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しばらくして、お客様が途切れた時にカイザーさんが戻ってきた。
後ろにはあの青年が視線を下げてついて来ている。
その後ろには、取り押さえてくれた隊士さんがいた。
3人の魔素に悪いものは感じなかった。
いや、正確に言うと、例の青年の魔素は少し震えてて、本人もおどおどしてるんだけど…。
カイザーさん、何をお話したんだろう。
「おかえりなさぁい。お話終わりましたぁ?」
キャサリンさんが出迎えると、カイザーさんがにこやかに答える。
カイザーさんとしては「お話」は上手くいったようだ。
「ええ。少し誤解があったようで、きちんと事情を説明したら、お客様もわかって下さいました。ああ。ハルカさん大丈夫でしたか?」
いえ、何でそこで小声で私に?
特に何もされてませんが。
驚きつつも「ええ。大丈夫です。」と答えると、今度は目を軽く見開かれる。
何なんだろう。
「やはり、黒の方は違いますねえ。何もないなら良かったです。さて、こちらの荷物の手続きをしたいのですが。」
「あ。はい。ええっと宛先は中央地区時計塔広場。中身は織り物ですね。お間違いないですか?」
今度はきちんと送り状の書いてある青年の荷物をチェックする。
私に話しかけられた青年はビックリしたように目を見開くと、「は、はい。」と頷く。
さっき悪い態度をとったのに、普通に接する私が不思議なのかな?
社会人ですから、お仕事は切り替えてやりますよ。
「それでは料金45になります。こちらですね。」
さっき青年が置いて行ったお金を数える。
うんぴったり。
「ちょうどですね。ありがとうございました。」
「あ。お、お願いします。…さっきはすみませんでした。」
素直に謝る青年に、笑顔で頷いているカイザーさん。
さっきの騒ぎがウソみたいだ。うん。わかってくれたなら良かった。
「いいえ。次からは送り状もご用意くださると助かります。またのご利用お待ちしております。」
怒ってないとわかるように穏やかに微笑みながら接客すると、青年はホッとした顔になる。
彼はもう一度胸に手をあてて謝って、大人しく帰って行った。
「では、私もこれで。」
「「「「ありがとうございました。」」」」
隊士さんも一部始終を見届けると帰って、いや、私の警護に戻っていく。
まだまだお仕事なんだよね。外は暑いのに。お疲れ様です。
「ありがとうございます。これで、彼も技術者を続けられます。」
「え?どういうことですか?」
もしかして、さっきの件ってすごく深刻な話だったとか?
うわあ。あれ見てたお客様とか結構ウワサしてたのに、大丈夫かなあ。
「あのう。いいですか?」
「ああ。お客様がいらっしゃいましたね。この話はまた後で。」
気になるけれど、お客様が優先だ。
さて、お仕事。お仕事。