12(クルビス視点)
北の守備隊本部に帰ると、そのまま食堂のカウンターに並ぶ。
食事時から少しずれているからか、席は空いていた。
「お帰り。食べてきたのかと思ったが。」
カウンターの傍の席で食べていたルドが、驚いたように声をかけてくれる。
そういえば、ルドには話してなかったか。
「今日から特別営業期間なんだ。ハルカはさっきまで仕事さ。」
「ああ。今日からだったか。それは疲れただろう。なら、魚のセットにするといい。今日は深緑の森の一族のメニューだから。」
俺がハルカのことを伝えると、ルドは彼女の様子を見てすぐさまおすすめのメニューを教えてくれる。
ハルカは疲れた時は深緑の森の一族のメニューを好んで選ぶ。
元々のレシピはハルカの故郷の料理だそうだから、彼女の口にあうんだろう。
ルドに礼を言って、魚のセットを頼むとすぐさま用意される。
「お疲れ様っす。これ食べて、ゆっくり休んで下さいっす。」
食事を出してくれたのは、調理師の中でも上級のベルだった。
差し出されたプレートにはシラタマが入っている。
これも深緑の森の一族のメニューで、稀につけられるものだ。
だが、器の数がいつもより多いようにだから、きっとこれはハルカへの差し入れだろう。
「ありがとう。ハルカ、ベルが差し入れしてくれた。」
小さくハルカに知らせると、驚いたように目を軽く見開いてすぐに「ありがとうございます。」とお礼を言う。
シラタマに視線がいっていたから、それを誰が作ったのかわかったんだろう。
シラタマと合わせられているのは、柔らかい餡子のソースだ。
アンコの硬さまで調節できる調理師はそういないから、ベルの作だと気づいたようだ。
ベルはハルカからメニューを習う機会が多いから、アンコ作りはルドに次いで上手いからな。
ハルカに他の雄が近づくのは気に食わないが、こいつには相思相愛の伴侶がいるから、まだ我慢できる。
ベルは俺とハルカの礼に照れたように目を細め、「たまたま作ったやつっす。後で感想教えてください。」と言い、厨房の業務に戻った。
好きなものが揃ったからか、ハルカの魔素が明るい。
ベルの気遣いに感謝しつつ、カウンターから少し離れた席に移って食事を始めた。
途中、ハルカが降りようとしたが、気付かないフリで口元に食べ物を持っていくとあきらめたようだった。
普段からこれくらい素直に食べてくれたら嬉しいんだが。
両親のようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
ん?俺にも食べさせてくれるのか?
慣れてきたのか、最近は、たまにこうして食べさせてくれるな。
よし。これが普通の食事風景になるように、これからも俺が毎日食べさせよう。
部屋の外ではダメだと言われたが、どうにか言いくるめてみるか。