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掃除が終わって、いつもの業務開始まであと数分といったところで、カイザーさん達が一斉に入口の方を見る。
どうやら、視察のひと達が到着したみたいだ。
「ふん。相変わらず、狭苦しい所だな。」
入口から入ってきたのは、明るめの茶色い体色をしたイグアナの一族の男性だった。
背は高いけど、細身で戦闘職ではないのが見て取れる。
イグアナの一族かあ。
長に近い血筋は、陽球を作る仕事に就くことがほとんどだから、彼はそういうのからは離れているんだろう。
長から遠い、戦闘職でもないイグアナの一族の男性。
クルビスさんが知らないわけだ。
イグアナの一族とは、しつこい女性たちと距離を取るために、積極的に交流を持ったりしてなかったらしいから余計にだろう。
ちょっと面倒な一族で、シーリード族の中でも末席になるからか、イグアナの一族は権威とか地位とかに過剰にこだわる傾向がある。
しかも血統至上主義だから、親の地位が子供の地位に影響しやすい。
だから、中央局の局長を父に持つという目の前の男性は、お父さんをとても偉いと思っていて、その偉さが自分にもあると思っているみたい。
別に、イグアナの一族が皆そろって嫌なタイプってわけでもないらしいんだけど。
目の前の男性は権力を盾にする典型的なタイプなのだそうだ。
で、開口一番に文句が出たと。
挨拶くらいしなさいよ。
「これはようこそお越しくださいました。ギガ殿。シルキー殿。」
カイザーさんが一歩前に出て出迎えると、イグアナの一族の男性の後ろから、小柄な鮮やかな緑のヘビの一族の女性が出てきた。
「これはカイザー局長。本日はよろしくお願いいたします。」
丁寧に胸に手を当てて上体を傾ける。
こっちの世界で立ったままでの正しい礼だ。
魔素もすごく恐縮してる感じを受ける。
このひとは、この時期に来るっていうのがどれだけ迷惑か良くわかってるんだろうなあ。
「そういうのは後でいい。早速業務を見せてもらう。記録は用意出来ているか?」
「はい。こちらになります。」
あれ?早速私に絡んでくると思ってたのに、業務日誌と記録ノートをチェックしてる。
視察って意味ではおかしくないんだけど、予想とだいぶ違うなあ。
まあ、チェックする間も「字が汚い」だの、「様式が整ってない」だの、文句は言い通しだけど。
キャサリンさんとデリアさんの様子を伺うと、ふたりとも微妙な表情をしていた。
どうやら、今の状況は他のひとにとっても予想外みたい。
どういうことだろう。あ、お客さんがのぞいてる。
いつの間にか、通常の開業時間になってる。
とにかく、仕事が優先だ。考えるのは後々。