13(クルビス視点)
楽しい食事が終わると、ハルカの魔素も落ち着いたようだった。
それでも疲労がすべて取れるわけでもなく、小柄な彼女がすぐに休めるように部屋に連れていく。
シードに断って部屋に入ると、ハルカから何か気にかかる魔素を感じた。
何か言いたいことがあるんだろうか。
前にもあったな。
確か、転移局に男が増えると教えてくれた時だったか。
「職場で何かあったのか?」
俺が聞くと、驚いたように目を軽く見開くハルカ。
きっと、どうして言いたいことがあるとわかったのか不思議なんだろう。
見ればわかるんだがな。
不安だと波打つように揺らめく魔素は、俺に向かって伸びてくる。
まるで、小さな子が親の服を引っ張って、関心を向けさせようとするみたいだ。
そんな所も可愛いんだが、バレて魔素を隠されるようになると困るので、当たり前のように何でもないフリをする。
「ええ。あの、8日後に視察が来ることになりまして。中央局からの。」
視察?
8日後といえば、大きなコンテストは終わっていても、まだ他のコンテストはあるし、出品作品の返却もあって忙しいだろう。
そんな時期に視察に来るなど、何を考えているんだ?
俺が顔をしかめたからか、ハルカの魔素の揺れが増す。
ああ。いけない。
怒っているわけじゃないんだ。非常識だと驚いたが。
「まだ忙しい頃だろう?そんな時期に手を減らす余裕はないだろうに。」
「えっと、来るのはカイザーさんの同期で、中央局の局長さんの息子さんらしいんですけど…。」
ハルカも詳しい事情は知らないようで、俺の質問にしどろもどろで答える。
中央局の局長の息子か。聞いたことがないな。
トカゲの一族にはいなかったはず。
話ぶりからしてあまり良い相手ではないようだ。
「まあ、それで、8日後に迎えに来てもらう時も、お付きのひとと2つでいると思うので、驚かないように先にお知らせしようと思って。どうも権威とか有名人に弱いひとみたいなので、私の近くにいるかもしれません。」
ああ。そういうことか。
確かに、ハルカの傍にいきなりオスが2つもいたら、殺してしまうかもしれないからな。
まだ蜜月は終わっていないし、一緒にいられる時間も少ない今の状況で自制は無理だ。
恐らく、上司にも言い含められてるんだろう。ハルカが心配そうに俺の様子を伺っている。
そこまで心配しなくても、こうして事前に知らせてくれれば、暴れるようなことはないんだが。
ハルカにはイマイチわからないらしい。
不機嫌な俺の魔素は怖いと言っていたから、北西の地域で魔素を膨らませるんじゃないかと心配しているのかもしれない。
それぐらいは流石にわきまえているつもりだが。
…いや、相手のオスが近づき過ぎなければ大丈夫、か?
ああ、でも、あの小さな転移局で近づくなというのは無理かもしれない。
「クルビスさん?」
ハルカが心配そうに俺を覗き込む。
まだ何も言ってないんだが、不安にさせてしまったな。ああ。この際だ。蜜月が終わってないことを、俺からちゃんと言っておくか。