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うすうすおかしいとは思ってた。
私を離さないというより、離れることに「怯えてる」ように見えて。
外から見ただけだとクルビスさんは普通に装ってたし、一緒にいると蜜月の時みたいに満足気に笑っていたけど、魔素はウソをつけない。
ぴったりくっついてなきゃ、私もわからなかっただろう。
喜びの中にほんの少しだけ混ざってる「不安」。
その不安は前にも感じたことがあった。
結婚式の前にクレイさんに狙われてた時、そして狙われた後だ。
不安に種類なんてあるのかなって思うけど、私が仕事を始めると言った時に感じた「不安」とは違う感じだ。
つまり。今クルビスさんが感じているのは命の危険があるという「不安」の方なんだと思う。
何かあったんだろうか。
お仕事のことなら「言えない」って言ってくれるだろうし、それ以上聞く気もない。
でも、私のことだとしたら、すれ違ってしまう前にきちんと話しておきたいと思う。
「いい挨拶だ。わかりやすいし、利点も目的もハッキリしてる。これなら、理解してもらえると思うよ。」
私の原稿を読み終えたクルビスさんが褒めてくれる。
挨拶の文自体は良かったみたい。
後はルドさんのチェックが通れば問題ないかな。
噛まないように練習しておかなきゃ。それよりも…。
「ありがとうございます。じゃあ、今日はもうこれくらいにして、お茶にしません?」
「…ああ。そうだな。話たいことがあるんだ。」
私の感情を魔素から読み取ったのか、クルビスさんから話があると言ってくれる。
不便な時もあるけど、こういう時に魔素で伝わるのは助かる。
お茶を用意して、今度は向かい合うように座る。
真正面から私を見たクルビスさんは緊張した面持ちで語り始めた。
「その、以前、俺のひい祖父さんが「先見」の能力者だと話しただろう?」
クルビスさんのひいおじい様。
ということは、クルビスさんの前に黒の単色だったひとだ。
一族の危機にいち早く立ち上がり、シーリード族とルシェモモの街の立ち上げに貢献した英雄。
その行動には先見の能力が深く影響してたって聞いたけど、その話がどうしたんだろう。
たしか、先見って予知能力のことで、その能力を持ってる者は滅多にいないって授業で教わった。
予知っていうのはあらゆる可能性を見ることであって、絶対にその未来になるわけじゃない。
しかも、自分の欲しい情報が見れるわけでもないから、扱いに困る能力でもあるのだそうだ。
でも、クルビスさんのひいおじい様は自在にそれを操り、一族の未来を見ることが出来る天才だった。
だから、「先見」の能力の持ち主として特に有名なんだよね。
その話が何か関係あるみたいだ。