6
「挨拶は理由を説明するつもりで丁度いいと思う。母もそうしていたしな。なるべく短く簡単にする方がいいらしい。」
短く簡単にかあ。ウジャータさんの経験談かな。
ウジャータさんは、最初の改革者だから大変だっただろうなあ。
基礎的な情報は公開すべきだと、料理教室を始めたウジャータさんに対して、最初は反発が酷かったらしい。
石や卵が投げつけられたこともあったそうだ。陰口や材料が手に入らないなんて日常茶飯事だったとか。
予想のうちだったそうだけど、だからこそ、ウジャータさんは必ず最初に、どういう理由で、何のためにやるのかを習いにくる生徒たちにしっかり伝えたのだそうだ。
そのおかげか、料理教室が始まって理念が広まるにつれて事態も収まり、その卒業生が修行を始める頃には、嫌がらせも陰口も完全に無くなったと聞いている。
私もそこまで持って行けるかなあ。
まあ、最初は和菓子に絞る予定だし、既存のレシピに被る部分はないだろうから、反発は少ないと思うんだけど。
「ウジャータ様が根回しして下さってるし、ハルカの場合は「故郷の味を無くしたくない」という目的がある。そう心配する必要はないさ。特にトカゲの一族は披露目の時に水菓子を食べてもらったのが効いたみたいだしな。」
ふわりと温かい空気が私を包み込む。
ふっと息を吐くと肩の力が抜けていく。
うん。ちょっと緊張しすぎてたかな。
初めてのことだし、それも仕方ないんだけど、おかげで落ち着いた。
「はい。ありがとうございます。そうですね。明日までに短くて簡単な挨拶を考えるので、ルドさん、とよければクルビスさん確認してもらっていいですか?」
あ、危ない危ない。
挨拶の草稿をルドさんに確認してもらおうと思ったら、背筋がゾクっとして、慌ててクルビスさんにもお願いした。
よかった。危機察知能力がちゃんと仕事してくれて。
まだ蜜月なんだから、気をつけないと。
「ああ。俺の方は問題ない。大抵は厨房にいるから、持ってきてもらってもいいだろうか?」
「はい。それはもちろん。」
「俺も問題ない。出来たら、いつでも言ってくれ。」
ええ。いっつも膝の上にいますから。
クルビスさんにはいつでも見てもらえます。
私たちのやり取りに、ルドさんが若干呆れた顔をしてるのは気のせいじゃないだろう。
魔素で会話した上に、今のクルビスさんは満面の笑顔だ。
何いちゃついてんだって感じだよね。
すみません。
ルドさんには申し訳ないけど、機嫌のいい時だから聞いてもらえるだろうと、お腹に巻き付いているクルビスさんの腕を宥めるように叩いて、力を緩めてもらう。
そう。もう当たり前になってるけど、この話し合いの間もずうっと膝抱っこでクルビスさんに捕まったままだったんだよね。
がっちりホールドされていて、お腹の圧迫がすごかった。
ああ、苦しかった。
ルドさんが事務的に接してくれて助かった。
でないとクルビスさんの機嫌が悪化してたかもしれない。
もしかした、お義父さまの話があまりに有名だから、さわらぬ神に何とやらって感じだったのかもしれないけど。
私でこれくらいなら、ドラゴンの一族を伴侶に持ったメラさんは大変だっただろうなあ。
あ、でもルシェリードさん見てるなら、そうでもないのかな。