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それからお客さんは途切れることなく、夕方のラッシュが終わるころにはへとへとだった。
うう。おやつ食べたい。
「ハルカ。」
「クルビスさん。」
あれ?今日からお仕事終わるの遅くなるって、ちゃんと伝えておいたはずだけど。
何かあったのかな。
「母からこちらの転移局に荷物が届いてるはずなんだ。差し入れだから、食べてくれとのことでな。守備隊に送ればいいのに、忙しい時にすまない。」
申し訳なさそうなクルビスさんには悪いけど、差し入れと聞いて皆の顔が輝いた。
だって、ホントにへとへとなんだもん。魔素を補給したい。
さっそくクルビスさんが記入した内容で荷物を探す。
目的の物はすぐに見つかり、小さな箱で送り状にはエルフ文字で「コンペイト」と書かれてあった。
「コンペイ…金平糖?」
驚く私にクルビスさんが頷く。
他のひとは何かわからないみたいだ。
「ああ。開けてみてくれ。砂糖を粒状に加工した深緑の森の一族の菓子だ。小さいが魔素が多いから、忙しい時の魔素の補給には丁度いい。」
誰に聞かなくてもこれはあー兄ちゃんが元ネタだろう。
でも、これはないと思ってた。
だって、金平糖って作るの難しいんだよ?
素人が家で作れるようなものじゃないのに、あー兄ちゃんってば、どこで教わってきたんだろう。
もしかしたら、テレビで見た作り方と道具の話だけしてて、メルバさんが再現したのかも。
メルバさんも天才だからなあ。何だか出来ちゃいそうだよねえ。実際あるし。
内心驚きあきれつつも、せっかくのお菓子なので開けることにする。
もうホント限界。私はまだ魔素に多少の余力はあるけど、術士の他のふたりはグッタリしてるもんねえ。
「わあ。綺麗。」
「綺麗ですぅ。小さな花畑ですねぇ。」
「これは美しい。」
「綺麗なお菓子ですね。さすが深緑の森の一族。」
色とりどりの金平糖が、まるで花畑のように箱一杯に詰められている。
日本の淡い色合いとは違って、鮮やかな色合いだ。
大きさは指先でつまめる程度の小さいもので、果汁を使っているのかいい香りもした。
「せっかくだから、頂きましょう。カイザーさん、どうぞ。」
そう言って、先に上司であるカイザーさんに勧める。
カイザーさんが一粒取ると、他の3人で一粒ずつ取って皆で口に放りこむ。
わあ。お砂糖の甘さが心地いい。
果汁の香りが口の中に広がって、キャンディみたいだ。
噛んでみるとカツッと軽快な音を立てて割れる。
コリコリと懐かしい食感を楽しんでいると、嬉しそうな魔素を感じる。
「気に入ったか?」
ええ。とっても美味しいです。
地球のとはちょっと違うけど、でもとても懐かしい。
少しさみしいような、でも嬉しいような感じ。
ニコニコとクルビスさんを見ると、クルビスさんも目を細めて嬉しそう。
「はぁ。すごいですねぇ。」
うっとりとしたキャサリンさんのため息で我に返った。
あ。また共鳴してた。
「すみません。勤務中に。」
恥ずかしい。
顔が熱くなるのがわかる。
「いいえ。良い魔素を頂きました。後の仕事も頑張れますよ。」
「ええ。素晴らしい魔素でした。ありがとうございます。身体が軽くなりました。」
「ホントですぅ。これで夜まで持ちますよぉ。ありがとうございますぅ。」
「あ。えっと、お役に立てたなら良かったです。」
カイザーさんとデリアさんに口ぐちにお礼を言われ、キャサリンさんにも胸に手を当ててお礼を言われてしまった。
周囲の反応に困惑しながら、共鳴について思い出す。
私としては、すっかりいちゃつきの証みたいな認識だったけど、本来、伴侶どうしの調整や共鳴は周りの魔素を改善するから歓迎されるものなんだよね。
明るく活力のある人の傍にいると元気になるみたいに、充実した魔素を浴びると魔素の状態がそれに近いものになるとか。
特に私とクルビスさんの共鳴は効果が大きいらしくて、直接身体の調子に影響が出る。
実際、さっきまで疲れていた皆さんも顔に活力が戻ってきていた。
メラさんが差し入れをクルビスさんに伝えたのも、このためだったのかも。
今度お礼に伺おう。大変な時にこういう気遣いは本当に身に染みる。