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「…俺も少しだが、その能力を受け継いでいる。内緒だけどな。見たいものを見れるわけでもないし、見れたり見れなかったりだから、ほとんど使えないんだ。祖父母からも両親からも余計な混乱を招くから黙っているように言われている。家族以外に知ってるのはジジ様と長さまくらいだな。」
衝撃の事実。クルビスさん予知能力者だったんだ。
それは、うん、滅多に言えないよね。
ただでさえ、英雄だったひいおじい様と同じ色で比べられて期待されてるのに、能力まで引き継ぐとか。
きついなあ。それ。
「そうだったんですか…。倒れるのは私だけ、ですか?」
「ああ。周りに誰もいなくて。最近は、ハルカが倒れる映像が繰り返し見えるんだ。俺は、俺は手を伸ばすけど間に合わない。何度も見るのは近い未来であることで、起こる可能性が高いことだ。だから…。」
私と離れるのを嫌がっていたと。
成る程ねえ。驚いたけど、おかげで理由がハッキリして納得がいった。
クルビスさんの予知能力は不安定だから、今聞いたことが本当に起こるのはわからない。
でも、不安にかられるくらい、頻繁に見ている。
「だから、不安だったんですね?」
「ああ。未来は不確定だ。起こるかわからないものに心を引きずられたら、帰ってその未来を引き寄せてしまうこともある。だから、気にしないようにしていたんだが、ハルカにはバレてしまったな。」
「伴侶ですから。といっても、ぴったりくっついてなかったらわかりませんでした。」
種明かしをすると、クルビスさんは目を見開いた後、苦笑したように目を細める。
その顔がかなわないと言ってるようで、くすぐったい。
「こうなったら言ってしまうが、ハルカ。料理教室では用心してくれ。俺の見た光景ではたくさんの調理器具が並んでいたんだ。」
「わかりました。気をつけます。それにしても料理教室ですかあ。」
料理教室で襲撃ねえ。
うわあ。考えたくない。でも、ありそう。
う~ん。最初の教室かなあ。
でも、メンバーも厳選してるし、各一族の代表の方々には根回し済みだから、目的自体は伝わってるはず。
新しいレシピに皆さん興味津々だったのに…。
うん。やめた。こればっかりは起こってみないとわかんないや。
出来る対策としては、ひとを増やすことかなあ。
周りに誰もいなくて、倒れるのが私だけなら、私だけが狙いってことだよね?少なくとも無差別じゃないはずだ。
じゃあ、周りに常に誰かいるようにすればどうだろう。
ピンポイントで狙ってくるなら、周りを巻き込みたくないだろうし。
巻き込んだら、私を襲ったことを正当化できなくなるしね。
だとすると、「あの話」は効果あるかも?
「私だけ倒れたなら、私だけが狙いでしょうか。それなら、ひとりにはならない方がいいかも…。実は、イシュリナさんから当日参加したいってお話しがあったんです。ドラゴンの一族から推薦された調理師さんが参加することになってたんですけど、その方の都合がつかなくなってしまったらしくて…。」
私が考えた予想と、今聞いている話を順番にする。
イシュリナさんの参加の話に、クルビスさんは目をまん丸く見開いている。
ホントに急な話だったんだよね。
実は、その調理師さんおめでたで、今はつわりが酷くて調理が出来ない状態らしい。
雨季の前はおめでただってまだわからなくて、料理教室の話も喜んで受けてくれたのだそうだけど、最近になってつわりが酷くなったそうだ。
今から決め直したんじゃもめるだろうし、ドラゴンの一族の推薦調理師がいないというのも体裁が悪いということで、料理上手で知られるイシュリナさんが代わりに参加したいってことだった。
ちなみに、イシュリナさんは調理師免許も持っていて、お店を開けるくらいの腕だ。
ご馳走になった和食は、家庭の味でとても美味しかった。
「そうだな。おばあ様に話してみるか。可能性の話だが、味方は多い方がいい。おばあ様が来るなら護衛も増やせる。」
うん。イシュリナさんにいてもらえたら、とても心強い。
初日はウジャータさんもいて下さるし、何とかなりそうな気がしてきた。




