「この量が毎年なのか!?術士ふたつで!?」
「いえいえ。さすがに2割ほど増えておりますよ。ただ、ここ数年で技術者の数も増えましたし、今年はまだ増えるだろうと予想しております。」
カイザーさんの穏やかな説明と、視察のひと達の驚く声が交互に響く。
基本的に視察のひとは局長が相手をするので、今も話しているのはカイザーさんだけだ。
まあ、局長だってことを抜いても、勤務経験にしろ、ここの事情にしろ、一番通じてるのはカイザーさんだしね。
妥当な人選だと思う。
「話が違うではないか。前はもっと少なかったし、術士もふたつもいらぬと聞いていたぞ?」
「どのようなお話かは存じませんが、前の視察の時は、新人の彼女を十分教育出来るよう、荷物の一番少ない時期を選んでましたから。普段でもこれの半分はありますよ?」
カイザーさんの説明に視察のひと達はギョッとした顔をする。
荷物の量に驚いたのか、カイザーさんが嫌味とも取れる発言をしたからなのか。
気になるけれど、今は目の前に荷物を送らないと。
あ。キャサリンさんがさりげなく近くの荷物の仕分けを始めた。
後で何話してたか教えてね。
キャサリンさんが目を細めて親指を立ててくれたのに頷いて、自分の作業に戻る。
こっちの世界にも親指を立てるジェスチャーあったのには驚きだ。
たぶん、メルバさんの影響なんだろうなあ。
こうやって、たまに知ってる言葉やジェスチャーにお目にかかるし。
メルバさんの影響力って絶大だよね。ちょっと残念な美形だけど。
カッコイイのに、グッドとかセンキューとか微妙な英単語覚えちゃってるし…。
あー兄ちゃんってば、一体何を教えたんだろう。
あの独特のしゃべり方も、あー兄ちゃんの影響があってとか言わないよね?ね?