11(クルビス視点)
転移局の入口が見えてくると、心が浮き立つのがわかる。
ハルカの魔素が近い。
以前に比べて、俺は彼女の魔素を追いかけるようになった。
正式に伴侶になり、ハルカをより深く知ってからはそれが顕著だ。
今では少し離れていても彼女の魔素だけ感じ取れる程だ。
これも伴侶を抱え込むドラゴンの血の影響かと思うが、それをわずらわしいと感じたことはない。
「ハルカ。」
顔をのぞかせると、いつものにぎやかな雰囲気はなく、皆どことなく落ち着きがない。
ハルカは俺を見ると、ホッとしたように目を細める。この表情も好きだな。
「さて、お知らせも終わりましたし、今日はここまでにしましょう。明日もよろしくお願いしますね。」
「「「お疲れ様です。」」」
何か通達があったみたいだが、丁度終わったところなのかカイザーさんが業務の終了を宣言する。
荷物を持って近づいて来たハルカの魔素は普段より弱っていて、予想通りの激務をこなしたようだった。
「お疲れ。」
そう言ってハルカの手から荷物を受け取るが、今日は抵抗がない。
いつもは自分の荷物は自分で持つと言って、断りが入るんだが。やはり疲れているようだ。
「ありがとうございます。クルビスさんこそお疲れ様です。まだお仕事あるんでしょう?」
どんな時も自分のことより他者を気遣う伴侶は、今日も俺のことを気遣ってくれる。
嬉しい反面、素直に頼って欲しいと残念に思う瞬間だ。
「いつものことだ。ひと月後の武闘大会の方が忙しいくらいだしな。」
ハルカに答えつつ、手を引いて抱き寄せるとそのまま片手で抱き上げる。
親父に教わったコツは、伴侶が突然のことに戸惑っている間に歩き出してしまうというもので、それを実践する。
「え。ちょ。あ、お先に失礼しま~す!」
俺に抱き抱えられながら、ハルカが同僚たちに向かって手を振る。
同僚たちが手を振り返してるのを確認すると、俺も目礼して守備隊に向かって歩きはじめる。
いつもなら、ここで自分で歩くと言われる所だが、やはり抵抗がない。
どうやら、守備隊に戻ったら魔素の補給を先にした方が良さそうだ。
「疲れているな。あの荷物を全部片付けたんだろう?」
俺の質問にハルカは苦笑して「はい。さすがに疲れました。」と今日のことを教えてくれた。
今年は荷物が1.5倍に増えたそうで、3つで交代して転移陣を回してぎりぎり捌ける量だったそうだ。
初日で1.5倍か…。
ここでそれくらいなら、中央地区はもっとだろう。
これはすぐさま転移局だけでは対応できなくなるかもしれないな。
術士の派遣要請が来るとしたら、うちの守備隊だ。
要請自体はまだだが、話だけはキィにしておくか。
すでにクセになっている情報収集を数瞬で頭の中で行うと、また、ハルカの方に意識を向ける。
「これが7日続くんですよねえ。今年だけならいいんですけど、来年が心配になります。」
そういいながらも、ハルカは俺の耳元で楽しげに仕事のことを話す。
俺の伴侶だからというだけでなく、彼女自身が認めてもらえているからだろう。
上司や同僚にも恵まれたようで何よりだ。
どんなに望んだ仕事でも、上司や同僚の魔素が合わなかったり、環境が悪かったりと、仕事が本人の魔素を蝕むことはいくらでもある。
だが、ハルカの様子からはそんな気配は微塵も感じられない。
大変そうだが、伴侶が良い仕事を持てるのは幸運なことだ。
最近では、こうして帰りに今日のことを話してもらうのが楽しみになっている。
ちなみに、俺の歩く速度はハルカには少し怖いらしく、首に抱き着いて来るので、話すのは耳元だ。
夜は恥ずかしがることもあまりないから、いつもより近い距離に満足感を憶えて、自然と共鳴が始まった。
ハルカにはよく怒られるが、俺たちの場合、共鳴は今のように勝手に始まってしまうことがほとんどだ。
しかもそれが自然だから、ハルカも俺もすぐには気づかないことが多い。
まあ、俺の場合は気づいても放置するんだが。
ハルカは親切で優しいからな。
周りは常にけん制しておかないと、俺が安心できない。