14(クルビス視点)
「教えてくれてありがとう。だが、なるべくなら、近づかないようにしてくれ。その、ちゃんと言ってなかったが、まだ、蜜月なんだ。」
周囲が誤解してるように、ハルカも誤解していたようだったし、一度きちんと話さなければと思っていた。今ではもう知ってるみたいだが、けじめは必要だ。
今回の視察の話も蜜月が終ったという誤解からだろうし、ちゃんと言わなかったために迷惑をかけることになったのは反省点だ。
そもそもの誤解は、ハルカが俺の元を離れて仕事に行くようになったからだ。
それだって、俺が生粋のドラゴンの一族じゃないからだとか、共鳴で魔素を確かめ合うというお互いの努力の結果であって、本当に蜜月が終った証拠にはならない。
事実、それを母に伝えたらあっさり納得されたしな。
蜜月が終わる時はもっと魔素に変化が出るというのは、その時初めて知ったことだ。
今のように多少離れていられるようになったのは、すべてハルカのおかげだ。
蜜月の時、ハルカは驚くほどの忍耐力と愛情で俺に接してくれた。
ドラゴンの執着に耐えられずに、弱ってしまう伴侶もいるというのに、ハルカはいつも笑って俺の傍にいてくれたんだ。
だから、俺も落ち着くことが出来て、隊長の業務にも支障をきたさずに済んだ。
それを周囲が勝手に『蜜月は終わった』と勘違いしたせいで、視察だなんておかしな話まで出てきてしまった。
ああ。腹立たしい。ここらで少し暴れて、蜜月は終わってないことを周囲にアピールするか?
「あ。はい。知ってました。前にメラさんと話してるのが聞こえてしまって…。でも、あの、ダメですよ?カイザーさんもキャサリンさんもいますし、ちゃんとこっちで対応しますから、クルビスさんは私を迎えに来たら、すぐに帰りましょう?」
俺の物騒な考えを読んだのか、ハルカが俺に釘をさす。
バレたか。共鳴してないんだけどな。
「顔を見れば物騒なことを考えてるのくらいわかります。」
表情から読み取ったのか?
俺の表情は読みにくいとよく言われるんだが、ハルカにはそうじゃないらしい。
嬉しくなって、頬に口を寄せると「誤魔化さないで下さい!」と怒られた。
最近、ハルカに隠し事をするのがますます難しくなってる気がするな。
まあ、今回は何もしないよう気をつけるか。
さすがに中央局の局長の息子を殺したとなると、いろいろマズいからな。
一応、どんな相手か、こっちからも探っておくか。
先見のこともあるし、万が一にもハルカに害のある相手であったら困るしな。
ハルカにもわかったことは知らせるようにしよう。
最初から知ってれば、対処のしようはあるだろうし。
「クルビスさん?聞いてます?」
「ああ。ハルカにはかなわないと思ってたところだ。何もしないよ。約束する。」
約束しながら髪に口付ける。
ふわりと花の香りがして、それがハルカの香りと混じってたまらない。
「ちょっ。クルビスさん!お仕事あるんでしょう?」
額、目元、頬と口を寄せていくと、ハルカが慌てだした。
いつもなら抵抗らしい抵抗もないのに、真面目なハルカは仕事が残ってるのを気にしてるらしい。
ちゃんとシードには言っておいたし、数刻くらい伸びても問題ないだろう。
今日中のものは終わらせてあるし、緊急の時は呼び出されるしな。
「シードにはしばらく部屋にいると言ったし大丈夫だ。」
そう言って、ハルカをすくい上げるように抱きかかえ、ベッドに共に倒れ込む。
最初は可愛い抵抗をしてたハルカも、だんだん身体の力が抜けていく。
すでに共鳴は始まっている。
ハルカは魔素にとろけてしまっている。
首筋が弱いんだよな。
一緒になってから知った弱点をここぞとばかりに責めると、「きゃうっ。」と可愛い悲鳴をあげてくれる。
本当は疲労回復の調整のつもりだったんだが、これを聞くのがどうにも楽しくて、中々やめられない。
普段ならこのまま抱いてしまうんだが、今日は難しいだろうな。
ハルカにはああ言ったものの、今夜は調査に出ている部下が戻ってくることになっている。
それを考えると、本格的にハルカを抱くわけにもいかないだろう。
この部屋は特別性だが、中に充満した濃密な魔素はドアを開けた時に隣の執務室に流れ込んでしまう。
シードくらいベテランなら問題ないが、今調査に出てる隊士は若手だからな。
魔素にあてられないように、ほどほどにしなくては。
ああ。ハルカと一緒に引きこもりたい。そうすれば、こんな心配しなくても良いのに。