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止めようと思った時には、淡い緑のヘビの青年は隊士さんに取り押さえられていた。
問題の上がっていた腕は下げられ、腕をつかまれた青年はその状態で固まっている。
一瞬前を見てなかったら、手をあげようとしていたことすらわからなかっただろう。
本当に瞬きひとつくらいの時間だった。
隊士さんのこういう取り押さえ方は初めて見た。
普通に腕を後ろに回して取り押さえる方法も見たことあるけど、今のはだいぶ違う。
でもあれ、きっとすごい力で抑えられてるんだろうなあ。
スピードもすごかったし、隊士さんの能力って抜きんでてるよね。
「ありがとうございます。お客様。少々お話を聞かせて頂いてよろしいでしょうか?」
周りがまだ固まっている状況で、カイザーさんは冷静に事態に対応していた。
カイザーさんがお話って、隊士さんが捕まえたら、そこで逮捕じゃないの?
「キャサリンさん。ここは頼みますね?」
「はい!お任せ下さいぃ!」
私が茫然としていると、後を頼まれたキャサリンさんがテキパキと列の整理を始める。
私とデリアさんも慌ててノートの配布や送り状の準備を始めた。
その間にカイザーさん達は外へと出ていく。
大丈夫かなあ。まあ、隊士さんが連れて行ってるんだから、暴れたりはしないだろうけど。
「変なのにあたっちまって、災難でしたねえ。これ、お願いします。」
外で待っていたトカゲの一族の男性が荷物を持って入ってくる。
きちんと送り状がある荷物だ。
「はい。中央地区ですね。中身は染め布と。ええ。驚きました。とても急いでらしたようですけど…。」
そうなんだよねえ。彼はとても急いでいた。
何か事情があったのかもしれないなあ。
でも、基本を守ってもらわないことには、こっちだってどうしようもない。
最後は手をあげかけてたし、同情は出来ないな。
「それにしたって、あれはダメですよ。はいはい。宛先も中身もあってます。45っと。ホントに、決められたことは守りませんとねえ。」
このお客様も一部始終を見ていたから、同じように思ってくれてるみたいだ。
おっしゃる通りです。お客様。
規定の料金もぴったり用意して下さっていたし、こういうお客様は大歓迎です。
「そうですよね。はい。45ちょうどですね。」
「はい。お願いします。では。」
「ありがとうございました。」
料金をもらって次のお客様に変わるけど、同じような話をしながら荷物を受け付ける。
皆さん送り状に必要事項をきちんと記入し、料金も大体ぴったりで持ってきて下さる。
そして、皆さん私に同情の言葉をかけてくれる。
いえ、手をあげられそうになったのはカイザーさんなんですが…。
訂正はするけど、皆さん聞いてるようで聞いていない。
不味いなあ。あんまり話が大きくなっても、あの青年が気の毒だ。
「はいはぁい~。皆さぁん。おしゃべりもいいですけどぉ。必要事項をノートに書いて、送り状に間違いがないか確認してくださいねぇ?」
そんな局内の空気をキャサリンさんが持ち前の明るさで変えていく。
送り状でのもめ事だというのは伝わってるのか、皆さん自分の荷物の送り状の確認作業に夢中になる。
良かった。
あのまま、面白おかしく話が膨れ上がっても困るんだよね。
場合によってはクルビスさんに迷惑がかかるし。
ああ。でも、もう守備隊に報告はいってるだろうから、心配はかけそうだなあ。